エルフの里1-9 7大罪ベルゼブブの能力がそれなりにチートでピンチなんですが
ー時は遡り、ユグドラシルを倒した直後。
ソウタはまたも、暗い空間の中に立っていた。無限に続く薄暗いここには以前にも来た事がある。そこが自分の精神世界だと理解するのにそう時間はかからなかった。
そして、自分がここに居るという事はもう片方の人格が自分に変わり、表に出ている事になる。
「おい、説明しろよ。こっちから呼びかけても反応しない癖にそっちからは自由に交代出来るって訳か?」
「自由には出来ないさ。出来る時だけだ」
声は空間全体から発せられているようだった。不意に空間の一部に穴が開いた。慣れ親しんだ自分自身の顔が目の前にある。
「戦いはどうなったんだよ? 俺はあの召喚獣にやられかけ……」
「それならもう倒した。スキルを出し惜しみして遊んでいたんでな。こっちも急がねばならないし、俺もこっちに出れる時間が来たし、色々と説明すべき事もあるからな」
暗闇に映るもう一人は薄ら笑いを浮かべて言った。
「フィリアとか言ったか。あのエルフ誰かに利用されている。そして、国の大臣を倒し姫を助け出すっていうのは間違いで俺たちは利用されている可能性が高い」
「なっ、待てよ、どっからが嘘だと言うんだ? 戦いの跡もあったし……エルフの里や城では戦いが……」
「先ず、あのエルフには何らかの魔法が掛けられている。洗脳とかそんな類いだろうが。それも本人に気付かないレベルの魔法だ。恐らく本人は植えられた命令を、自分の考えだと信じ込み行動しているだろう」
「何でそんな事が言い切れる? 」
淡々と、顔色一つ変えずにもう一人は語る。
「気づいたのはお前が触れた時、ざらついたような魔力の反応があった。スキルの応用だな。あいつが鈍臭く行動してたのは二つの理由があったんだ。一つは親近感を持たせるため、何者かがそう魔法に設定した。二つ目は魔法による身体的な問題、そこまで精密な魔法なんだ。デメリットとして身体機能に支障が出るんだろう。一つ目の設定はドジキャラを演じさせる事で、魔法が体に及ぼす影響を隠す事にもなるんだろう」
フィリアが洞窟で転んだりしていたのはその為だった。更に言えば、押さえつけ、のし掛かっていた姫に、圧倒的優勢から裂傷を受けたのも、洗脳魔法のデメリットの為。とっさに体に力が入らなかったからだ。
ここでもう一人はフィリアのある一言を思い返していた。
(私はラノベのテンプレ通りには動きませんので)
その言葉に意味があったのかは分からない。
「この革命は誰かに仕組まれた可能性が高い。あのエルフを洗脳した奴が黒幕だ」
「って事は……今までの闘いは全部そいつらのせいだってのか」
「かもな。そいつらは以前に俺たちを襲った連中と同じ可能性が高い。幸いに今は仲間内に洗脳魔法をかけられている者はいない。以前に掛けられていたかまでは分からないが。もしかすると、俺たちを襲ったソナタとルナ。もしくはその上司に、第三者が同盟を崩す為、洗脳を掛けらていたかもしれない」
実際に、その推理は当たっていた。サタンを以前襲ったベリアルの能力。「絶対命令」
