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幸せのある場所  作者:
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25/30

25.素直な気持ちで


 滝田くんからメールをもらってわたしは驚いた。


 一言だけ、『吉田さんが見つかった』というメール。


 わたしはメールを見た瞬間、声を上げてしまった。


 すぐにメールを返そうと思ったんだけど電話の方が早いと電話してみたんだけど……


 出られない場所にいるのか、滝田くんが出ることはなかった。


 でもこれが本当なら嬉しい。


 やっと再会出来るんだと心躍る気持ちだった。




-素直な気持ちで-




 滝田くんに電話が繋がらず、落ち着かなかったわたしはつい夫に電話をした。

 滝田くんのメールの宛先には夫のメアドも書いてあったし……

 ただ仕事中ってことを思い出したのは発信した後だった。

 スリーコールぐらいで切ろうかなと思ったらツーコールで夫は電話に出た。


「おーどうした~?」


 いつも通りの軽いノリで安心する自分がいた。


「あ、仕事中ゴメンね」


「かまへんよ。雅憲のメールの件やろ?」


「うん、滝田くんに連絡つかなくて……」


「ワイも電話したんやけどな。落ち着かなくてそれでワイにかけてきたわけか」


 さすがに話が早かった。

 でも仕事中だからそんな長々と話すわけにもいかず……


「ま、こういうのは焦ってもしゃーないし、折り返しが来るの待つしかないやろ」


「うん……そうだね」


「今日は早く帰るし、二人で電話待とうや」


「分かった。じゃあ気をつけてね」


 夫との電話を切り、わたしははやる気持ちを抑えつつ家事をすることにした。

 何かしてないと落ち着かないというのが本音だった。

 かなえちゃんがいなくなってからもう七年の月日が経つんだ。

 そう思うと自分の環境の変化も大したもんだと思う。

 そしてもう一人……深見くん……見つかるといいな……




…………*




 時計がちょうど夜の六時をさした時、夫が帰ってきた。


「おかえりなさい」


「雅憲のやつ、電話でぇへんわ」


 一言目が愚痴だった。

 わたしは苦笑いをするしかなかった。

 わたしもメールや電話をしたり、何度か問い合わせをしたけど連絡は来てない。


「でも珍しいよね、滝田くんが連絡して繋がらないって」


「せやな……気ぃ遣いの雅憲やさかいな……」


「見つかった勢いでメール送ってきて、その後、かなえちゃんと話してるとか?」


「その可能性は高いな。せやけどそれやったら怒らなアカンわ」


「どうして?」


「ワイらかて会いたいやん? それを見つかっただけ言って後、繋がらんじゃ場所も分からんやん」


「そ、そうだね」


 夫の言うとおり、見つかったなら場所まで書いてくれれば向かったのに……

 滝田くんらしくないといえばらしくない。

 でもここでふと思った。


「そういや伊万里も一緒じゃないかしら?」


「ん? そうなんか?」


「なんか滝田くんとかなえちゃんの双子の弟と会うような話してたから」


「あーそんな話しとったな」


「それに今まで中心になって動いていたの伊万里だし……」


「せやな。雅憲だけで見つけたとは考えにくいわな」


 じゃあ伊万里にもメールしてみようかなっと思った時だった。

 子供が泣き出し、夫の携帯が鳴った。


「お、噂をすれば雅憲からや」


 わたしは気になりながらも子供部屋に行き、子供を抱いてリビングに戻ってきた。

 もちろん滝田くんの電話が気になったから。

 子供をあやしながら二人の会話に耳を傾ける。


「おう、雅憲。連絡遅いんちゃうか?」


 だけどやっぱり滝田くんの声は聞こえず夫が一方的に言うのを聞くことしかできなかった。

 夫は最初、散々、滝田くんを責め立てた。

 わたしは苦笑しつつ、夫にかなえちゃんの居場所を聞くように促した。


「で、かなえちゃん、どこにいたんや?」


 夫はわたしにメモとペンを取ってくるようにと仕草する。

 わたしは子供を抱いたままメモ帳をテーブルに置いて、ボールペンを夫に手渡した。

 そのメモ帳に夫は住所と名前を書いていく。

 その名前を見ると療養所と書かれていた。


「おう、分かった。明日にも行くわ。連絡おおきに。せやけどもっと正確に的確な情報を送ってくれや」


 最後にも滝田くんにしっかりクギを刺し、電話を切った。


「療養所?」


 わたしはメモ帳を見ながら夫に質問する。


「あぁ、なんやかなえちゃん、体弱くして療養所にいるらしい」


「そうなんだ……」


「詳しくは本人に聞いた方がええと思って聞かんかったけど」


「それで明日にも行くの?」


「早い方がええやろ。明日は都合悪いか?」


「ううん、大丈夫」


「オーケーや。ほな明日な」


「分かった」


 それからわたしたちは夕食を食べた。

 明日、実に七年ぶりに会えるんだと思ったら楽しみになってきた。

 かなえちゃん、変わってるかな?

