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38話


【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。


好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。


特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。


 

 数々の大仏が穏やかな目で私を見ている。


 濃密なお香が充満するこの建物に入った最初は、むせ返るような不快感を覚えたのだが、今となっては気分が落ち着く香りのようにも感じる。


 手の中には魔道具の「雷王」がある。まだ魔力を通していないが、持っているだけでゆったりとした重さを感じる。


 蠅が飛び回るよう音を出す魔武器のなかでこいつは私に心地の良い音を聞かせてくれた。こいつとっしよに異世界を生きていくんだなと言う実感が湧いてきて愛おしい。


 部屋の中で紅茶を飲みながらマリーと話をする。彼女はイケメン老婆と私が勝手に名付けているのは、明るくてカラッとしているから話していて心地よいから。きっと友達が多いタイプだろうなと思う。


 私もどんどん話をしたい気分になって、路上で石を売っていたという話をしたら興味を持った様子で、それなら以前に見たことがあるが、あまりに怪しかったので距離を取って歩いたと言った。


 部屋のドアが開く音がした。


 魔武器と魔道具が納められた部屋から戻って来たスイリンが手に持っていたのは、土の色をした何の変哲もない木刀だった。魔武器というにはかなり地味な見た目で言われないと分からないくらいだ。


「ほう、「隠者」を選んだのかい」


 イケメン婆さんのマリーが面白そうな顔をしながら言った。


「この木刀は「隠者」っていう名前なんですね」


 しげしげと見つめる。


「どうしてそれを選んだんだい?」


「部屋の中に入った途端、鳥の鳴くような心地の良い声が沢山響いていてどれにしようかと悩んでいたのですが、その中でもこれは声は小さいんですけど、甲高くて綺麗な音色だったので、これが良いと思いました」


 甲高い綺麗な音色。私がこのグローブから聞いたのは雀のさえずりに似た音だったのだが、やはり物によって音の違いがあるのだなと思う。


「やはりスイリンは魔武器から好かれる性質のようだね」


「そうなんですか?」


 スイリンは首をかしげる。


「ここにいるポロロッカは部屋に入った途端に大量の蠅が飛び回るような音がしたと言っていたよ」


 そういえばそうだった。


「それは魔武器が使用者を嫌っている時の音なんだ」


 そうだったの?確かに部屋に入った時には蠅の音しか聞こえなくてかなり不愉快だったのだけど、それは私が魔道具から嫌われていたからなのか。ひとつやふたつならまだしも部屋中蠅だらけみたいな感じだった。


 すごく嫌な気分。私が何をしたというのだ、ただ部屋の中に入っただけなのになぜそんなに嫌うのだと問い詰めたやりたい気分だ。


「そうだったんですか、すませんポロロッカさん」


 なぜか謝られた。別にスイリンが悪いことをしたわけじゃないのだから謝られても困る。


「まあいいじゃないか、これでお互いに魔武器は決まったわけだから」


「それなんですけど、本当にこれを貰ってしまって良いんですか?」


「もちろんだよ。私は若い頃に金は十分かせいで今も不自由していないから、気に入ったものは気に入った相手に使ってもらいたいと思っているんだから」


「ありがとうございます」


 スイリンと一緒に頭を下げる。


「気にしなくていいよ。どうしてもというなら魔道具で作った赤ワインを贈っておくれ。あれはかなり良さそうな味だったから、床にこぼれた物じゃなくてワイングラスで飲んでみたいんだ」


 やはりマリーはあのワインが相当気に入っているようだ。それか私たちに遠慮させないように気を使って言っているのか。


 私はすぐにワインを贈ることを約束した。いったいどれほどの量を生み出すことが出来るのか私自身も気になるから。


「それにしてももったいないね。ワインを生み出すことが出来るのに飲めないなんて」


 確かにそうだ。私は食べることが大好きなので、美味しいと聞いたものに関してはすぐに食べに行かないと気が済まない性質だが、こればっかりはどうしようもない。


 まあマリーが気に入ってくれるだけまだいいと思う事にしよう。これで誰にも望まれないようなワインなら、捨てないといけなくなっただろう。


「まあとりあえずいったん魔力を通してみたらどうだい?」


「え!?」


「自分の魔武器がどんなものか知っておいた方が良いだろう?」


「そうですけど大丈夫ですかね?」


 私とマリーの顔を交互に見る。


「隠者はある程度穏やかな魔道具だから大丈夫だと思うよ」


 マリーはスイリンの魔武器「隠者」に目を向けながら言う。そっちは、という事は私の魔武器「雷王」は穏やかではない、という意味だろう。


「もし何か体に異変を感じたら魔力を送り込むのを止めればいいんだよ」


「なるほど、手を離しちゃえばいいんですもんね」


「まあそれほど心配いらないと思うけどね。とにかく心を強く持つことさ。誰に何を言われようとも揺るがない心を持っていれば、強力な魔武器にだって心を乱される事は無いんだ」


「僕にできますかね」


「コイツは大人しいから大丈夫だよこの「隠者」は私が昔、使っていた魔道具なんだ」


「そうなんですか?!」


「私にはもう魔武器は必要ないから、そろそろ誰かに譲ってもいいと思ったんだ。その私が言うんだからきっと大丈夫さ。スイリンは私の昔の頃よりも強い魔力を纏っているからね」


「わかりました。やってみます」


 そう言ってスイリンは私とマリーから少し距離を取ったところで魔力を込め始めた。魔法を発現した時独特のスパイシーな香りがお香の中に混じって少しだけ感じた。


「わわわ!」


 スイリンの木刀からは植物が勢いよく生え出した。


「それが「隠者」の力だよ。魔力を込めると植物を生み出すことができるんだ」


 あっという間に伸びていく艶々した緑色の葉を持つ植物は広い天井まで到達しそうな勢いで伸びていく。


「まだ良く分からないですけど、なんだかうまくやっていけるような気がします」


「隠者もきっとスイリンの事を気に入ったんだと思うよ。私以外に使われているのを見るのは少し寂しいけどね」


「大切に使います」


「そうしてくれると嬉しいね」


 隠者を見る目るスイリンとマリーの表情は優しい。


 植物と木刀と少年とイケメン老婆が共存するその光景は、大仏とお香が置かれているこの部屋に良く似合った。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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