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エルフの里1-10  其処を退けっ!


 ベルゼブブはいち早く司銀を鎧のように纏う。そ銀の鎧のように全身を防護し、レノウの魔法に備える。


 持てる限りの魔力を使い司銀を展開させる。戦闘体制へ入るベルゼブブに対し、レノウは全く動かない。ただ、薄ら笑いを浮かべてベルゼブブへ視線を向けるだけである。


 ベルゼブブがナイフを手に持ち、レノウへ仕掛ける。西洋風の刃が20センチ程度の司銀専用のナイフ。自在にその形状と間合いを変化させる事が出来る特注品だ。逃げ場をなくす為、レノウの頭上へ銀箔の球体を出現させる。


(アポロ)(ヌス)(レイン)


 通常の装備と魔法では防御不可の司銀を使った同時攻撃。司銀があと少しで当たる。その寸前で急に司銀の動きが止まった。個体と化し、針のように鋭くなった司銀は地面へこぼれ落ちて行く。


 「へーぇ、やっぱり便利だねぇそれ。だけど無理だよ。僕の物理魔法は力をそのまま弾き返す。例えそれが質量を自在に変え、質量エネルギーを自在に変化させる物質だったとしてもだ」


 間髪入れず、8方向から司銀の槍がレノウを狙う。甲高い金属音が発生するが、レノウには傷一つ付かない。物理魔法により、司銀の攻撃全てを反射させている。


 「本当に恐ろしいですよ。一体どれだけの知識を得ればそこまでの魔法が扱えるというのですか」


 ベルゼブブは司銀を集積させ、巨大な銀の剣を作る。レノウの頭上から一気に振り下ろす。


 「物理魔法は無駄だって……?」


 剣は突然液体状になり、レノウの身体に降り注ぐ。


 「潰してみてはどうでしょう? 」

 『滅銀(めつぎん)鉄槌(てっつい)


 司銀の分子を急激に縮め、質量を増加させレノウを押しつぶそうとする。レノウを覆った銀膜の周辺がゴゴゴと音を立てながら地面へめり込む。

 「簡単さ。僕が天才だから。それ以外に理由なんてないよ」


 『物理反射(リフレイン)


 司銀の膜の一部が膨らむ。次の瞬間、風船の破裂音のような音が辺り一面へ響いた。


 よいしょ、とわざとらしく力む表情を見せるレノウ。


 「司銀じゃ僕は殺せないな。物理魔法で全て反射出来てしまうからね。これならさっきの魔法使いの方がマシじゃないのかな?」


 ベルゼブブは冷笑を見せる。


 「いくら貴方でもそれは言い過ぎでは?  一位と私ではそこまでの差は無かった」


 「あるさ。ほら」


 レノウがその容姿に不釣り合い凶笑を浮かべた。次の瞬間、レノウが視界から消えた。


 焦り辺りを見回す。左右を確認し、上を見上げた瞬間ーー胸を衝撃が襲った。


 「なっ……」


 胸から何かが込み上げてくる。口元へ登ってきたのは血。吐き出すと同時。拳で殴られたかのような感触が身体へ染み込んで行く。外傷は確認出来ない。が内臓と肋骨には深いダメージがある。


 「戦いってのはね。お遊びじゃないんだ。ほんの一瞬で勝敗は決まる。必殺技だとか、どうとか言ってるうちはまだまだだ。夢見る子供だよ」


 ベルゼブブは司銀のコントロールに異常をきたした為に鎧を着の一部が剥がれた。即座に回復魔法で傷を癒す。


 「だからこれは戦いじゃない。遊びだよ。じゃなきゃ君は今僕の目の前で生きちゃいない」


 声は聞こえる。しかし、姿が確認出来ない。混乱するベルゼブブに背後から殺気が触れた。


 「ほら、こんなに簡単に手が届く」


 全身の身の毛が立った。反射的に背後を司銀で突き刺す。ベルゼブブが振り返る時には既にレノウの姿は無い。


 あり得ない。とベルゼブブは思った。絶対防御の司銀をいとも簡単にすり抜け、自分への攻撃を成功させたレノウへ恐怖を感じた。以前はここまで圧倒的な差は無かった。それこそ序列10番内において頭一つ抜けていたくらいだ。


