詫びろ
押忍!! 漢の中の漢を心に秘めし者、その名はガク。現代でビックリした事を上げるとしたら火星の空が普通に地球と変わらい青空だった事です。火星の空も青いんですよ?
結果的に俺は売れる事はなかった。
ただ、サラに怒られた。
「まったくガクさんったらいきなり大きな声で泣き出すんですから! 何度も言ってますけど、私がガクさんを見捨てる事はありません! いい加減信用してください!」
「あははは。ガク、おこられてる~」
「本当にすいませんでした。……ルアン、落ちそうだからしっかりつかまってね」
「は~い。あははは」
大きなお店の前で泣き出したら周囲の人は注目するだろう?
お店がお店だけにサラに向けられる目線は痛いモノで、俺はしがみついて謝っているから浮気がバレて売られる男的な感じに見えていたのかもしれない。
まぁサラが怒ってるのは俺がサラを信用していないと思ってるからだ。
分てるんだがな~。
だけど、どこかに不安があるんだよな~。
これは俺が未だに童貞だからか?
それとも俺が人として成長していないから?
マズイ。このまま人として成長できなければサラに……。
イヤイヤ、何でこんな思考になってしまうんだ俺は。
まったく。
「そもそも、ガクさんは……」
まだ、サラの説教は続く。
良く分からないけど、褒められているようだ。
床に正座して聞いてなければ嬉しいんだがな~。
「ガク~。あそぼ~」
「……後でな」
「ガクさん! 私の話を聞いているんですか!」
「す、すいません!」
なに、この両挟みは……。
「おやおや。お邪魔だったかな?」
ん? 誰だ?
今はサラの説教プレイを楽しんでいたのに……。
ん?
……ん?
そこには修道服に身を包んだ胡散臭いスマートでダンディーな男性が葉巻を吹かしながら立っていた。
全ての指に派手な指輪をし、ネックレスは三重でおそらく金だ。
ピアスも金だ。
なに、この人。
女性のスミスさんをそのまま男性にしたような人は……。
「こんにちは。ダルダさん」
「ふむ。初めましてかな? お嬢さん」
あれ?
俺、床に正座のまま話を進めるの?
ほ、放置プレイですかい?
ルアンとも遊べないしな~。
本人はダルダさんとサラの話をちょっと覗きながら聞いている。
サラがルアンにキツく姿を出さないように言ってたからな~。
さすがはルアンだ。
ちゃんと守っているな。
「はい。モークでスミスさんの元にいました、サラクと申します。よろしくお願いします」
「ゲホゲホ! ガハッゲホ!!」
おうおう。
大丈夫か?
いきなり咽だしたぞ?
「モークのスミス……と聞こえたが?」
「はい。モークのスミスさんです」
明らかに顔色が変わっていく。
人の血の気が引くのを初めて見た。
人の身体って不思議だね。
「すまんが用事を思い出した。俺はこれにて」
「手紙を預かっているのですが?」
踵を返しそそくさと奥に去って行ったはずのダルダさんがピタッと止まった。
「手紙……だと?」
「はい」
サラが笑顔だ。
絶対楽しんでるな。
そして、俺の事を忘れてる。
「ゴホン。……手紙を拝借しよう」
「こちらです」
手が完全に震えてる。
うん。
この人、絶対にスミスさんと何かあるな。
……姉弟?
ヤバイ、めっちゃ笑える!
手紙を受け取ったダルダさんは一回唾を飲み込み、ビリビリと手紙を開ける。
サラは俺に顔を向けて目が合った。
彼女は『立って良いですけど、まだ終わってないですからね?』と雰囲気で訴えていた。
そうか。
今日は寝かせてもらえそうにないな。
……軽口を叩けるのも今だけだろうな。
「……フッフ。……フッフッフ。……アッハッハッハ!!」
わ、笑いの三段活用だと!?
デキるな。この者……。
笑ったダルダさんは急に沈黙し、膝から崩れ落ちる。
「これは……姉さんのモノだ。あぁ……あの人はまだ生きていたのか」
死んでると思っていたの!?
「……手紙には何が?」
「ん? ……ほら」
サラが手紙を渡されて読むのを俺は後ろに回り込んだ。
『よう。我が愚弟よ。お前が俺を殺すために色々としていたようだが、すべて商品になったよ。いい金になった。感謝するよ。
お前も私にプレゼントなんて出来たんだな。
さて、お前の目の前にいる二人だが私の家族だ。
無礼は決して許さんぞ。分かってるな?
何かやってみろ。
即座に俺がお前の元に行き、街で暴れてお前に請求を全て回すからな?
赤城の魔導士も一緒に行くから街が消えると思っておけよ?
お前に選択をやろう。
私に貸しを作る事ができるぞ?
何もそいつらの全てを面倒見ろとかは言わん。俺もそんな鬼じゃないからな。
そうだな。
家をそいつらにやれ。
一番安いので良い。
後は家具一式と奴隷を数人付けろ。
断るなら街が謎の災害に見舞われる。
まぁ、選択しろ。あっはっはっはっは!!』
悪魔かあの人は……。
選択ってか一択だろ。
しかも脅し方がエグイ。
街を人質に使うなんて……。
「スミスさん……」
サラもドン引きらしい。
まぁ当たり前か……。
「家族だなんて……」
あ、うん。
そっちか。
感動して少し潤んでるんだね。
君はスミスさんの暴走には慣れてたね。
「ふん! どんな家が良いんだ! 家具は家が見つかってから俺に手紙を寄こせば家にすぐに持ってってやるよ! とっとと決めてさっさと出てけ!! あの悪魔と縁が切れたと思ったのに! さっさと死ねばいいのにあのクソが!」
……ちょっとカチンときた。
あの人をそこまで悪く言うなよ。
まぁあの人は人の皮を被った鬼の考えを持った悪魔だけど、人が怪我をしたら酒をぶっかけるような人だけど、俺をからかって玩具にするような人だけど……ん?
