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アルティメイト ~最凶な世界でもエンジョイライフ~  作者: ちょばい


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21.トラッパー様!参上だぜ!

【???視点】


「よう、何か変なことされなかったか?」

「少しの間だけど一緒に逃げた仲、なんでも相談に乗るよ?」

「何もされてないわ、普通に私の今後の話をしただけよ」


独りだけボスの執務室に残された私のことを、2人はわざわざ心配して待っていてくれたのだ。

この冷徹な外の世界にしては、随分と温情のある奇妙な連中だ。……本当に壁の外で育った人間よね? 聞いてないから確証はないけれど。


私たち3人の子供は通路を移動し、一度あの真っ白に荒らされた食料庫を経由して、私の仕掛けたトラップのせいで粉まみれになった保存食の缶詰をいくつか回収した。そして、ついさっきまで人身売買クランのクソ従業員どもが、美味そうに飯を食っていたであろう休憩スペースへと移動し、それを食べることにした。


周囲の床や壁には、ピエロが気まぐれに暴発させた死体や、肉を弄ばれた新鮮な死骸があちこちに散らばっているけれど、そんなことを一々気にしていたらこの世界じゃ生きていけない。


部屋の奥には、同じようにピエロに買い取られ、これから別の大人へ引き渡されるのを待っている子供たちのグループが、いくつかの塊になって静かに固まっていた。


さて…


「ねぇ…あんたたちは、どうやってあのピエロに捕まったの? 私が一番最後のハントだったみたいだから、純粋に気になってたのよね」

「そこかよ、俺的にはもっと別の話をしたかったんだが…」

「私は、普通に地下通路を逃げてる途中で、これ以上の逃亡は物理的に無理ゲーだって理解したから、大人しく自分の足で戻った。そしたら、甘いお菓子貰えた」

「…ああ、クソ!俺は罠にかかったんだよアイツの!どんな罠かは…言いたくねぇ!」


なるほど。あいつが私の食料庫に現れた時、すでに二人を捕獲していたのに、信じられないくらい到着が早かったのはそういう理由ね。


「お前こそ…あの野郎に一発かましたんじゃねぇか。正直驚いたぜ」

「ん。普通に、人間業じゃないと思う。あいつに直接攻撃を命中させるなんて」

「私もあんなにしっかりかかるとは思わなかったわ…」


言われてみれば……。当時は「どうせ逃げられないなら、せめて一矢報いてやる」っていう無駄な足掻きと割り切っていたから深く気にしてなかったけれど。




ピエロは言っていた。仲間になる最低限の条件は前線に一人で行って帰ってくること。


そもそも前線を探索するウォーカーなんて、この外界でも一握りの、命知らずのバカか本物のバケモンだけだ。あんな殺戮だけに特化した生物兵器や、旧文明の自律式機械が跋扈する地獄へ行くなんて、あり得ない。ここを拠点にしていたクソ野郎どもだって、「命懸けで前線を漁るより、無力な人間を狩って売る方が遥かに楽で安全だ」っていう思考だったはずだ。


もちろん、大規模な組織を組んで計画的に前線を探索している大手もいるけれど、そんなプロの精鋭たちですら、一回の探索ごとに何十人も肉片になって死んでいると聞く。


しかし、あのピエロも自身もその「クランの条件」を余裕でクリアしているはずだ。つまり、実際に独りで前線を探索できるほどの実力の持ち主ということだ。

そんな次元の違う人物に対して、非殺傷とはいえ、十歳の私の即席の罠が完璧に命中した。

――つまり、私には、そういう系統の『異常な才能』が、生まれつき備わっているということ。


「だから私の師匠はあの【トラッパー】なのかな…」

「マ、マジかよ……っ!?」

「嘘……っ!」


2人の子供が、驚愕のあまり椅子を蹴立てて思わず立ち上がった。そりゃあそうだ……外を生きる人間で、その最悪な男を知らない者はいない。別のテーブルに座っていた子供たちも、ギョッとした恐怖の表情で一斉にこちらを凝視してきた。


「どうやら私たちは、思っている以上にトンデモない化け物たちの組織に放り込まれるみたいよ? ……なんだか、少しだけ楽しみになってこない?」

「…大丈夫なのかよ…トラッパーはキチガイって噂よく聞くぜ?」

「私も、捕らえた人間の腸を生きたまま食べて喜ぶ、悪魔みたいな人間って聞いたことある」


そうよね。トラッパーというウォーカーについては、裏社会でもそういう頭のおかしい残虐な噂ばかりが先行している。しかし――。


「うせ、外の有象無象が尾ひれをつけたただの誇張でしょ。ピエロが言うには、友達として付き合う分には、これ以上なく面白くて最高にいい奴らしいわよ?」

「アイツの話丸呑みかよ…アイツ基準の面白いは信用できねぇぜ」


男の子の方は、完全に疑心暗鬼に陥っている。まぁ、その怯える気持ちもよく分かるわ。しかし、女の子の方は、どうやら私と同じ直感(意見)のようだった。


「…あのピエロがそこまで言うなら、本当に、本質的には面白い人なのかもしれないね」

「おいおい、お前までそっち側に行くのか…」

「思い出してみて。ピエロがさっき話してくれた『私たちのこれからの処遇』についての説明……あいつ、私たちに対して嘘をつこうとか、騙そうっていう雰囲気が、肌感覚で全然無かった」


