第60話:唯の二日酔いだ!
満タンのお銚子2本と、炙ったエイヒレとマヨネーズの小鉢を置いて、カルロと談話室を出た。
出た途端、カルロが騒ぎだす。
「アニキ!さっきの食いモンと飲みモンは何てゆーんだ⁉それに、子爵様達が食ってた料理も美味そうだったよな~。オイラも食べてみたいぜ。アニキは料理人なのかい?」
「さっきの料理は後でお前にも食わしてやるさ。お前の部屋は何処だ?」
「部屋はアニキの隣だよ。食事の後に案内してもらったけど、めちゃくちゃ広くてビックリしたぜ。流石は子爵様のお屋敷だよ。」
それに関しては俺も同意見だ。家具や調度品が立派なのは当然かもしれないが、1つ1つが本当に価値のありそうな物ばかりだ。
カルロを連れて、俺が寝泊まりしている部屋に戻ると、晩酌のセッティングをする。
「アイテムボックスって良いよなぁ。羨ましいよ。」
「こればっかりは産まれ持った資質だからな。カルロの魔法適性はどうなんだ?」
「まだ調べてないよ。ギルドの適性検査じゃあ、何かの適性があるかもって言われたけどよー。」
神眼でカルロのステータスは既に確認しているが、現状で魔法スキルは習得していない。
先天的に魔法スキルを習得している天才的な存在もいるが、大抵の場合は魔法適性を調べてからその才能を伸ばす為に、修行を積むのが一般的なのだ。
そう考えれば、俺の魔法適性の多さや熟練度の規格外さには、神に感謝するしかないだろう。
「弓があるのに魔法を使いたいのか?」
「確かに弓の腕には自信があるけど、魔法って憧れるじゃん?アニキが昼間にやったアレ、魔法だろ?カッコ良かったな~。」
火装炎武か、あれに憧れて弟子入りしたのか…。
カルロの明日からの試験が落ち着いたら、適性を調べてやるのもいいかもしれない。
晩餐のスタートだ。カルロにはサイダーかな。
トクトクトク、クイッ
ふぅ~。一仕事終えた後の一杯は沁みるね。
「アニキ~、この黄色いのウメーよ。卵だろ?ウメー。シュワシュワなのもウメー。」
どれどれ、パクッ
うん、美味いよ。素人が作ったから、店で出てくるレベルには程遠いが、白だしがいい仕事をしてくれている。
このジューシーさはオムレツには無い良さだよね。
クイッ
熱燗に合う。大根おろしがまた良い。
すりすり
「ホラ、エリアス。」
ぽむ、ぴょんぴょんぴょん!
「美味いのか。んじぁ、もう1つな。」
「テイマーは珍しいのにスライムって大丈夫?」
「いいんだよ、エリアスはこれから成長するんだ。なあ?エリアス。」
ぴょん!
「ほらな?エリアスはこれからなんだ。まだ本気を出してないんだよ。それよりも、こっちの田楽も食べてみな。」
「ナス?アイテムボックスがあればこの時期にナスも食えるのか~。」
そうだね、本当だったらそうだろうね。
ニードラング周辺ではナスの収穫は終了している。
カルロはアイテムボックスで保管していたと思っているんだろう。
「うほ!このナスも美味いよ。上のタレが甘じょっぱくて幾らでも食えそうだよ。」
揚げ焼きにしたナスがトロトロに柔らかくて美味いよ。
こんにゃくも下処理が効いてるから、純粋にこんにゃくと味噌を楽しめる。
クイッ
ふぅ、思えば久しぶりの味噌だ。
白飯が恋しいよ…。
明日の昼食は俺が作ろうかな?
それなら何を作ろう?1度は断念したしょうが焼きにするかな。
麻婆茄子もいい、田楽食べたら食いたくなった。
イヤ、麻婆豆腐の方が喜ばれるかもしれない。唐揚げを付けようかな?
思いきって豚カツなんてどうだろうか?
ステータスが高く、スキルが豊富だから、食いモンの事に関して自重という概念さえ取っ払えば、俺的に異世界は全く不便がないからいいが、他の転生者達はどうだろうか?
この世界を受け入れているのだろうか?それとも諦めてしまっているのだろうか?足掻いているのか?
知識と機会が噛み合えば、内政チートも不可能ではない。
アインシュ○インも内政チートに近い事をしてたのか…。
!、それなら彼はこの世界からの転生者ではない事になる!
科学技術が発達した他の世界からの転生者なのか?
わからない…。
確かめる手段はないが、そういう事だと思う。今はそれでいい。
ハフッ!
湯豆腐がうめ。
やはり、俺は日本人だよ。どんな世界で生きていこうとも、それは変わりそうにない。
もしもこの先、他の転生者に逢うことがあれば、出来たら敵対はしたくないもんだ。
「アニキの料理は美味いよなぁ。オイラ、一生ついてくぜ!」
「明日からの試験次第だな。食ったらもう休め。明日の為にな。」
「わかったよ。この食器を洗ったら寝るよ。」
「洗い物は明日でいい。アイテムボックスに突っ込んどく。」
「やっぱ便利だね。んじゃ、おやすみ、アニキ。」
「ああ。」
カルロは自分の部屋に戻ったし、もう少し飲んだら寝るか。
あ!エイヒレがあったんだ。
「エリアス、これはエイヒレってゆーんだぞ。」
ぽむ、ぷるぷる
おお、美味い時の反応だ。
パクッ
炙ったエイヒレって熱燗に合うゼ。
クイッ
はぁ、ほらな。
今日の依頼中に俺とエリアスはレベルがそれぞれ3つ上がり、俺がレベル10にエリアスがレベル9になった。
もう少しでエリアスに俺の魔力をやろう。それでもまだ早いかな?
危険ならクラウちゃんが教えてくれるだろう。
なんだかんだで、3合目が無くなりそうだ。
時刻も23時を過ぎているし、飲んだら寝るか。
◆◆◆◆◆
翌朝、朝の鐘の音で目が覚め、最近の日課になった缶コーヒーを楽しんでいると、カルロが部屋にきた。
「おはよう、アニキ。」
「おはよう、眠れたか?」
「グッスリさ!あんなフカフカの布団は初めてだよ。」
「ここのベッドや布団は最高だよな。」
「そうそう!何を飲んでるの?」
「大人の飲み物だ。」
「子供扱いしないでくれよ。オイラももう15だぜ?」
「エリアスだって嫌いなコーヒーをお前が飲めるとは思えん。」
「げっ!スライムでも飲まねぇモンを飲んでるのかよ~。オイラいらないよ。」
酷い言われようだが、仕方ないと思う。
何でも吸収するはずのスライムでさえ、嫌がる飲み物と言ったのだから。
俺はブラックが多いが、カフェオレならばエリアスやカルロでも飲めるだろう。でもまだやらん。
朝食には早いので調理場に行き、ラオンに昼食の件を相談したら、快諾してくれた。子爵には事後報告になるが、あの人ならば喜ぶだろう。
ラオンと話をしている間にカルロには昨晩の皿洗いをさせていたのだが、トマスが調理場に現れてこう言った。
「旦那様の体調が優れなくて、朝食も召し上がらないと仰っておられます。」
唯の二日酔いだ!