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その程度だ。

 押忍!! 漢の中の漢を心に掲げ、背には娘を思うが如く旗を掲げるその男の名は、ガク。……決まった。

後で掲示板でルアンのファンクラブ発足しないとな。


 騎士の宿舎と聞いて城っぽいのを想像していたが、違ったようだ。

 付いたそこには今ではまず見る事が出来ないような木製の校舎を彷彿させる建物があった。


「ここが騎士見習いの宿舎よ。今はほぼ誰もいないわ。エンドル、馬車お願い」

「あいよ~。んじゃ、俺は馬車をしまってくるからシャルルに付いて行ってくれ」

「あぁ」


 ルアンはサラに任せた。

 今の俺は貧血でよろけそうだし。


 サラに預けておけば問題ない。


「フフフ~。可愛い寝顔です~」


 デレデレである。

 そうか。

 俺も傍から見たらあんな感じなのか……。


 自重する気はないが、人目がある所では気を付けよう。


「来て。アナタの傷は問題ない?」

「あぁ。サラに治してもらった。貧血程度はあるけど問題はないよ」

「そう」


 そう言って宿舎に入る。


 中も学校みたいな作りだ。

 ただ、土足だけど。


 入って左右に廊下があり、窓があり、絵も飾ってある。

 あ~小学校ってこんな感じだったな~。


「この部屋よ」


 一階の玄関すぐの部屋に通された。

 客室的な一室かな?


 ふむ。

 校長室みたいに奥に机、手前にテーブルと三人掛けの椅子が左右に一つずつある。


 ……この宿舎作ったの絶対に現代のヤツだな。


「座って、今お茶を出すわ」

「はぁ」


 あれ?

 そういえば何で俺はここに来たんだっけ?


 帰って寝たい。

 そういえばまだ宿屋にも行ってないじゃん。


「戻ったぜ~」

「お疲れさま」


 早々にエンドルも戻った。

 何をすれば良いんだ?


 向かい側にエンドルとシャルルが座った。

 お茶は紅茶みたいなヤツだな。


 ……甘くない。


「不味いか? すまないな。宿舎のお茶はマズいんだ」

「あ、いや。すまない。気を悪くしないでくれ」


 二人はヘルムを取った。


「さて、改めて自己紹介をしよう。私はシャルルだ。騎士見習いだ」

「俺は一回したよな。エンドルだ」


 シャルルは目つきが少しキツイが、キレイな顔をしている。

 髪が赤い。

 だが、目が青い。


 つまり。


「醜眼?!」


 一番驚いているのはサラだった。

 まぁ、当然だろう。


 正直、俺も驚いた。

 やはり、醜眼の女性は美人が多いのは本当だったのか!


「俺の名前がガク。この子がルアン。今は寝てるけど、可愛くていい子だ。俺達の家族だ」


 サラの膝の上で寝ているルアンも紹介した。

 スヤスヤと寝ている。


「すいません、取り乱しました。……私の名はサラクです。シャルルさん、その目は……」


 サラはやはりシャルルの目が気になるのか、すぐに目の話題へと移った。


「醜眼だな。……まぁこの目にはあまり良い思い出はない。何度、目を抉ろうかと思った事か」

「なぜ騎士に……」


 サラの聞き方は『なぜ騎士になったのか』ではなく『なぜ騎士になれたのか』を聞いているようだ。

 多くの醜眼者は奴隷になったり孤児になったりとまともな生活から離れる場合が多い。


 同じ目を持つサラも両親から奴隷として売られそうになった経験がある。

 意外なのだろう。


「ここの隊長が凄く変わっていてな。あの人の方針は『使えるなら何でも使う』というモノなんだ。だから騎士見習いになれた。だが、騎士になれるかは私が使えるかどうかだ。使えなけばスラムに暮らすか、ダンジョンに入るかだろうな」


