第70話:何処で時間を潰そうか…
この反応は仕方ないかね、スライムだから…。
「なかなか賢いんだぞ。」
ぴょん!
「ほらな。」
「いや、俺には解らねえよ…。」
◆◆◆◆◆
解体室とやらに行くと、手術台みたいなんが並んでいて、職員や新人冒険が解体作業をしていた。
新人冒険にとって、この解体作業は新人講習の一環であり、Gランク冒険者が生活費を稼ぐ為のアルバイトでもあるらしい。
解体室は広かったので、アイテムボックスから魔物を出しても全然邪魔にはならなかったが、アイテムボックスから魔物が出てくる光景に新人冒険達は興味と驚きに湧いていた。
「これを全部解体して欲しい。急ぎでだ。」
「普通にやっても今日中に終わるが、急げば2時間でやってやるぜ。」
2時間か、まだ9時前だから11時には終わるか。
「わかった、それでいい。肉は持って帰る。全部合わせれば何㎏の肉になる?」
「そうだな…。500㎏ってとこか。」
500㎏か…。それだけあれば十分だな。
「分かった。食える内蔵も持って帰りたいから用意しといてくれ。」
「おう。しかし、ワイルドボアの毛皮と羽毛以外は買取りできんから、多少の解体費用は貰うぞ。」
「分かった。引き取りの時に払う。じゃあ、頼んだぞ。」
◆◆◆◆◆
ギルドの次は肉屋に行こう。
御者に頼んで、適当な肉屋に連れていってもらった。
中に入ると、ショーケースに肉が並んでいて、日本の肉屋と変わらない感じだった。(後から聞いたが、この店は肉屋としては評判が良いらしい)
あれ?見た事のあるオバサンがいる。
あっ!屋台でオマケしてくれた【お姉さん】だ。
「いらっしゃい。おや、アンタは…」
「この前、屋台でオマケしてもらった冒険者だよ、お姉さん。」
「そうそう、思い出したよ!今日はわざわざウチの店に来てくれたのかい?」
「ああ、肉を買うならこの店がオススメだって言われてね。」
「嬉しい事を言ってくれるじゃないか、サービスしたげるから欲しいのを言いな♪」
ラッキー!
500㎏の肉が手に入るのに肉屋に来たのにはちゃんとした目的がある。加工肉だ。
今朝、自分でソーセージを出して食べてみたが、使っている肉が魔物の肉の方が美味いので、ラオンが手作りした方が美味いと思った。
でも、自分で作るのは面倒だったので買いに来たのさ。
このお姉さんの店なら、美味い加工肉が手に入りそうで良かったよ。
「お姉さん、ベーコンやソーセージが欲しいんだ。日持ちしなくていいから美味いのがいい。他にも加工したのがあれば欲しいな。」
「ウチの店は肉自体も美味しいけど、加工肉だって自信があるんだよ!高級住宅にも常連さんがいるくらいだからね♪」
「値段は気にしないから美味いヤツを見繕ってくれるか?」
「任せときな!どれぐらいの量が欲しいんだい?」
「全部で30㎏かな?」
「日持ちのしないのを買うんだろ?そんなに沢山買って大丈夫なのかい?」
「大丈夫、アイテムボックスがあるから幾ら買っても傷まないよ。ほらね。」
アイテムボックスから魔石を取り出して見せた。
「アラ、驚いたね~。アイテムボックス持ちなのかい。だったら大丈夫だね。」
「そうそう、だから美味い加工肉を頼むよ。」
「よし♪任せな!」
お姉さんは店の奥に行って、大量の加工肉を運んできた。
「日持ちがする様に加工したら味や風味が落ちる。味や風味を良くしようと思えば日持ちはしない。」
うん、その通りだ。
日持ちさせる為の加工をする分、水分を抜いたり塩を多く使ったりするからな。
「でもね、肉に多少の手を加えて作ったソーセージやハムなんかは、そのまんまの肉よりも美味しくなるけど日持ちはしない。でも美味しいんだ。」
「だろうね。」
「上等とまではいかないけど、ウチは香辛料を買って使って作る加工肉にも力を入れていてね、値段はするけど味は確かさ。」
ふんふん、良い事だ。
「種類も豊富だから味見しておくれ。」
お姉さんの説明を聞きながら、10種類以上のソーセージやベーコンにハムの味見をさせてもらった。
使っている肉も魔物としては美味い魔物を使っていて、使用している調味料や香草も組合せを変えて作っているらしかった。
この他にも保存を目的とした加工肉も扱っていたが、そっちはお姉さんが出さなかった。
他の店の味は知らないが、この店の味は確かだと思ったので、試食させてくれた商品を3㎏ずつ買う事にした。
「お姉さん、これ全部美味かったから3㎏ずつ買うよ。」
「!、アンタ本気かい⁉こういうのは裕福な家のお客が買うモンだよ?そんなに沢山買ったらエライ金額になっちまうよ!」
「大丈夫、大丈夫。金はあるよ。」
アイテムボックスから白金貨が入った皮袋を出して中身を見せる。
「ほぇ~。アンタ本当に冒険者なのかい?どっかの貴族様じゃなのかい?」
「こう見えてBランクでね。金はあるから売ってくれるかい?」
「当たり前じゃないか!こんなに沢山買ってくれる上客を逃しゃあしないよ♪ちょっと待ってな、3㎏ずつ持ってくるよ。」
ドタドタと小走りで奥に消えた。
少し待つと、お姉さんとガタイ良いオッチャンが大量の加工肉を持ってきた。
「お前さんがウチの加工肉をこんなに買ってくれる客なのか?」
「ああ、そうだ。味見させてもらったが、本当に美味かった。アイテムボックスがあるからこの状態を維持できるんで纏め買いさせて欲しい。」
「そうか。」
「こっちはアタシの旦那さ。無口な職人で普段は売り場に顔なんて出さないのに、アンタがこんなに買うって言ったら付いて来たんだよ。」
「余計な事はいい。俺の作ったモンをバカみたいに買うヤツを見に来ただけだ。」
そう言って、次から次に運んでくるオッチャン。
若い男性も手伝って、カウンターの上には大量の加工肉が並べられた。
「全部で金貨50枚で良いよ。」
高いのか安いのか分からん。
「良いの?」
「ああ、もともと日持ちのしない物だしね。ウチの旦那は律儀に毎日作っちまうからアタシとしてもこれだけ売れて助かるよ。それに、旦那も美味いから買うって言ってくれて喜んでたしね♪」
良い魔物の肉を使い、香辛料や香草まで使っているので決して安い商品ではないだろうが、お姉さんの言葉に甘えておこう。
お会計を済ませ、店を出る時に、
「サービスするからまたおいで♪」
って、言われた。
時刻は10時前。
ギルドに行くには早い。何処で時間を潰そうか…。