親しき者
注意!!
本作は東方Projectの二次創作です。
本作にはオリジナル設定が含まれています。
また、他の部分でも原作、または貴方のイメージとは違う設定があるかもしれません。
自分の持つ東方Projectのイメージが損なわれるのが嫌だと感じた場合は、速やかに読むのを中断してください。
でも、できれば最後まで読んでほしいです。
1・博麗神社にて
「…何か用?」
幻想郷の東端、博麗神社の境内。
自称“楽園の素敵な巫女”こと博麗霊夢は、箒を動かす手を止めると、目の前の日傘を差した少女に何とも迷惑そうな視線を向けた。
「あら、お邪魔だったかしら?」
欠片ほども邪魔をしたと思っていない少女は、紅白姿の巫女に対してどこまでも慇懃無礼に聞き返す。
「邪魔よ、邪魔。とっても邪魔。あなたのお陰で神社の掃除が全然はかどらないわ。でも、せっかく来てくれたんだからお茶くらいは飲ませてあげる」
あらあら、それはとっても嬉しいわね。
雀の涙ほどの感謝の気持ちを抱きつつ、神社の縁側へ向かう金色の髪の少女。その頭には、∞の字の赤いリボンがついたナイトキャップの様な帽子が乗っかっている。
少女の名は八雲紫。
妖怪である。
大凡、境界とされるモノなら手当たり次第に支配下に置く事が出来る能力と、無間の底の深さや北斗七星が北極星を食べるまでの時間を一瞬で求める事の出来る頭脳を持ち、空間の境界にスキマを開けて瞬間移動まで行う神出鬼没の大妖怪。
その能力故に神隠しの主犯とも、その知性故に妖怪の賢者とも、ただ単にスキマ妖怪とも呼ばれる幻想郷の首魁。
縁側に座り、のんびりと茶を待つその姿は、どう見ても十五、六の人間の少女にしか見えないが、齢は千を軽く超えているという。
「…ねぇ、霊夢?」
「何?」
何時まで待ってもお茶の準備をせず、こちらに見向きもしないで境内の掃除を続ける博麗の巫女に問う。
「さっき、お茶を飲ませてくれるって言ったわよね」
「言ったわね」
「でも、掃除をしながらお茶は淹れられないわよね」
「そうね、淹れられないわね」
「だったら何で掃除を止めてお茶の準備をしてくれないのかしら?」
至極真っ当な妖怪の問いに対し、博麗の巫女はこれまた至極簡単に答えた。
「飲ませてあげるとは言ったけど、淹れてあげるとは言ってない」
霊夢は紫の方を向くと、言葉を続けた。
「湯飲みと急須は用意してあるから、自分で淹れなさい。たしか、せるふさあびすって言うんだっけ? こういうの」
………
なんともはや。
紫は仕方なく、自分でお茶を入れる事にした。
紫が薬缶でお湯を沸かし、急須にお茶を淹れ、お盆の上に用意されていた湯飲みに注いで縁側へ運ぼうとした時、「おーい! 霊夢! 遊びに来たぜ!!」と元気の良い、というか威勢の良い声が聞こえてきた。
台所を抜けて茶の間に着くと、二人の少女が縁側を占拠していた。
紅白と白黒。
紅白の巫女はもちろん霊夢である。
白黒の服の少女も、一目見ただけで説明不要な、とてもわかりやすい格好をしていた。
御伽話の魔法使い。
波打つ金髪に黒い大きなとんがり帽子を被った姿は、絵本の中から出てきたようでとても可愛らしい。外見で唯一可愛いと言えない所は、少女とは思えぬ力強さを秘めた金色の瞳。
全体的な可愛らしさからは対象的なその瞳の輝きは、美点とするべきか、欠点とするべきか。
「おぉ!? 紫が私達に茶を淹れるなんて、異変の前触れか!?」
この口の悪さは間違いなく欠点だが……
「いきなりご挨拶ねぇ…はい」
お盆の上の湯飲みを一つ、白黒の自称“普通の魔法使い”霧雨魔理沙に手渡す。
「へへ、ありがとな」
魔理沙は上機嫌だ。
霊夢にも湯飲みを渡し、用無しになったお盆をスキマ経由で台所に戻すと、紫も縁側に腰掛けた。
その手には、ちゃんとお茶の入った湯飲みが握られている。
湯飲み茶碗も、お茶葉も、台所には初めから三人分用意されていたのだ。
紫が神社に来たのも、魔理沙が遊びに来たのも、たまたまだ。
なのに何故、人数分ちょうどの用意が出来ていたのか?
