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東方空想録  作者: 房松
3/9

ゆかりん

 

 警告!!


 本作は東方Projectの二次創作です。

 本作にはオリジナル設定が含まれています。

 また、他の部分でも原作、または貴方のイメージとは違う設定があるかもしれません。

 自分の持つ東方Projectのイメージが損なわれるのが嫌だと感じた場合は、速やかに読むのを中断してください。




 本作は、八雲紫のキャラクター崩壊が特にひどいと思われます。




 

1・ゆかりの憂鬱



 ある冬の日の事。


「はぁ~」

 金髪の少女はこたつの上で溜め息をついた。

 彼女の名は八雲紫。

 ∞の字の赤いリボンの付いたナイトキャップがトレードマークの妖怪の少女。

 ここ、幻想郷では敵無しの大妖怪の筈なのだが…

「もう、だめかなぁ」


 彼女は悩んでいた。


 “妖怪の賢者”だの“神隠しの主犯”だのと言われ、幻想郷最強と目されている彼女だが、本当の事を言うとそんな実力はまったく無い。

 彼女の能力は「境界を操る」程度の能力。

 境界と名のつくモノならなんでも操れる…

 そう嘯いて、何百年経つだろう。

 実際に彼女が操れるのは、空間のスキマだけ。それも、力のある者に邪魔されるとうまく操作出来なくなる。

 本当に“程度の能力”でしかないのだ。

「はぁ~」

 溜め息がもう一つ。


 ――昔はよかったなぁ。

 人も妖怪も今と違って全然マヌ…純真だったから、騙すのはとてもカンタンだった。

 この幻想郷を包む結界の一つ、「幻と実体の境界」だって、徳の高い坊さんを騙くらかして張らせた物だ。それを、さも自慢げに自分が張ったと語るだけでみんな信じてくれた。


 ゆかりは凄いね。


 ゆかりは強いね。


 流石ゆかりだね。




 ………




「はぁ~」


 ――でも、近頃はみんな胡散臭そうな目で私を見る。

 その度に、今まで自分がついてきた嘘がばれるのではないかと怯える日々。

 やっぱり、無間の底の深さがわかるだとか、北斗七星が北極星を食べるまでの時間がわかるだとか吹いてたのが不味かったのかな。


 …どうしよ~。




 幻想郷の小妖怪、八雲紫は悩んでいた。





 

2・ぱちゅりーの悩み



 ある春の日の事。


 ここは霧の湖の真ん中にある島に建つ館、紅魔館。

 その地下にある大図書館に、八雲紫は来ていた。

 彼女の「秘密」を知る数少ない友、“動かない大図書館”ことパチュリー・ノーレッジの頼み事を聞く為だ。

「…だから、これとこれを魔理沙が持っていったのと取り替えてほしいのよ」

 パチュリーの頼み事は、自称“普通の魔法使い”魔理沙が図書館から持っていった魔導書を写本と取り替えてほしいとの事。

 空間のスキマを使えば訳無い事だ。

「わかったわ、パチェ。…いつも大変ね」

「ええ。でも、あなたのおかげで助かってるわ。あそこの棚が無事なのも、紫のおかげだしね」

 鍵付きの棚を見て、呟くパチュリー。


 紫とパチュリーが友人同士になったのは、少し前の事だ。




 ある冬の日の事。




 紫が自宅でごろごろと悩んでいる所に、パチュリーは訪ねて来た。

 八雲紫は幻想郷と外の世界の境界にある家に住んでいると言われているが、これは嘘で、本当は自分の式神の式神が住んでいる「マヨヒガ」という屋敷に居候をしている。

 元々は“幻想郷の大妖怪”である彼女を倒して名を上げたいと思う妖怪をおちょくる為の嘘だったのだが、世間での紫のイメージが「強くて不思議でよくわからない妖怪」になってくると、そのイメージを損なわない為に本当の事を言い出せなくなったのだ。

 そんな事は露知らず、とある事情で紫を探していたパチュリーは、幻想郷の境を調べに調べ、紫の家を探し回っていた。

 見つからないと、幻想郷中を飛び回った。

 とても大事な用件があったので、諦めずに飛び回った。

 いくら探しても、そもそも実在しない物が見つかる筈も無く、慣れないフィールドワークにふらふらになったパチュリーが、八雲の式神にその所在を聞く事を思い付いたのは、日も暮れ始めの頃だった。

 パチュリーがマヨヒガに訪ねてきた時、紫の式神は留守だった。式神の式神も留守だった。

 何回も呼び鈴が鳴ったが、紫の足は既にこたつに根付いてしまい、そこから出る事が出来なくなっていた。

 なので仕方無く、本当に仕方無く、居留守を決め込んだ。

 誰が言い始めたのか知らないが、紫は冬眠するという事になってるらしいし。

 それでも、何回も何回も呼び鈴が鳴ったので、ついに根負けした紫はこたつから這い出し、自分を楽園から引き摺り出した愚か者の顔を拝んでやろうと玄関へ向かった。


 玄関を開けると、そこにいたのは紫もやし。

 紫主観で、自分を胡散臭そうに見る者の上位にランキングする嫌な奴。


 速攻で閉まるマヨヒガの玄関。


「ちょっ、まっ、まってよ!」

 紫もやしが何か言ってるが、気にせずこたつに還ろうと、そう思った紫だが、頭の中で何かが引っ掛かった。


 足が進まない。


 ――彼女は何でここに来たんだろう?