 早く会いたいな。




…………*




 翌日、わたしは子供を両親に預け、夫との待ち合わせ場所に来ていた。

 予定より早くついてしまい、携帯を使って暇つぶしをしていた。


「おー、待たせたな」


 夫の声が聞こえ携帯から視線を声が聞こえた方に移す。

 そこには夫と美咲ちゃんが一緒にいた。


「あれ、なんで美咲ちゃんも?」


「さっき帰りにあってな。せっかくやから誘ってみたんや」


「ごめんなさいね。夫婦水入らずのところ」


「ううん、それは全然構わないんだけど」


「ほな、はよいこうや。面会時間終わってまう」


 わたしは夫の車に乗り込み、美咲ちゃんは自分のバイクで後を追ってきた。


「かっこええな、バイク。ワイも買おうかな」


「車のローンもあるのに何言ってるのよ」


「うぐ……そこを突かれると痛いわ」


 他愛もない話をしながらいよいよかなえちゃんが入ってるという病院の療養所に近づいてきた。


「ここやな」


 徐行運転で住所付近を探して、少し迷いながらもようやく見つけた。

 駐車場に車をとめて、そのすぐ横に美咲ちゃんもバイクをとめた。


「ところで吉田さんはどうして療養所に入ってるのかしら?」


 車から降りてすぐに美咲ちゃんがわたしたちに疑問を投げかけてきた。


「そこはワイらも聞かんかった。本人に聞いた方がええと思ってな」


「……そうね。でも高校の時、元気だったのよね?」


「うん、隠れて病院通ってたら分からないけど見た目やそんな話はなかったよ」


 わたしの言葉を聞いて神妙な顔をする美咲ちゃん。

 何か考えている様子だった。


「ま、いいわ。本人に聞けば分かるんですしね」


「そういうことや」


 こうしてわたしたちは診療所の中に入った。

 そして入ってすぐ、わたしたちは驚くことになる。


「か、かなえちゃんか!?」


「え、えぇっ!?」


 かなえちゃん……っぽい人が入口の自動販売機で飲み物を買っていた。

 夫はその人を肩を掴んでゆすっていたけど、驚き方といい、そして声といいなんか雰囲気が違った。


「ねぇ、わたくしは吉田さんのことあんまり知らないんだけど……」


 美咲ちゃんがわたしに小声で話しかけてくる。


「あの人、男性よね……多分だけど……」


「そうだよね、声が……でも女性に見えなくもないけど、かなえちゃんじゃない……かな?」


 かなえちゃんそっくり……だけど高校時代より髪が更に短くて、声も少し低い気がする。

 夫が一人暴走しているんだけど……

 まずそれを止めた方がいいと思い、声をかけようとしたら違う方から声がした。


「それは吉田智。噂のかなえの双子の弟よ」


「伊万里!?」


 伊万里がいると思っておらず、つい声を上げてしまった。


「何騒いでるのかと思ったら中井くん、ここ一応療養所よ?」


「う、すまへん。だけどそっくりやな」


 夫はその双子の弟さんを色んな角度から見て呟く。

 ほんとそっくり……なんだけど、その前に伊万里がいることに疑問を抱いて聞いてみることにした。


「でも伊万里、なんでいるの?」


「あんたらが今日来るって滝田くんから聞いたから」


「そっか。わざわざありがとね」


「今更そういう仲でもないでしょ。ほら行きましょ」


 伊万里が案内しようとした時だった。

 美咲ちゃんが制止をかけた。


「その前にせっかくだから紹介してくれないかしら?」


 美咲ちゃんがジュースを持っているかなえちゃんの双子の弟さんのことを見ながら言った。


「あ、よ、吉田智って言います。皆さんは姉さんの?」


「せや、高校時代の仲間や。ワイは中井一俊、一俊でええで。よろしゅうな」


 夫に続いてわたしと美咲ちゃんも自己紹介する。

 でも見れば見るほどそっくりだなーと思った。

 男性の割には華奢な体つきだし、髪伸ばしたり女装したらかなえちゃんの瓜二つかもしれない。

 そんなことを思っていると伊万里がその場を仕切りだした。


「挨拶も終えたしいきましょ」


 伊万里の後をわたしたちは着いていく。

 そして病室の前で立ち止まり、振り向いた。


「あたしは智とちょっと話があるから、先に入ってて」


