7 ずっと愛しい人
最後にヴィアンカ視点の話を一つ。
最近 社交界を騒がしている男性がいるそうです。
お名前はアルバート・フォレスター様。フォレスター伯爵子息です。金髪緑瞳の聡明な十八歳の美青年で、何でも“ポスト リオナルド・カストネル”と言われるほどだそうです。
何ですか。“リオナルド・カストネル”というのはもう一つの地位なのでしょうか。
分からなくもありません。リオ様はこの世に二人といない美しく凛々しく聡明な方ですから。
ですが、リオ様も今年で二七歳。私と結婚して早八年、二児の父ですから、若い方から見れば社交界を騒がす憧れの人という存在ではなくなりつつあるのでしょう。
正直 ――― 願ってもない事です!
だってそうでしょう? リオ様は地位も権力も財もあり誰が見ても格好良くて、夜会に出ればいつでも妖艶で色恋に積極的な女性に狙われているのです。妻として気が気ではありません。それが少しでも減ってくれれば嬉しいというものです。
私も今年で二四歳です。母となり若さで勝負という訳にもいきませんし、若い女性の目が若い男性を追うというのであれば願ったり叶ったりです。ついでに私世代の方や熟女世代の方もその男性を追いかけてくれればいいとすら思います。
ですから女性を引き付ける魅力的な男性の出現は歓迎するところだったのです。
「ヴィアンカ、悪いが今夜の舞踏会エスコート出来なくなった」
「え?」
ある朝、リオ様の登城直前に突然そんなことを言われビックリです。
今夜はある侯爵様の誕生舞踏会に招待されていて、夫婦なのだから当然同伴だったわけなのです。
先程、王城から使者が来ていたのですが何かあったのでしょうか。リオ様もなぜか不機嫌なご様子です。
「隣国の太上王夫妻が外遊に来ているのは知っているだろう? 今夜の晩餐会に宰相の代理で急遽同席しなければならなくなった」
「わかりました。お仕事なら仕方ないですね。先方には申し訳ありませんが欠席の連絡を」
「いや、ベルトワーズ侯爵がエスコートを代わると言ってくれている」
「お父様が?」
私の父は数年前に陞爵し、伯爵から侯爵になりました。父がどんな功績を為したのかは知りませんが、あまり乗り気ではないようでした。それはいいとして、お父様がわざわざ娘のエスコートを名乗り出てくれるだなんて、そうまでする意味が今夜の舞踏会にあるのでしょうか。そもそも急な知らせをなぜお父様が知っているのかが疑問です。王子殿下がリオ様の今夜の予定を知っていて気を利かせて下さったのでしょうか。
「俺も後から行くから先に行って待っていてくれ」
「それはいいですけど……来られるのですか?」
「ああ、適当に切り上げて迎えに行く」
「じゃあ、一曲くらい踊れますよね? 待っています!」
夜会は正直今でもあまり好きではありませんが、リオ様とダンスが出来るのは嬉しいです。私は第二子を出産した後初めての夜会ですし、リオ様もお忙しくて王宮以外の夜会に出席するのは久しぶりです。だから実は楽しみにしていたので思わず笑顔になってしまいました。
と、リオ様もふっと笑ってくれました。
優しい笑みは本当に格好良くて。他のご婦人ご令嬢が心奪われる新たに社交デビューした美青年も私にとっては関係のないこと。いつでもリオ様が一番です。こんなに素敵な人はいないと断言できます。
「リオ様、大好きです」
「ああ、俺も愛している。俺が行くまでベルトワーズ侯爵から離れるなよ」
「はい」
行ってらっしゃいのキスはいつもより長く、抱きしめてくれる腕は優しくて、愛しているという気持ちを深く伝えてくれるようです。
こんなに素敵な人を独り占めし続けるのは大変な事です。だからこそ女性の視線がリオ様以外の男性に向くのなら、その男性を応援すらしたくなります。