 思い返すと、彼女はとてもヘロヘロで、それなのに紫を見て顔を輝かせていた。


 ――何でだろう?


「お願いよ! 話だけでも聞いて!! お願いよ~」

 涙声で懇願するパチュリー。


 …仕方ないので、紫は彼女を家に入れてあげる事にした。




「…つまり、あなたの大切な蔵書を、あの自称普通の魔法使いの魔理沙から取り戻してほしいと、そういう訳ね」

 口許を扇子で隠し、精一杯大物ぶって話す紫。

 でも、こたつでぬくぬくとしながらなので、何か変だ。

「そうなのよ」

 しかし、パチュリーもこたつの魔力に取り憑かれているのでそれに気づかない。

「私の本の中でも特に大切な物で、鍵付きの棚の中に入れていたのだけれど、それが裏目に出て…」

 そんなに厳重にしまってある本なら、あの白黒姿の魔法使いは喜んで強奪するだろう。

「咲夜に頼めば、ちゃんと本を取り戻してくれるでしょうけど、魔理沙相手にあの子はまずいのよ」

 咲夜とは、パチュリーが居候している紅魔館のメイド長の事だ。

 時を操る能力を持ち、紅魔館の諸事のほとんどをこなす完全で瀟洒なメイド。彼女ほど有能な召し使いは幻想郷、いや、世界中を探してもそういないだろう。

 だが、彼女は魔理沙の度重なる不法侵入と窃盗を止められず、その事で主から叱責を受けていた。

 主も、魔理沙相手では仕方がないと思っていたのであまり厳しくは言わなかったのだが、彼女の誇りは大いに傷ついた。

 今の彼女に魔理沙に近づく口実を与えたら、間違いなく大事になる。

「…もしそれで、魔理沙が反省するならそれでいいかもしれない。でも、あの子がそれくらいで自分の行状を改めると思う? …きっと、持ってかれた分、更に多く持ってくんだぜ。とか言い出すに決まってるわ!」

 たしかにあり得ない話では無い。と言うより、そうならない方がおかしい。

 魔理沙とは、そういう人間だ。


 事情はわかった。


「そうね、わかったわ。あなたの本は取り戻してあげる」

 でも一つ、紫には気になる事がある。

「本当! ありがとう! えっと、八雲!!」

「紫でいいわよ。それより一つ聞いていいかしら?」

 これだけは聞いておかないといけない。

「何? 答えられる事なら何でも答えるわ!」

 笑顔満面のパチュリー。

 紫は質問した。

「あなた、ちゃんと魔理沙に本を返してって言った事、ある?」


「…え?」


 虚を衝かれ、停止するパチュリー。

 でもそれは一瞬の事。

「そんなの何度も言ったわよ! 持ってかないでって、必要ならちゃんと借りていきなさいって。でも、あの子は、一生借りてくだけだって、全然聞く耳を持ってくれなかったわ!!」

 憤然とするパチュリー。

 魔理沙は、魔女であるパチュリーと、人である自分では寿命に大きな差があるのだから自分が物を一生借りていってもパチュリーはそんなに困らないと思っている。

 図書館の蔵書の膨大な量も、魔理沙の罪悪感を薄める原因だろう。

 彼女の常識の無さは、わずか十四、五歳の非力で非才な人の子でありながら、老練な妖怪が舌を巻く程に魔法を扱えるようになった代償なのかもしれない。

 紫はなお、聞き返す。

「そうじゃなくて、魔理沙に本を盗まれた後、彼女の家に返してもらいに行った事があるのかって事よ」

 パチュリーは答える。

「最初の頃、咲夜に行ってもらった事はあるわ。でも、次の日にはまた盗みに来たわよ」

「自分で行った事は無いのね?」

「ええ、図書館から離れたくないもの」

 パチュリーは本の虫だ。

 本のそばにいるものこそ自分だと思う程、本を愛している。

 そんな彼女が大図書館を離れる事は滅多に無い。

 今回、自分の足で八雲紫に会いに来たのは、盗まれた本が本当に大切な物だったからだ。

 あの魔理沙から、穏便に本を取り返す事ができるのは、咲夜の他には“境界を操る”能力を持つ八雲紫以外にない。

 鶏を捌くのに牛刀を用いるような話だが、なればこそ、自分が直接“妖怪の賢者”に頼み、助力を請わなければいけない。

 そう思ったのだ。


 ――それでは、駄目よ。


 八雲紫は少し思案し、それからパチュリーに提案した。

「じゃあ、明日、魔理沙の家に返してもらいに行きましょう」

「ええ! なんで!?」

 パチュリーは驚いた。

 てっきり、スキマを使ってすぐにでも本を取り返してくれると思っていたのに、なんでわざわざ明日まで待って、魔理沙の家まで行かなければならないのか?

