◆38 こんな時に優越感を感じるとは
遂に、第二皇子殿下の成人の儀がやってきた。
この日は、運命の日ともなる。
もちろん俺にとっても、そして――
「ダンテ!」
「……どうしてあなたがここに?」
「だって、城に行くんでしょ?」
「その前に成人の儀でしょう。お忘れですか」
大人しくしていたと思ったら、やはり今日は来たか。
元婚約者は馬鹿らしい。皇太子と第一皇女の成人式パーティーにも参加しただろう。そこまで頭がイカれたのか。
皇城にて行われる成人式パーティーの前に行われる成人の儀は、高位貴族や重鎮達によって見守られて行われる。そのため、会場となる神殿に入れるのは高位貴族の当主のみ。彼女の父は会場となる神殿に入場出来たとしても、ただのご令嬢である彼女は入れない。
準備していたブルフォード公爵家の馬車に乗ろうとしていた元婚約者を引っ張り出した衛兵。すかさず俺が乗り込んでドアを閉めてしまった。衛兵が取り押さえたため、すぐに出発することが出来た。
まぁ成人式パーティーには彼女も参加する事となるからまた会う事となるがな。
ちらり、と後ろ側の小さな窓を覗くと、思った通り侯爵家の馬車が着いてきている。大きな溜息をつきつつも、椅子に座り直した。その執着心とやらは、呆れを通り越して感心するな。皮肉の意味で。
神殿に着くと、やはり降りた時に駆け寄ってきたストーカー女。無視して速足で神殿内に急いだ。
「ここから先はご令嬢は入場出来ませんよ」
「ダンテ!!」
着いてきていたストーカー女は、思った通り神殿に配置されている騎士達によって押さえられていた。これが決まりなのだから当たり前だろう。お前も腐っても貴族の令嬢なのだからこれくらい理解していると思うのだが。
いや、もう頭がイカレているから分からないのか。もうどうしようもないな。一体侯爵は令嬢をどうやって育てたのやら。
「おやおや、ブルフォード公爵の熱烈なファンですかな」
「こんにちは、ラモスト公爵」
「えぇ、こんにちは。ブルフォード公爵も罪な方ですな」
「こんなめでたい日に耳の痛い話はやめませんか」
「それもそうですな、はっはっはっ」
笑い事ではない、勘弁してくれ。頭が痛くなりそうだ。
高位貴族であるルアニスト侯爵とはどうやってもここで顔を合わせる事となってしまう。以前訴えた件もあるから、怒鳴り散らしてくるのではないかと心配はしていたが、案外大人しかった。
とはいえ、俺は公爵方と話をしていたから俺に話しかけることが出来なかった、が正解かもしれないが。さすがにここに割り込んでくるほどの馬鹿ではなかったらしい。お前の娘なら入ってきたと思うがな。
そして時間通りに、成人の儀が始まった。俺の中では、成人式と言われると着物やスーツを着て、偉い人の話を聞いて、というのが常識である。だがこの国、しかも皇族の方はこの国の神聖なる神殿で行われる。しかも肩に剣を乗せるときた。俺なら恐ろしくて勘弁だな。
一応、皇太子殿下や第一皇女殿下の成人の儀の様子は覚えている。流れなどは頭の中に入っているから違和感なく見守ることが出来た。
俺の視界に入るシリル殿下、第二皇子殿下は俺に一切視線を送る事はなかった。昨夜まで共に逢瀬を重ねた関係だというのに、何故か殿下と俺との間に線が引かれているように感じる。殿下が、遠い存在に、感じる。
俺は、この国の公爵家の当主。そして、皇族の血も受け継ぐ人物。そのはずなのに。
あーあ、これでシリルも成人になっちまった。大人としての威厳が、だのなんだのと残念がると思っていたのにな。はは、大人げねぇな。
だが、昨日のシリルの顔を浮かべると……今目の前にいらっしゃる第二皇子殿下とは別人に思えてしまうな。
もうそろそろで、この関係が終わるというのに、こんな優越感に浸っている俺はどうしようもない奴だ。
次回、最終回。