 使えるモノは何でも使う、か。

 一見、温かみのある言葉だが、言葉を返せば使えないのなら切り捨てるって事だ。


「……なぜ私達にそのお話をしたんですか?」


 サラは何かしらの確信を持って質問しているようだ。


「……この目の力というのか分からないが、私は私と同じ者が分かるんだ」


 目の力。

 サラにも看破の真眼という能力がある。


 彼女にもあるのか。


「私がアナタと同じという事ですか?」

「そうだ。残念だが外れた事がないんだ」


 サラは少し考える素振りを見せ、俺の方を見た。

 サラの雰囲気的に俺を気遣ってるようだった。


 俺は構わないといった視線を送り、サラが頷いた。


 最近、会話をしなくてもサラが何を考えているのか分かるようになってきた。

 不思議だな。


「……私も醜眼です」


 そう言ってマスクを取った。


「……お互い人の道にいれて良かったな」

「……そう……ですね」


 彼女もツラい過去を抱えているのか。


「ガクくん」

「はい」

「君は彼女の恋人なのだろう? ならこの目に付いては知っているな」

「はい。もちろん」


 実際にサラが迫害を受けた事は無いが、徹底したサラの努力が今の平和を実現している。

 マスクが不振に思われる場面など何度もあった。


 その度にサラは嘘を付く。

 俺はそれを見る度に心が痛くなる。

 サラも同じだろう。


「そこで相談なんだが、騎士にならないか? 隊長に言えば平等な試験を受けられる」


 エンドルは黙って聞いているって事はシャルルの能力も知っていて、ここに連れてくる意味も知っていたって事か。


「同じ目を持つ者同士、色々と相談もしやすい。悪くないと思う。今の世界は生き辛いし苦しいだろう?」


 サラはまっすぐシャルルの話を聞いている。


 彼女は本心で言っているのか。

 俺自身サラの苦しみを分かるかと言ったら正直分からない。


 迫害も軽蔑も恐れも受けた時はない。

 だから想像しかできない。


 だが彼女はサラの痛みも苦しみも俺以上に知っている。


「どうだろう。サラクさん」

「……お断りします」


 シャルルは目を見開いて驚いている。


「ど、どうして……」

「確かに生き辛いです。ですが、私の人生を苦しいと決めつけないで下さい!」


 サラは俺に抱き付いた。


「サ、サラ!?」


 驚いた。

 サラがいきなりこんな大胆な事をするなんて。


「私は彼に会って恋をして人生が変わりました。この目を今では誇りとさえ思っています。この目を持って生まれて良かったと! 私は幸せです!!」

「サラクぅ~? ん~?」


 大きな声を出した事でルアンが起きてしまったようだ。


 サラの膝の上から転がって落ちそうになったので俺がキャッチした。

 危ない、危ない。


「サ、サラクさん、私は決してそのようには……」

「分かっています。アナタが決して嘘を付いていない事は!」


 そうだ。

 だからこそサラは怒ったのだろう。


 この人が『本心でサラの人生は辛いモノだ』と決めつけたのが。


 過去は辛かっただろう。

 だが、今は違う。

 サラの今は楽しいのだ。


「そ、それは……」

「私の目の力は嘘を見抜きます。本当の事を言ってなければ即座に分かります」

「それは私の力より呪われてるじゃないか!!」


 呪われている、か。


「俺からしたらサラの目は綺麗だと思います」

「う、うそだろ……」


 エンダルがボソッと口を開いた。


 そうか。

 彼も醜いと見えるのか。


 理解はしているが受け入れてはいないのか。


「彼女の能力も俺からしたら便利な力だな~と思う程度です。呪いとかそう言うのは止めて下さい。……不愉快です」

「な……。べ、便利……だと!?」


 嘘を付く必要が無いからな。


 困る事を上げるとしたらドッキリや冗談が言えない事だ。


 サラの抱き付く力が少し強まった。

 ……少し震えてるのが分かる。


「ルアンもサラクのめ、すき~!」

「ルアン……」


 俺の手の上で大人しくしていたルアンもそう言った。

 やはり、おかしいのは周りか。


「サラ、大丈夫だから」

「ガクさん~」


 サラが泣きだしてしまった。


 身体にダメージがあり、ルアンが手の平の上でグダ~っとして俺の動きがサラに抱き付かれ制限されていて良かった。

 でなければ、ダルダの時のようにキレていた。


「よしよし。今日は一緒に寝ような」

「うぇ~ん~。……今日はルアンと寝ますぅ~」

「……うん。……そうだね」


 解せぬ。


 うちの家族は泣き虫が多いな、本当に。


「ガクさん。……アナタは本気でそんな事を思っているのか」

「そんな事?」


 どれだ?


「サラクさんの目の力の事だ。アナタは彼女に嘘を付けないし、隠し事も出来なんだぞ!」

「あ~。正直に言えば不便ですね」

「やはり、そうだろう! だったら―」

「冗談とかすぐに見破られるし、驚かす事もできないしで本当に不便ですよ~」

「はぁ!? い、いや。私が行ってる事はそういう意味ではなくて!」


 いやいや、冗談だって。

 さすがに俺でもそこまでの勘違いはしないよ。


「別に、サラに秘密も隠し事もありません。俺はサラに全てを晒している。それを窮屈とか不便とか思わないし、別にそんな事で気味悪がるがったり嫌いになる理由にはならない。俺はサラの全てが好きだし、愛してる」

「そんな……バカな」


 好きってそういう事だろう?

 その人を好きになるって。


 サラって良い子だよ?

 名前呼んだら笑顔になるし、料理も上手で美味い。

 強いし、俺を守ってくれるし。


 そして俺を好きと言いてくれる。

 この俺を。


「賢いって事がサラの事を悪く言うのを指すのなら俺は一生バカで良いよ」

「ガク。お前、本当に熱いよ。……俺にはとても……」


 エンダルも俺にそう言って項垂れる。


 違うんだよ。

 俺が言ってる事はそんな崇高で高みな事じゃないんだよ。


 分からないのか。


「……サラ。行こうか」

「……はい」


 ルアンはどうやらまた寝てしまったようだ。

 うちの眠り姫は場所を問わないな。


「サラクさん。もし、何かあったら訪ねてくれ」

「……そうですね」


 サラはマスクを着けてボソッと答える。


「ガク。今度は二人で話そう」

「……奢りならな」


 今にも泣きそうなエンダル。

 彼は何を思っているのか。


 やはり、話さなければ分からないだろう。


「お茶、ご馳走。またな」

「えぇ」

「あぁ」


 俺達は部屋を出た。


 そして宿舎を出て、空を見上げると赤い夕焼け色に染まっていた。

 ダンジョン都市に到着して初日は長く、濃い一日だった。

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