 魔理沙の家の中は壮絶な有り様で、本の保管に向いてないとも聞く。

 早く取り戻してほしい。

 第一、あの魔理沙が持っていった物を素直に返すとは思えない。力ずくで本を取り返したとしても、負けず嫌いなあの子は更に多くの本を盗むようになるだろう。


 それでは咲夜に頼むのと何もかわらない。


 その事を聞いても紫は「事が済めばわかるわ」とまともに答えてくれない。

 パチュリーの中に紫への不信が広がる。

「………」

「さあ、今日はもう寝るわよ」

 紫はそう言うと、パチュリーを寝室へ案内した。


 ――やっぱり、私は胡散臭いのかな?


 パチュリーの不信感をひしひしと感じるものの、細かい説明は面倒なのでとっとと寝てしまう事にした。





 

3・まりさの勝負



 翌朝、紫とパチュリーは魔理沙の家へと向かった。

 パチュリーは終始不機嫌だったが、魔理沙が素直に本を返さなくても、後でスキマを使ってこっそりと取り戻すから、と言う紫の言葉で一応は納得した。


 ――そうだ、目的は穏便に本を取り戻す事なのだ。話し合いで済むのならそれに越した事は無い。


 そう考えるパチュリーだったが、どうしてもその考えを全面的に肯定する事は出来なかった。




 魔理沙の家がある魔法の森は、幻想郷の魔が集まる瘴気の森だ。

 魔法使いの素質が無い人間では長くいられない所だが、妖怪である紫や魔女であるパチュリーはあまり影響を受けない。

「ごほ、ごほ」

 とは言っても、あんまり居心地がいいとは言いがたい。

 特にパチュリーは喘息持ちなので、森に生える化物キノコの胞子は喉に堪える。冬なのでそれほどひどくはないが。

 魔理沙がこんな所に住んでいるのは、この森の瘴気を取り込む事で魔力を増大させるためだ。

 他にも、この森に生えるキノコを使って色々な実験をしたりしているらしい。


「ついたわね」


 霧雨魔法店。


「ここが魔理沙の家」

 パチュリーの呟き。

 魔理沙はここで何でも屋のような事をしている。

 とは言っても、こんな辺鄙な所に来る物好きは滅多にいないが。

「さあ、パチュリー」

 紫に促され、扉の前に立つ。


 パチュリーはドアを叩いた。


「誰だい? こんな朝っぱらから」

 なんとも生意気そうな声が返ってくる。

 程無く、霧雨魔法店の扉が開かれた。

 中から出てきたのは、お伽噺の中の魔法使いのような格好をした少女。魔法使いのとんがり帽子もちゃんとかぶってる。

「あ、パチュリー。…げ、紫」

「ご挨拶ね、魔理沙」

 紫の顔を見て呻く魔理沙。

「なんでパチュリーと紫が一緒にいるんだ?」

 いつの間にか取り出した扇子で口許を覆い、クスクスと笑う紫。

「さて、何でかしらねぇ? …そう、ひょっとしたら人の物を盗んでいく盗賊を凝らしめる為かも知れないわねぇ」

“幻想郷の大妖怪”の言葉にビクリと反応する自称“普通の魔法使い”。


 ――あ、びびってる。びびってる。


 八雲紫は満足そうだ。


「私は本を借りてるだけだぜ。私が一生借りたって、お前達にはあっという間の事だろ? それに…いや」

 何かを言おうとして、口をつぐむ魔理沙。

 彼女が何を言おうとしたのか、パチュリーは気になったが、それを聞く前に紫が口を開いた。

「つまり、今返す気は無いという事ね?」

 魔理沙は応える。

「そうだ。もしどうしてもって言うんなら弾幕ごっこで勝負だぜ」

 弾幕ごっことは、スペルカードと呼ばれる符を使って行われる決闘の一種で、主に幻想郷の女子が行う遊びの事だ。

 基本的には、相手に弾幕を浴びせて被弾させる、もしくは相手のスペルカードをすべて破る事で勝利となるが、この決闘を行う少女達はどれだけ華やかな弾幕を張れるかという事も競い合う。

