エルフの里1-10 一位”レノウ”は敵でしょうか? 味方でしょうか
クロが話した次の瞬間に二人の剣は交わった。金属音が響く。絶対法則の右手から再び蒼炎溢れる。絶対法則が炎を出したその瞬間、動きの止まった絶対法則をクロがスキルで動きを止めようとした。
「つっ! ……体が……」
蒼炎がコントロール出来なくなり消える。最善の好機を、クロはスキルを纏わせた剣で絶対法則の首を狙い横に剣を振り切る。
『天使の旋律』
状態異常を打ち消すスキルを使った絶対法則はクロの剣を受け止める。お互いの剣の攻防が続くが、決定打は入らない。
絶対法則がまた他のスキルを使う。ワープ系のスキルでクロの後ろへと回った。それを音だけで判断したクロが後ろ蹴りで攻撃する。もう一度、絶対法則は姿を消して攻撃を避ける。ワープ系の能力を使い再びクロから距離を取った。
クロは素早く敵のスキルを分析していた。先ほどの攻撃を受けとめた事により、敵のスキルがカウンター系では無いと推測する。と同時に、自分の能力を打ち消し、かつ多数のスキルを使っている為に敵の能力はこちらの力を”奪う”又は”模倣”すると予想。そして同じ能力を同時に使用しない、こちらが一度能力を使ったのに奪わなかった。それにより能力の発動中は奪う方は使えない。そう予測した。
(こちらの攻撃が防御系スキルを使わなければならなければならない状況に持ち込みかつ、それをスキルで叩き斬る)
クロは敵を倒す為の戦略を決定した。
一方、絶対法則の得た情報はクロと比べ、全くの別だった。
「貴方……誰?」
剣を構えるクロに、絶対法則は言った。
「誰……とはどう言う意味かな?」
「貴方は違う……貴方の中にいる……人に問う」
その声はクロの中にいるソウタにも届いていた。
「それで……いいの?」
一言、ソウタの胸に突き刺さった。
「中に閉じ篭って……他人に任せて……そんな諦め……卑怯」
暗い空間の中から、映画のように映し出される外の映像をソウタは見ていた。何も出来ずに傍観する事しか出来ずに二人の戦いを見ていた。
「お前に関係は無い。俺を引っ込ませようって作戦か? 悪くは無いが無理だな」
体の翅を使った移動でクロは距離を詰める。
「強い、弱いに興味は無い……唯、気に入らない……他人に何かを任せて……自分の力でどうしようともしない……そこの……貴方に」
絶対法則は『心眼』というスキルを使っていた。本来なら敵の力を見通す聖なる目の能力。そこに映ったのはクロの中に閉じ篭っている同じ容姿の少年だった。
絶対法則はそこに何故か、昔の自分を写した。諦めた表情の少年の姿に。力無く為すすべ無かった、ベルゼブブに会う前の昔の自分に。
ソウタの中で絶対法則の一言が反響する。諦め。
これでいいのか。
「そうだ。こんなのここに来る前と何も変わってないじゃないか」
ソウタは思う。全てを諦めただ過ぎ行く日々に体を任せていたあの時と同じだと。異世界に来て自分はどうしたかったのか、ソウタは自問自答する。ここで生きたいんだと。リリス達仲間を守らなきゃいけないと。決心したではないかと。
(変えるんだ、戦うんだ。自分の力で!)
踏み出すんだ。とソウタは決意する。自分に開かれた新たな世界を閉ざさぬために。立ち上がる。
「おい、クロ! 俺が戦う! 勝てる勝てないじゃない、俺がやらなきゃ意味無いんだ!」
暗い空間に何一つ変化は見えず、目の前には戦う絶対法則の顔が映し出されている。
「だったら……」
ソウタは自分のスキルを使った。目の前に写る画面に向け、腰の剣を抜く。
「力ずくでやらせてもらう!」
その剣を思いっきり目の前の画面めがけて振り下ろした。同時に、周りにあった暗い世界が壊れて行く。
絶対法則と戦うクロの手が止まった。
「フフッ、そうか。それもいいだろう。しっかり戦えよ。でないとこの後、お前は一生後悔するぞ…」
次の瞬間、ソウタの目の前には本物の世界が広がっていた。絶対法則がいる。全身が痛み、その手にはしっかりと剣がある。
「名前、聞いておく」
先ほどまでの無機質な声とは違う。熱のある。人間味のある声で、絶対法則は言った。
「ソウタ……柳ソウタだ!」
一歩踏み出し、剣で絶対法則を斬る。それを絶対法則はカウンターのタイミングで捌く。攻撃は最大の防御と言わんばかりの鋭い一閃がソウタの腰めがけて横にくる。
それをソウタは素手で受け止めた。
「貴方のスキル……一体……」
「教えてやるよ。隠し事は無しだ。俺のスキルは魔力を斬る!」
「私は今魔力……使ってない。それに自分の能力を明かすなんて自殺行為……」
「お礼だよ。俺は迷っていた。あいつの方が俺より何倍も強え。だから全て任せた方がいいって、リリス達を俺じゃ守れないってそう思ってた。けど違う。これは俺の問題だ。他人にどうこうしてもらう問題でも、他人に体を貸してやるのも違う。これは俺の物語なんだ!」
