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高家の晒首  作者: 西季幽司
第四章「愛の形」
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さまよう生首④

 飯尾を目当てにコンビニにやって来る客との会話の中で、飯尾は一度、先祖が今川家に勤めた重臣の家柄であることを話したことがあった。それを覚えていた客がいて、飯尾に、

「今川家の子孫で会社を経営している人がいる」と言って、品川ケミカルのことを教えてくれた。知り合いに品川ケミカルのOBがいて、しかも定年退職する前は、人事部長を勤めていたと言う。

 その人の紹介で品川ケミカルのOBと会うと、直ぐに会社と連絡を取ってくれ、中途採用として面接が決まった。

 面接に向かうと、面接官の中に、人事部長と並んで初代社長、高正の姿があった。飯尾の話を漏れ聞いて、飯尾の家系に興味を持った様だった。

「飯尾連竜の子孫だと聞きましたが――」

 面接では高正から家系の話ばかり聞かれた。今川氏の末裔であることを武器に、三浦化学から独立を勝ち取ることに成功した高正は、飯尾に自分の姿を重ねていたのかもしれない。

「何時からうちで働くことが出来る?」面接の最後に、高正からそう言われた。その日の内に、飯尾の採用が決まった。

 コンビニの接客で培った経験を生かし、飯尾は新しい職場で直ぐに頭角を現した。頭脳明晰でハングリー精神にあふれた飯尾は、高正のお気に入りとなった。

「今川氏の隆盛を現代に蘇らせよう」と言うのが、二人の合言葉になった。

 飯尾への厚遇は高正の子、高憲の代になっても変わらなかった。

 飯尾の生い立ちを聞かされ、場がしんみりとしてしまったが、竹村は追及の手を緩めない。「先週、土曜日の夜、どちらにいらっしゃいましたか?」

 品川翔子殺害に関するアリバイだ。流石に、品川邸に忍び込んで夫を殺害し、その首を門柱に突き刺したとは思えないが、浮気相手の翔子を殺害に及んだ可能性は捨てきれなかった。

「はあ、家におりました」と当たり前の回答だった。

「どなたか、それを証明できる方がいますか?」

「娘の恵華がおりました」と言うが、家族の証言だ。証拠能力は無きに等しい。

「息子さんは確か――」

「アメリカにおります」

 恵華の上に、兄の連司がいる。高校卒業後にアメリカに留学し、ずっと日本に戻っていないということだった。

「息子さん、確か、傷害事件を起こしていますね」

 流石は竹村。よく調べて来ている。

「はあ・・・」愛美が俯く。

 隣家には厳しかった飯尾だが、自分の息子には甘かったようだ。幼い頃より反抗的だった連司は中学生になると、それこそ手が付けられない不良少年になった。取り巻きを引き連れ、町を闊歩し、同じ年ごろの中学生を見つけると恐喝を行い、金を巻き上げた。

 窃盗や暴行も日常茶飯事だった。ある日、連司はグループを抜けようとした同級生の少年に集団で暴行を加えて、重傷を負わせてしまった。

 事件を知った飯尾は、被害者の生徒の両親を金で丸め込み、事件が表沙汰にならないように奔走した。だが、被害者には後遺症が残ってしまったと言う。

 その後、連司の素行は、少しは改まったようで、何とか高校を卒業したが、大学受験に失敗、アメリカへ渡った。秋口から新学期が始まるアメリカの大学に、金にものを言わせて押し込んだのだ。以降、連司は日本に戻って来ず、大学卒業後、アメリカで働いている。

「日本へは戻って来ないのですか?」

「戻って来ないようです」

 性根は変わっていないのか、父親が亡くなったと言うのに、帰国していないようだ。

「怪我を負われたご子息のご両親は、息子さん、引いては飯尾さんを恨んでいたのでは?」

 竹村の質問に、愛美は「恨んでいたかもしれません。ですが、先方様には十分、誠意を以て対応して来たつもりです。今になって主人に復讐したとは思えません」ときっぱり答えた。

 確かに、恨んでいるとすれば連司の方だろう。飯尾家は被害者宅に今でも定期的に金銭的な援助を続けているようで、今、飯尾に復讐する理由が考えられない。殺害の犯人であるとは考え難かった。

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