「さあ、どうする?」

 魔理沙は不敵な笑みを浮かべる。

 いくら強力な魔法を使えると言っても、魔理沙は人間だ。

 普通に戦って“幻想郷の大妖怪”に敵うはずは無い。

 だが、弾幕ごっこでなら勝機はある。


 何より楽しい。


「嫌よ」

 しかし、紫の返事はにべも無いものだった。

「こんな所で弾幕ごっこなんてしたら、パチュリーが死んじゃうわよ」

 冬場とはいえ、ここ魔法の森には多くの化物キノコが生えている。

 弾幕ごっこで胞子が飛散でもしたら、喘息持ちのパチュリーは一溜まりもないだろう。

「それより、まずは本の持ち主とちゃんと話し合ったらどうかしら?」

 そう振られて、魔理沙はパチュリーの方を見る。

「魔理沙、お願いだから持っていった本を返して。せめて鍵付きの棚にあった本だけでも返して」

 真摯な訴え。

 だが、魔理沙の答えは否だった。

「嫌だぜ。…弾幕ごっこで私に勝てたら考えてもいいけどな」

 なんとも自分勝手な物言い。


 パチュリーは嘆息した。


 ――やっぱりこの子は人の話を聞かない。


「で、どうする? もし、勝負するならそっちで場所と日時、条件を決めていいぜ」


 パチュリーは考えた。


 ――これは魔理沙からの提案だ。

 この勝負に、もう図書館の本を持っていかないという約束も含ませる事ができれば、ひょっとしたら盗むのを止めさせる事が出来るかもしれない。


 ちらりと紫の方を見る。

 口許を扇子で隠し、相変わらずの胡散臭い微笑み。

 パチュリーの視線に気づくと、かすかに頷く。


 ――よし。


「わかったわ、魔理沙。その勝負受けてあげる。そうね、場所は…」

「そんなことよりおうどんたべたい」


 ………


 はぁっ?


 いったい、今の頓珍漢な発言は誰が…


 いや、まさか…


 パチュリーと魔理沙の視線は八雲紫に注がれた。

「私、おなかがすいたわ」


 …え~と。


 紫?


「ねえ、パチュリー。これから焼きうどんでも食べない? 私がご馳走するわよ」


 その、何言ってるの?


「ね、そうしましょ」

 そう言うと、紫はパチュリーの肩をつかんで引き寄せる。

「実はいいコンロが手に入ったのよ。とろとろのとろ火から、山をも焦がす強火まで自由自在の優れ物よ」

 魔理沙に背を向けると、紫は手の中のモノをパチュリーに見せた。

「…これを使えば、どんな風にでも料理出来るわ」


 …魔理沙からは見えないように。


「な、なあ、紫。まさか、ボケちまったのか?」

 紫の、端で聞いたらおかしくなったとしか思えない言動に魔理沙は本気で心配している。


 ――妖怪も千年以上生きてるとボケるのか?


「あら、失礼ね。私はまだまだ現役よ」

 紫は手に持っていたモノをしまい、魔理沙の方に向き直った。

「それよりパチュリー、あなたはおいしいゴハンの食べ方って知ってる?」

「いいえ、知らないわ。どうすればいいの?」

「ふふ、とってもカンタンよ。運動して、お腹を減らせばいいのよ」

「へぇ、そうなんだ」

 おかしい。

 パチュリーも紫と一緒になっておかしな事を喋ってる。

 二人とも魔理沙の方を見てニヤニヤしている。


 ――化物キノコの胞子に脳をやられてしまったのだろうか?

 いや、それとも私の方が…


「それなら、魔理沙と弾幕ごっこするのがいいかしら?」

「そうねぇ。いいんじゃないかしら」


 ――ああ、もう、訳がわからない。


「それじゃあ、魔理沙」

「へっ?」

 突然パチュリーに声をかけられて、驚く魔理沙。

「弾幕ごっこしましょう」

「あ、ああ。望むところだ!」

 ここで戦ったらパチュリーの喘息に良くないのでは? という疑問は、混乱した魔理沙の中には無かった。


 ――とりあえず、弾幕勝負なら負けないぜ。


「それじゃあ、いくぜ…って、あれ?」

 スカートのポケットに手を突っ込んで、『異変』に気づく。


 …無い。


 …無い。


 無い!!


 無いのだ。いつも肌身離さず持ち歩いている、自分の代名詞とも言える大切なモノが。


 服のポケットを叩いてみる。


 無い!


 帽子の中を見てみる。


 無い!


 どこにも無い!!