星が輝き始めた時間、お父様と腕を組んで会場に入ります。
いつも思うのですが、私が会場に入ると多くの視線が私をさします。ふふふ。分かっているのです。リオ様の選んでくださるドレスに視線が集まっているのです! 今夜は淡い水色の生地に優しいピンクのチュール、金の刺繍のドレスです。あまりない色の組み合わせですがものすごく綺麗なんです。お父様も良く似合っていると褒めて下さいました。きっと次回どこかで行われる夜会には似た色デザインのドレスを纏う女性が多くなるのです。
「ヴィアンカ様」
「あ、お久しぶりです!」
「本当にお久しぶりですわ。お嬢様のご誕生おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
声をかけてきてくれたのは私の数少ない友人たちです。
お父様に断ってリオ様がいらっしゃるまでの間、久しぶりに女同士でお話することにしました。
「ヴィアンカ様は出産後だというのに全く変わりませんわね」
「そうですか?」
「ええ。社交界の芍薬姫は健在ですわね。この一年の夜会、男性は貴女の姿が見えないとがっかりしていましたわ」
「まあ! 私にお世辞を言ってもあまり貢献は出来ませんよ?」
権力者であるリオ様の妻である私に取り入れば有利なことがあるかもと思われるのは当然なのですが、私はリオ様のお仕事の妨げになるような斡旋はしません。リオ様は能力ある人ならばそれを見抜いて身分に関わらず重用します。私が口出しすることではないのです。
「それとも恋占いでもご所望ですか?」
私に占いの力があることは内緒です。でも“ベルトワーズの占い師”直伝の恋占いが出来るということになっていて、ご婦人方に人気があります。
「本当に相変わらずですわね、ヴィアンカ様。お世辞ではなく事実ですのに。でもせっかくですから占いはして欲しいですわ。実は最近とある伯爵様とお近づきになったのです。彼との相性を、ね?」
そういう友人は既婚者です。ですから不倫です。貴族社会というのはあまり綺麗事を言っていられないこともあります。私には縁遠い話ですが男女ともに愛人やパトロンを持つこともあるのです。既婚者も夜会を一夜のお相手探しの場にしている事すらあります。リオ様もそれを心配してお父様から離れるなと言ってくれているのです。尤も誘われたことなど無いのですが。
この友人は人柄はとてもいいのですが、未婚の頃から割りと奔放な女性で今もそのようです。旦那様も承知の上ならともかく……違うのならばちょっと面倒です。あまり追及はしないようにして占いだけは後日することにしましょう。
「今宵はリオナルド様はいらっしゃらないの?」
「リオ様は後から来てくださいます」
「まあ! それは目の保養が出来ますわ!!」
別の友人が瞳を輝かせます。目の保養。その程度ならまだいいのですけれど……これでは皆様まだリオ様にも目を向けているご様子です。アルバート様もっと頑張って下さい!
「ええと……。あの、今夜は噂のアルバート様はいらっしゃらないのですか?」
「まあ! ヴィアンカ様がリオナルド様以外の方を気にするなんて!」
「いえ、気にしているわけではないのですが……」
「あ、ヴィアンカ様! そのアルバート様ですわよ!」
友人の視線の先、年若い女性たちの輪の中にその男性はいました。
噂通りの金髪緑瞳、背も高く整った顔をしていらっしゃいます。可愛い女性の囀りに笑顔で応えています、が。
「“ポスト リオナルド・カストネル”……?」
ぽつりと疑問が口を吐いてしまいました。
「ええ。素敵な方でしょう?」
素敵……でしょうか? 確かに容姿は整っているのですが、皆さんが騒ぐほど素敵なのでしょうか?
