第95話:また当たりを引いたか……
3班が出発を始めた。
3班共、歩いて進んでも正午にはそれぞれの目的となる集落に着くはずだ。
時間には十分に余裕があるものの、大人数で移動すれば小数よりも時間がかかるし、森を徘徊している魔物に出会う可能性だってある。
◆◆◆◆◆
俺達のC班は比較的、人数が少ないのでスムーズに移動する事ができ、魔物との遭遇も無かった。
本当にこの森にはオーク以外の数が少ないな。
俺達の目的の集落の少し手前で作戦会議を行う。2人を偵察に出したので、帰ってくるまでは小休止だ。
「本当にこの人数でやるのか?」
ベテランっぽい男が訊いてくる。他の連中も聞き耳を立てている。
「ああ。と言っても、基本的には俺がやるから、あんた達はサポートが仕事だ」
「そうです。このC班はあくまでも、ヨシタカさんの負担を少しでも減らす為の人員と考えてください」
同行したギルド職員が後に続けた。
神眼で確認したがここにいる冒険者からしてみれば、オークなんて雑魚に思える実力と経験を兼ね備えている連中ばかりだが、今回は向こうの数が違う。尻込みしても当然だ。
「戻ったぜ」
足音もなく帰ってきた偵察役。流石は専門職だ。(マップで確認してたけどね)
「オークの数はどうでした?」
ギルド職員が訊ねる。
「集落の周りを一回りしたが、確認出来たのは約30ちょいだ」
「集落の中央までは確認出来なかったから、40はいてもおかしくないと思います」
「40体ですか……」
「おい、ヨシタカ、本当に大丈夫なのか?」
こんな場所で声を荒らげる様な事はしないが、怖じ気づく気も分かるので、全員に作戦を説明する。時間はあと15分だ。
「全員、よく聞いてくれ」
一同の顔は真剣な表情だ。これから下手をすれば死地に赴く事を意識しているのかもしれない。
「この先の集落には、オークが40体はいると考えられる。だが俺は昨日、1人で同じ規模の集落を潰している。ここにいるお前達には俺のサポートをして欲しい。分かるな?」
「それはさっき聞いた。実際に何をすればいいんだ?」
そう焦るなよ。
「流れで説明する。正午になったら俺が魔法で近くにいるオークを一掃して集落に突っ込む。その後、向かってくる連中を倒すから、魔法使いは遠距離から攻撃魔法で援護を、前衛タイプのヤツは魔法使いの護衛に1人ずつ付いてくれ。余った前衛は俺と護衛の間でオークを倒してくれたらいい」
「それだけか?」
「それが俺達の役割りなのか?」
「そうだ。さっきも言ったが、お前達は俺のサポートが目的だ」
「お前だけが損な役回りだぞ」
「気にするな、俺は大丈夫だ。それよりも、ここにいる全員が無傷で他の班に合流する事の方が重要だ。もう1度言う、お前達は他の班に合流するまでは元気いてもらわないと困る。分かったな?」
俺の問いかけに、全員が首を縦に振る。
「自分から前に出なくていい。向こうが来たら迎え討て。あとは臨機応変に対応してくれ、以上だ。何か質問は?」
…………。
無いようだな。
「開始まであと10分だ、行くぞ」
『オウ!!』
◆◆◆◆◆
集落の手前に移り、作戦開始の合図を待つ。
A班はレイラインが指揮を取り、回復役のユインとシュウがいるので長期戦にも対応出来るが、レグが指揮を取るB班が戦力的にはキツいだろう。何せ、俺のC班の到着をアテにする部分が多く、有能な連中の多くはA班とC班に振り分けた様だからな。
俺の実力を信用しきれていないのだから仕方ない。
ドン!!
合図が来た!
「行くぞーー!」
『オーーーー‼!!』
先ずはその場で視界に捉えていた8体に狙いを定める。
「サンダーアロー!」
矢が飛ぶのと同時に駆け出す。
昨日は俺が待ち構えて迎撃したが、今日は他の連中の為にこの場を離れて突っ込む。少しでも後ろの連中に余裕を持たせる為に。
8本のサンダーアローはきちんと8体のオークを仕止め、次の目標を探していると、後方から魔法が放たれた。
風の刃に石の刺、水の玉等の威力は低い魔法だがそれでいい。こんな場所で魔力を無駄に消費してほしくない。
援護の魔法のおかげで、近くにいたオーク達に隙が生まれた。
「サンダーアロー!」
離れた場所にいるオークに魔法を放ち、近くのオークには刀で顔を切断する。
イルクが言っていたが、手足や胴体の損傷が少ない方が高く売れるらしいからな。
オークとて首をはねれば勿論死ぬが、その構造上、身体が大きくて首も太い為に顔を切断する方が楽だ。
この一瞬で20体弱のオークを始末出来た。
昨日よりもスムーズなのは、俺のレベルが上がった事と後ろの援護のおかげだろう。
俺に向かってくるオークを目で確認し、マップも見る。
(まだ30体はいる、上位種は……、動いてないな)
偵察役の2人は肉眼で数えて30体と報告していたが、実際には上位種を合せ54体のオークがいた。奥には上位種だっている。
援護役の連中が少し前進して構える。魔法使いの射程を確保する為の様だな。(悪いが戦線を押し上げるぞ)
時間が惜しいので、自らオークとの距離を縮め、数を減らしてゆく。
こうする事で、オーク達の意識を俺に向けさせ、倒し易くするのが目的だし、俺との距離があるオークには後方からの援護で押し止めも出来る。
やはり神気刀は良い。日本刀が持つ鋭い切れ味が活かせる加護の相性が抜群だ。
ゾワッ……
(くっ、上位種が来たか⁉)
あの肌の表面がザワつく感覚が俺を襲う。
粗方オークは刈ったが、それでも俺を囲む様に3体のオーク、奥から近付く2体の上位種、更に奥にいる8体のオークの存在を確認する。
(奥の8体はアレか? たぶんアレだよね……、気が重くなる)
「ヨシタカさん! 上位種が来ます!」
目の良いヤツが忠告してくれるが、此方は最初から知っている。慌てないよ。
「お前達は手を出すな! 上位種の奥にオークが避難している! 迂回してそっちを対処してくれ! 俺も直ぐに行く!」
嫌な事は丸投げだ♪
「分かった! 死ぬなよ!」
約20人が集落の隅を移動して、奥にいるオークに向かってくれた。(ラッキー!)
会話をしながら、周りの3体の顔を上下に切断する。
頭から爪先までオークの血で汚れているが、気にしたら敗けだ。今は忘れよう。
上位種との距離は30メートル。
今回の相手はオークリーダーとオークジェネラルだ。
(また当たりを引いたか……)