その事に疑問を抱く者は、少なくともここにはいない。
霊夢の勘の鋭さは、彼女を知る者であれば皆知っている。
彼女には、今日訪れる客の数も、幻想郷でたまに起こる『異変』の原因となる場所も、「何となく」でわかってしまうのだ。
妖怪の賢者の知識を以てしても、彼女の勘の良さの理由はわからない。
だが…
「何よ、紫。私の顔をじろじろ見て…」
八雲紫にとって、そんなのはどうでもよい事。
空に浮かぶ雲のように掴み所が無く、宙に踊る風のように自由な子。
博麗霊夢は好ましい。
それだけで良いのだ。
幻想郷の大妖は、霊夢の顔を見て微笑む。
「変なの」
霊夢が呟く。
「紫が変なのはいつもの事だぜ」
魔理沙が合いの手を入れる。
「あら、いつもおかしな実験をしてるあなたには言われたくないわ」
紫が言い返す。
なんて事の無い、無為なお喋り。
楽しい談笑の時間は過ぎてゆく………
2・月夜と過去の狭間で
博麗神社で霊夢達が他愛の無いお喋りを楽しんだ、その日の夜。
草木も眠る丑三つ時。
八雲紫は小高い丘の上にいた。
闇夜を跳梁する妖怪も、人里から近いこの場所には滅多に来ない。人里の者を襲ってはならない、という不文律が幻想郷にはあるからだ。
耳が痛くなるような静寂の中、紫は月を眺めていた。眺め続けていた。
そして、溜め息一つ。
境界を操る大妖、八雲紫。
彼女はかつて、月に住む者達に戦を仕掛けた事があった。
そして、負けた。
ぐうの音も出ないくらい、コテンパンに。
そもそもが勝負になっていなかった。
「懐かしい、わね」
だが、月を眺める彼女の脳裏にあるのは敗北の記憶ではない。
それよりもずっとずっと古い、親しき者の泡沫の記憶。その中にある、彼の者への想い。
彼の者の事は思い出せないが、それでも時々思い出す。
彼の者と、彼と共にある親しき者の事を………
3・勝利の塔
その昔、一つの塔が建てられた。
その塔の頂に立った者は、涅槃に至るという。
勝利の塔。
それは、穢れ無き世界という「勝利」を掴む為、建てられた。
その塔が忘れ去られてから、どれほどの年月が経っただろうか。
塔を建てた者達はすでに地上におらず、訪れる者は絶えて久しい。
だが、塔の中の幻獣は、いまだ来訪者を待ち続けていた。
我は、何故我が在るのかを知らない。
我が知っているのは、昇る時の高揚と落ちる時の恐怖。
それも、久しく味わっていない。
我はいつまで待てばよいのか………
訪れる者があった。
我は喜んだ。久遠の静寂の中では、如何なる変化も喜ばしい。例え一目で彼が、この塔の頂に届かぬ者とわかったとしてもだ。
我の望みは、塔の頂に至る事。それ以外の望みは無い。
弱き者が塔を登り始める。
我はその影にしがみつく。
それは規則のようなものだ。どれほど望みの薄い者であっても、我はその影に憑いて頂を目指す。
実際、昇るのは楽しい。
我が憑いた者が歩を進める度、我の身体は実を伴い、自身の輪郭が明確になっていくのを感じる。我が憑いた者が螺旋を進み続ける間、我はその者の知識で思索に耽る事ができる。
塔を昇る、その一時が我の唯一の楽しみ。
だが、楽しい時はあと少しで終わってしまうようだ。
我が憑いた者は、前のめりに倒れ込んだ。
この塔は、登る者に多大な消耗を強いる。
或いは、我が憑く事が消耗の原因なのかもしれぬ。
どちらにせよ、並大抵の者では、塔の頂を見る事は叶わない。
我は備える。その行為が無意味な事だとわかっていても。
…程無くして、我が憑いた者は息絶えた。
影が消える。
我は依るべきモノを失い、地に引き寄せられる。
螺旋階段を転げ落ちる内に、我の身体は砕け、記憶は散り、意識は曖昧になってゆく。
………
気がつくと、我は最下層にいた。
先程まで在った、身体も知識も、全て飛び散ってしまった。
塔を昇り、落ちたという事。それが楽しく、辛かったという事。
それ以外、何もわからない。
いつもこうなのだ。
例え、我が憑いた者が塔の頂に達したとしても、我自身が頂を踏む前に影は消え、我は恐怖の内に地に落とされる。