素敵な人というのはリオ様を筆頭にもっと醸し出す品位や雰囲気が一般とは違うものなのですが。
あ、じろじろと見ていたら視線が合ってしまいました。アルバート様がにっこりと微笑んできたのでこちらも笑顔を返します。アルバート様は周りにいるご令嬢方に何やら断ってこちらに脚を向けて来ました。
私達の前でピタリと脚を留め、綺麗な笑顔を向けられます。友人達の興奮した様子が伝わります。
「ヴィアンカ・カストネル様?」
「ええ、はい?」
「噂以上にお美しい。私と踊っていただけますか?」
私など誘わなくてもあの御令嬢方に手を差し出せばと思いますが。やはりリオ様との縁を持ちたいのでしょうか。
「申し訳ありませんが一曲目は夫と踊ることにしております」
「ヴィアンカ、行っておいで」
「お父様?」
嘘ではなく本当に私はそうしているのでお断りしたら、お父様に促されてしまいました。珍しいです。アルバート様とダンスをすることになにか意味があるのでしょうか。
「リオナルド君には私から説明するから。アルバート君、娘をよろしく」
「ありがとうございます」
お父様の勧めなのでアルバート様の手を取ります。お父様はこっそりと私に「見定めておいで」と耳打ちしました。
やはりアルバート様にお父様も興味があるようです。
アルバート様のリードでダンスを踊ります。羨ましげな視線を感じますが、こんなのはリオ様で慣れっこです。
ダンスは流石に巧みなのですが、久しぶりの舞踏会でのダンスがリオ様でないのが残念です。
「芍薬姫とこうして踊ることが出来るとは光栄です。今夜はなんと素晴らしい夜でしょう」
“芍薬姫”。私もそろそろそういった呼び名で呼ばれる歳は過ぎたように思うのですが。それに私ではなく他の御令嬢を魅了して下さい。
「ありがとうございます。ですが、アルバート様の周りには瑞々しい花が咲き乱れていますよ」
「これほど美しい花は他にございません」
「お上手ですね。アルバート様は文官志望ですか?」
「私には兄がおりますので家督を継ぐこともございません。この先のことはまだ定めておりませんが家の為になれればと思います」
見定めろとは何を見ればいいのでしょう。正直、会話が面白くありません。成人しても自分の将来を漠然としか考えていないなんて、徒食者にでもなるつもりでしょうか。夜会に出ているのは婿養子に入る為、高位のご令嬢との出会いを求めているだけでしょうか。勿論、夜会とはそういう場でもありますが、“ポスト”と言われるからにはそれなりの方と思いたいです。
それにしても、どんなにお世辞を言われてもリオ様の居ない夜会ほどつまらないものはありません。
「退屈ですか?」
表情に出てしまったようです。これは私が悪いですね。
「申し訳ありません」
「私ではリオナルド様の代わりにはなりませんか?」
「はい?」
「妻を夜会に一人で出席させなければならないほど、リオナルド様はお忙しいのでしょう。一時でも私が貴女を慰めることは出来ませんか?」
ああ……。これは一夜のお相手探しのようです。それでなければ家の為、自分の為にパトロン探しでしょうか。
基本、女性というは美形の誘いには弱いものです。アルバート様は自信満々のご様子。何人かこれで篭絡されたのでしょう。
「私なら貴女を悲しませたりしません」
「……………」
「寂しい思いはさせません」
愁いを込めた瞳で、さも貴女の為にという表情。
これだけの美青年に真摯に言われれば顛落してしまう寂しい女性もいるはずです。でも、正しておかなければなりません。
「訂正させてください。させないのではありません。貴方には出来ないのです」
私はアルバート様を見上げきっぱりと言います。
「私はリオ様だから悲しくなるのです」
「愛しているから寂しくなるのです」
「私は貴方を愛していませんから、貴方相手では悲しくも寂しくもなれるわけがないのです」
失礼な物言いだとは思います。けれど、たとえ一夜でも相手をするような女と思われるのは不愉快です。それにリオ様のことを妻を放っておく仕事中毒のように言われるのも聞き捨てなりません。私の寂しさもそしてリオ様の熟しているお仕事もリオ様でしか埋めることは出来ないのです。リオ様の代わりになどなれる人はいないのです。
こんな事を言われると思っていなかったのでしょう、アルバート様は呆けています。その後ろでざわりと会場が波打ちました。