「あら、魔理沙。どうしたのかしら?」

 ニヤニヤしながら紫が聞く。

「何か探し物? 家の中に忘れたんじゃ無いの?」

 その台詞を聞いて、はっと顔を上げる魔理沙。

 脱兎の如く家の中に駆け込む。

 中から解体工事のような振動と何かが雪崩のように崩れる音が響いてくる。

 その様子を見ていた紫とパチュリーは、ついに堪えきれなくなって大笑いを始めた。

 紫の手にはミニ八卦炉。

 それは魔理沙の大切な宝物であり、彼女が魔法を使う際の媒体になったり、日常的な家事に使われたりする優れ物だ。

 とろ火から山火事までというのは比喩では無い。

 紫はこれを、スキマを使って魔理沙から盗んだのだ。

 二人が笑い終えると同時に、家の中から魔理沙が出てきた。

 いつもの生意気な魔理沙と同一人物とは思えぬ程やつれている。

「あら、魔理沙。探し物は見つかったかしら?」

 紫は尋ねるが、魔理沙は力無く首を振るだけだ。

 パチュリーがくすくす笑っているのにも気づいていない。

 紫はミニ八卦炉を魔理沙に見せる。

「あっ!」

 途端に魔理沙の顔色が変わる。

「な、何でお前がそれを…」

「ん、これ? そこに落ちてたわよ。家に入る時に落としたんじゃないのかしら?」

 しれっと嘘をつく紫。

 魔理沙は思い返す。


 ――たしかにあの時、私は動転していた。

 玄関を開ける拍子に落としたのかも…


 はぁ…


 まあいいや。


 探していた物が無事に見つかった安心感からか、魔理沙は深く考えなかった。


「紫、拾っといてくれてありがとな」

 魔理沙は紫に手を差し出す。

 しかし、紫はその手を奇妙な物のように見る。

「何? この手は」

「え? いや、返してくれよ、私の八卦炉」

 紫はきょとんとした顔で魔理沙を見る。

「嫌よ」

 その言葉に魔理沙が凍りつく。


 ――何で?


「私はこれが気にいったの。しばらく借りるわね」


 ――そんな。


「それはダメだ」

「なんで?」

「なんでって、それは私の物で、無いと困るんだ。返してくれ」

 必死に訴える魔理沙。

 しかし紫は譲らない。

「でも、こんなに便利な物、私は持って無いのよ。いいでしょ、借りるくらい」

「嫌だ! お前に貸したらいつ返って来るかわからないじゃないか!」

 あなたがそれを言うか。とパチュリーは思ったが、とりあえずは事の成り行きを見守る事にした。

 紫は言う。

「大丈夫よ。ちゃんとあなたが死ぬ前に返してあげるから」

 魔理沙は歯噛みする。


 ――こいつは返す気なんか無いんだ。


 魔理沙は悔しげに紫をにらんだ。

 それを見た紫は一つの提案をする。

「そうね、どうしてもって言うなら弾幕ごっこで勝負しましょう」

 本を返してと頼んだ時、魔理沙がしたのと同じ提案。

 だが、ミニ八卦炉を取られた魔理沙には攻撃手段が無い。

「弾幕は張れなくても、避け続ける事は出来るでしょう?」

 弾幕ごっこで勝利する方法は二つ。

 相手に弾幕を当てる事と、相手のスペルカードを破る事。

 スペルカードは一定量以上の力を放出すると壊れてしまう。

 なので、相手のスペルカードの限界まで弾幕を避け切れば、それでも勝ちという事になる。

 無論、それはとても難しい。

「オマケに、もしあなたが被弾しても、あなたが降参しなければ被弾扱いにしない、わたしが使うスペルカードは一枚だけって条件も付けてあげる。要はあなたがあきらめなければ勝ちって事よ」

 紫はにこやかに言う。

 勝負を受けなければ八卦炉は返して貰えない。

 魔理沙に選択の余地は無かった。


「…わかったぜ」


 魔理沙は勝負を受けた。





 

終・三人の想い



 パチュリーは考えていた。


 ――おそらく、紫はこの勝負で魔理沙に痛い目を見せ、一通り説教でもして本を取り返すつもりなんだろう。

 でも、この負けず嫌いな子は口でいくら反省してると言っても腹の底では何を考えているかわからない。

 八卦炉は、弾幕ごっこの賭けではなく、本を持っていかないように約束させる材料にした方がよかったのではないだろうか?


 もしかして、私は紫の楽しみの為のダシにされたのかしら?


 そんなパチュリーの考えを知ってか知らずか、上機嫌で微笑む紫。

「ふふふ、魔理沙は偉いわねぇ。大事な物の為に体を張るなんて」

 その呟きを聞いたパチュリーは、急に恥ずかしくなった。


 ――私は何もしていない。

 困った事があっても、すぐ人を頼ってしまう。

 挙げ句、自分の為に動いてくれた人まで疑ってしまって…


 そんなパチュリーの思案は、紫の次の言葉で吹き飛んだ。

「私もそれに応えないと失礼よねぇ。手加減なんてもってのほか。弾の威力も加減無しでお相手しないと」


 なっ!


