【1話】ゴミ箱に制服捨てられたけど、すき焼き食べて悠人がいればいい
こんにちは。
本編「君の知らない僕のダークサイド~救ってくれるもの」連載中ですが、息抜きに書いてみました。
【8話】完結です。
1日1話ずつ、投稿予定、20時頃かな。
よろしくお願いします
ロッカーを開けた瞬間、長瀬瑞樹がため息混じりに呟いた。
「はあ…何だよ、まただよ」
部活終わりの部室。
ロッカーの中に、当然あるはずの制服一式が、忽然と消えていたのだ。
数日前から毎日、今日みたいな嫌がらせが瑞樹の身におきている。
「犯人はあいつだな」
瑞樹は犯人に心当たりがあるんだと教えてくれた。
「ここだけの話。俺と悠人のヒミツだからな」
意味深に声をひそめて瑞樹は言う。
「うん、ひみつ」
と僕がうなずくと
「実際やってんのは別のヤツかもしれないけど、首謀者は木原祥司だと思う」
「木原先輩が?」
嘘だろうって思った。
木原先輩と言えば、三年のテニス部長で、爽やかな、そしてカッコ良くて、女子にも人気があって優しい……。
「信じらんねーって思ってるだろ? 悠人」
「うん。だって、そういう陰湿なことするような人に見えない」
「見たままがそいつの全てとは限んないぜー」
それはわかる。
だって瑞樹がそうだもん。
スリムな体にすらりとした手足。
顔も女の子でも通用しそうなくらい綺麗で、少し茶色がかった瞳と同じ色の、さらさらの髪。
すれ違う時、ふわりと香るいい匂い。
一言で言うと、「王子様」だって思った。
「あいつ、俺とすれ違うときわざとぶつかったり、足踏んだりしやがるんだぜ。文句あるなら正面からかかってきやがれっつーんだ」
だけど王子様はしゃべると結構な毒舌で、かなり喧嘩っ早かった。
「それより瑞樹、制服どうする?」
「探すに決まってるだろ。どうせゴミ箱かなんかに突っ込んであるんだ」
瑞樹がゴミ箱を探ると、本当に制服が出てきた。
だけど制服はゴミだらけで、とても着られたものではないのに、瑞樹は軽くゴミを払うと
「まあいっか」
なんて言ってそれを着た。
「ちょっとゴミ臭いけど、ごめんな」
着ている瑞樹の方が気になるだろうって思うのに、瑞樹は僕の方を気遣ってくれる。
「明日あいつに、俺の何が気にいらねーか、直接聞いてやる」
帰りのバスの中で、瑞樹は言った。
「ケンカする?」
「ケンカじゃねーよ。直談判するだけだ」
場合によってはケンカになるかもしれないけどね、と瑞樹はいたずらっぽく笑った。
「悠人、心配してくれてるんだろ?」
「証拠もないのに、言いがかりだって言われるかもしれないじゃんか」
「ストレートに、俺をいじめてんの? とは聞かねーよ。もっとちゃんとうまくやるって」
瑞樹は心配するなって言って、笑った。
そうだよね。瑞樹はちゃんと考えているんだ。
「ところで悠人。今日うちに泊まって行けよ」
瑞樹は、家に電話しとけよ、と言って、強引に僕の泊まりを決定した。
僕の母親と瑞樹のお母さんは、僕たちが中学生の頃から仲がいい。
最初は近寄り難くって遠くから見ているだけだった瑞樹。
親が親しくなっていなければ、たぶん話もせずに卒業していただろう。
それくらい僕と瑞樹に共通点はなかった。
頭の出来も違ったし、勉強を瑞樹から特訓されなければ、この高校を選んでさえいなかったと思う。
バスを降りて、母親に電話をかけた。
瑞樹のうちに泊まるって言ってダメだと言われた事は、かつて一度もなかった。
今日も二つ返事でOKだ。
「今日、すき焼きだぜ」
同じく母親に、僕が泊まることを連絡したらしい瑞樹が、「やったぁ」と笑う。
「ご飯出来たら呼ぶわね」
瑞樹のお母さんはいつもニコニコして愛想がいい。
瑞樹の顔は、きっと美人の母親譲りだ。
瑞樹の部屋に入り、鞄を置くと、泊まりに来たときにいつも貸してくれる自分の部屋着を、瑞樹が出してくれた。
出会った頃、僕と瑞樹は背も体形もほとんど同じで、洋服も靴のサイズもぴったり同じだった。