「リオナルド様……リオナルド様よ!」
「え? きゃあ! 本当! 相変わらず素敵ね!」
沸き立つ女性の声と感嘆の溜息。リオ様が会場に入ったようです。
ダンスの終わりに礼をとり、一応アルバート様にエスコートされホールの隅に移動すると私も皆の視線が集まる方に顔を向けました。そこには大好きな夫の姿。やはり誰よりも眩く見えます。
リオ様も私に気付いてとびきりの笑顔を向けてくれます。そのまま真っすぐに私のもとに来てくれました。
「リオ様」
「待たせたな」
「はい。待っていました」
いい子だと言うように頬にキスをくれます。私がリオ様の腕を取ると、傍にいたアルバート様に目を向けました。
「君が噂のアルバート・フォレスター君か。リオナルド・カストネルだ。よろしく」
「あ、お会いできて光栄です……」
これは完全にアルバート様の敗けです。すっかり気圧されています。“ポスト リオナルド・カストネル”を名乗るのなら虚勢でも対等に渡り合えねば意味ありません。
「君のことは随分と優秀だと聞いている。早く仕官して執政を援けてくれると有り難い」
「いえ、僕……私では……」
「能力があると自負するならば謙遜していては先は見えないぞ。君とは少し話がしたいと思っていたんだ、ちょっと待っていて欲しい」
「え!?」
狼狽するアルバート様に背を向けて、今度はお父様に挨拶します。
「御挨拶が遅れました。お久しぶりです、ベルトワーズ侯爵」
「こちらこそ久しぶり」
「妻のエスコート有り難う御座いました」
「礼など、自分の娘だよ。しかし夜会に夫がエスコート出来ないというのは父として少し感心出来ないな」
「申し訳ありません。急遽、仕事が入りまして」
「ああ、王城の晩餐会だったね。それならばよくぞこの時間に来られたものだ」
「妻を一人には出来ませんので、何とか」
「そう。娘が大切にされているようで安心したよ」
「ええ。何よりも大切ですので。手出しする者がいれば相応の礼はするつもりです」
「はは。怖いね。だが安心したよ」
「ベルトワーズ侯爵こそ最近御忙しいようで、体調など崩されませんか?」
「ありがとう。大丈夫だよ。誰かの口利きで侯爵になどなってしまって正直、分不相応だと思っている。君から降爵するよう取り計らってくれるといいのだが」
「まさか。この国には侯爵にしか出来ないことがございます」
なにやら見えない火花が散っているような雰囲気です。最近思うのですがリオ様とお父様は仲の良い義理の親子というよりは対等のライバルのようです。お父様はリオ様が言うように陞爵してから執政に関わることが多くなったようですし、お仕事関係で共働することがあるのでしょうか。
それにしてもアルバート様は下がるに下がれず居心地が悪そうです。
「ねえ、霞むわね」
「ええ。リオナルド様の眩さ……やっぱり別格ね」
「改めて直接拝見しますとリオナルド様とアルバート様では貴石とラインストーンくらいの差があるように感じますわ」
「本当に……それに比べてベルトワーズ侯爵様こそ……リオナルド様に勝るとも劣らずと言いますか……」
聞こえる囁き声。
ほら、やっぱりそうでしょう。目の当たりにしてしまえばリオ様とアルバート様では随分と差があるのです。リオ様に女性の視線が集まるのは良い事ではありませんが、認められれば嬉しくて、私はリオ様の腕によりかかります。リオ様は瞳を細めて私を見下ろしてくれます。私もそれに笑顔で応え、お父様に言います。
「お父様、ご挨拶はもういいですか?」
「ああ、悪かったね。あと一つだけ、リオナルド君、君が確かめようとしていることだけど、ヴィアンカが確かめたよ。今のままでは駄目なようだ」
「ああ……そうですか」
何でしょう? よく分かりませんが、リオ様が私の顔を見たので「何ですか?」というように微笑んでおきます。
「では失礼するよ。ヴィアンカ、楽しんで」
お父様が去ると改めてリオ様はアルバート様を振り向きます。
「アルバート君、待たせて悪かった。やはり話は後日にしよう。今日は妻の相手をありがとう」
「いえ! 私こそ尊い時間でした!」
アルバート様は最敬礼です。
リオ様は私に視線を置いて優しく微笑みます。
「私と踊っていただけますか? 美しい人」
「喜んで」
リオ様との久しぶりのダンス。私はリオ様のリードに全てを委ねます。
