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高家の晒首  作者: 西季幽司
第四章「愛の形」
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みっつめの密室の謎③

「実は、私の家でも『先祖はお公家さんだった』と言う言い伝えがあるのです。うちの先祖は、もとは千代田区の日比谷公園の近くに住んでいたそうですので、先祖は中山忠能ではなかったかと、勝手に想像しています」

「中山忠能ですか?」

「ご存じありませんか? 幕末に討幕の密勅を明治天皇から出させ、岩倉具視と協力して王政復古の大号令を実現させた人物です。そうそう、孫文はご存じですよね?」

 長い間、中華圏で仕事をしていた圭亮は、当然ながら孫文には詳しい。

「孫文ですか!? ああ、分かりました。孫文の号となった中山家のことですね?」

「やあ、ご存じでしたか!」中山が喜色を浮かべる。

 広州での武装蜂起に失敗した孫文は日本に亡命する。この日本亡命時代に、一時期、孫文は日比谷公園の傍に住んでいたことがある。近所に「中山」の表札を掲げた大邸宅があり、孫文はこの表札の「中山」の文字がいたく気に入った。そして自身を孫中山と号した。

 今でも中国や台湾には「中山大学」、「中山公園」、「中山路」と言った「中山」と名の付く地名や場所が多い。これは孫文の号である「中山」から来ている。

「うちの家系などは、中山忠能のことを知ったご先祖様が、同じ中山姓ですので、『先祖は公家だった』と言い始めたのが始まりだと思います。でも、先祖が公家だと聞かされて育ちましたので、子供の頃から歴史に興味がありました。私は興味本位で色々、聞きかじっているだけですが、随分、お詳しいようですね」

「いやあ~」と圭亮が長い体をくねらせ、大いに照れる。

「昔話はそれくらいにして、先生。他に聞きたいことがあるのでは?」終わりそうにない歴史談義に焦れて、西脇が釘を刺す。

「はい。すいません」と圭亮は首を竦めてから、「中山さん、飯尾さんの部屋に鍵をかけて密室にしたのは、あなたですね?」唐突に話題を変えて、いきなり核心を突いた。

「えっ!?」中山が唖然とした表情を浮かべる。

「飯尾さんが殺害された部屋に鍵が掛かっていたのは、あなたが鍵をかけたからですよね?」圭亮が言いなおす。

「僕が飯尾さんの部屋に鍵を掛けた? まさか、一体、どうやって僕が部屋に鍵をかけたと言うのですか? 僕は飯尾さんの部屋の鍵なんて持っていませんでしたよ」

「機械的な仕掛けで密室を作り上げたのであれば、僕に密室の謎を解くことは出来なかったでしょう。ですが、科学捜査万能の今、そんな仕掛けを使えば、痕跡が残ってしまいます。警察の優秀な鑑識が、それに気が付かないはずがない。品川邸で実際に部屋を見せてもらいました。そして、心理的なトリックを使ったのではないかと思いました」圭亮が長い体をゆらゆらと揺らしながら言った。

「・・・」中山は黙り込んだままだ。

「飯尾さんの部屋は、鍵が掛けられていた。それは、刑事さんが確認しているのですから、間違いありません。そして飯尾さんのガウンのポケットに部屋の鍵があった。となると、飯尾さんの部屋は、合鍵を使って外から鍵が掛けられたことになります。では、どうやって事務室にある鍵の保管庫から合鍵を持ち出したのか? そして、飯尾さん殺害後、どうやって合鍵を鍵の保管庫に戻したのか?」圭亮は言葉を切って、中山の顔を伺った。中山は渋い表情で押し黙ったままだ。「方法は一つです。あなたは安井さんから合鍵を借りた。そして、飯尾さんの部屋に鍵を掛けた後、屋敷の玄関で安井さんがやって来るのを待ち受け、こっそり安井さんに合鍵を返した。安井さんが共犯であれば、部屋を密室にすることは簡単だった」

「ま、待ってくれ! 共犯だなんて、安井さんは事件には何の関係もない‼」中山が噛み付かんばかりに言った。

「今の言葉は自供ですか? 安井さんはともかく、あなたは事件に係りがあると言う意味に取れます。飯尾さんの部屋に鍵を掛けて密室にしたと言うことは、飯尾さんを殺害した犯人があなたである可能性が高い。あなたは次の翔子さんの殺害を完成させるまで、捕まりたくなかった。そこで飯尾さんの部屋に鍵をかけて密室にした」

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