39話 ~鼻~
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。
好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
自分専用の魔武器を手に入れた私とスイリンはマリーに礼を言って店を去った。本当は金を払いたかったのだが、マリーは頑として受け取らなかった。
見返りを求めず他人に何かを差し出すという行為は、私にはあまり理解できない。申しわけなさとありがたさとの混ざったような不思議な感情になる。
今後何かあればぜひ恩返しをしたいと思うのだが、マリーが喜ぶものを見つけることは出来るだろうか。しいて言えば魔道具から生み出す赤ワインだが、その魔道具だって元々はマリーから貰ったものだ。
マリーはイケメン老婆だ。
着ているものもお洒落だし一緒にいて心地よい。性格はさっぱりしているし、話は面白いし博識だ。もと探索者という事で、私のように興味はありつつも一度もダンジョンに潜ったことのない人間にとっては、話を聞くだけでかなり勉強になるだろう。
美味しいお店も教えて貰ったので、私よりも知識の面でも圧倒的に優れている。何か良いものが見つかればいいのだが。
「まさかこんなに簡単に魔武器が手に入るなんて思いませんでした」
確かにその通りだ。金だって準備してきたのに1ゴールドも減らなかった。ただ談笑して、沢山ある魔武器の中から音を頼りに選ばせてもらって、そのままもらってきた。
あまりにも簡単に行き過ぎてどこかフワフワした気分だ。
「着きましたね」
色々と考えながら歩いているうちに、冒険者ギルドに到着した。
「かなり立派な作りの建物ですね」
確かにそうだ。屋根に掲げられた看板も立派で、少し眺めている間にも何人もの人が出入りしているので賑わっていることが分かる。以前にBランク冒険者のカトレアを護衛として雇ったことはあるが、ここに来るのは初めてだ。
扉を開いて足を踏み入れるとそこは人の活気に満ちていて、食べたり飲んだりしながらそれぞれのテーブルで話し合いをしているのが分かる。なんとなくサイゼリヤとかの大衆レストランを思い出す。
「賑わってますね」
スイリンは少し緊張しているようで、手に入れたばかりの魔武器を握り締めているの。
入り口から入ってすぐの所に、横に長いタイプの受付らしきものがあるので近寄っていく。この建物の感じはどことなくコーヒーショップのベローチェに似ている。
受付には3人の若い女性がいて、そのなかで空いているのがひとりだけなのでそこへ向かって歩いて行く。ただ少し不安なのが彼女だけウサギ耳のアクササリー?を付けているということだ。
「いらっしゃいませー」
元気のいい声で挨拶をされた後で用件を聞かれたので、近場で魔物狩りをしたいので、できるだけ冒険者ランクが上で人格者の冒険者を求めている、と答える。
「お客様はギルドへ来るのは初めてでしょうか?」
そうだと答えると、作り物のように完璧な笑顔をしてテーブルのに張り付けてある紙を示された。
そこにはCランク1日3万ゴールドから、Bランク1日10万ゴールドから、という風に値段が書いてあってSランクだと1日100万ゴールドから、と書かれている。
初めて来る客に対して分かりやすいのと同時に、これくらいの金額は当たり前にかかるんだからな、という先制パンチのように思える。
「それで今日はどういったご用件でしょうか?」
頭にウサギ耳を付けている割には普通の感じで聞いて来るので、少し戸惑う。しかし出来るだけ普通の感じで、新しく手に入れた魔武器を外の魔物相手に試したいが、危険なので護衛として冒険者を雇いたいと告げる。
「冒険者の御希望は御座いますか?」
金に関しては競馬で稼いだ金が唸るほどあるので100万位は何でもない。だから出来るだけ高ランクで、なおかつ人格者であることを希望として告げる。
「人格者、ですか?」
ウサギ耳受付嬢は首をひねる。多分そんな条件を言ってくる依頼者が少ないのだろうと思うが、これは必要なことだ。
というのも私は昔から人と衝突することが多いのだ。それは私の強情かつひねくれ者の性格がその原因であることは分かっているが、直すことは出来ない。
なのでそこは私では無くて相手にがんばってもらおうという作戦だ。人格者なら私が多少おかしなことを言っても許してくれるだろう。
「わかりました、それではこちらからいま手が空いていそうな候補を何人か提示します」