 パチュリーと魔理沙は息を飲んだ。

 普通、よっぽどの事が無ければ威力の高い弾幕は使われない。

 むしろ、威力を落とす為にスペルカードの力が使われる場合がほとんどだ。


 弾幕ごっこは殺し合いではない。


 だが、八雲紫はそれをすると言っている。


「じ、冗談きついぜ」

 魔理沙の声が震えている。

 その様子を見て、一層意地悪く微笑む紫。


 …実際の所、紫の本当の実力ではそこまで威力のある弾幕は撃てないのだが。


「紫、それはやり過ぎよ!」

 だが、そんな事は知らないパチュリーは慌てて止めにはいる。

「私は本が返って来ればそれでいいの。だから…」


「黙りなさい」


 とても静かな声。

 パチュリーも、魔理沙も、その声を聞いたら動けなくなった。


 八雲紫に実力は無い。


 あるのは、呆れる程長い年月を過ごした精神だけだ。


 その長い年月の中で、八雲紫が得たものは、完璧に他者を欺くハッタリと、絶対に事を為す底意地。


 普段は実力に見合った事しか考えない、弱くて狡い妖怪である彼女が、その底意地を見せる時、その目的は九割九分九厘の確率で達成される。

 事実、この幻想郷という土地も、彼女が四方八方に手を尽くして築き上げたものだ。

 八雲紫は弱いが故に、弱き人の脅威を理解し、やがて訪れるであろう人の世を乗り切る為に、本物の大妖怪ですら成し得ぬ難事をやり遂げたのだ。


 妖を憎む法力僧に、調伏されかけた事数知れず。

 人を侮る妖怪達に、蔑まれた事数知れず。

 それでも我を曲げずに事を為す。

 その結果、背負うに重い“幻想郷の大妖怪”の肩書きを、身の丈に合わぬ羨望を、割に合わぬ妬み嫉みを得る事になったとしてもだ。


 その意思の強さは、嘘を嫌い強い者を好むという鬼でさえ、彼女を認めざるを得ないと思わせる程のものである。


「パチュリー、よく見ておきなさい」


 “幻想郷の大妖怪”八雲紫の、二人の為の大芝居。


「あなたが図書館の中から出なかった結果が、どんなモノかを」


 魔理沙が後ずさる。

 一歩、また一歩と。

 それを眺める紫の顔には、先程までの意地悪い笑みはなかった。

 能面のような無表情があるたけだ。


 パチュリーは動けなかった。


 ――私のせいであの子は死んでしまうのか?

