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高家の晒首  作者: 西季幽司
第四章「愛の形」
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みっつめの密室の謎②

「なるほど・・・殺人にまで発展しますかね?」

「それに、飯尾さんには、高房さんを殺害しなければならない、切羽詰まった理由があったのです」中山が畳み掛けるように言った。

「切羽詰まった理由ですか!?」

「はい。これは、ほんの一握りの人間しかしらない極秘事項ですが、高房さんは次の株主総会で、飯尾さんの罷免を計画していたのです。表面上、高房さんは、父親の代から会社を支えて来た飯尾さんを尊敬している振りをしていました。でも、内心は、飯尾さんの専横を好ましく思っていなかったのでしょう。優しい人でしたから、高房さんは。社員が飯尾さんの独裁に苦しんでいる姿を見ていられなかったのだと思います」

「罷免と言いますと?」

「役員会で飯尾さんの役員退任を決めて、株主総会で、それを決議しようとしていたのです。簡単に言うと、飯尾さんをクビにしようとしていた」

「はあ・・・」サラリーマンではない竹村には、社長である高房が部下の飯尾のクビを切ることなど、簡単なことのように思えたのだろう。会社で隠然たる勢力を持つ古参幹部の飯尾のクビを切ることが、社長であってもいかに難しいか、理解できていないのだ。

「飯尾さんも会社の役員のお一人ですよね?」圭亮が助け舟を出す。

「はい。そうです」

「役員の中には、飯尾派と言える、飯尾さんと親しい役員がいるでしょう。そうなると、役員の過半数の同意を得ることが難しかったかもしれませんね」

「高房さんは飯尾さん以外の全ての役員の同意が欲しかったようです」

「そうなると、かなりハードルが高い」

「何とか同意を得ることができそうな段階まで来ていたようです」

 役員会で飯尾の退任を決議することさえ出来れば、株主総会は最大株主である高房に正子や正憲が保有する品川一族の株式を加えると、飯尾の退任を決議することは問題なかっただろう。

 結局、飯尾退任の同意を役員から得ることが、最大の難事だ。高房のクーデターと言えた。

「高房さんのクーデターは上手く行きかけていたのですね?」

「そうです。そう考えると、役員会の直前に高房さんが亡くなったことが腑に落ちます。役員の中に誰か、高房さんが飯尾さんの退任を計画していることを、飯尾さんに漏らした人がいた。焦った飯尾さんは、翔子さんと共謀して、高房さんを自殺に見せかけて殺害した。どうでしょう?」

「う~む」と竹村が唸った。

 高房の死は飯尾にとって絶妙のタイミングだったのだ。役員会で決議されてしまうと、株主総会で飯尾の退任が決まってしまう。高房の死を契機に、飯尾は劣勢を挽回し、更に品川ケミカルの社長の座を手に入れることに成功したのだ。

「刑事さん、お願いです。高房さんは、自分のことより、他人のことを優先するような、心の優しい人でした。高房さんが、本当に殺されたのなら、その真実を明らかにして下さい。高房さんの無念を晴らして上げて下さい。お願いします」と中山が頭を下げた。

 竹村に代わって圭亮が質問を続ける。「中山さん。つかぬ事をお伺いしますが、飯尾さんのご先祖が今川義元に仕えた重臣であったことをご存じでしょうか?」

 全く、何を聞いているのだと西脇の顔に書いてあった。それに気がついたのか、「ああ、すいません。飯尾さんのご先祖様の故事を知っているかどうかが非常に重要になりますので」と圭亮が弁解した。

 そうだった。飯尾の首を晒首にしたことは、飯尾連竜の故事に倣ったのではないかというのが圭亮の持論だ。

「はあ。知っています。その話は飯尾さんから聞いたことがあります」

「飯尾さんは、ご先祖の話は、あまり人に話したがらなかったそうですが」

「そうなのですか!? では、高房さんから聞いたのかもしれません」

「飯尾さんが、ご祖先である称していた飯尾連竜という武将のことを知っていますか?」

「はい。連竜の妻であるお田鶴の方について昔、調べたことがあります」

「へえ、お田鶴の方ですか?」と圭亮が興味深そうな顔を向けると、中山は「お田鶴の方は女ながらに無双の強力の持ち主で、連竜と共に戦い、氏真の兵に討たれたと言う話があります。異説では生き延びて曳馬城の女城主となったと言う説があり、夫を見殺しにした徳川家康と敵対し、今度は家康の兵に攻められたということです」とお田鶴の方について解説を始めた。歴史好きの圭亮は何時もの調子で、「へえ」、「ほお」とか奇声を上げながら、中山の話に聞き入った。

 家康の討伐を受けたお田鶴の方は、鎧を着て薙刀を振るい、奮戦した。だが、衆目適さず、最後は侍女十七人と共に、城を出て家康軍に突入し、全員討ち死にした。

「家康の正室、築山殿は今川家出身であった為、お田鶴の方にいたく同情したそうです。お田鶴の方と侍女十七名の亡骸は手厚く葬られ、祠が建てられました。そして祠の周りに椿が植えられ、毎年、見事な椿が咲いた為、祠は『椿姫塚』と呼ばれたそうです」

「いやあ、お詳しいですね~」圭亮が感心する。

 圭亮の推理では、飯尾の先祖のことを詳しく知っている人間こそが犯人だ。中山は圭亮の推理する犯人像に一致していた。

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