ただ最近、瑞樹の目線がちょっとだけ高くなっている。
僕の背は、中二で止まったままで、いまだ伸びる気配がない。
瑞樹だけが先に大きくなっていって、何だかひとり取り残されたようで焦る。
扉の向こうで、瑞樹のお母さんが「ごはんよー」と呼んだ。
食卓につくと、ちょうど瑞樹のお父さんが帰って来た。
「今日はケンカにならないように、たくさんお肉を買ってあるのよ」
以前、すき焼きをご馳走になったときに、瑞樹とお父さんが、肉の取り合いをしたんだ。
親子って言うより、兄弟みたいなんだよね。
そして今日。
たくさん肉があると言うのに、やっぱり二人は取り合っていた。
「悠人も食えよ。遠慮してると、食いそこなうぞ」
瑞樹が僕の小鉢に、肉を入れてくれた。
僕は小食だから、これでもすでに結構お腹一杯だったんだけど、せっかく瑞樹が取ってくれたんだからと、無理して食べた。
嵐のような食事の後、お風呂に入らせてもらってから瑞樹の部屋に行くと。
「湯冷めしねーうちに、ベッドに入れ」
すぐに腕を引っ張られ、ベッドに寝かされる。
「寒くないか?」
「もう五月だよ、瑞樹」
瑞樹はちょっと過保護なくらい、世話を焼いてくれる。
翌日、瑞樹のお母さんが作ってくれたお弁当を持って、瑞樹と一緒にバスで登校した。
「じゃあ昼休み、いつもの場所でな」
バイバイと手を振って、昇降口で瑞樹と別れる。
瑞樹とはクラスが違うんだ。
校舎も東棟と西棟とで離れている。
「おっはよー、和泉くん」
同じクラスの葵ちゃんだ。
同じテニス部だから、他の女子よりも多く話す。
「今日も瑞樹くんと一緒だったね」
「うん」
「仲いいもんね、二人。なんか割り込めない空気あるよね」
「そんなこと……ないと思うけどな」
「じゃあ私が割り込んでもいい?」
それは、僕たちと友達になりたいってことかな。
「瑞樹くん、彼女いない?」
「いないけど……」
ぴんときた。葵は瑞樹を狙っているんだ。
割り込むってそういう意味だ。
「今度三人で遊ばない?」
「瑞樹に聞いとくよ」
「ありがとー和泉くん」
もうOKがもらえたように喜んで、葵は先に教室に入っていった。
そして昼休み。いつもの屋上で葵の話をした。
「だれそれ、ヤダよー。めんどくせー」
葵のことを話したら、瑞樹は素っ気なく却下した。
「悠人、女なんかとしゃべるなよ」
「そんな事、言われても…」
「女、うるせーじゃん。高い声でキャーキャー騒ぐの。しゃべり方とか、なーんか甘ったれてて嫌なんだもん」
キャーキャー騒ぐのも、甘ったれた声でしやべるのも、瑞樹を意識しているからだろう。
僕なんか騒がれたことも、甘えられたこともないよ。
「じゃあ葵ちゃんのことは…」
「興味ねーから」
「そうなの?」
「そうそう。俺は女と遊ぶより、悠人と遊ぶ方が楽しいんだもん」
「…けっこう可愛いよ、葵ちゃん。クラスの中でも一番って、男子が騒いでるよ」
「俺には悠人が一番かわいいー」
せっかくモテてるのに、僕から言わせればすごくもったいない。
「あーうまかった。悠人がいると、母ちゃんの弁当が豪華になるんだもんな。毎日泊まればいいのに」
弁当箱を袋にしまいこみながら、瑞樹が笑う。
「悠人とずっと一緒にいたいよー」
五月の風に髪を揺らしながら、瑞樹は爽やかな笑顔を僕に向ける。
誰に対しても無愛想な瑞樹が、僕にだけ向けてくれる最高の笑顔。
「今週の土曜日は休みだろ? 悠人、金土って泊まれよ」
「そうだね。いいよ、泊まる」
うなずいたと同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴って、僕と瑞樹は「じゃあ放課後」と約束して別れた。
夕食を終え、入浴も済ませてからゆっくりと部屋で寛いでいた時、自宅に木原先輩から電話がかかってきた。
駅近くの公園に呼び出された僕は、断ることが出来ず、母に言って出かけて行った。
いったい何の用事だろう?