 私が動けないせいで。

 私が動かなかったせいで。


 パチュリーはそんなに酷く魔理沙を嫌っている訳ではなかった。

 むしろ、彼女の努力を認めていた。

 あの歳で魔法を扱うのは、並大抵の事では無い。

 本の盗難に対して本気で動かなかったのも、半分は彼女の頑張りに免じての事だった。

 だが、もう半分は自分の怠惰。


 それが魔理沙を殺そうとしている。


 魔理沙は必死だった。

 紫がいつ、スペルカードを発動するか。

 それが問題だった。

 本当は逃げ出したかった。

 すぐにでも降参してしまいたかった。

 でも、それは出来ない。

 僅か十と少しの人生。

いや、魔法使いを志した時から考えると更に短い時間。

 ここで逃げ出すという事は、それを捨ててしまうという事と同じだ。

 幼き日に見た、満天の星空に流れる光芒に憧れ、魔法使いを志し、父親の反対を押し切り、一人で魔法の研究をし、今の今まで顧みる事無く過ごした日々。

 あの八卦炉は、その日々を共に過ごした思い出であり、魔理沙を一端の魔法使い足らしめる力である。


 命より、大切。


 生半可な事で口にしてはならないその言葉が、あの八卦炉には詰まっている。


 僅かでも可能性があるのにそれを捨てるというのは、小さな彼女にとって業腹だった。

 けれども、足は言う事を聞かず、体の震えは止まらない。

 また一歩、後ろにさがる。

 紫の口が開いた。

「動くと撃つ」

 あまり、抑揚の無い声。

 魔理沙の体が止まる。

 止まってしまった。

 足元に、一発の光弾が打ち込まれる。

「ああ、間違えたわ。撃つと動く、だったかしら?」

 もう撃たれても動けない。

 魔理沙は途端に恐ろしくなった。


 ――もう駄目だ。


 紫は一歩、また一歩と近づいて来る。

 魔理沙の足跡を辿るように。

 魔理沙は動けない。


 怖い。


 でも、それを精一杯我慢する。

 意味の無い意地。

 それだけは手離さずに済むようだ。

 紫が目の前にいる。

 幻想郷の大妖が。


 覚悟なんて出来なかった。

 ただ、なんとか目を瞑る事は出来た。


 右手を掴まれ、何かを持たされ、そして…


「さあ、目を開けなさい」

 魔理沙は恐る恐る目を開いた。

 目の前には可笑しげに微笑む紫。

 右手には自分のミニ八卦炉。

 何がどうなっているのかわからなかった。

 身体中から力が抜け、へたりこむ魔理沙。

「よく考えたら私、今日は一枚もスペルカードを持ってきて無かったわ」

 けらけらと笑う紫。

 よく見るとパチュリーも魔理沙と同じくへたりこんでいる。

 紫は一頻り笑うと、今だに地面に座り込んでいる魔理沙に尋ねた。

「で、どうかしら? 今の気分は」

 問われても、魔理沙の頭は上手く働かない。

「あー、うん。…もう、何がナンだか」

「あら、その右手にある物を見ても嬉しくないの?」

 紫は更に尋ねる。

「…それは、嬉しいぜ」

 それだけは確かだ。

「そうでしょうね。文字通り命懸けで取り返そうとした、大切な物なんだから」

 魔理沙は八卦炉をしげしげと見つめる。

「ねぇ、魔理沙」

 紫は諭した。

「誰にだって、大切なモノはあるのよ」


 その一言で十分だった。


 片時も手放したくないものの、その価値を理解するには、その一言で十分だった。


 魔理沙は今だ力が入らない体をなんとか起こし、のろのろと自分の家へ向かう。

 それを見届けた紫は、パチュリーの元に行く。

「あの、えっと、八雲さん」

「紫でいいわよ」

 パチュリーはまだ、虚脱状態から抜け出せないでいる。

 今までの人生の大半を本に囲まれて過ごしてきた彼女にとって、今日の出来事は大変な衝撃だった。

「…本当に殺しちゃうかと思ったわ」

「やあねぇ。そんな事してあなたにトラウマをつくっても、なんの得にもならないじゃない」

 それを聞いて、パチュリーは大きなため息をついた。

「…トラウマになったわよ」

 紫は微笑む。

「それは重畳」

 “妖怪の賢者”は満足そうだった。


 程無く、魔理沙が数冊の本を抱えてやってきた。

「パチュリー、すまなかったぜ」

 本をパチュリーに渡すと、魔理沙は素直に謝った。

「その、本当は返すつもりだったんだ。パチュリーが自分で本を取りに来るなんて今まで無かったから。ただ…」

 そこで言葉が詰まる。


 ――ああ、そうか。


 パチュリーは感得した。

 紫が自分を魔理沙の所に連れてきた理由も、魔理沙が本を賭けた弾幕勝負を持ちかけた理由も、やっと理解出来た。


 ――自分で動かない者が、いくら理屈で言葉を並べ立てた所で、人を動かす事など出来ない。

 私は、自分の言葉の軽さも鑑みず、自分の大切なものを軽いものにしてしまっていたのだ。

 魔理沙は実地で私の魔法を見たかったのだろう。私の大切な本を賭ければ、私の本気が見られると、そう思ったのだろう。

 まったく、他人を顧みない子だ。その知識欲には頭が下がる。


 そして、なにより。


 パチュリーは、自分が何もわかっていない、と言う事実を知る事が出来た。




「紫は凄いわね」

 自分を誉める言葉。

 久しぶりに聞いた気がした。

 魔理沙の家から紅魔館へ向かう道中、パチュリーが言ってくれた言葉。

「別に、私はそんなに凄くないわよ」

 私はただ、長く生きているというだけの、嘘つき妖怪だ。

 本当はあんな偉そうな事を出来るような存在じゃ無い。

「そんな事ないわよ」

 パチュリーは続ける。

「私はあなたのおかげで、今まで気づけなかった事に気づけた。…本当に感謝してるわ」

 私はただ、自分の昔の過ちを、あなた達に繰り返してほしくなかっただけだ。

 他人の大切なモノに気づけず、自分の無知に気づけず、その綻びによって開いた他者との隙間を繕う為に、自分は強いと嘘をつき、嘘に嘘を重ねて、嘘しかつけなくなった“幻想郷の大妖怪”のようには……

