37話 ~雷王~
【ポロロッカ】前世でインチキ宗教の教祖だった。神様を楽しませればその罪が償えるということで転生した。妄想癖が酷く、何かあればすぐに黙り込む。体を帯びる強力な魔力と鋭い目つきのせいで無意識のうちに周囲を威嚇している。頭のネジが飛んでいるので喧嘩を売られれば必要以上に買ってしまう。
好きなもの:女性、食事、睡眠、金。嫌いなもの:面倒な事、辛い事。怖いもの:神。
特殊魔法「ネゴシエーション」:言葉や文字に力を持たせる魔法。
部屋いっぱいに置かれたガラスケースの中には魔武器・魔道具だろう物が並べられている。それらは只そこにあるだけではなく音を発している。
私はひとりその中を歩く。店主のマリーの話によればこの声を頼りに自分と相性のいい魔武器を探すのだという。
前世の常識で考えれば、物が声を発するというこの状況はかなりホラー。恐れぬよう気合を入れて散策する。
魔武器や魔道具には悪魔の魂が宿っているとマリーは言っていた。その感じはなんとなくわかる。部屋の中に何百もの目があって、舐めるように見られているという気が強くするのだ。
負けてはならない。
子供の頃の私は幽霊が怖かった。しかしいつだったか、幽霊は怖がっている人間のによって来ると、聞いたことがあり私はそれを信じている。
やれるもんならやってみろ。言葉にはしないが思う。肉体もないお前らなんかには絶対に負けないと心を強くもって歩く。
とにかく五月蠅い。
大量の銀映えが飛び回るような部屋の中を耳を澄ませながら歩く。声を頼りに自分と相性のいい魔武器を探す。危機のがしてはならない。一刻も早くこの部屋を出るためには集中だ。
その中に混じって変わった音が聞こえた。
クラシックギターを優しく鳴らしたような音。
耳をさらに澄ませその音の方へと近づいてみるとそれは総合格闘技で使われる、拳にはめるグローブだった。
きっとこれだ。
鍵のかかっていないガラスケースを開けてそれを手に取る。中々に年季の入った黒いグローブの手の甲の表面には黄色の雷のマークが入っている。
かなり軽いそれを持ったからと言って、魔道具の意思が伝わってくるということもない。少し硬めで表面に張りのあるその感じは想像していた通りの質感だった。
さあこれを持ってマリーの元に戻ろう。この持ち主である彼女ならきっと説明をしてくれるだろう。
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「ほう、選んだのは「雷王」かい」
少し驚いた異様な顔をしてマリーが言う。
「そいつは中々気難しくて今まで私の所に来た誰にも懐かなかったというのにずいぶんと珍しいことだよ」
雷王。
名まえは格好いいがどうしてそんな名前なのだろう。魔武器としての特徴と何か関係があったりするのだろうか。
「その通りだよ。雷王で攻撃されるとは雷に打たれたように体が痺れて動けなくなるんだ」
つまり雷属性という事か。かなり格好いいじゃないか。ますます気に入った。
「魔女の塔で発見されたのが最初だと聞いたね。それ以来誰も使いこなせるものがいなくて、埃をかぶっていたのを私の知り合いが見つけて使いだしたんだ」
魔女の塔。噂には聞いたことがある。この世界で最も危険なダンジョンと言われているらしいが、その分だけ手に入るアイテムの価値も普通のダンジョンとは比べ物にならないとか。
「そいつは魔力の消費がかなり激しいはずだよ。いわゆる上級者向けというやつだね、あんたが上手く扱えるかどうかは分からない。もしかしたら一度使っただけで魔力切れを起こしてしばらく動けなくなるかもしれないね」
それは嫌だな。
魔力切れは体に力が入らなくなり、さらに無理を重ねれば死ぬこともあると言われている魔法使いが最も恐れる症状だ。
かなりつらいと聞いたことはあるが、私は今まで体験したことは無い。できればこのまま一生縁がないまま生きていきたいと思っている。
「私の知り合いが一番最初に使った時を見ていたんだけど、それはもう酷いもんだったよ。一度使ったらほかにも魔物がいるっていうのに、芋虫のようにうずくまって痙攣していたからね」
やはり話に聞いていた通り魔力切れは自分の意志ではどうにもならない症状のようだ。
「しかしまあ、あんたならそのうちに物にできるんじゃないかね。その知り合いも結局は物にしていたからね。魔力の出力にさえ気を付ければ問題ないらしいよ」
つまり訓練を重ねれば使えるようになるという事だ。それは他者の魔力を取り込んで魔臓を成長させるという意味だろう。
つまりはレベルアップ。
今まで全くと言っていいほどしてこなかったが、魔武器を手に入れたからには、そろそろ取り組んでいかなくてはならないだろう。
手の甲に雷のマークが入った黒いグローブを見る。
魔武器。
悪魔の魂が宿っている武器。
「魔武器は魔力を通さなければ効果を発揮しないから、一般人でも持つことは出来る。だから必要以上に怖がる必要はないよ」
じっと見つめている私にマリーの声が聞こえる。
怖くはない。
むしろ楽しみで早く使ってみたいとすら思っている。しかしとりあえずは落ち着くことだ。
心の片隅はおもちゃを買ってもらった子供のように沸き立っているが、ここは押さえる。私は子供ではない。魔力切れを起こして戦闘不能状態になってもいいように準備を整えてから使うべきだろう。
「次は僕ですね………」
緊張した面持ちでそういい、私とマリーの顔を見た後で魔武器が納められた部屋へと一人で向かって行った。
勇気があるじゃないか。
スイリンにしても魔武器を手にするのは初めてなはず。それなのに躊躇せず進むその勇気は素晴らしい。
背中を見つめつつ思う。
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