龍帝が如く
「ゴキゲンヨー!こちら、石動鉈打の魔法少女集会室であっていますでしょうか?」
「ゴキゲンヨー!あってますよ!どうぞー!」
「失礼しまーす!集会主さんでしょうか?」
「あ、私、当集会所属の新人ですから、かしこまらないでくださーい。あ、自己紹介しますね!」
「あ、私の方からさせてください!全然そんな、ひよっこなんで」
「いえいえ!私も全然そんな、ひよっこなので!私の方から」
「いえいえ!私こそ、って押しモンドーですねこのままじゃ。えへへ。でもでも、やっぱり私から」
「ではでは、お譲りしますね!逆に失礼だったらすみません」
「お譲りいただきありがとうございます!はじめまして!私、死路ノ島出身、集会名DoGoOdに、小さな個人サークルですケド、所属している新人魔法少女、無患子躯枢柩と申します!終末絆断御呪言!」
「ご丁寧にありがとうございます!確かにお客さまとははじめましてになりますね!私、当集会石動鉈打の主宰、白峰菊利の下で活動しています新人魔法少女、死体花ダブルカヌードカラーです!終末絆断御呪言!」
魔法少女の伝統、挨拶回りをフジキゲンノショウコから教わっていて良かった。
石動鉈打集会室、と彫られた看板を掲げる屋敷。その門前で無患子の名を騙り、集会の主宰へ取次を頼んだ。
僕を無患子と誤解していた例の老人に連れられた先で、梅鉢千代古のおぞましい話を聞き、とても僕らでは対処しきれない内容の為に、こうして地元有力者を訪ねたのだ。
ここの魔法少女たちは明確に、僕が本物の無患子でないことに気付いているようだが、向こうにも何か思惑があるのだろう。畳敷きの応接間で革張りの長椅子に座り待っていると、武装した若衆魔法少女たち、ではなく、ちゃんと主宰の白峰菊利がやってきた。
「たまたま城下に立ち寄れば、面白い人に会えたね」
腰に吊った革鞘を下ろし対面に座る菊利。この革鞘に包まれた、特異な剣鉈の形をとる魔法少女武器は菊利刀と称される彼女の代名詞だ。
この菊利刀と、土と火と水の三属性混合による彼女独自の応用呪文『水晶暴威』との合わせ技によって近接戦闘では無敗を誇る彼女は、黒龍領南西部白峰の顔役。魔法少女にして侠客の、背筋も凍る怪物。つまり無患子と同じ種類の人物である。確実に彼女とも面識があるだろうに、無患子の偽物とわかってて僕に会ってくれた。
座興と思ったか知らないが、兎に角ここから更に興味を持たせれば、乗っかりたいと思わせれば勝ちだ。そう思い込むことにした。
「ふぅー☆暑い暑い。挨拶に粗相があってはいけないと、緊張してたら汗かいちゃいました」
「ふぁー、ティーンエイジャーのフェロモンがこっちまで漂ってきてますょー」
「ぱ、パンツがエグいことに。凄い。流石は獣人ね……」
ギャラリーの魔法少女たちがざわめく。古今東西、悪鬼羅刹魑魅魍魎は下ネタに弱いもの。尻穴から鉄餅だって食ってやる!
(乗っかりたいと思わせるって物理的な意味でブヒ!?もっとこう、世間をあっと驚かせると言うか、社会問題をぶち壊すような大風呂敷を広げて侠客の心を動かす、みたいなニュアンスでなくて?)
(アチキが広げられるのは褥くらいだよ☆)
屋敷の入り口にて控える桔梗姫橘から、遠隔でツッコミがくる。他の獣人からの盗聴対策に、他愛のない会話しか出来ないが、それでも勇気が湧いてくる。
世間知らずの元服前が捧げられるものなんて、この身ひとつだけである。もちろん策はあるが、しょせん浅知恵で糊塗した紛い物。上質なら紛い物でも頗る美味しいが、僕のそれは人造バターなんて呼ぶには烏滸がましい。もっちり熱々に焼いたパンに塗って初めて香り立つ技量未熟な粗悪品である。さあ!このふわもちのパンごと齧れ!お前たち魔法少女がこの手の作戦に弱い事は、ここ数日の冒険で知っているぞ!
「うっふーん☆」
「その艶かしい肌……」
巻いていた包帯も解く。ここ数日の冒険でついた傷、己への自傷も含み、癒し隠していたそれを。己の持てる全てをさらけ出した。
自傷した腕や、ダンジョンでの冒険で負った各所の傷跡に、瘡蓋が取れたそのあと、赤い赤い鱗が生えていた。換毛期と思っていたここ1ヶ月ほどの異様な発毛のサイクルは、体が作り変わる予兆だったのだ。
ダンジョンへの冒険、そこで得た獣人由来の細々としたアーティファクトによって肉体の変化が加速。僕はハイエナ獣人からヘビ獣人へと肉体が置き換わっていく最中らしい。
『メロウ。偉大な血をひく子よ。お前なら魔法少女になれる』
かつて父が僕に言った言葉を思い出す。僕はてっきり、父公認のもと、母親が祖父と不義を働いて、いや、どうにかして盗み出して僕を孕んだ、と思っていた。あの二人の祖父への崇拝は、やりかねないくらい極まってたから。
現実はもっとおぞましい。龍帝は、僕が生まれるずっと前に死んでいるのに。大罪人桔梗姫橘の手によって。そこから内乱が始まって、母親は三途河国に嫁ぐ事になったのだから。
あの母親は、その一族はどうにかして保存していたのだ。そして父と共謀して僕を生んだ。
この赤い鱗。龍帝の直系でなければ有り得ない。皇孫の珊瑚蛇殿下ですら、血が薄れその鱗は桃色と聞く。目の前の白峰菊利も理解している。ハイエナ獣人の末裔で龍帝の血も引く僕は、祭と政の両方において高い価値をもつことを。
「ハッハッハ!これは一目惚れだ!この菊利、あなたにメロメロです!」
「惚れることを許可するわーん☆代わりにアチキと一緒にこの国めちゃくちゃにしてーん」
「おうともよ!」
(なんか上手くいってるブヒィィィィ!?)
桔梗にはこの鱗を見せていない。そして、目の前の菊利は外にいるブタ獣人の正体が桔梗であることは当然気付いているだろう。だから、この赤い鱗を見せた意味もわかった筈だ。
桔梗姫橘は頭が良く、人格も優れていて生真面目だ。ここ数日の一緒の冒険からも明らかなように。今もその愚鈍な演技のウラで、企んでいるか、企みを勘づいているかしているだろう。しかし彼は生真面目で、常識を重んじる傾向がある。かつて、規格外すぎて僕が憧れたあの人に対処できず負けた様に。まさか龍帝に、死後何年も経ってから産まれた息子がいるとは思うまい。
桔梗は信用できない。ここ数日の一緒の冒険からも明らかなように。獣人も魔法少女も全てを巻き込んで、一人でも生き残る為に動かなければならない。