フィリアの生い立ちは全て真実。それを知ったベルゼブブはフィリアを利用しようとベリアルのスキルを使った。”姉に憎しみを抱き、殺せ”と。天涯孤独だと思っていたフィリアに姉がいる。その喜び、会いたいという感情を無理矢理、憎悪へと変化させ、姫をフィリアに殺させようと目論んでいた。革命を起こし、エルフと魔族の間に戦争を起こさせる為に。
しかし、フィリア本人が洗脳の影響を受け姫にやられてしまった。仕方なく大臣と姫の2人を他の連中に見つかる前に直接始末する羽目になった。大臣と革命軍の頭が倒れれば国は混乱に陥る。そうすれば、後はどうとでもなる。
そこへまさか、フィリアに発動させたユグドラシルで足止めしていた筈のソウタ達が現れた。
「今丁度姫と大臣、それにフィリアを見つけた。黒幕さんも丁度ご登場だ。今からケリをつける」
そう言うと闇にもう一人の自分の顔が溶けていく。
「待てよ! 何で……いつもお前が決めるんだ?! 俺は何の為にいる? お前がいれば、俺が戦う必要なんて……」
自分なんて必要無い。ソウタはそう思った。どれ程かは分からない。だが、自分にとっての必死な戦いなどもう一人に頼めば簡単に方がつくのだろう。そこにソウタは怒りを感じていた。結局自分は無力だと。
無音の闇から声が帰ってくる事は無かった。そこでソウタは自分の拳を強く握る事しか出来なかった。
ー意識の中では一瞬の事。コンマ数秒の間を置き、もう一人の意は現実世界へと戻る。その瞬間、見た光景は想像とは少し違った。
激怒する敵の男が突っ込んでくると思いきや、目の前に一人、人間の少女が無防備に近づいてきていた。
後ろに下がり、距離を取る。
「リリス、ソナタ、ルナ後ろに下がっていてくれ。姫とそこの男を頼む。今……」
もう一人のソウタは距離を置いた筈だった。それが一瞬にして、その間合いを詰められる。
「先ずは……試し」
そう言う少女の手には蒼炎が宿る。力を抜き、体を掴もうとする少女の左手を紙一重で躱す。続く右手も同じく紙一重。危なっかしい避け方だが、炎は擦りもしない。
炎を消し、今度は少女が距離を置いた。一度敵の動きを見て、少女は敵の力量を理解した。敵は相当出来る。ユグドラシルなる召喚獣、仲間の一人であるロゼを倒したのがまぐれではない。
そして、安易な攻めは特大のカウンターを食らう可能性があると考え一度体制を立て直す。
「名前聞いておく……」
無機質な声で少女、絶対法則は言った。
もう一人の人格は微笑を浮かべた。
「そうだな……とりあえず『クロ』とでも呼んでくれ。そろそろ名前が無いと困るしな」
クロと、名乗った時に後ろでは大臣と姫、二人の身柄をリリスとルナが確保して階段を下りようしていた。
刹那、リリス達の前にクロが飛び出した。剣の交わる金属音が響く。ベルゼブブの短剣をクロがあと一歩の所で止めていた。
「この二人相手に、貴方一人では無理があるのではありませんか? ほら」
ベルゼブブの短剣の刃が急に伸びクロの肩を貫いた。
「隙だらけですよ」
「ぐっ……」
ベルゼブブの体の各所。肩、腕、背中から銀色の物体を鎧のように纏う。急に間合いが伸び、長剣となった刃が元に戻った。同じく銀の物体が液体化して刃から溢れる。
(何だ? 金属……?)