「え?」


「ほら智、来なさい。美咲、悪いけどジュース届けてあげて」


「分かったわ」


 双子の弟の智くんは慌ててジュースを美咲ちゃんに手渡し、伊万里に引っ張られ奥へと消えていった。


「んじゃいきますか」


 夫がドアをノックする。

 そうしたら中からどうぞっと声がした。

 夫は躊躇なくドアを開けた。

 こういうところは凄いなっと高校時代から思い続けてきた。


「やっ、久しゅうやな。かなえちゃん」


「な、中井くん!?」


 ベッドにいたのは紛れもなくかなえちゃんだった。

 今度こそ本物……って言い方したら智くんに悪いけども……

 夫のこともすぐに分かった様子で、口を手で押さえて驚いていた。


「なんや、思ったより元気そうやん。やっと会えたわ。ほんま長かった」


「中井くん……滝田くんから聞いたの?」


「せや。もう心配したで? いなくなったと思ったら療養所にいるなんて言うから」


「ご、ゴメン」


「ま、でも元気そうで何よりや。色々話聞かせてもらうで」


 そう言って夫はあった椅子に座った。

 その前にわたしも挨拶しておきたかったから一歩前に出た。

 そしてかなえちゃんを目と目が合った。


「もしかして未央……ちゃん?」


「うん、久しぶり、かなえちゃん」


「わぁ、ほんと久しぶり! 元気だった!?」


 高校時代みたいに明るく優しい声。

 間違いない。ようやく会えたんだ。


「もうそれはこっちの台詞だよ。体、大丈夫なの?」


「う、うん、大丈夫だよ」


 大丈夫だったら療養所にいないんだろうけど……

 でも元気そうで何よりって気持ちだった。


「聞いたよ。中井くんと結婚したんだって?」


「なんや、驚かせよ思ったのに。知っとったんか」


 ここで夫が呟く。わたしも夫と同じ気持ちだった。

 恐らく伊万里か滝田くんだろう。

 というか他に考えられないけど……


「子供もいるんだよね? 写真とかないの?」


「あ、写メで良かったらあるよ」


「わー見せて見せて」


 わたしは携帯電話を取り出して、子供の写メを見せる。


「中井くん似かな? 可愛いなぁ」


 わたしの携帯電話を手に笑顔で子供の写メを見ていかなえちゃん。

 かなえちゃんも何事もなければ深見くんと……とわたしはふと思ってしまった。

 でもそんなこと口に出せるわけもなく……


「それより積もる話もたくさんあるじゃないの?」


 後ろから状況を見守っていた美咲ちゃんが話を戻そうと指摘してきた。


「せやせや。美咲ちゃんの言うとおりやった」


「っと待って。美咲ちゃんはかなえちゃんと初対面よね?」


「藤山美咲よ。よろしくね。あ、これ伊万里から」


「あ、吉田かなえです。ありがと」


 美咲ちゃんは智くんが買って渡されていたジュースを手渡した。

 ちょっとクールな美咲ちゃんに対し満面の笑みで握手するかなえちゃん。

 そんなかなえちゃんにつられてか美咲ちゃんの表情も少し崩れてるようにみえる。

 美咲ちゃんも自分を表に素直に出せないだけで可愛い一面もあるんだけどね。


「で、かなえちゃん。挨拶も終わったことやし色々聞くで」


「う、うん」


「そもそもなんで療養所なんかに入ってるん?」


 夫の質問はストレートだった。

 まぁ、元々こういう時に回りくどい言い方しないんだけど……


「えっと……弟に手術で肺をあげたの。その手術の後遺症で、かな」


 それから夫の質問攻めが続いた。

 かなえちゃんも戸惑いながらも答えてく。

 そしていよいよ核心をつく質問を夫はした。


「それでな、かなえちゃん……永一のことやけど」


 さすがの夫も言いづらいのか語尾を濁した。

 かなえちゃんも肩をピクッと反応した。


「どこまで聞いとる?」


「どこまで……って私のせいで今、行方が分からないってことだけ……」


「せや。ほんまどこに行ったか分からん状態らしい」


「伊万里と滝田くんが懸命に捜索してるみたいだけどね」


 美咲ちゃんはいつも通りのトーンで淡々と話す。

 わたしはもう慣れたけどかなえちゃんは美咲ちゃんが怒ってると勘違いしないかな?

