第74話:力強く跳んだな
断る理由が無いわな。
「解りました。」
うにょーん、うにょーん
エリアスが腹を空かしている。
これから少し子爵と話をするとなれば、俺達の食事はまだ先になる。しょうがない…。
「ほらエリアス、これで我慢してくれ。」
ぽむ
パンを1つ食べさせたが、そんなに反応は良くない。
量が少ないからか?それともカレーが食べたいのかな?
エリアスには目も鼻も耳等も見当たらないが、その辺りも感じ取っているのは間違いない、スライムって不思議な生き物だな…。
子爵達と談話室に移動して、2人で隅の席に着いた。
他の人達は食後のお茶を飲みながらオセロを始めていた。
「伝えたい事と言っても、そんなに込み入った話ではないのだがね?昼間、ラノッツが明日の件で訪ねて来てね、一応、君にも同席してほしかった様だが断っておいたよ。君には美味い食事作りに専念してほしかったからね。」
「それは助かりましたね。」
「結論から言うと、今回の討伐作戦において、君の力をアテにさせてほしいとの事だったよ。」
バルム子爵の話を纏めると、
①討伐作戦に関しては約150人の冒険者が集まったそうだが、実際に戦闘になった際に戦力としてカウント出来るのは120人弱だそうだ。
②戦力としてカウント出来ない約30人に関しては、炊き出しや寝ずの番をする為に集められた新人冒険者らしい。(言ってしまえば雑用係りだね)
③戦力となる冒険者に関しては、殆どDランクが占めているらしく、数体程度のオークならこちらも数人がかりで挑めば問題は無いが、今回は大量のオークを相手にしなければならないという事で、戦力的には若干ではあるが不利だと考えているらしい。
④Bランクは俺1人のみで、Cランクが3パーティーで10人参加する事が決まっているとの事だが、オークの集落を攻める際はこの11人が中心となって攻める事になるそうだ。(まあ、そうなるだろうな)
⑤現時点でもオークの上位種であるオークリーダーはいると考えられるので、上位種との戦闘となればこの11人が対応しなければならない。
⑥更に言うならば、オークリーダーは11人が束になれば倒せるだろうが、もしも更に上位種であるオークジェネラルがいたとしたら、冒険者側の全滅すらあり得る事態らしい。(俺がいるから大丈夫だろう)
これって結構、マジで十分に込み入った内容だよね?
「オークの集落があるのは森の中という事で、今回は魔法使いの出番が少ないらしい。」
「まあ、火魔法使いが1番多いと言われていますからしょうがないでしょう。」
「うむ。だから、ウチの魔法士団からは聖魔法使いを3人程、派遣することにしたよ。」
「戦場で魔法による援護が難しいですから、回復役の魔法士の方が便利でしょうね。」
「そういう事だ。冒険者側の魔法使いの中には、火魔法以外を扱える者もいるそうだが、魔法自体の威力を考えれば、火魔法使いが戦力にならんのはイタイな。」
「そうですね。森ごとオークを皆殺しにするなら別ですが…。」
「流石にその手段は選べんよ。ラノッツも、私もね。」
俺は火魔法を使っても、余計な木々まで燃やさずに魔法を行使する自信があるけど、普通の魔法使いが同じことをやれるとは思えない。
そう言えば、ギルドにはアイテムボックスと聖魔法が使えると申告しているが、火魔法や雷魔法が使えると伝えていない。
何処までオープンにしようかな…。
いっその事、全部話して俺1人で無双した方が速いし、気も楽だと思う。
しかし、3属性の魔法が使えて、更にアイテムボックス持ちともなれば絶対に厄介な事になるだろう。
今回は何かあれば魔法も使うかもしれないが、できるだけ魔法を使わずに神気刀のみで対処しようか。
「まあ、話はこんなところかな。明日の朝にウチから派遣する3人を紹介するよ。馬車でギルドまで送らせるからね。」
「ありがとうございます。」
「だから、出来るだけ速く片付けて戻って来てくれたまえ。頼んだよ?」
「俺が参加するんですから任せてください。」
「本当に頼むよ。君にはレグナール公爵の件があるのだからね。最悪は途中でも構わないから戻って来てもいいからね!」
そこまで言うかよ…。
◆◆◆◆◆
談話室を出て、調理場に向かう。
エリアスもそうだが、俺もハラが減ったよ。
「さあエリアス、俺達も飯にしようか。よく我慢したな、偉いぞ。」
なでなで
ぷるぷる
「何を食べようか?エリアスは肉がいいか?」
ぴょんぴょん
そうだよね~、君は野菜よりも肉だよね~。
肉か…、唐揚げは明日以降に回したいから急いで何か作ろうか。
白飯はある、豚肉の代わりになるオークの肉もある。キャベツは万物創造で出した。これはもう決まったな。
しょうが焼きだ!
これ以上、エリアスにおあずけを食らわすと暴れそうだから、直ぐに作れるやり方でしょうが焼きを作ろうか。
先ずはキャベツを千切りにしておく。
オーク肉のロースを頑張って薄切りにして、玉ねぎと炒める。焼くのではなく、炒めるのだ。そこへ市販されているしょうが焼きのタレを加えて絡めれば完成だ。
時間があれば、しょうが焼きの漬けダレを自分で作ってから肉を漬け込むのだが、これ以上エリアスを待たせるのは危険だ。
エリアスには深めの皿にご飯の上にキャベツとしょうが焼きをのせて丼にしてやる。味噌汁もインスタントだが忘れずに。
俺はご飯・味噌汁・しょうが焼き・ひじき煮を準備した。
「さあエリアス、食べようか。」
ぴょん‼
力強く跳んだな。




