第18話 カウンター
第18話 カウンター
ノクスは、何も言わずに動き始めた。
机に手を掛ける。
乱暴さはない。
重さを確かめるように、一度だけ力を入れ直す。
机は、横へとずらされた。
引きずる音は立てない。
石畳の上で、位置だけが静かに変わる。
「……なっとらんのは、ここじゃ」
独り言のように呟き、
ノクスは道具袋から工具を取り出す。
板を測り、合わせ、
無言で手を動かす。
戦場の音は、相変わらず続いている。
剣戟も、怒号も、遠いままだ。
ノクスは喋らない。
だが、完全な沈黙でもない。
木に触れ、
削り、
確かめる。
時折、短く息を吐く。
作業は迷いなく進んだ。
説明はない。
完成を告げる言葉もない。
やがて、
長い板が据えられ、
高さが整えられ、
木材だったものは、別の形を取っていた。
ノクスは一歩引く。
全体を眺め、
口の端を、わずかに上げる。
「殴るじゃの……若いのは、口が減らんのう」
そう言って、
余裕のある笑みを浮かべる。
道具をまとめ、
背を向ける。
去り際に、振り返りはしない。
戦場の端には、
新しい形だけが残った。
主人公は、何も言わない。
近づき、
手を置く。
木の感触を確かめる。
角。
高さ。
距離。
一つずつ、確かめて、
それで終わりにする。
椅子を四つ。
向きを揃え、
間隔を整える。
それ以上は、しない。
主人公は、
カウンターの向こう側に立つ。
湯は沸いている。
戦場の音は続いている。
それでも、
今日も、そこに立っている。




