第98話:先輩の意地を見せるぞ!
(間に合ったか)
「おい、オークが来てるぞ!」
「俺らの根性見したるぞ!」
『オウ‼』
気合いの籠った声が聞こえるが、俺はにやけてしまう。
「ふっ」
「どうしたヨシタカ?」
「C班の連中が到着した」
俺の言葉と同時にC班が息を切らせて到着する。
「ま、間に合ったぜぇ、ハァハァ、ハァ」
「ルーキーばかりに、ハァ、ハァ、良い格好させて、ハァ、ハァ、たまるかよ!」
「み、みんな、速すぎよ」
「おれたち、Cランクパーティーの、スゥ、実力を見せてやらぁ!」
相当無理をして来たのだろう、全員が額に大粒の汗をかき呼吸を整え、魔法使いは地面に座込み、伸びている。
「随分と早い到着だな」
「ハァ、ハァハァ、スゥ、ルーキーばかり、に良い格好なんてさせ、るかよ」
「せんぱ、いを舐めんじゃ、ねえぞ!」
「意気込みは買うが、そんなんで戦えるのか?」
全員が無駄に体力を使い果たしている様にしか見えない。
「やってやらぁ!」
「俺達の活躍を見てビビれルーキー!」
おお! 流石に前衛組はもう使えそうだな。
「おい、ヨシタカ。コイツ等、大丈夫か?」
レグが心配になるのも分からんでもないなぁ。
「俺に任せろ、レグ、冒険者を全員ここに集めてくれ」
「何をする気だ? オークは直ぐそこまで迫っているんだぞ?」
怪訝な表情になるレグ。残りのオークももう200メール程先にまで迫っている。
「いいから早くしろ!」
「分かった分かった、おい! 全員俺の周囲に集まれ! 固まるんだ! 急げ!!」
『はい!』
「集めたぞ、何をする気だ?」
「ここにいる約70人の傷と体力を回復する」
「正気か⁉ レイライン様や高位の神官でもこの人数は不可能だぞ! それに体力を回復するだと⁉ そんな回復魔法は聞いた事がない!」
たぶんそうだろうな、基本的に体力は休んで回復するモンだ。
しかしC班の連中をこの状態で戦わせるのは可哀想だ。
何より、あんなに頑張って走ってからの戦闘となれば、また直ぐに息切れを起こすかもしれない。
B班とC班の前衛組に関しては体力が2~4割も減り、C班の魔法使いは半分以下にまで体力が減っている。
冒険者の頭数は増えたが、こんな状態で戦わせるのは忍びない。
俺は俺で時間が惜しいので、この集落の上位種を倒したらC班の援護に向かうつもりだ。
少しでも万全に近い状態で戦わせてやりたい。これもぶっつけ本番だが、試してみる価値はあると思う。
【劣化版】とは言え、これまで【万物創造】は俺の欲しいもの、やりたい事を叶えてくれた。今回もタナトス様から授かった万物創造を信じる!
「全員しっかり固まってろよ! タナトス様、クラウちゃん、俺の思う魔法を実現させてくれ! エリアリフレッシュヒール‼」
俺が考え、思った内容は簡単だ。
怪我をした者の傷を治し、疲労した者の臓器や血管を癒し、血液の中に点滴のような栄養素を注入すること。
目を瞑り、この内容を頭に思い描いて魔力を集中する……。
(キタ!)
魔力が無くなっていく感覚が俺を襲う。
(くそっ! ドンだけ魔力を持っていくんだ?!)
目を閉じているので、ステータス画面で魔力量を確認する事は出来ないが、体感的には【火装炎武】の初動よりも減りがキツい……。
「傷が治っていくぞ!」
「身体が軽いわ」
「脚のダルさが無くなった⁉」
(よし! 成功したな!)
思わずガッツポーズを取りたくなったが、魔力はまだまだ減っているので気は抜けない。
(ヤバい、足に力が入らなくなってきた!)
「……い! 止めろ! もういい!」
魔力の消費が止まったと同時に、レグに身体を揺さぶられた。
その途端、膝から地面に手をついてしまった。
「ヨシタカ! 大丈夫か⁉ お前のおかげでここにいる連中は元気になったが、お前に倒れられたら元も子もないんだぞ!」
切羽詰まった声で俺を立たせるレグだったが、周囲の連中が心配そうに俺達の様子を窺う。
「おいルーキー!大丈夫か⁉」
「顔色が悪いぞ!」
「オマエさんの方が辛そうだぞ!」
「始めて使う魔法だったから消費量が分からなくてな。俺は大丈夫だ。オマエ等こそ身体の方は大丈夫なのか?」
「お前の魔法のおかげで俺達の体調は万全だ。野郎共! ヨシタカの回復魔法のおかげで全力で行けるハズだ! 豚共を血祭りにするぞ‼」
『オウ‼』
なかなか良い雰囲気じゃないか。身体を張って回復させて良かったかもな。
「レグ、魔法使いの一斉攻撃を準備してくれ! その後、俺が突っ込んで一気に上位種を倒す!」
「そんな状態でやるのか?」
「俺がやらんとレイライン達の負担が大きくなるだけだ、早くしろ! 上位種を倒したらそのままA班の襲撃地点に向かうからあとは頼むぞ」
「解った、任せろ!」
「魔法使いの一斉攻撃準備! 攻撃の後に突っ込むぞ‼」
『オウ‼』
オークとの距離は100メールを切っている。幸いな事に、あちらさんは団体で歩いているので移動速度が遅い。
「魔法使い! 魔法の準備はできたか⁉」
『ハイ‼』
「ヨシタカ、攻撃のタイミングはお前に任せる。もうひと踏ん張りしてくれ」
「これくらい余裕だ」
「魔法の合図はヨシタカがやる! 新人にだけ任せる様なヤツはいないハズだ! ここは先輩の意地を見せるぞ!」