クロが得体の知れない物質に動揺する。考える時間も与えずに、音も無く銀色の刃が放たれる。
クロはベルゼブブもそうだが、後ろの絶対法則にも警戒をしていた。先ほどの攻撃、蒼炎を使った攻撃に違和感を感じた為だった。
色付きの炎を使った攻撃。ここは異世界。何らかの効果があるのは明白だった。だがら、クロはスキルで炎ごと叩き斬ろうと最初考えていた。スキルを使う考えが変わったのはその寸前。両手に纏わせ真っ直ぐに突進してきた敵に、何か違和感を感じた。
とっさに避けた。否、避けれてしまった。敵の懐に何の策も無しに突っ込み、あまつさえ初撃を外す。戦闘においては以ての外だ。
故にクロは思った。この少女はまだこの能力を使い慣れてない。その上で飛び込んで来た以上、こちらの技を”カウンターする”又は”吸収する技又は”無効にする手段”を持っている。
それなら戦闘でこの少女が出てきたのも説明がついた。こちらの戦力を奪われる可能性が高い。故にクロは出来る限りスキルを使いたくは無かった。
続いて、急襲するベルゼブブの刃をクロは剣で受け止めた。相手が絶対法則でない為、また避けれない為に仕方なくスキルを使う。間合いの伸び接触した刃を切り裂いた。
と同時、刃を斬った瞬間にベルゼブブの刃がバラバラに破裂した。その勢いは細かくなろうと力が失われる事は無かった。細切れの刃は結果、無数の弾丸状になり、クロの体に突き刺さった。散弾で打たれたように鋭い突き刺すような痛みが全身に回る。
それでも引かずに、前へ踏み出し、ベルゼブブへ切り斬り込む。直接ならば、魔力ごと体を叩き切れると考えて剣を振り下ろす。
ベルゼブブの纏う銀の鎧は形を湾曲させはしたものの、切れなかった。まるでゼリーのように形状を変え、衝撃を吸収した。
刹那、背中の死角から銀の刃が降り注ぐ。
(なるほど。これは確かに黒幕としちゃ上出来な強さだな)
ーーベルゼブブが纏い使っている物体。その物体は”司銀”と呼ばれていた。この世界には魔力、スキルによりあらゆる物体、水、土、風などを操る能力は多数存在している。個々のセンス、鍛錬などにより物質と使い方は多彩。魔法を使えば、スキルが無くともその恩恵を授かる事も出来る。
ただ、7大罪ベルゼブブのそれは少し例外だった。
第一に、”司銀”と呼ばれる金属はこのベルゼブブのスキルのみでしか生産出来ない完全固有の物質である事。錬成方法も本人以外不明のこの物質は常識を遥かに超えていた。
その能力は”他の物質系能力”とは桁外れだった。司銀には決まった融点が存在せず、ベルゼブブの魔力で個体から液体、液体から気体へと自由自在に形状を変化させる。第二に、その質量を自在に変化させれるという事。魔力により、時に鉄の何倍も重く、時には空気より軽く。物理法則を超越した反則の物質。司銀を使った戦闘は、攻守共に無敵 。異世界の中でも異端の能力者。7人の悪魔から預かりし才能を持つ一人。異界序列7位。これがベルゼブブ・ドラウである。ーー
変形自在の物質の無限に変化する攻撃と死角無き防御に、クロは成すすべなく防戦する。
「なら、これはどうです? 『滅銀雨』」
銀の丸い塊が突如としてクロの頭上に現れ降り注ぐ。
クロは剣でそれを防ごうとした。クロのスキルは効果を見せていた。だが、流動する司銀全てに触れれない為に、全ての司銀を無効には出来ない。司銀は剣に触れた瞬間に個体から液体に変化する。本物の雨のように液体で銀の液体が降り注いだ。体に触れた瞬間、司銀は個体の細かな刃と化してクロの体を貫いた。
弾丸や剣を滑らせるスキルの力も、質量が変わり、触れる瞬間のみ異常に重くなる物体に対し、その重さのせいで弾ききれなかった。
堪らずに、クロは膝をつく。それにベルゼブブは勝利の笑みを浮かべる。
「さあ、とどめと行きますか……」
無数の司銀が宙に浮き、放たれようとしたその時だった。
大気が震えた。その場いや、国中の魔力やスキルが使えない者までがこの国の何処かに現れた事を身体で感じ取った。ソウタ達の圧倒的不利。敵か味方かも分からない不気味な力を感じた直後に、全ての司銀が蒸発した。
「……ほーちゃん、この場は任せていいですか? どうもここで私がダラダラしている暇は無さそうです」
「……了解。レイラの身が危ない。早く……!」
それだけ言うとベルゼブブはその場から姿を消した。大勢の者がしきりに出入りしていたこの部屋には、今絶対法則とクロ。ソウタを含むなら3人だけが取り残されていた。
「何があったったというんだ……? あそこまで強い者に会えたと思ったら……さっきのは次元が違う」
「答える必要……無い。お互いやる事ある。私は……お前を倒しベルゼ様の元へ向かうだけっ!」
「そうだな。お前を倒して確かめる事にしよう」
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