表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【物語】竜の巫女 剣の皇子【第二部】  作者: ヤマトミチカ
いっしょ
7/36

【物語】竜の巫女 剣の皇子 48 迷子とクマとこわい人

挿絵(By みてみん)




 ルチェイは眠っていたが、頬を柔らかいものがチロチロと触れるのでゆっくり目を開けてみた。


 眼前に大きな白犬の顔が迫っていることが分かると、声にならない悲鳴を上げて跳ね起きた。

「君は、誰?」

 彼女がハッとして近くを見ると、白犬の横には金髪で細身の人物が立っていた。多分こちらを見ているのだろうが、目は長い前髪に隠れて見えない。

 ルチェイはルチェイで、どうして今ここにいるのかと……グラグラする頭で考え……ここが『ロゴノダ宮城』であると思い出し、戦慄した。周りを見渡してもちびの姿はない。

「はぐれたんだ。どうしよう……」大きな薄暗い建物の中、彼女はかなり取り乱した。


 ルチェイを見つけた者は腕組みしつつも「クマが吠えぬならば、よいか」低い声でつぶやいた。

「すみません、迷い込んでしまって。はぐれたものがいるんです」ルチェイは彼に話した。しかし、ちびや自身の名を言う事はためらわれた。そんな冷や汗をかく彼女に

「僕はリオソス。この子はクマ。ここには詳しいから出口まで案内しよう」

 彼はルチェイに手を差し出した。彼の前髪の隙間から綺麗な瞳が見え、彼女はリオソスに付いて行くことにした。


 広大な廊下をリオソスとルチェイ、犬のクマは静かに進む。

 時々、兵らしき者がすれ違うが、リオソスを見ると一礼をし、ルチェイには声もかけない。

「君の名を尋ねてもよいか?」彼女と同じ背丈のリオソスは彼女の目を見て言った。

 答えられない彼女に、彼は「なるほど……天女か」ひとり得心したように頷くとまた無言になった。

 ふいに「リオソス!その娘は何だ!?」と、荒ぶる声が後ろからかかった。リオソスはゆったりと声の方に振り向くと「私の友人だよ。オリデオ」と微笑んだ。


 ルチェイはオリデオと呼ばれた者を見た。細身で頬までの長さの黒髪に翡翠眼、美しい顔立ちではあるが、睨み付けられた彼女はその眼光に萎縮した。

「お前に友人がいるのか?近衛兵から見慣れぬ者がいると聞き確認に来た。何故夜の省舎におる?」

「僕が図書寮に用があっただけだ」リオソスはのんびりと書籍を見せる。

「そうか、わかった」近衛兵の耳打ちの後でオリデオは「その服装はアーサラードラ貴人の者だそうな。引き立てろ」あっという間に近衛兵に囲まれ、ルチェイは羽交い締めにされた。


「待たれよ!」

 その場に突如飛び込んだソロフスが声を荒げる。彼の勢いに驚いた数名の兵はルチェイを離した。その彼女をソロフスはすぐさま身に引き寄せる。

 オリデオもリオソスも目を丸くした。オリデオが「なぜお前がここに!?」

 「今アーサラードラから戻った所。私がこの者を連れて来た。はぐれて省舎に迷い込ませた事は詫びる」ソロフスはオリデオや顔見知りの近衛兵にも言う。兵達も「藍理様なら」と納得し退きかける。


「なんだ、お前の女か」オリデオは歯ぎしりしながらソロフスを睨みつけた。

「わざわざ連れて来るんだ。よほど大事なのだな!?」

 薄笑いと鈍い眼光を浮かべるオリデオに、ソロフスは「瑞葉。お前とやりあうつもりはない」ルチェイを後方にかばいながら静かに返す。

 そこへリオソスが「僕は血が苦手だ。もし倒れたら主上に訳を言わねばならない。瑞葉、僕に免じて退いておくれよ」オリデオに言った。

 オリデオはそれを聞くと苦々しい表情を顕わにしつつも「ふん!」と、兵を数名連れ、そこから足早に歩き去った。

「リオソス、すまない」ソロフスが彼に礼を言う。リオソスは「末吉、あまり僕を悩ませるな。疲れてしまったぞ」と少しよろめいた。ソロフスが彼の背を支える。

「大丈夫。クマがいるし、兵にも送ってもらう。末っ子はその者と行け」

 そして彼はルチェイに向く。

「今度遊びに行くから名前を教えて」

 ルチェイは固い表情のまま頷いた。

 残った兵もリオソスに付き添いその場から去った。

「ひとまずここから出る。付いてきて」ソロフスはルチェイの手を取ると先に歩き、大きな扉から外へ出た。

 闇夜ながらも、降り積もった雪が月光をほのかに照り返し、周囲に広道と大きな建物がいくつもあることを教えていた。初めて見る光景にルチェイは目を丸くした。アーサラードラ宮城とはまた違う雰囲気だ。


「どうして皇国に来た?」ソロフスのことばに彼女は「ごめんなさい」それだけ言うと、身体をこわばらせた。

 ソロフスは

「怒ってはいない。ちびはいちばん安全な場所にいる。しばらくそこで預かってもらう」

 言いながら少し間を置く

「……怒った方がいいのか?」

 急にそう言うと、彼はルチェイのほっぺを両手でむにむにしながら

「こら!ばかルチェイ!ばか巫女っ!心配したぞ!ここは鬼怖いヤツがいっぱいいるんだ!勝手に来たらだめっ!!食われたらどうするんだ!もーっ!!」

 声を荒げ厳しい顔で言うと、彼女を抱きしめた。「ルーに何かあったら、私が泣く」

 そのことばにやっとルチェイの目から涙が溢れ「ごめんなさい……」何度も彼に謝った。

「あなたに会いに行ける様に、ちびがここへの瞬間転移を試してくれたの。そうしたら、空の上ではぐれてしまった。気が付いたらあの建物の中にいたの。ごめんなさい」

 彼女のことばを受けソロフスは

「……わかった。若いってすごい。ルーとちびを見くびっていた。私もまだまだだ」

 ため息をつきながら手で顔を覆い、本当に苦笑いすると、近寄ってきたミカゲにルチェイと乗った。


「今から私の屋敷へ行く。そこにもこわーい人がいるんだよ……」

 ソロフスは意味深な笑みを彼女に向けた。



(つづく)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