まぁ、うん。
改めて考えるとスミスさんにも非があるんじゃないかと思い始めた。
「そうですね~。広さ的に……あ、この家が……でも買い物が不便ですね~」
「いやいや嬢ちゃん。買い物は奴隷に任せればいいだろう。見るべき所は防犯だ。それならここがいいぞ? 騎士の駐屯地が近いしな」
「そこは騒音が酷いと思います。それならこちらが良いんですが」
「高すぎるぞ。いくらなんでも。土地もそこは高い」
サラとダルダさんが少し離れたテーブルで話し合っている。
速攻で家を決めだすのは流石だな。
俺はルアンと遊んでようかな~。
しりとりとかしよう。
ん?
あれ?
……あれ!?
「ルアン。ひろいおうちがいい~!」
「ルアン!?」
「小人……妖精か!?」
何でお前がサラとダルダさんが話してるテーブルの上にいるんだよ!!
まぁ、バレちゃ仕方ないな。
何もないように装うか。
「ルアン。離れちゃダメだぞ。危ないじゃないか」
「ガク~」
「メッ!」
「うぅ~ごめんなさい~」
「よしよし。離れる時は声をかけないと心配するからね。ダメだよ?」
「は~い」
素直でいい子だな~
さすがは俺の子だ。
「……いくらだ」
ダルダさんが何かを口走った。
「はぁ?」
俺とサラはダルダさんの方を見る。
聞き間違いかもしれないし。
「その妖精はいくらだ!? 言い値で買うぞ!!」
お店の中には俺たち以外のお客さんもいる。
ルアンはその人たちの注目も集めてしまっていた。
「うぅ~~」
ルアンは怯えて俺の洋服に潜り込む。
俺とサラは無言。
「どうだ? 金ならいくらでもやる。そいつを売ってくれ!!」
胸くそ悪いな。
最悪の気分だ。
「サラ。……行こう」
「……ですね」
俺とサラは出口に向かう。
「待て! 逃げるな。そいつを渡せ! そいつらを止めろ!」
周りの客を使って俺たちを逃がさないようにする。
「なぁ別にいいだろう? どこで手に入れたんだ? 売ってくれるだろう?」
俺たちの怒りは限界に来ていた。
ルアンの前だから。
それだけの理由で俺とサラは怒りを抑えていた。
ルアンにこんな奴らの言葉はもちろん空気すら吸わせたくない。
怒りを抑えるのに必死な俺たちを他所に、ダルダは言ってはいけない言葉を放った。
「大切にしてるようだし、金貨三百枚は出そう。どうだ? これだけの金があればそんなのがいなくなっても別に構わんだろう?」
俺の中で何かが切れた。
俺は洋服の中にいるルアンに語り掛ける。
「ルアン、ごめんな。少しサラの方にいて耳を塞いでるんだ」
「分かった~」
「ごめんな」
「……ガクさん」
「サラ、ルアンを頼む」
「はい。必ず守ります」
「うん」
無理。
無理!
無理!!
絶対に無理だ!!
「話はついたか? いくらで売ってくれる」
「……べるな」
俺はサラから離れ、ダルダに少し近づく。
「なんだ? いくらだ?」
「もう……しゃべるな!」
俺は怒りを抑えるのをやめた。
俺の身体から魔力が溢れ、怒りと混ざり荒々しいほどに空気を揺さぶった。
「な、なにを!?」
「もう喋らないでくれ、ダルダ。……すぐに殺してしまいそうだ。<蒼火>」
俺の頭上に直径二メートルの青い火の塊を出した。
「な!? 何を……」
「詫びろ。……両手と両ひざと頭を垂れて謝れ」
ダルダは膝の力が抜けたようでその場で尻もちをついた。
「俺の大切な家族をそれ以上汚い言葉で呼ぶなよ。あいつは楽しそうにしてただろう? なのになんでお前はあの子の笑顔を消した? お前に何の権利があってあの子を嫌な気持ちにさせるんだ?」
俺は一歩近づく。
「ヒィ~!?」
「逃げるなよ。<壁>」
逃げるダルダの目の前に壁が出来る。
「謝れ。お前に許された行動はそれだけだ。心と誠意と謝罪を込めて謝れ。そうすれば怒りも収まるかもしれない」
「す、すまなかった!! この通りだ!!」
汚い土下座だ。
こんなモノを見てもイライラが増すだけか。
俺は<蒼火>を消した。
「た、助けゲェア!?」
「喋るな、ゲスが」
俺は手をダルダに向けて上から重力を意識して操作した。
ダルダは上からかかる重力によって押しつぶされる。
「お前は俺を怒らせ……グハァ!?」
「ガクさん!?」
……どうやら身体に負担をかけ過ぎたらしい。
口から血が出てきた。
不思議と痛みは感じない。
「だ、だずげで……」
「やっぱり無理だ。……死んで詫びろ」
一気に力を込める。
名言・汚い土下座だ。




