みっつめの密室の謎①
飯尾のマンションを出た圭亮は「どうなんでしょう?」と不安気に聞いた。
「飯尾の奥さんですか?」と竹村が確認する。
「いいえ。彼女は事件とは無関係だと思います。それより、今から会う――」
「中山竜也ですか?」
「はい。彼が真実を語ってくれるかどうか・・・」
「当たって砕けろ――です。我々は常にその精神で捜査に当たっています」と竹村が言うと、「先輩の場合は、当たって砕く――タイプですものね。砕けたりなんてしません」と吉田がからかった。
「はは。鋼のような筋肉で覆われたスーパー刑事だからな」
「神経も鋼のように頑丈ですよね。あって無いようなものです」
「どういう意味だ? 無神経だと言いたいのか?」
「いえ。神経、あるのでしょうけど、太過ぎて役に立っていないのでは?」
聞いていた西脇が思わず吹き出してしまった。
「さて、何処に向かう?」
四人は大森海岸駅近くにある喫茶店に向かった。
中山と連絡を取ると、「ちょっと、部屋がちらかっていますので――」と自宅近くの喫茶店を待ち合わせ場所として指定された。
指定された喫茶店に着くと、中山がコーヒーを飲みながら待っていた。何時もはスーツ姿のきちっとした印象だが、今日はプライベートとあってジーンズにTシャツというラフな格好だった。
「会社は今月末付で退職します。今は溜まりに溜まった有給休暇を消化している最中です。悠々自適の毎日ですけど、次の職場がまだ決まっていません。内心、焦りはありますね」中山はそう近況を報告してくれた。
「先ず、スタンガンのことからお聞きしましょうか」と竹村は変化球で様子を見る。「高憲さんが亡くなる直前、『飯尾さんにもらった』と言って、高房さんがスタンガンを見せびらかしているのを見たという人物がいます。その人物は『高房さんが高憲さんを殺害したのでは?』と言っていました。高房さんは、スタンガンを使って高憲さんを心臓発作に見せかけて殺害した。どう思います?」
「馬鹿な・・・」中山が絶句する。「誰が言ったのか分かりませんが、高房さんが父親の高憲さんを殺害したなんて、とんでもない言いがかりです。スタンガンのことは、僕も覚えています。高房さんはアニメ好きとあって、子供っぽいところのある人でした。僕にも、飯尾さんに頂いたと言って、スタンガンを自慢気に見せてくれました。
『そんな危ない物、持っていても使い道がないでしょう』と言うと、高房さんは『それもそうだな』と考え込んでいました。子供っぽい好奇心から、スタンガンを貰ったのでしょうが、自分が持っていても仕方がない。そのことに気がついたようです。
結局、『もう二、三年もすれば、飯尾さんのお嬢さんも年頃になる。そしたら、スタンガンが必要になるかもしれない。飯尾さんに返すことにしたよ』と言って、スタンガンは飯尾さんに返却しました。高房さんは父親を殺害できるような冷血漢ではありません」
「高憲さんが亡くなった時、スタンガンを持っていたのは飯尾さんだった訳ですね」
「そうだと思います。当時、あまりに突然のことでしたので、社内で色々、妙な噂が流れていました。高房さんの件も、そのひとつだと思います」
「まあ、スタンガンで人を殺すのは難しいようです。ところで、高房さんの死について、疑問が出ています」
「疑問ですか」
「部屋が密室ではなかった。殺された可能性があるということです」
「殺された⁉」と驚いた中山の表情は、何処か嘘くさく見えた。
「高房氏が殺害されたと仮定して、その動機は何だったのでしょうか? 高房氏を恨んでいた人間に心当たりはありませんか?」
「それは――」中山は飯尾と翔子の名を挙げた。「不倫関係にあった二人は、高房さんの存在が邪魔だったはずです」と答えた。
「二人の不倫の噂は広まっていたのですか?」
「ええ、まあ。知らなかったのは、ご当人たちだけだったと思います」
「不倫関係にあった二人は、邪魔になった品川高房さんを殺害した。しかし、それでは、二人の犯行だと、直ぐに分かってしまうのではありませんか?」
「ええ、だから。高房さんを自殺に見せかけて殺害したのでしょうね。自殺なら二人の関係が疑われることはないでしょうから」
中山の言う通りだ。
「しかし、邪魔になったからと言って、夫を殺害しますか?」
「今となっては、二人の目的が良く分かります。飯尾さんは品川ケミカルの社長になりたかった。高房さんが死ねば、遺産は翔子さんが相続する。そして、飯尾さんと翔子さんが組めば、会社の持ち株比率が過半数を越えて、飯尾さんが社長に就任することに、誰も反対ができなくなる。翔子さんにしてみても、品川家の遺産を相続することができる。高房さんを殺害することは、二人にとってメリットが大きいと思いませんか?」
田村敬之が似たようなことを言っていた。だが、動機として、少し弱い気がした。




