第45話:残念です…
「雑貨屋ですか…、品揃えが豊富なのはリセル商会ですね。」
「案内を頼む。」
「わかりました。」
「雑貨屋ですか?何をしに行くんですか?」
「商業ギルドに売る調味料の入れ物と、調理器具の確認。それと冒険者として必要な物を見に行く。」
リセル商会までは少し距離があったので、馬車で移動する事にした。
10分程の時間だったが、馬車の中でリセル商会について説明を受けた。
どうやらニードラング家御用達の老舗商会らしく、名前の由来は初代会頭の奥さんの名前だそうな。
食品と衣類以外なら大抵の物が揃うが、少々値段が張るらしい。
取り敢えず行ってみるか。
着いた店は確かに大きかった。
昨日、食材を買った店がスーパーなら、この店はホームセンターだ。
店内には小物・日用品・キッチン用品・大工道具・木材等、品揃えは豊富だったが、ユックリと見て廻る時間が無いので瓶だけ買ってさっさと店を出た。
次は昨日の店だな。
◆◆◆◆◆
昨日の店で食材を買い揃えて子爵邸に戻った。
色々と用事を済ませ、買い物をしたので屋敷に戻ったのは15時過ぎだったが、食事の時間まで2時間以上もあるから焦る必要はない。
昨日と同じようにラオンに調理手順を説明しながら作っていく。
料理は4品を考えた。
通常通りに前菜・スープ・メイン×2で料理を提供するが、今回のメインは変化球でいこうと思う。
作る料理を考える際に、俺はこの世界の不便さを感じ、日本の素晴らしさを改めて実感した。
何の事だと思う?
野菜だよ野菜。
日本のスーパーで普段から売られている野菜が無かったんだ。こっちの世界にそれらの野菜が無い訳じゃない。ニードラング領でも作っているそうだが、時季では無いとの事だ。
つまりだ、ハウス栽培なんてやってないから旬の食材しか売られていなかったのだ。
今は秋という事で、キノコ・根菜・葉物野菜が売られていたが、この時点で俺が作ろうとしていた料理は諦めた。
それ以外にも、醤油は使うが他の食材はこちらで手に入れようと思っていたのが甘かった。
日本で料理を作る際に、どんな調味料を使っているか考えて欲しい。1人暮しの俺だって、基本の【さしすせそ】以外にも白だし・麺つゆ・豆板醤・顆粒出汁等を常備していたが、そんな物は当然無い。
ある意味、食材よりも調味料が無い事が痛かった。
ラオンにその辺をどうしているのか訊いたら、香草を使ったり、魚介類からのうま味を利用していると教えてくれた。
流石に干物から出汁は取らないらしい。(けっこう良い出汁が取れたよ?)
日本酒や味醂の代わりに蜂蜜酒を使ったりして多少の応用は効いたと思う。
諸々を諦めて料理を作った。
前菜はサトイモ・ニンジン・ゴボウ・レンコン・シイタケと少しのシャドーバードの肉で煮物を作った。筑前煮だ。
スープはダイコン・ニンジン・サトイモ・ゴボウ・ネギ・キノコ類で作った。イメージはけんちん汁だが、豆腐や油揚げにこんにゃくが欲しかった…。
和食料理において、だし汁はとても大事だと改めて感じたが、それなりのモノはなんとか用意出来たと思う。
だし汁に関しては、干物と貝で出汁を取った。
アジみたいな干物とアサリっぽい貝を大量に煮て、出汁を取ったのだ。
前菜とスープは作り置きして味を染み込ませる。
そろそろ時間か、メインの仕上げに取りかかろう。
そうこうしている内に、トマスが食事の開始を告げに来た。(やっぱりな)
「ヨシタカ様、皆様がお待ちです、食堂にいらしてください。」
イヤ、今日はこっちで仕上げるぞ?
「出来た料理を運ぶから食堂には行かんぞ。」
「仕上げが出来る様に食堂で準備をしておりますが。」
マジか!今日も目の前で料理をしろと言うのかよ!
「わかった。そっちに行く準備もある。前菜とメインの1品はこれから持っていく。」
「承知しました。」
メイドさんに前菜の筑前煮とメインの蓋付の器を運んでもらう。
余分に作った分はラオンの弟子達の分なので、こっちで食べてもらおう。
移動の準備を終え、食堂に入ると皆が和気あいあいと食事をしていた。
「おう、ヨシタカ君、この前菜や卵料理は美味しいね。」
「そうですね。お野菜がとても美味しいわ。」
「この卵料理もなめらかでとても美味しいわ。」
「ヨシタカさん、卵料理のおかわりをください。」
「ねえよ。」
「ないんですか?残念です…。」