第63話:俺は1人じゃないさ
人は見かけによらないな。
「カルロの件、宜しくお願いします。」
「ああ、任せてくれ。と、言っても俺もガランに丸投げだがな。」
「では団長、訓練がありますので、この辺りで失礼します。」
「ああ。ガラン、シッカリやってくれ。それとヨシタカ君、酒をありがとう。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。」
見た目よりも話の通じる人で助かった。
「上手く話が纏まって良かったな。」
「本当に助かるよ。これからカルロを頼む。」
「任せてくれ。食わせてもらった飯と酒の分はシッカリ返す。後は小僧次第だな。」
「ダメなら早く逃げ出してくれた方がお互いの為だ。」
「それはそうだが、お前もえげつない事を考えるな。」
「そうか?カルロの為さ。」
歩きながら2人で会話をしながら、カルロを待たせている場所に戻った。
「アニキ!」
「待たせたな。こちらはガラン隊長だ。」
「ガランだ。暫くの間、ヨロシクな。」
「どーゆー事?」
「これから暫くの間、お前はガランの部隊で訓練に参加してもらう。最後まで訓練をやり遂げたら試験はクリアだ。解ったな?」
「ちょっ!アニキに稽古つけてもらうんじゃなくて騎士団で修行って!」
「嫌なら帰れ、今のお前は弱すぎる。騎士団で強くなれ。それだけだ。じゃあな。」
「ウチでシッカリ鍛えてやるからな。こい!」
「アァーニィーキィー!」
ガランがカルロの首根っこを掴んで引き摺って行った。
(カルロ、死ぬんじゃないぞ!)
正直な話、カルロには【千里眼】なるギフトのおかげで将来が楽しみではあるが、今の実力ではペーペーの冒険者でしかない。
例え弱くても、俺の旅に付いてくるだけの覚悟を見せてもらうには、これぐらいがちょうど良いだろう。(俺って旅をするのか?)
ガランに預ける期間は今日から10日間だが、カルロには日数は伝えない事になっている。
食事や寝起きも騎士団で過ごさせるのだから、半端な覚悟では逃げ出すだろう。
10日やそこらでいきなり強く成長するなんて、全く思ってないので単なる気持ちの確認だ。嫌なら帰ればいいのさ。
後はカルロ次第だな。どうなる事やら。
うおっ!もうすぐ10時30分じゃねぇか!帰って飯の用意だ!
◆◆◆◆◆
さて、何を作ろうか?
バルム子爵からは卵を使った料理とのリクエストを受けているし、これから米を炊いたら正午に間に合わん。
それに、昼食には軽食が望ましいらしいから、丼物や定食風の料理は場違いだろうな。(俺は白いご飯が食べたいぞ)
取り敢えず米は炊こう、アイテムボックスに保管しとけば傷まないのだから。子爵達にはちゃんとした軽食を作ろう。
日本の米をイメージして出す。5㎏で31か。
米を研いで1時間放置だ。
何を作るか迷うな。
卵料理か…。
「なあ、ラオン。」
「どうした?」
「子爵達は普段どんな昼食を食べているんだ?」
「そうだな…、1番頻度が高いのはサンドイッチだな。シウバからこのパンが届けられる。」
見せてくれたのは、ハンバーガーに使う様なバンズだ。
かじってみると、良く言えば噛み応えがあるパンだった。(堅いとも言える)
サンドイッチか…。
「あとはパンケーキやこの時期なら【クニッシュ】が多いな。他は具沢山のスープだな。肉や野菜を沢山使うんだ。今日のお茶の時間にはお前がくれたハニービーの蜂蜜を使ったクッキーを出すぞ。」
蜂蜜を使ったクッキーか楽しみだな。
それにしても、クニッシュなんてのも食べるのか。
クニッシュというのは、東ヨーロッパを中心に食べられている小麦粉とじゃが芋を使ったパイの事だ。
ギフトのイシュルガーツ言語がクニッシュと訳しているが、ラオンが作るクニッシュが俺の知る味と同じとは限らない。
そういえば、前に俺が作ったサンドイッチを騎士達が食べた時の反応は凄く良かったな。
ここはサンドイッチだな。サンドイッチだったら、挟む具材によってはご飯のおかずになるよ。
よし、サンドイッチを作ろう。
鍋でゆで卵を作るが、茹で時間は10分以上かかるので安心して違う作業が出来る。
ジャイアントボアのロースだと思われる部位を1㎝程に切って、筋を切って肉全体を軽く叩いておく。
塩とコショウで味付けをして、小麦粉・卵・パン粉を付けていく。何か分かるだろ?トンカツだ。
トンカツでサンドイッチとなればカツサンドだな。
パン粉は俺が出したが、時間さえあれば普通に自作出来るから、揚げ物料理をこの世界で作っても問題は無いと思う。あとは揚げ油の準備だな。
ゆで卵が出来たので、殻を剥いておく。先にトンカツを完成させよう。
適当な深めの鍋に大量の油を入れて火にかける。ラオンが凄い顔で驚いているが気にしないでおこう。
パン粉を油に落として温度を確認する。…温度は170度かな?少し低いがいいだろう。
ジュワワワー!
