18 それでも私は
私の祈りは届かず、父は昨日のうちにメイドのリリーから報せを受け取っていたようで屋敷に駆け付けていた。屋敷に入るなり、玄関ホールに父の声が大きくとどろく。
「アメリア!」
「お父様……」
思わず身構えてしまう。親に怒られるなど、いつぶりだろうか。
「やあ、フロイス。昨日までテッセントにいたんじゃなかったかな」
「で、殿下。娘を送り届けていただくなど……わたくしめは、貴方様に感謝をどうお伝えしていいのやら」
「フロイス、アメリアは昨日は俺と共にいたから心配しなくてもいい。この事は城の方では信を置いている者にしか知られていない。安心してほしい」
「殿下、何から何まで……娘には勝手なことをするなとよく言い付けておきます」
「では俺はこれで。アメリア、また祝賀祭で会おう」
そう言ってクロヴィスは踵を返した。あれ、これだけ……? てっきり父に私のことを詳しく話すものだと思っていたのだが。
「ク、クロヴィス様?」
「アメリア、今日は夜更かしはしないでよく眠るんだよ。君のドレス姿を楽しみにしているよ。マーカス、また任せてもいいかな。このまま向かってしまおう」
「承知いたしました」
マーカスが玄関扉を開けた。クロヴィスは去り際に振り向くと、私を見てニコリと目を細める。
「またね、アメリア」
パタンと静かに閉じられた扉。私はまだ、アメリアとして生きていていいらしい。
父に昨日の事情を話し、リリーにも帰らなかったことを謝った。今日一日は部屋で大人しくしているようにと父は厳しく言い放ち、忙しない様子で屋敷を後にした。
部屋の窓から父が乗った馬車が遠ざかっていくのを眺める。クロヴィスも父もみんな仕事があり忙しそうだ。
「……余計な心配をかけさせちゃったのよね」
クロヴィスだけでなく父にも。
窓辺に置かれた椅子に腰を下ろす。手前の丸テーブルに膝を着くと、そのままずるりとうつぶせになった。
「……クロヴィス様の他に転生してる人なんて、いないよね?」
知っている王国ルートから離れていってしまったら、対策のしようがない。
クロヴィスが持っている記憶は帝国ルート。だから早い段階で彼なりに手を打ち、帝国との親交を深めたのだろう。
アベル皇太子と交友を持っていても、あの人が死んでしまうかもしれない可能性がなくなったわけではない。
王国ルートでも進め方次第では帝国との戦いで命を落とす。表向きは帝国に殺されたということにはなるが、実際のところはどうか。前世インターネット上では、『クロヴィスは第二王子の勢力に殺されたのでは』という考察もある。
……今、王位の継承権争いはどうなっている?
実際、アメリアとしての記憶の片隅にその片鱗はあった。何年か前に、クロヴィスの元に刺客が送り込まれたのだ。当時は帝国側の仕業だと片付けられたが本当に……?
「……私にとってこの世界はもう、ゲームじゃない」
レナードを使い、上手く大団円ルートを勝ち取らねば。
きっとクロヴィスは祝賀祭にレナードを同席させる。祝賀祭といえば王国ルート二章のメインイベント。メインクエストとしての戦闘はないことだけホッとする。
「……クロヴィス様とダンスかぁ」
本編中に、クロヴィスとアメリアのダンスシーンの映像が差し込まれていたはずだ。ステップは身体が覚えているので問題はない。
あっという間に一章が終わった。次にクロヴィスと会うまでに、私も準備をしておかなければ。
「……やるなら魔法よね」
この世界、魔法がなんだかんだで強い。回復魔法を極めれば、どんな傷だって一瞬で癒せる。
決めた。
がばりと体を起こす。
私……魔法職のエキスパートになってやるわ。