 なのに、対峙して分かってしまった。


 普通に戦えば勝ち目は無い。物理攻撃は全て無効にされる。ベルゼブブの使える魔法など効くはずも無い。神化しか無いと。


 神化。魔力を極限まで開放した限られた魔族のみが使える必技。サタンのように一定時間無敵状態へなるなど、強大な力が手に入る。


 しかしデメリットも大きい。使用後はほとんど魔力を使えなくなり、体も動かなくなる。それこそサタンとそのあとに戦う事となれば即やられてしまうだろう。


 「もう神化くらいしか無いんじゃないのかい? 」


 遊ぶのは飽きた。とばかりにレノウが姿を見せる。


 「ベルゼ様っ!!」


 神化しようとしたその直後。目の前へ現れたのは絶対法則だった。その状況を少なからず理解したのだろう。表情に一瞬曇りが見えた。が、直ぐに強い目でレノウに対して睨みを効かせる。


 「ベルゼ様の邪魔をするなら……殺すっ!」


 いけない。と、ベルゼブブは即座に考える。レノウの目的は絶対法則だ。何としても守らなくてはならない。


 ベルゼブブは絶対法則へ司銀を向けた。


 「ベルゼ様っっ?!……何を……」


 幸いな事にレノウは何もして来ない。ただ、面白いといった様子で傍観しているだけだ。


 司銀の檻が形成され、絶対法則をそこから動けなくする。


 「ベルゼ様っ!  開けてっつ!  こいつは二人でなければ……勝てないっ!」


 檻に手を掛け開こうと揺らすが、一向に開く気配は無い。段々と鉄格子の間に膜が貼られ、外が見えなくなって行く中、絶対法則はベルゼブブをただ見つめる。


 「貴方を渡せば私は助かるんですよ。だから悪いですね。そこで道具らしく大人しくしておきなさい」


 酷く冷たい声でベルゼブブは言った。そして、最後に。と続ける。



 「貴方が異世界(ここへ)来て、捕まり、仲間は死んだ。貴方自身も酷い拷問を受けた。全て私が仕組んだ事です」


 絶対法則の表情が真っ白になる。


 「他世界少女を召喚し、奴隷として売りさばく。誰にでも扱える簡単な術式を開発したのは私です。いい金になりましたよ。更に言えばお前のような使い捨ての、従順な良い道具も手に入った自作自演の演技にお前は騙されていただけ」


 嘘偽りは無い。事実だった。


 「嘘……」


 わなわな、と震える絶対法則に向け最後にベルゼブブは言った。


 「さようなら」


 檻の隙間が全て埋められ、司銀は箱型へと変形した。もう中から外の様子は見えないし、音も聞こえない。


 異世界へソウタ達の世界の人間を呼び寄せる簡易な術式を、ベルゼブブはレイラと共同で開発する事に成功した。


 原案はベルゼブブだ。当時、無尽蔵の魔法知識を会得し、”暴食の罪”とまで言われた。何百と言う数の新魔法を創り出す天才と呼ばれていた。


 当時、魔族が戦争に有利に働かせる為に好きなだけ戦士を、今までより、そして楽に召喚出来る画期的な物だった。


 しかし、それを悪用する者が現れ始めた。問題は簡易な術式さえあれば何処でも、誰でも人を呼べる事だ。一部盗賊や人買いにとっては格好の道具だった。ノーリスクで身寄りの無い、年端も行かない少年少女が好きなだけ手に入る。


 国内で悪組織に乱用され、人権を無視した事件が多発した。考えもしない事態にサタンへ相談したが、返答は思いもよらぬ答えが返ってきた。


 「そんな事に構ってる場合では無い。しかもおかげで国内による人攫いの事件はほぼゼロまで減少している。他の世界から来た者の身を案じている時間はない。今は戦争が第一だ」


 正論と言えば、正論だったのかも知れない。事実、国内の人攫い事件などを圧する暇は無かった。いくら七大罪の一人といえど国内何百とある魔法陣全てを無力化するなど不可能だった。ベルゼブブは己の無力さと、罪に絶望した。”暴食”と呼ばれるまで吸収した知識は、それを可能にした頭脳は、その後のことなど考えもしていなかったからだ。


