第27話:飯にするか
外からガランの声が聞こえた。
「飯の準備を手伝ってくるよ」
「ええ、お願いします」
気不味い場所から、逃げる様に馬車を降りてガランに話しかける。
「飯の準備を手伝うよ。魔物の解体が出来る騎士を1人、貸してくれないか?」
「何から何まですまない。盗賊達には食わせんでもいいから、ベルハルト様とウチの連中には何か食わせてやってくれ」
「任せろ。とは言っても、俺の故郷の料理の味付けだから、口に合えばいいんだが」
「ハハッ! ここまで良くしてくれてるお前さんの飯を疑がっちゃいないさ。アレン! ヨシタカを手伝え」
「ハッ! 了解しました」
「じゃあ、飯の事はヨシタカに任せる。このアレンを好きに使ってくれ。馬に与える水はウチの方で調達するが、俺達が飲む水はお前に頼る事になる。済まんな」
「これも何かの縁だ、気にするな」
「済まん。頼む」
短い言葉を残して、ガランはベルハルトの所に向かう。
なんか、良いオッサンだな。
「ヨシタカ殿、自分は何をすればよろしいでしょうか?」
良く見れば、さっき少しだけ話した若い騎士だ。彼も真面目だな。
「魔物の解体を頼みたい、これだ。俺はスープの準備をする」
そう言ってアイテムボックスからウイングバードを3体出した。
「こいつを捌いて食えば、この人数でも大丈夫だろ?」
「ええ。それにしても、傷が少なくて綺麗に倒していますね。9人でウイングバード3体なら、たらふく食えそうだ」
「あまったら、明日の朝飯にまわせばいい。取り合えず、腹一杯食おう」
「そうですね。ではこいつを捌いていきます。お湯は勿体無いので、このまま羽をむしりますね」
「任せるよ」
ウイングバードはアレンに任せて、スープの準備をする。
こんな時は簡単な物でいいと思う。
周りを確認して、幾つかの食材を出す。
万物創造で食材を出すのって、アイテムボックスから出し入れするのと、実は見た目はあまり変わらない。
玉ねぎ・にんじん・ジャガイモ・キャベツ・塊のベーコン・固形のコンソメ。
9人分だったので、纏めて出したが消費魔力は51だった。基準が不明だ。
寸胴に3リットル程の水を入れ、カセットコンロの火にかけて、小さめのファイヤーボールをブチ込んで、コンソメを入れる。
水はまだ温いが、ドンドン材料を切っては入れていく。入れる順番さえ間違えなければ大丈夫。
コンソメもそのうち溶ける。(ファイヤーボールはこっそり入れた)
にんじん・ジャガイモ・ベーコン・玉ねぎの順番で入れていく。根菜類は水から煮てもいい。玉ねぎを入れる頃には、沸騰しそうだったので火を弱めてジックリと煮る。
味見をすると少し薄味だったが、こちらの味の基準がわからなかったのでこのままにする。
にんじんとジャガイモに火が通っている事を確認し、ざく切りにしたキャベツを入れてから蓋をして火からおろす。これで完成。
具材込みで6リットル弱のスープなんて、簡単には冷めない。
このまま放置するだけで、野菜は甘くて柔らかい状態になる。
食べる前に、少し温めなおすだけでいい。
アレンの方も解体を終わらせそうだったので、終わったモノから調理していく。ウイングバードはカラスくらいの大きさだ。
普段の鶏肉よりも少しデカイ。
使用するのはムネ肉とモモ肉に手羽。それ以外はアイテムボックスにしまう。
手羽以外の肉は、食べやすい大きさに切る。手羽を半分とムネ肉には塩とカレー粉を軽くまぶしておく。(手羽とは手羽先ではない、腕全体だよ)
新しく、カセットコンロ・ガスボンベ・フライパンを出す。
流石に9人分の調理に、フライパン1つでは無理がある。
この消費は合計66だった。(結構痛い)
後は焼くだけ。周りもだいぶ薄暗くなってきていたが、照明がわりの焚き火や松明が充実していた。
流石に騎士、野営はお手のものか。
「おっ、良い匂いだな」
「ガランか。そろそろ仕上げていこうかと思うがいいか?」
「おう、頼む。思っていたよりもちゃんとした料理だな。この匂いは香辛料か⁉」
「ああ、嫌いか?」
「バカか! 香辛料なんて貴重な物、普通は旅の食事には使わないだろうが! ニードラングの街でも、ちょっとした贅沢だぞ」
「そうか、俺の故郷では珍しい物ではなかったから、そこまで貴重とは思わなかった」
本当は貴重だって知ってたよ。
やっぱりこの世界の料理のレベルは、俺が想像していた感じに近かった。
クラウちゃんにご馳走になったお茶を飲んで、結構期待したが、多少はマシなレベルだ。
塩や植物系の油は流通していたが、それ以外の調味料はこの大陸では貴重だった。
香辛料もコショウや唐辛子を指し、超は付かないが高級品だ。内陸部なら尚更に。
砂糖は思っていたよりも高くないが、庶民が毎日お菓子を食べる事はない。
地球で言うと、昔のケーキの感覚に近いかも。記念日や、おめでたい時のご馳走だ。
醤油や味噌は無いが、魚醤はある。
米はあるが、インディカ米の様にパラパラの品種だ。
魚よりも肉を食べる頻度が高い。それも魔物の肉。
飢えをしのぐだけなら簡単だが、そんな環境に耐える自信がない。
万物創造ありがとう、タナトス様万歳!
ずっと米を食いたいと思う俺が、こうして米以外を調理しているのも訳があった。
カレー粉を使った料理を、ある程度の地位の者に食べさせたかったのだ。
何故って?
そりゃあ、カレー粉の価値を確認するためさ。
万物創造でお金を造る事は出来ないが、調味料は今のところ出せる。
売るとしたら、カレールウよりもカレー粉の方が便利だ。
貴重とされる香辛料の詰合せであるカレー粉が、商品として売れるのか?
何れぐらいの価値があるのか? を、ベルハルトやガランで検証したかったのだ。
騎士だって普通の庶民に比べれば、良い生活をしている。ニードラング子爵家の騎士なら尚更だ。
今の状況はある意味、地球の味を検証するのには美味しい環境である。この機会を使わない訳がない。
「言い方は悪いが、毒見役を兼ねてアレン達の分から作っていいか? 俺達3人は後で落ち着いて食べよう」
「毒なんて疑ってないが、世話になってるお前さんには飯くらい、ゆっくりと食ってほしいからならな。アレン、出来た分からお前達が食え」
「ハッ! わかりました」
「焚き火でスープを温めてくれ、遠火でな。それじゃあ、飯にするか」