ええ、確かにそうね。

あいつの言葉には、弱者を騙し討ちするための姑息な嘘を混ぜようとするノリではなく、私たちみたいな子供の脳のスペックでも、ルールを完璧に理解できるように、あえて実直に話を噛み砕いてまとめてくれているような不思議な響きがあった。


「だから嘘はないと思う。あと、確かにピエロは狂った人間だったけれど、戦闘以外ではちゃんと会話が成立する普通の感性も持ってた。きっと、次の場所は本当に大丈夫」

「…お前らがそう言うなら、そうなのかなぁ?」

「あなたもそう言ってくれるなら、少しは安心できるわね」

「ブイ♪保証する」


安心したら普通にお腹が空いてきたわ。

私も食べよ…


『――あー、商品番号74番さん〜。あなたのお師匠様がお迎えに到着したから、今すぐ地下駐車場の方へ移動してね〜。地図は食堂の出入り口のコンクリート壁に貼ってあるよ〜』


不意に、気の抜けた館内放送が売買所全体に響き渡る。……いくらなんでも早すぎよ。ピエロとの話を終えてから、まだ一時間も経っていないわ。


「じゃあ……私は、先に行くわね」

「ん、見送る」

「俺も上まで行くわ。二億のトラッパーが一体どんな面した奴か、この目で拝んでおきたいしな」


2人の子供も、一緒に付いてきてくれるようだ。

初めて会う師匠を前に、実は少しだけ心臓がバクバクしていたから、身内がいてくれるのは素直に助かる。

通路を歩いている途中、男の子の方が唐突に思い出したように呟いた。


「…そういや俺たち自己紹介してなかったな」

「あっ、私も…」

「しなくていい。また今度、もし生きて会えたらしよう」

「それもそっか」







私たちは、薄暗い地下駐車場の巨大なハッチの前に到着した。

ここに、世界中のシェルターやクランから命を狙われている超一級の犯罪者がいると思うと、嫌でも胸の鼓動がドキドキと激しくなる……。

重厚な隔壁の向こうから、何やら騒がしい大人の話し声が聞こえてきた


「アハハ、髪に赤いメッシュ入れようとしたら全部真っ赤になったって…本当に最高にバカだねぇ!」

「うるせぇぇぇえええ!!こうなるはずじゃなかったんだ、俺様の計算じゃよぉ……っ!」


ピエロと、聞いたことのない情けない大人の男の言い合いが聞こえてくる。

……恐らく、あの真っ赤な髪の話題でキレ散らかしているそいつが、私の師匠トラッパー――。


「なぁ……。なんか、思ってたよりすげぇ、知能の低そうな会話をしてないか?」

「ん。やっぱり私の予想通り、本質的には最高に面白い奴そう」


あれ? 私が想像していた「プロの面白いウォーカー」とは、何だかベクトルの方向性が少し違う気がする。……どちらかと言うと、単なる不器用なアホのような……


「お、来た来た。おーい!」


ピエロが手を振っていた。あいつは相変わらず女装の美少女スタイルのままだ。さっき私の接着ゼリーでドロドロのネバネバになっていた髪や顔スキンは、どういう超技術で洗浄したのか分からないけれど、綺麗さっぱり元通りになっていた。


そして、その横に仁王立ちしている、髪の毛が文字通り『真っ赤』に染まった男が、視線をこちらへと向けてくる。

服装はお世辞にも高級とは言えなかった。ボロボロのジャケットに、だらしないズボン。まるでその辺の路地裏に転がっているチンピラと何一つ変わらないスタイル。

その真っ赤な頭の男が、フンスと鼻を鳴らして、これでもかと大袈裟にポーズを決めて自己紹介を始めた。


「ようっ!! 俺様こそが、外にその名を轟かす無敵最強のトラッパー様だ!! 気軽に『師匠』と呼んでくれて構わんぞ! ――ふっ、俺様も、ついに輝かしい師匠デビューの時が来るとはな……ッ!」


なんか、めちゃくちゃ前髪をかき上げながら超格好つけている。

ピエロが隣で床を叩きながらケラケラと爆笑しているので、きっとこのクソダサいノリが、この男にとっての平常運転(通常運転)なのだろう


「……はじめまして。よろしくお願いします、師匠」


私はカッコつけを気にしないことにして、

自分の右手を師匠に差し出した。


「よろしくな!」


師匠も自身の右手を勢いよく出して私の手を握った。


「で、後ろの2人は?」

「いいえ、ただの見送りよ」

「ん。大事な友達の見送り」

「そうか! お前、こんな短い間に、もう『ダチ』ができてたんだな!」


師匠は一瞬だけ、その真っ赤な髪の奥の瞳を丸くしたが、次の瞬間にはウキウキとした嬉そうな表情を浮かべた。


「いいか弟子、この外において、背中を預けられる『ダチ』ってのは何よりも大事だ!情報端末をやるから、さっさとその二人に連絡先を渡しといてやれ」


師匠は、彼が背負っていた――恐らくは私専用に用意してくれたのであろう、サイズの小さなバッグの中に手を入れ、中から見るからに最新鋭の、チタンフレームで覆われた頑丈な情報端末を取り出して私に手渡した。


驚くほどスペックが高そうな端末だ。画面をタッチした瞬間、脳の思考と同期するみたいにサクサクと超高速で動作する! 私はピエロが渡してくれた紙の連絡先コードを書き、2人の手渡した。


「ぜってぇ連絡するからな?」

「ありがと」


私は頷き、後ろを振り返る。

そして師匠がバッグを渡してくれたのでそれを背負った。


「それじゃあ早速行こうぜ!」

「――はい、師匠!」

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