そんな中、絶対法則を見つけたのは偶然だった。


 罪滅ぼしの意識からか、絶対法則を助けた。しかし、罪は消えない。


 結局、ベルゼブブは絶対法則を助けたのでは無い。自分自身を助けただけだ。罪悪感から逃れたかっただけだ。


 (最後に全てを語れて良かった)


 勿論、今更こんな事で絶対法則の忠誠心を壊そうなどとは思ってない。ただ、少しで良かった。少しでも同様させる時間さえあれば、それで良かった。完成した司銀の檻にはどんな力を込めようと壊れる事はない。レノウのほどの例外でなければだが。


 『終末(エンド・オブ)銀世界(テラ・ワールド)


 ベルゼブブとレノウの周を司銀が包む。二人を閉じ込める形で司銀は広がり巨大なドーム状になった。


 「で、何なのこれは?  下手なドラマ見せさせられてまで待ったんだから楽しませてよね」


 「そうですね。これはただの司銀では無い。私の神化です」


 「神化?!  こんな物がかい?」


 周りには二人を囲む司銀だけ。攻撃してくる訳でも何も無い。


 が、突如轟音を轟かせて、司銀が縮み始めた。


 「?!」


 「この司銀は特殊でしてね。普段私が限界まで設定している質量のリミッターを外してあります」


 では何が起こるか?  質量を増加させる司銀は限界を知らずにその質量を増加させ続ける。限界の重さを超えた司銀は自らの重みに耐え切れずに潰れ始める。すると、密度は限界を超える。角砂糖一つ分の大きさに何十トンもの質量を持つ。驚異の物資の完成だ。


 それはまるで宇宙の巨大恒星の最後のように。電子と陽子が消滅した中性子のみの物質へと変わる。


 「貴方はそんな物の中にいるのです。このまま私と死んでもらいましょうか」


 レノウが物理魔法を司銀に向けて放つ。街一つ吹き飛ばせる威力の魔法だが、司銀の縮みは止まらない。


 「無駄ですよ。私を中心に縮まり、最後に大爆破を起こすまでは止まりません。エルフ達は心配ですが、サタンが外の被害は何とかするでしょう。どれほどの重さがあると思っているのですか?」


 司銀は縮み続ける。それを見て、レノウはベルゼブブに向けて拍手を送った。


 「凄いねーっ!  ここまでの力だったなんて。君を過小評価しすぎたよ。君の身も頂こう!  その膨大な”力”のコントロールは今後必要になるかも知れないしね!」


 だから、と続ける。


 「今は殺して、僕の魔法で保存しておこう!  一撃で首を落として終わらせたいから、動かないでねっ」


 (この技を受けても無事でいられると言うのですか……全く完敗ですよ)


 だが、それでいい。絶対法則はこの状況を見て必ず逃げてくれるだろう。少なくとも目くらましぐらいにはなるはずだ。


 最期を悟り、ベルゼブブは振り返る。サタン達七大罪の事。仲間達の事。そして最後に絶対法則の事。


 あぁ、もっと一緒にいたかったと。

  偶にむくーっとむくれる時も、不器用にじゃれついてくる時も、共に戦った時も。


 レノウが光の剣を作り、首目掛けて横に振りかぶる。


 最後の最後に、ベルゼブブは思った。


 (ああ……そうか、この気持ちは……)


 (好きと言うのかもしれませんね)


 刹那、レノウの剣が首元で止まった。その直前、轟音と共に縮んでいた司銀が停止した。


 「馬鹿なっ……司銀をコントロール出来るのは私だけ……何故っ?!」


 ベルゼブブの後ろ。その司銀の壁に亀裂が走った。振り返る。


 そこにいたのは一人の少女。その名の通り、絶対の法則を掴む者。一度失ったその目の光は一層強さを増し、揺るがない決意を示している。


 司銀の壁に穴を穿ち、二人の空間へ足を踏み入れる。


 「どうだろうと……関係無い……ベルゼ様は……ベルゼ様!  その身が危うくなるならば……私はどんな絶対法則(ルール)も打ち破る!」


 ベルゼブブを追い越し、レノウの前に並び、絶対法則は言った。


 「其処を……退けっ!」

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