ソウタが剣を下げる。
「俺のスキルは摩擦を操る。抵抗を少なくしたり、多くしたりする事も出来る。正確には分子の引き合う力がどうとかだったか。今のはその剣の摩擦力、切れ味を限りなく0に近づけたんだよ」
「そんなスキル……」
再びソウタは剣を構えた。
「今なら分かるぜ。俺とお前は似てるんだ」
お互いに守るものがある。その為に譲れない。どちらかが倒れるまで終わらない。
「だがら、一撃で決めようぜ」
ソウタの剣先が赤黒く光る。クロの使った技。ラスト・シンその10分の1にも及ばないであろう弱々しい魔力に、残りの力すべて込めた。
呼応するように、絶対法則の剣が白く光った。
「どちらが上か……純粋な力技」
互いに見合い、一度の沈黙。全ての音が消えた次の瞬間、両者の最後の一撃がぶつかった。
決着は一瞬だった。ソウタの負けだ。
剣は接触した瞬間に叩き割られ、粉々に砕け散った。勢いの止まらない剣はそのままソウタの体に胸元から腰にかけて大きな傷を付けた。バケツをひっくり返したような量の血が切り口から流れる。
(ああっ……そうか負けたのか……そりゃそうだよな)
剣を合わせた一瞬、間近で絶対法則と目が合った。その目は口数少ない彼女の全てを語っていた。覚悟。ただ負けない。否、負ける事などあり得ないという決意。意志の強さ。その瞬間負けると分かってしまった。勝てないと悟ってしまった。
(けどさ……後悔はねぇよ……自分で決めたんだ……これが俺の終わり……ごめん……リリ……)
ソウタの意識はゆっくりと闇に落ちていった。
絶対法則はソウタの傷口から広がる血の池の中に足を踏み入れて行く。意識を失うソウタに絶対法則が掛けたのは回復魔法だった。
無言で数秒。ソウタの表情を確認した後に、絶対法則も転送魔法陣に入る。謎の魔力を確かめる為に、仲間の元へ向かったベルゼブブに加勢する為に。自分の全てである仲間を守る為に。
ーーベルゼブブの仲間の一人、ソウタ達を森で襲い、ロゼを救った魔導師。名をレイラ・クロイツェルという。かつてはサタンに仕える部下の身であったが、とある理由により、今はベルゼブブの仲間としてその高位な魔導の力を存分に発揮している。
脱出用の魔法陣を整え、外に出ていた。あちこちで城の衛兵と反乱軍が戦う中、人払いの魔法を使い誰もこないはずの場所でそれは起きた。
一定のリズムで草を踏み分ける音が聞こえた。人払いの魔法が上手く機能しなかったのだと最初は思った。侵入者を始末しようと得意の雷魔法を準備し、人影が見えて打ち出そうとした。
「おやおやーっ、魔導士のお姉さん、お姉さん、こんな所で何をしているんだい?」
思わず眼を疑う。レイラの背筋は凍りついた。
「な……何で1位がこんな所につっ!!」
声を発すると同時、急に視界が低くなった。自分より身長の低いレノウよりも視線が下がる。
自分の下半身が無くなっていた。
「嘘でしょっ?! いつの間に」
言葉を発する前にレイラの残った上半身はガラス細工のように粉々に砕け散った。
「あれーっ? ようやく上手くいったなぁ」
地面に描かれた魔法陣からベルゼブブが現れる。
「こんな魔力……誰かと思えば貴方でしたか。何故私の邪魔をする?」
空間のあらゆる場所に司銀を準備する。攻防に絶対の力をもたらす司銀。
(それでも一位相手では気休めですか……せめてほーちゃんが脱出する時間を)
待て、とベルゼブブは思考を停止する。何故今自分は一人の部下の為に、ここまでしようとしている?
「いやー、サタンと少し約束をしちゃってね。悪いけど大人しくしてもらう。絶対法則ちゃんの身柄を頂きたい」
ほーちゃんを狙うならば自分は無事にこの場をやり切る可能性がある。こんな場所で死ぬ訳にはいかない。部下ならばまだ替えがきく。ここまでの人材は惜しいが……
ベルゼブブはこの場をやり過ごす答えを出していた。絶対法則の身柄を渡せば全て事は済む。分かっているのに、了承の言葉は出てこない。
「だとしたら、譲る訳には行きませんね」
「あれ? 珍しいねー。冷徹な七大罪で有名なベルゼブブが、部活一人の為にそこまでするなんて」
「何ででしょうかね。誰だって何より自分の身が大切だ。ここは退くべきなんでしょう。けれど」
ベルゼブブは司銀で形成した双剣を手に持つ。
「理屈じゃないんです。ここは譲らない。これ以上、仲間には手を出させません。たとえ相手が一位だとしても」
ベルゼブブの本気の戦意を感じ、レノウも構える。
「随分と変わっちゃったみたいだね。想いとか、仲間とか。いいねー。最近は退屈だったからさ。来てよ。せめて全力の一割は出させてね」