ジュワワワー!
揚げ物を揚げてる時の音って食欲を刺激するよね。
「肉を油で煮ているのか?」
「煮るんじゃなくて、揚げると言うんだ。」
「揚げる、か。」
「ラオン達にも食べてもらうから楽しみに待っててくれ。」
そろそろ良いかな。
今回、トンカツは6枚作った。
3枚を子爵達のカツサンドに、2枚をラオン達の試食用に、あとの1枚は俺の昼食だ。
俺の分のトンカツはアイテムボックスに入れておく。
トンカツ1枚をラオン達にはそのままで食べてもらおう。
ラオンの弟子は2人いて、3人で料理を担当している。忙しくなる時は、街で店をやっているラオンの元弟子が助っ人に来るらしい。
「ラオン、皆で味見をしよう。そのままで食べてもいいし、このソースにつけてもいいぞ。」
俺の味見も兼ねて、トンカツを4等分して食べる。トンカツソースはお好みで。
「ホフッ!美味いな!肉の脂身がまろやかになっているし、周りの衣が油を吸って満足感が凄い。」
流石はジャイアントボアかな?
日本で普通に食べる豚カツよりも旨味が濃くてパンチが凄い。試食のトンカツだから2口分しかないが、とてつもない食べ応えだ。
「エリアスも食べてみ。」
頭の上にいるエリアスに、俺が1口食べたトンカツをあげた。
ぽむ、ぴょん!ぴょん!ぴょん!ぴょん!ぷる!ぷる!ぷる!
エリアスの反応が今までで1番激しい。気に入ったのかな。
でも、頭の上で跳ねないでほしい…。
俺は自作の揚げ物にはソースをかけないので、今回もトンカツソースの出番はなかったが、ラオン達3人もソースを付けないで食べきっていた。
もともと、普段の料理が薄味だからソースはいらなかったみたいだ。
「どうかな?こいつをサンドイッチに使う。別にもう1種類、卵を使ったサンドイッチを作るつもりだ。」
「この肉料理には何の不満もない。これを使ったサンドイッチも食べさせてくれるのか?」
「勿論だ。卵を使った玉子サンドも食べてもらうからな。それに、このトンカツの作り方は覚えたろ?」
「ああ、衣さえ手に入れば直ぐにでも作れるはずだ。卵のサンドイッチも楽しみだ。」
「衣に使ったパン粉の作り方も教えるさ。」
「いいのか?」
「構わないさ。ラオンには覚えてもらいたいお菓子がある。それに使う道具でパン粉も作れるからな。飯の後で作り方を説明しよう。」
「ああ、頼む。まさかこの年になって、これ程の料理に出会うとはな。」
あれ?興奮してる?
イシュルガーツ中を探せば普通にトンカツを作っている地域があってもおかしくはないが、一応は異世界の料理だからな。
ラオン程の熟練の料理人が、未知の調理法に未知なる美味な料理を知ったのだから、興奮しても何ら不思議ではないと思う。
玉子サンドを仕上げようか。
殻を剥いたゆで卵は5個ある。卵が5個で銅貨20枚だ。
この卵は高級品だから普通の卵よりも高いが、日本円に換算すると2000円だ。卵が5個で2000円もする。
金貨だの銅貨だのと言われても、俺にはいまいち金額の実感がわかない。
この世界に慣れていない事もあるが、どこかリアリティーのないゲームの世界にでもいる様な錯覚に囚われてしまうのだ。
夜寝る際に、目が覚めたら自宅のベッドの上…、なんて淡い期待を持って眠った事もあるが、…叶わなかったよ。
やべっ!なんか涙が出そうになった。(病んでるのか?)
すりすり
「どうした?エリアス?」
すりすり
慰めてくれてるのか?
「ありがとな、エリアス」
なでなで
ぷるぷる
エリアスがいてくれて良かったよ。
そう、俺は1人じゃないさ。