最初の者達は皆、頂に達した。だが、誰一人として我を其処に連れていってはくれなかった。我に気づかなかった。
そして、我は一人になった。
我は来訪者を待つ。
待ちながら考える。
我はいつまで待てばよいのか、と。
時は流れる。
流れ続ける。
どれほどの時が流れ、過ぎていったか。
我は知らぬ。
流れ、流れ、流れ。
何もかもが流れ去り、時のみが流れ。
果てを知らぬ時すらも流れ去った後、
我は彼と出会った。
彼が何者であったか、我は思い出せぬ。
我は確かに見た筈、我は確かに聞いた筈、我は確かに感じた筈だが、彼の事は何も思い出せない。
我は彼とは違うものになったから。
彼は今までこの塔を訪れた者達と、明らかに違っていた。
何が違っていたのかは、わからない。思い出せない。
彼が男だったか女だったか、どんな顔をしていたかも思い出せない。
憶えているのは、彼に抱いた一つの想い。いや、確信か。
彼は、我を頂に連れていってくれる。
我は久しぶりに、いつも通りに、訪問者の影にしがみつく。
彼も、今までの訪問者と同じように永劫の螺旋を登り始める。
彼との螺旋階段の旅は楽しかった。
彼は素晴らしい早さで塔を登り、我は今まで感じた事の無い早さで流れる景色を見た。
その中にあったのは、今までの者達が頂きに至り、或いは果てる度、砕けた我が残した記憶。
この塔に挑んだ賢人達の、その精神に潜んでいた、それぞれの想いの有り様。
それらは、言い表すなら色であり、光であった。
混ざってしまえば変質し、他の何かになってしまい、最後は白か黒になるしかない、終わりを迎える生命の彩り。
巡る螺旋の直中で、それらの想いが織り成す煌めかしい世界は、走馬灯のように流れ来て、流れ去っていく。
塔に堆積した幻想の中を突き抜ける、心地良き疾走。
彼の知識も素晴らしかった。
これまでこの塔を訪れた者達の知識は階段を転げ落ちる度に失われていたので、それらと比較する事はできなかったが、得られる喜びの大きさは各々違った。
彼の知識は、今までで一番大きい喜びを我にもたらした。
生まれ来る事の必然を知り、死に行く事の秘密を理解し、世に理の無き事を受け入れ、数々の秘事が秘事では無い事を悟り、全てをおさめた彼の知的体系を巡り辿る思索の旅は、我をどこまでも自由にした。
我は満たされていた。
塔の頂に行けば得られると、漠然と思っていたものが、今は全て我の中に在る。彼の中に在る。
これまでに無い喜びの中、我は初めて我の望みを忘れた。我を忘れた。
そして、彼は塔の頂に至った。
4・涅槃に至る
気がつくと、我は今まで見た事の無い場所にいた。
壁は消え、天は深く底知れぬ青に沈む太陽が支配し、地は彼の周り以外に無い。地の淵から望む彼方には、白く柔らかそうな雲が広がっていた。
我の身体は完全な実体を得ていた。塔を落ちる度に失われた筈の挑戦者達の知識も、塔を突き進む中で見た幻想も、欠ける所無く頭蓋の中に納まっていた。彼から得た知識も同様だ。
彼が我を見ていた。
我がそれに気づくと、彼は微笑んだ。
その瞳の中に、我はいた。
彼と同じ姿で。
我は、彼に近づいた
そして、我は彼に話しかけた。
初めて、人と話した。
楽しかった。
それだけは今でも思い出せる。
天から太陽が消え、辺りが夕闇に包まれ始めた頃、我と彼の話は終わった。
それと同時に、彼に変化が起きた。
彼が消える。
そう見えた。
彼の身体は淡くなり、霧のように広がってゆく。
――その様子を見て、勝利の塔の幻獣は全てを悟った――
我という幻影の色を、捨てるべき幻想の光を伴って涅槃に至る。
――穢れを、想いを、何を別つ事も無くこの場に立つ――
それは、この塔を築いた者達ですら考えの及ばなかった完成であり、その域に達した者には、もはや自身というものは必要無い。
彼は遍く世界へ広がってゆくのだ。
そして、我も…
――幻獣の身体にも同じような変化が起きていた――
自身の境は曖昧になり、ありとあらゆる境目、境界に広がってゆく。
