第88話:お呼びの様だ、行ってくる
グルメなスライムだ。
カットされたポークステーキを食べると……、固い。
肉が固かった……。
肉が固くて食いづらく、あまり美味くなかった。
(あれ? オークの肉ってもっと美味かったと思うけど?)
昨日の夜に食べたオークの唐揚げや、子爵邸で食べたしょうが焼きの肉はもっと柔らかくて美味かった。
「オークの肉ってこんなに固かったか?」
「やっぱり新人達の解体したては美味しくないですよね?」
「ギルドの職員は来てないからしょうがないわ」
「数日置けば良くなりますよ」
「? 何か違うのか?」
教えてもらった内容には驚いた。
食用となる魔物の肉は、通常の動物の肉よりも腐り難くて常温でも日持ちするそうだ。
オーク等の肉が固い魔物は倒して直ぐに食べると、肉はそのまま固いが、時間を置くと柔らかくなり旨味も増すとの事。
ギルドや肉屋の解体のプロが解体した肉は、倒して直ぐに食べても柔らかくて美味いんだって。
俺の見解として、肉が日持ちするのは、魔物の魔力が肉に染み込んでいるので腐り難いと理解出来た。
時間が経てば美味くなるのは熟成されて旨味が増すのだろう。
プロが解体して美味いのは、技術系のスキルで【解体】があるからだと解った。
変によく出来た世界だよ、まったく。
この残念なポークステーキの謎が解けたのはいいが、エリアスがポークステーキを少し食べ、吐き出した。
3人と肉に関する話をしている間、ずっと首に頬擦りをして美味い食事をねだっているんだ……。(育て方を間違えたか?)
仕方がないので、アイテムボックスからカレーを取り出し、米とポークステーキの上からカレーをかけてやった。
「エリアス、カレーをかけたからこの肉もちゃんと食べるんだぞ? 全部食べたら食後にお菓子をやるからな」
ぴょん! ぽむ!
ふるふるふる
凄い勢いで吸収が始まった。震えながら食べているので、味には文句はないのだろう。カレーは偉大だ!
よく噛めと言いたいが、エリアスは噛まずに食べているので言っても無意味。これは気合いの入った吸収でしかない。
「また変な料理を出したわね」
「凄い匂いがする」
「泥みたいな液体ですね?」
泥とは失礼だろうが!日本の国民食をバカにしやがって‼‼
「俺の故郷では国民食として広まっている料理でカレーと言うんだ。米にかけたり、パンにつけたりして食べるんだこうやってね」
言いながら俺のご飯にカレーをかける。
ついでに肉をカレーに移動させた。ポークステーキカレーだ。
カレーをバカにしたシュウをギャフンと言わせたいので、3人にもカレーを渡す。
「よかったら味をみてくれ、子爵邸でも評判が良かったぞ」
「バルムにも食べさせたの⁉」
「ああ、滞在中に何度か故郷の料理を振る舞ってる」
「子爵様って、普段から美味しいものを食べてるんですよね? その子爵様にも認められたなら美味しいのかも……」
「昨日の麻婆豆腐も気に入ってもらえたし、このカレーに使ってる香辛料も高く買ってくれたな」
「この料理には香辛料が使われているのね。あの子は香辛料に目がないもの」
バルム子爵程のおっさんを、あの子呼ばわりか……。
ポークステーキカレーを頬張ると、カレーの刺激的な美味さと、溶け込んだオークのバラ肉の力強い味を感じる。
やはり匠の解体した肉は美味いね。
カレーの風味のおかげで、ポークステーキの味は良くなったが、肉の固さは我慢するしかない。
今日、解体された肉は明日以降に期待しよう。(俺には十分な食料があるから大丈夫だけど)
3人もおそるおそるカレーを口に含む。
パク×3
「あら、美味しいわ」
「見た目は変だけど、ピリッと辛くて固めのパンが美味しく感じる」
「中に入っている厚めの肉が美味しいですね」
カレーの評判も良いな。
「結構美味いだろ?」
「はい! 美味しいです」
「ええ、美味しいわね」
「美味しいですが、ヨシタカさんの故郷の料理は辛いモノが多いのですね」
おお、そういえば昨日は麻婆豆腐だったし、辛めの料理しか食わせてなかったな。
「明日は辛くない料理をご馳走するよ」
「やったー!」
「何か悪いわね」
「申し訳ありません、催促したみたいで……」
「気にするな、食事は大量に用意してある」
4人で食事を続けていると、
「ヨシタカさーん! いますかー!」
俺を呼ぶ大きな声がした。
「お呼びの様だ、行ってくる」