 しかしそんな心配は杞憂でそんなことより夫がどんどん話を進めた。


「でな、かなえちゃん。ワイらは永一は生きてると信じとる。また会えるってな」


 かなえちゃんの表情が少しずつ曇っていくのが分かった。


「まだ永一のこと好きか?」


「私は……」


「それとももう好きじゃないから別れたんか?」


 夫のこの一言にかなえちゃんは首を横に振った。


「ううん……好きだから……永一くんの負担になりたくないから別れた……だけど……」


「あーアカン、アカン」


「え?」


「こんなことになってしまって、永一に会わす顔がないっちゅーなら間違っとるで」


 かなえちゃんは夫の言葉に驚いた様子だった。

 恐らく図星だったんだろう。


「こんなことになったからこそや。永一のアホ、見つけて二人で幸せにならなアカンで」


「うっ……ヒック……」


 かなえちゃんは涙を流し始めた。

 夫は言い切ったといった満足な表情を浮かべていた。


「吉田さん、あなたは間違ったことをしてしまったと言わざるを得ないわ」


 わたしと一緒に静観していた美咲ちゃんがここで口を開いた。


「だけど七年間もあなたが生きてると信じてきた仲間がいるわ。あなたは一人じゃない」


「ひっ……藤山……さん……」


「深見くんもきっと大丈夫よ。信じなきゃね」


「藤山さん……ありがと」


「いいえ、どういたしまして」


 クールな表情のまま優しい言葉をかける美咲ちゃん。

 そんな美咲ちゃんを夫はからかうような表情を浮かべていた。

 それに気づいた美咲ちゃんはより一層、厳しい目つきに変わった。


「なにかしら、中井くん」


「いや、流石美咲ちゃんやなーっと思ってな」


「悪いけどわたくしは伊万里の味方。伊万里が笑うなら協力する、それだけよ」


「なんや冷たいな。せっかくやしかなえちゃんとも仲良くすりゃーええのに」


「しないとは言ってないわ……その……吉田さんさえ良ければ……」


「だそうや。どや? かなえちゃん」


「私はもちろん喜んで」


 かなえちゃんも涙が止まって笑顔が戻っていた。

 美咲ちゃんが夫に押され、かなえちゃんの前まで行った。

 そして照れくさそうに右手を出した。


「改めてよろしくね、かなえ」


「うん、よろしく、美咲ちゃん」


 ギュッと握手をする二人を見て、わたしも嬉しくなる。

 そして夫と目が合って夫はニマっと笑った。

 わたしもつられて笑顔になった。

 話も一通り済み、どうしようかっと思った時、ドアがノックされ人が入ってきた。


「話終わった? 今後の打ち合わせしたいんだけど」


 入ってきたのは伊万里とかなえちゃんの双子の弟さんだった。

 しかし……良く見れば見るほどソックリだなっとマジマジと見入ってしまった。


「しかしまぁ、良く似とるな。並べば多分分からんな」


 夫は相変わらず思ったことを口に出す……

 まぁ、失礼ではなく本当のことだからいいかと思いつつわたしは苦笑するしかなかった。


「さてとかなえ、早速だけど明日大丈夫?」


「明日? うん、どうしたの?」


「永一の親戚のおじさんたちに挨拶。するって言ったでしょ?」


「えぇっ!? それって一週間後じゃ……?」


「そんなこと言ったっけ? わたし、忙しいのよ。時間作るの大変でようやく空けたんだから四の五の言わない」


「うぅ……横暴だよ……」


 かなえちゃんは複雑な表情で沈んでいった。

 話は良く分からないけど、また伊万里が無理難題を言ったのだろうけど……


「伊万里、かなえちゃんの体調考えたらあんまり無理させちゃダメだよ?」


「未央に言われなくても分かってるわ。安心して」


 まぁ、昔から伊万里は無茶言うようで人のこともちゃんと考えてるところあったし大丈夫かなっと思い直した。


「そろそろ面会時間終わるわ。出ましょ」


 伊万里が不自然に話を切った。

 不思議に思いつつ時計を見ると結構な時間が経っていた。


「ほな、また来るわ」


「うん!」


「またね、かなえちゃん」


「今度は子供も連れてきてね」


「うん、分かった」


 かなえちゃんと一言交わし、病室を後にした。

 外の駐車場に出たら夜空に星が輝いていた。

 そして車に乗り込もうとした時、伊万里が話しかけてきた。


「じゃあ、また何か分かったら連絡するわ」


「お願いね、伊万里」


「あんまり無茶しちゃダメよ」


「分かってるわよ」


 伊万里にしっかり釘を刺す美咲ちゃん。


「でもかなえちゃんに会えて本当に良かった」


 わたしは素直な気持ちを口に出した。

 夫はニコっと笑ってくれた。


「そうね。でもまだよ」


「深見くんを見つけるまでは……でしょ?」


 美咲ちゃんの言葉に皆、頷いた。

 そう……まだなんだ。

 深見くんとの再会……これが残された願い。

 叶うといいな……わたしたちの願い。


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