「ねえ、パチュリー」

「何?」

 この子には、本当の事をはなしておこうかしら。

「あなた、秘密は守れる?」

 私の、弱さを。




 ある春の日の事。


 ここは霧の湖の真ん中にある島に建つ館、紅魔館。

 その地下にある大図書館、そこに魔理沙は来ている。

 大図書館の蔵書を「一生借りる」為にだ。

 めぼしい本を物色していると、背後に人の気配を感じた。

 振り替えると、そこには八雲紫がいた。

「げっ!」

 魔理沙は驚いて固まる。

 あの冬の日の事はいまだにトラウマなのだ。

「あらあら、こんな所で何をしているのかしら?」

 微笑む紫。

 でも、目が怖い。

 魔理沙は言い訳を考えた。

 いろいろと。

「あの、えと、そのあれだ…」

 しかし、混乱した頭ではそんなに上手い言い訳は思い付けない。

 紫は魔理沙の帽子を掴んだ。

「あっ、それは!」

 引っ張り上げられる帽子。

 ばさばさとこぼれ落ちる本。

「これはいったい何かしら?」

 魔理沙は答えられない。

 紫は溜め息をつくと、魔理沙に言った。


「本を返す時くらい、こそこそせずに来なさい」


 魔理沙の帽子からこぼれ落ちた本は、少し前にパチュリーに頼まれてすり替えた魔導書の写本だった。

 それには原本よりも分かりやすいように、パチュリーの注釈が付け加えられている。

 わざわざ返そうとしてる所を見ると、すり替えられた事には気づいてないようだ。

 魔理沙はばつが悪そうにしている。

「それにしても、あなたが本を返しに来るなんて珍しいわね。明日は異変かしら?」

 魔理沙はすかさず答える。

「それは違うぜ。私はただ本をしまいに来ただけで、返しに来た訳じゃないぜ」

 そう言うと、床に落ちた本を手近な棚に詰めはじめる。

「………」

 妖怪の山の鴉天狗が聞いたらひっくり返りそうな理屈だ。


 あの冬の日以降も、魔理沙は勝手に大図書館の本を持っていく。

 そして、勝手に返すようになった。


 だが、鍵付きの棚に近づく事は無い。


「魔理沙」

「ん?」

 持ってきた本を棚に詰め込み、次に持っていく本を物色する魔理沙に、意地っ張りが取り柄の少女に、紫は言う。


「頑張りなさいよ」


 魔理沙一瞬、何を言われたのかわからなかったが、すぐに飛び切りの表情で答えを返した。


「もちろんだぜ!!」





 終





 

蛇足・ひなたぼっこ



 ある春の日の事。


 紫とパチュリーは紅魔館の一角、陽当たりの良いテラスにいた。

 椅子に座り、大きなテーブルの上にクッションを置き、その上に上半身をのべー、と投げ出して微睡む二人。

 とても幸せそうだ。


 パチュリーが紫から伝授された、至福の一時を過ごす方法その二十三。


 メイド長の咲夜に怪訝そうな目で見られた事もあるが、「これは太陽の魔力を効率的に取り込むための儀式なのよ」と説明すると、彼女も「はぁ、そうなのですか」と納得してくれた。

 その後、この紅魔館の主にして齢五百のお子様吸血鬼、レミリア・スカーレットにやたらと「何か悩み事があるの?」とか、「私で良ければ相談に乗るわよ」とか言われていたのだが…


「…でねー、レミィったら咲夜に叱られるとしゃがみこんで、うー、て…」

「…あらー、うちの藍も橙の姿が見えないと、ちぇぇぇぇぇん、て…」

 身内の恥を話の種にして会話を弾ませている二人。

 そのうちに、パチュリーがあの冬の日の、気になっていた事を話題にした。

「そういえばあの時、魔理沙は何を言おうとしたのかしら?」

 紫が尋ねる。

「あの時って?」

「ほら、あの冬の、弾幕云々の話しになる前」

 魔理沙は何て言ってたかしら?


 たしか…


 ――私が一生借りたって、お前達にはあっという間の事だろ? …それに…いや――


「あの時、魔理沙は何が言いたかったのかしら?」

 パチュリーの疑問を聞くと、紫は少し考え込んだ。

 そして。

「ふふーん、私わかっちゃった」

 自信満々の紫。

「ほんと?」

 パチュリーは尋ねた。

「ええ、まず間違い無いわね」

「ねぇ、教えてよ」

「それはね」


「私は部屋の片付けも出来ないって言おうとしたのよ」


 その答えを聞いて、パチュリーは膨れっ面になった。

「もう、真面目に答えてよ」

 しかし、紫は自説を譲らない。

「あら、私は本気よ。パチェはこの話、知ってるかしら?」


 …魔理沙は昔、あまりに酷く散らかった自分の部屋を片付ける魔法を研究していた事があり、その為の様々な実験を繰り返していた。

 しかし、出来た魔法を試みる度に、部屋の中は台風一過のような惨状が広がり、部屋の中が益々混沌となったので、流石の魔理沙も片付け魔法の開発を断念したという。


「…その話がどうかしたの?」

 パチュリーには全然ピンとこない。

「わからない? …この話を聞く限り、魔理沙は繊細な魔力操作がかなり苦手よ。そして、それが何を意味するのか…」

 まだパチュリーにはピンと来ない。

「パチュリー。“魔法使い”と呼ばれるにはどうすればいい?」

 そこまで聞いて、パチュリーはやっと理解した。

「捨食…」

 幻想郷では、ただ魔法が使えるだけでは“魔法使い”とは呼ばれない。


 捨食。


 食事や睡眠を魔力で代替するこの魔法を習得して、はじめて“魔法使い”と呼ばれる。

 それは、人間や妖怪といった区分と同等のものだ。

 この魔法は、魔力の循環を常に、緻密に操作する事が必要であり、その習得にはかなりの繊細さ、器用さが求められる。

 ちなみに、パチュリーは“魔法使い”の素質を持って生まれた魔女であり、捨食の魔法を学ぶ必要は無かった。

「魔理沙から見れば、あなたは自分の持ってないモノを持ってる存在だから、なおさら素直になれないのかもね」

 まあ、元々のひねくれ具合も酷いものだけど。そう付け加えると、紫は眠ってしまった。


 ………


 ――私も寝よう。





 完






 今回は本作を読んでくださり、ありがとうございました。


 本作は前の作品とは違う感じにしたいと思いながら書きました。

 うまく書けたか自分では判別できませんが、少しでも面白いと思ってもらえたら幸いです。


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