三拍子の緩やかなリズム、リオ様のリードは流れるように華麗で柔らかです。スイングと回転運動が主となる優雅な踊り、くるりと回ればドレスがふわふわと舞います。先程とは比にならないほどの端々からの羨望の眼差しと聞こえる溜息。リオ様は人を魅了する術をなんでも知っているようです。
「私、思うのですけれど」
「ん?」
「やっぱりリオ様の代わりになんてなれる人はいません」
「ああ、さっきのアルバート・フォレスターか。どうだった?」
「ちっともときめきませんでした」
「それは聞き捨てならないな」
「なんですか?」
「他の男に胸を躍らせるつもりだったのか?」
「いえ。次期リオ様と言われる方ですから、どれだけ他の女性を釘付けにしてくれるかと期待していたのです。でも、なんというか薄っぺらい方でした」
「はは! 薄っぺらいとは巧い事を言う」
“社交界の憧れの君”の称号、リオ様の前は私のお父様だったそうです。二人の次とされるのはあの程度の方では無理です。
「ベルトワーズ侯爵に育てられ、俺の妻となったお前の目は確かだ。彼はお眼鏡には適わなかったようだな」
“お眼鏡に適う”。そういえばお父様に「見定めておいで」と言われたのでした。
「彼を見極める必要があったのですか?」
「ちょっとした仕事の候補に挙がっていたんだ」
「容姿だけで女性を……いいえ、男性も含めてですけれど、虜に出来るのは僅かの間だけです」
「なるほど。やはりその程度か。それならそれで使いようがあるが、聡明だと言うのが本当ならば少し精進してもらいたいものだ」
ふと思ったのですが、どうしてダンスをしながらリオ様の仕事の話をしなければならないのでしょう。
カストネル夫人に徹するのはもう少しこの夢のような時間に酔ってからにしたいです。
「ん? どうした?」
「久しぶりの夜会です。ダンスの最中くらい私を見て下さい!」
「見ているさ。もう一曲お願い出来ますか?」
そう言う柔らかな笑顔に胸がときめきます。アルバート様に微笑まれても高鳴らなかった胸が跳ねます。私がリオ様を好きだからでしょうか。……それもあるのだと思います。でもリオ様はそれだけでなく本当に素敵な人なのです。きっと彼以外に意中の人がいる女性であっても、視線が合うだけでどきりとしてしまうはずです。
「勿論です」
二曲続けてのダンス。特別な相手だという表明。私もリオ様も互い以外には絶対にしません。
私にはそうしたいと思える男性はこれ以後も現れることはないでしょう。
「リオ様が誰より一番素敵です!」
「そう思わせることが俺の指針だ」
「え?」
リオ様が私の耳元に唇を寄せます。
「お前を常に虜にする為だ。愛している」
甘く囁かれるその言葉に「私もです」と返します。
時間の流れは止まることはありません。私達はいずれ老いて衰えていきます。
その代わりに若い人たちが頭角を現していきます。
美しい人、強い人、賢い人、それは様々に。
けれど、この先、どれほどの“憧れの君”が現れようと私の心を跳ねされるのはリオ様だけでしょう。
彼はきっとずっとずっと世界で一番素敵な旦那様でいてくれるのです。
年齢を経てもなおその魅力を深めてくれるのです。
生まれ持った容姿や才に己を怠ることをせず私の為に一番でいてくれるのです。
この素敵な人に自分もずっと好きだと言われたい。だから私も出来るだけ(可能な範囲で)綺麗でいたいと心掛けているのです。
切なく優雅な旋律に酔うようにくるりくるりと踊ります。
天色の優しい瞳が私を見つめてくれます。
絡む視線は互いしか見えないように濃厚で、リオ様のパートナーが私であることが本当に嬉しいのです。
「はぁ……いつもながら幸せそうですわ……。それにしてもヴィアンカ様はブレませんわね。アルバート様に揺さぶられる様子もありませんでしたわ」
「ブレるわけがありません。本物をずっとそばで見ているのですもの」
「あれほどの男性に一心に愛されれば、ヴィアンカ様の美貌もいや増すということですわ。本当に羨ましい……」
そんな友人達の会話など私には知るよしもありません。
ただ手を重ねる男性に魅了されるばかりです。
ダンスは年齢を問わず、踊る人に合ったスタイルで楽しめるもの。
いつまでもリオ様のパートナーでいたいと思います。
「愛しています。リオ様」
ずっと、ずっと…………
以上、完結です。時間つぶしくらいにはなったでしょうか。
お読み下さりありがとうございました。