無限に拡散していく彼を、無限に受け止める為に。
無限の彼の、無限の器となる為に。
…彼はとても好ましいから。
我が、此処ではない何処かへ広がってゆく。
その寸前に見えた、ああ、あの丸い月は、とても、とてもきれいだった。
終・親しき者
我は、ありとあらゆる境界に広がった。
我は、彼を受け止めたかったから。
有と無。海と陸。天と地。表と裏。光と影。動と静。陽と陰。過去と未来。乾と坤。永遠と須臾。宇と宙。夢と現。人と人。
その、どこにも彼は来なかった。来る筈が無かった。
彼はありとあらゆるもの、そのものになったのだから。
我は彼を受け止めたかった。
だが、それは叶わない。
我が彼に受け止められているのだから。
そして我は、ありとあらゆるものが『我』を保つ為の『境界』そのものとなった。
辺りには、境界を観測する「眼」が浮かんでいる。
我がありとあらゆるものの境界となった時、我の思考に幾千幾万幾億幾兆の貌が表れた。
沸き立つ湯に生じる泡の如く生まれ出でたそれらは、世の諸々の事象と我との間に生じた摩擦のようなものだった。
際限など無く生じるそれらの意識達は、その殆どが、何も出来ず、自分を知らずに消えてゆく。
が、中には例外もある。
「久しぶりですわね」
この貌の様に。
「今夜のお月様はとてもきれいでしたわ。あなたの事を思い出してしまうくらいに」
この貌は、ある人の子が我を、即ち境界を垣間見た時に生じた貌だ。
その人の子は我を見る事に長けていたらしく、我との相性はとても良かった。その為、この貌は他の意識とは比べ物にならないくらい安定していた。
「で、あなたはいつまでその失礼な思考を続けるつもりなのかしら?」
我の貌、いや、八雲紫は、我を見透かしたように言った。
途端に我は、彼女との因果を把握できなくなる。
「私はいつまでもあなたじゃない。私は私よ」
八雲紫は宣言した。
そう、彼女という存在は我から離れつつある。
人の子が我を覗いた時、我も彼女という人格を通して人の子の心の中を見た。
そこには、楽園に通じる扉があった。
我の貌であった紫は、その扉の向こう側を垣間見た。
そこに在ったのは、人の願望とも、夢の国とも違う幻想の世界。
無意識の中にあるそれは、人が蟻の思考を読めぬように、今の我にはよくわからぬモノだったが、我の末端である彼女はその虜になってしまったのだ。
当然と言えば、当然である。
自身の写し身とも言える人の子の、無意識の中の理想郷。
八雲紫のように心身が安定している者ならば、我の意よりも、そちらに惹かれるというのも頷ける。
以来、彼女は度々我の影響下を離れ、自身の理想郷建設に邁進している。
その場所は、あの人の子がいる所からは目と鼻の先だ。
人の感覚で言えば、大体二、三百年から千年程度遡れば辿り着けるだろう。
彼女はその場所の事を「幻想郷」と呼んでいる。
八雲紫は語り始める。とても誇らしげに。
自分の築いた郷がどのようになっているのか。どんな者達が居るのか。どんな事が起きたのか。
自律し始めているとはいえ、彼女は我の貌である。伝えたい事があるなら思うだけでよい。
だけど、彼女はそうしない。己の口で語る。身振りで示す。力一杯に。人の子のように。
まるで、それが自身の証明だとでも言うかの様に。
「…ふぅ、楽しかった」
一体どれほど語っていただろうか。幻想郷を愛する者は、その物語を語り尽くした。
楽しかった。
彼と共に螺旋を昇った時と同じくらい、楽しかった。
「ふふ、どうでした? 私の話は」
我は告げた。
目の前の少女と同じように、自分の口で。
答えを聞くと、少女はとても満足そうに微笑んだ。
「楽しんで頂けたのなら恐悦至極。…ついでにもう一つ、見せたい物がありますわ」
そう言うと、彼女は一枚の符を取り出した。
「これはスペルカード。私達の遊び道具」
先程の話にも、幾度か出てきた制限装置。
この符を使った決闘のおかげで、人も妖怪もある程度は平等に戦う事が出来るという。
「今、私が持っている物は、つい最近作ったばかりの最新作」
