第83話:この俺が圧倒してやるゼ!
これじゃあ、まるで俺が悪者じゃんか!
流石にこの展開は想定外だよ…。
今後については1度持ち帰って精査したいな。
いっそのこと、第三者の公正な目で厳しく調査した方がいいのだろうか?
この選択肢を誤れば、死んでも死にきれないよ。
どっかの元知事みたいな冗談は置いといて、近付いていく。
俺に気付いた2体のオークが、小さなオークを庇う様に俺を睨み付ける。
庇っているオークの内、片方は胸と腹が張っている事から身重かもしれん…。
ぬうぉ~~、やるしかない……。
(やだなぁ~)
こんな事はさっさと済ますに限る。
「サンダーアロー!」
2本の矢が雌オークの頭に吸い込まれる様に飛び、その頭部が爆散し、倒れた。
走る速度を緩め、更に近付く。
目の前には2つの屍に寄り添う2体の子オークがいる。
体長は1メートル前後か、見ていて胸が苦しくなる。
「プヒィー!」
「ピヒ!ピヒ!」
子オークが悲痛な声をあげて鳴くが、心を殺して子オークを始末する。
刀を軽く振れば小さな頭が、胴体から離れる。
この世界に来て、こんなに気分が悪くなった事はない。
力が正義とまではいかないが、理不尽が罷り通る。
ホント、理不尽な世界だよ。
「ハア、ハア、ハアァ」
後は上位種だけか。
落ち着いてエリアスのレベリングが出来ていないが、これだけのオークを俺が倒したのだから、パーティーメンバーへの恩恵に期待するしかないな。
余裕があればオークジェネラルの止めをエリアスに任せたい。
「ブホオオォーーーーーーン!!!」
「ブオォーーン!」
「ブオオォーーン!」
でかい声をあげて上位種達が向かってきた。
怒ってる?
そりゃあ怒るわな。普通は怒るよ。
だっていきなり現れて、自分達の仲間を皆殺しにされそうになった挙げ句、女子供まで御構い無しだもん。
殺戮者になった覚えは無いが、やってる事は唯の殺戮だ。
立場が違えば、意見や考え方が違うのは仕方がない。
一応、俺は人族で奴等は魔物。お互いに理解して、相容れるのは不可能に近い。
そう考えたらテイマーっていう存在は、異様を通り越して異常なのかもしれない……。
チラッと自分のステータスを確認すると、魔力が6割程減り、体力も2割近く減っていたが、それ以上に身体が重く感じる。全身の汗の感触も気持ち悪い。
アドレナリンの効果か、変な高揚感に支配される自分を感じる反面、心の奥底に漠然としたモヤモヤが大きくなる。
途中で投げ出す訳にもいかない。
まして、明日からは大勢の冒険者達と他の集落を潰していかなければならないのだから、甘えた事など言ってられない。
この世界ではこれが当たり前と割りきって、今は自分を納得させる。
2体のオークリーダーが先行して俺の間合いに近付く。
奴等は接近戦しか攻撃手段が無いので、此方としてもありがたい。
先程、軽くダメージを与えたオークリーダーは少し移動速度が鈍いが、ほぼ同時に2体を相手にするしかないだろう。
先手必勝!
「サンダーランス!」
頭なんて悠長な事は言ってられない、そのデカイ腹をぶち抜いてやる!
5メートルも離れていない距離で魔法を放つ。
アローは効かなかったが、ランスならどうだ⁉
バシュン‼
「ブフォー!」
「ブフィーー!」
ランス自体はオークの腹を貫通したが、オークリーダー達は止まらなかった。
執念なのか、この程度ではくたばらないのか知らんが、これで俺が更に有利になった事は変わらない。
腹の傷口から血を溢れさせながら、棍棒やゴツい拳で攻撃してくるオークリーダーを往なしつつ、その四肢を神気刀で切断していく。
「ブモォーーン!」
「ブヒィーー!」
これでもう動けないだろう。
痛みに声をあげている2体を無視して、オークジェネラルに視線を向ける。
「エリアス、コイツ等の止めは任せた」
頭から肩に移動して、エリアスはオークの頭に乗り、オークリーダーの頭を溶かし始める。
さっきステータスを見た際、俺のレベルは15になっていた。俺のレベルはどうでもいいが、エリアスのレベルを上げてやりたい。
オークとはいえ39体も倒せば、俺ならトントン拍子にレベルは上がる。今回の討伐戦で何処まで上がるのか、考えると怖くなるよ。
オークジェネラルは確実に俺との距離を縮めているが、決して急ぐ素振りは見せない。
豚野郎の表情は厳つく、目はギラついている。
逞しい肢体からはオーラでも湧き出ているような錯覚さえ覚えてしまう程の威圧感と存在感がある。
冒険者ギルドのランクで言えば、オークはF、オークリーダーはD、オークジェネラルは限りなくBに近いCとランク付けされているらしい。(限りなくBに近いCってなんだよ⁉)
AやSランクの魔物は災害級として扱われ、1体を討伐するだけで甚大な被害を覚悟しなければならないそうだ。
ドラゴンや強力な魔物の最上位種がこれに該当するらしい。
オークジェネラルとの距離は10メートルをきった。
エリアスは2体目に取りかかっているので、邪魔をしない様に奴を倒そうか。(出来たらコイツもエリアスにやりたい)
額の汗を拭い、神気刀を構え直す。
風呂に入りたい。
こんな時にもそんな事が頭を過るが、1対1なら負けない自信の現れだ。
昨日は風呂に入ってないから余計に風呂への気持ちが大きくなる。
(やっぱり俺は日本人だな)
「ふっ……」
「! ブゴォーーーー!!!」
俺の小さな笑みが気に入らなかったのか、オークジェネラルは怒号をあげて走り出した!
この世界で俺が闘った魔物の中では間違いなく、桁違いで最強のオークジェネラル。
高ランクの冒険者からしても、タイマンで対等に渡り合える者は少ないだろう。
この俺が圧倒してやるゼ!