夜明けのメロ子
変装して黒龍領黒龍城下町に潜伏し2日目。
多苦処谷の蛆川下りからは3日経った。
隣国を経由して黒龍領に戻る道中、平野を覆い尽くすチューリップ畑型ダンジョン『きときと!笹々パーク』にて『魔法少女ファンガール魔法少女』という複雑な存在と意気投合したり、チューリップ武装商人を率いて現れた用心棒魔法少女モノクロリリークロウリーとの因縁の対決を見届けたりしたけれど、たった1日で起きたことだし逃避行の最中で思い返すどころじゃないので省略する。
フジキゲンノショウコが言った「魔法が信じられないならば、魔法少女を信じれば良い。あなたを救ってくれたあの人を信じれば良いのです。ニンニン」という言葉だけは、何度も繰り返し噛み締めている。その先に、僕が魔法少女になる道があるかもしれない。
「みてみてー☆可愛いからってオマケしてもらっちゃった。アチシが可愛いから。可愛いから。アチシが」
只人が多くを占める黒龍だが、領主の梅鉢千代古が獣人であるためか偏見の目は少ない。獣人文化圏では忌避されるらしい豚獣人と並んでいても、住民たちの目付きは図体がでかい事に驚いているくらいである。
たまに見かける獣人たちも、豚獣人とハイエナ獣人という組み合わせの妙には驚くも、恐ろしい処刑人だとか、珍しい希少種への畏れのようなものは感じなかった。龍帝国の一部だったのはずっと昔で、ここはもう別の国なのだろう。
「オデもオマケしてもらったブヒよ。強く生きるんだよって。オデが可哀想だから。可哀想だから。オデが」
「笑えないよ☆」
しかし、繰り返しになるが黒龍城下に着いて2日目である。多苦処谷であの魔法少女たちは、情報なんて伝わりようがないあの山で彼女たちは、たった半日で僕たち見つけてやって来たのだ。捕捉して到着までが半日である。観測手段か移動手段が一瞬で済む代物なのかは知らないが、往来の容易なこの町で、2日も音沙汰ないのは何故だろうか。
お膝元では暴れられない?
実は相討ちで二人とも?
もしかして、目的が果たされたから?梅鉢千代古配下の魔法少女おべべオーベイベの目的とは一致しているだろう。黒龍領内へ招くつもりのようだった。勝手に向かったなら問題ない、と考えてもおかしくない。狂信者だし。
なら無患子は?服を取り返しに来ると思ってずっと着ているのに。彼女はなぜ取り返しに来ない。
「そこな御方」
無い頭を巡らせつつ、茶屋の2階への帰路を歩いていると襤褸を着た老人に呼び止められた。立ち振舞いからして、もとは高位の身分だろうか。いや、
「申されよ」
可愛らしい芝居を止めて先を促す。家出してからの旅、そしてここ数日の桔梗との冒険から、いやに直感が働くようになった。当初は僕ごときの感性なんぞ、と無視していたが、こうも、肉体が放つ危険信号が尽く的を射ているなら従うしかない。
「その衣装、天下に名高い無頼の大侠客。無患子先生でいらっしゃいますね」
ああ、これ、この人没落してないな。着なれているが、現役だ。家業がこういう、グレーゾーンと取り引きをする仕事なんだろう。全部演出の範囲だなこれ。いや直感、というよりもう偏見の域に近いが。偏見!ハハッ。魔法少女に近づいたんじゃないか?
「如何にも(アチキは誤解されるような衣装をきているね☆)」
嘘はついてない。もしご老人に聞こえてなかったら、ちょっと僕の発声と滑舌が悪かったんだろう。申し訳ない。悲しい行き違いだね。
「どうかこの地の、無辜の民の声を聞いてはいただけませんか。何卒。何卒」
これか!有名人過ぎて、こうなるから無患子はこの城下町に来れないのだ!性分で無下にはできない。だからいっそ関わらない。無頼漢らしい振る舞いだ。物語の登場人物みたいな奴。でも物語なら、当然ここから、関わらざるを得ない状況になるぜ無患子先生。
「承った。案内せよ」
(桔梗、これを伝手にどうにかして本物の無患子を招き入れ、この地を混乱させましょう。道中、献策を)
(御意)
大丈夫。上手く演れば良い。人はみな役者、と偉人も言ってた。桔梗だって目の前のご老人だってふさわしい姿を演じて飯を食って来たんだ。僕もそこに、騙り屋の役で参加するだけ。この世は舞台。興行がドエラく失敗したら、役者生命すら断たれる場合があるのも良く似てる。せいぜい、脚本だけは良かったと言って貰えるくらいには立ち回ろう。