紫は符をひらひらと舞わせる。
「あなたがモデルの、スペルカードですわ」
発動。
すると、我の周りの「眼」が我の支配を離れ、一斉に我の方を向いた。
「…でも、ここではあんまり面白くないわね」
そう言うと、紫はスペルカードを停止した。
「このスペルカードの名は、魔眼 ラプラスの魔。ありとあらゆるモノを観測し、未来の全てを見通す概念上の魔物」
八雲紫はクスリと笑う。
「その、概念上の魔物と同じような事が出来る者がいるなんて、魔物の名付け親でも想像出来なかったでしょうね」
確かに、あらゆるものと接する我なら、それに似たよう事も出来るだろう。
たが、それは何の意味も持たない。
我が何かを知り、それを変えたいと願ったとしても、我が動けば全ての事象が変動する。
その変化は蜘蛛の巣を伝う振動のようにあらゆる時空を伝播し、我の変更した事象に影響を与え、結局は予測不可能な事態へと変えてしまう。
無限の演算をもってしても、無限の変動は追えない。
つまり、我は全てを知る事が出来ても、何も思い通りにする事が出来ない道化だということだ。
八雲紫の痛烈な皮肉。
…本当に、目の前の少女が我から生じた者なのか、疑念が湧いてきた。
「さて、もうそろそろお別れの時間ですわね」
彼女は自分のスキマを開く。
「本当に、名残惜しいですけど」
スキマの向こうに見えるのは、彼女の夢か。
「また、会いましょう」
彼女が帰る。自分の世界へ。
「さようなら、ハザマ妖怪」
…さようなら、スキマ妖怪。
彼女の世界が閉じられた。
終
後日・八雲紫
「…り、ゅかり。ちょっと、起きなさい」
声が聞こえる。
………
「あ、れいむ」
「あ、じゃ無いでしょ」
目を覚ますと、そこは小高い丘の上だった。
目の前には霊夢がいる。
「まったく、なんでこんな所で寝てるのよ」
ああ、そうだ。私は昨日、月を見ていた。
月を見て、鼻持ちならない月人達の事を思いだし、そして懐かしい知り合いの事を思い出して…
「…古い知人に会いに行ってたのよ」
「はぁ? …あんた、寝惚けているの?」
霊夢は呆れ顔で私を見る。
「ホント、心配して損したわ」
まあ、嬉しい事を言ってくれるわね。
「霊夢が私の事を心配してくれるなんて、明日は雨かしら?」
霊夢の事を茶化したら、替わりに傘が差し出された。
「霊夢は本当に気が利くわね。いまから明日の用意をしてくれるなんて」
「何、すっ惚けた事を言ってるのよ。あんたの日傘でしょ」
目の前にあるのは私の日傘。
神社に遊びにいく為に、わざと置いてきた口実。
もっとも、こんなものが無くたって、気が向いたら会いに行くのだけど。
「今日は暑くなりそうだから、気をつけなさいよ」
本当に、気が利く子。
彼女が暑くなると言うのなら、本当に暑くなるのだろう。
本当に。
「ねえ、霊夢」
「何?」
もう、何処かへと行こうとしている彼女に…
「ありがとう」
感謝を伝える。
彼女は振り返りもせず去っていった。
彼女にとって、全ては等価値。
幻想郷の大妖である私も、ただの人である友人も、自分自身でさえも等しく見定める彼女は、きっと、彼の者と似ているのだろう。
故に彼女は好ましい。
好ましき人よ、ありがとう。
此処に居てくれて。
私の側に居てくれて。
私の紡ぐ幻想の、その直中に居てくれて。
ありがとう、霊夢。
八雲紫が扇子を取り出すと、一枚のスペルカードがはらりと落ちた。
使用済みの、その符の名は『ラプラスの魔』。
あらゆる狭間に潜み、全てを見通す幻獣は、この幻想に何を想うのだろうか?
完
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この作品は、私が完成させる事の出来た初めての作品です。
至らない所まみれだと思いますが、無い知恵絞って書いた作品ですので、本作を読んで何か想う所があれば幸いです。
本作を読んでくださり、本当にありがとうございました!!
※ 2012年2月、本作に修整を入れました。