ウサギ耳受付嬢がカウンターの下の資料に目線を送っているのが分かる。
「依頼をしたい冒険者がいるのであれば本人と交渉をして頂きますし、そうでなければ条件を記入した掲示物を作成しますので、それを見た冒険者からの返答を待って頂くことになります………」
多少頭を使いそうな説明は続いていくが、それよりも私は背後から迫りくる圧力によって振り向かされた。
「おう!話聞いてたぜ。どうだ、俺はSランク冒険者だ。お前ら強い冒険者を探してるんだろ?それなら俺しかいねぇだろ。1日300万、といいたいところだが今はちょっと金が必要だから100万でいいぜ」
そこにいたのはスキンヘッドで髭を生やした大男。どことなくベジータに殺されたサイヤ人に似ている気がする。
しかしながらその威圧感はSランク冒険者と自称するにふさわしいものを放っているし、暴力的な匂いがプンプンする。きっとこいつは怒ったら普通に手を出してくるタイプのヤバいやつだな。
「ちょっと何言ってるんですかクワバラさん!あなたはギルドから冒険者活動の謹慎60日の処罰を受けたばかりじゃないですか。それなのに私の目の前で、もうっ!信じられません」
ウサギ耳受付嬢は顔を赤くして怒っている。しかしそのウサギ耳のせいで本気で怒っているようには見えない。
「何細かいこと言ってんだよ!そこは見え見ないふりをするのが大人ってもんなんだよ。まったく、そんなんだから彼氏のひとりもできないんだぞモモコ」
「このド腐れデブ野郎が好き勝手言ってんじゃねえよ!あとお前如きが私の名前を気軽に発するんじゃねえ!」
クワバラと呼ばれた大男のセクハラ全開発言は見た目の通りだからそれほど驚かなかったが、ウサギ耳受付嬢の口の悪さには驚いた。受付に身を乗り出して唾を飛ばしながら大男に暴言を浴びせている。
「ええ………」
私の背後ではスイリンが引いている声が聞こえる。振り返ってみてみるとかなりがっかりした顔をしている。もしかしてスイリンよ、お前はこういう女が好みなのか?
「テメエこの野郎!謹慎中にルール違反したら冒険者資格のはく奪もありうるんだぞこの野郎!」
「はく奪!?ちょっと待てよ、それはいくら何でも言いすぎだろ。謹慎中の冒険者だってちょっとしたバイトくらいは許されるんだろ?」
スキンヘッド大男の太い眉毛がハの字になっている。
「だからそれはルールがあって、その範囲内だったら大丈夫だって説明しただろこの野郎!」
「そんなの聞いてねぇよ。俺だっていきなり謹慎とか言われたのが結構ショックでそれどころじゃなかったんだよ」
「ちゃんと説明してやってんだからちゃんと聞いとけよ馬鹿野郎この野郎!」
このふたりは仲がいいのだろうか?言葉こそ激しいものの本当にお互いを憎み合っている感じは一切ない。お笑い芸人がけんか芸をやているような感じだ。
私は背後にいるスイリンにアイコンタクトをした後でそっと回れ右をしてギルドを去ることにした。
ふたりの感じから言ってこの言い争いはまだまだ続きそうだ。一度喫茶店かどこかに行って時間を潰す方が効率的だろうと思った。
「おいテメェ!見えてんだよ、何勝手に出ていこうとしてんだよ!」
スキンヘッド禿げの声が聞こえたと同時に、4t車に突進でもされたかのような衝撃を背中に感じ、私は吹っ飛びギルドの壁に激突した。
「ポロロッカさん!」
「す、すまねぇ、ちょっと押しただけのつもりだったんだが、わりぃ、大丈夫かあんた」
「テメェ何やってんだ!謹慎中にお客に対しての暴力なんて言語道断だぞ馬鹿野郎!クビだーー!お前なんかクビだ馬鹿野郎ーーー!」
背中の方から様々な声が聞こえる。
異世界に来てこれほどはっきりとした痛みを感じたのは初めてだった。壁と正面衝突した私の鼻は熱さと痛みと腫れぼったさを同時に感じている。
鼻が折れている気がする。
これがSランク冒険者か………。
鼻から生暖かい液体がこぼれ落ちていく。
尚も背中の後ろでは声が聞こえてくるが、そんなものは部屋の外から聞こえてくる雨音のようなものとなり意識の外へと締め出されていく。
私はやられっぱなしで終わらせるような人間ではない。たとえ自分が悪かったとしても何かやられたらやり返さないと気が済まない性質だ。
相手はSランク冒険者、一切の容赦は無用だ。
私はしっかりと、しかし確実に、手に入れたばかりの魔武器「雷王」を両手に嵌めた。
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