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【物語】竜の巫女 剣の皇子【第二部】  作者: ヤマトミチカ
いっしょ
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【物語】竜の巫女 剣の皇子 46 お茶会談義

挿絵(By みてみん)






 「本日はお招きくださりありがとうございます」

 睦月のある晴れの日。療師のハル・カナイはイルサヤ宮城の一室にてルチェイに挨拶をした。

 彼女は長い黒髪をゆったりとまとめ上げ、簡素な服装ではあるが気品を感じさせる。そしてふくよかな顔に、初めて会った時と同じあたたかな笑みを浮かべていた。

 ルチェイも顔をほころばせ「こちらこそありがとうございます。今は時間が取れず……でもハルさんと話をしたかったので嬉しいです」彼女に礼を言った。

「両親は剛健ですのでいろいろ失礼したかもしれません」ハルは彼女を見て苦笑する。


 白い長衣を纏うルチェイは「いえ、チョコロ村で私は多くを学びました。今も光皇女ひかりのみこであるために、いろいろ伺いたく思います」

「はい、どうぞ」

「どうしてアーサラードラに皇国出身の方が所々に住まわれているのかと。この国に厳しい入出国の制限はありません。国内は衛士が巡回し保安に努め、地域官吏らは移民も国民と等しく援助していると聞いています。でもオゼさんやハルさんは違う様に思えます」

 ルチェイは彼女を見つめて言った。

 ハルは頷き「姫巫女様の疑問はごもっとも。アーサラードラと皇国はその長い歴史の中で独立した協力関係にあります。姫巫女様は皇国の事をどれくらいご存知でしょうか?」

「それがまだ書籍や、この国視点での知識です。他のことも知りたく思います」

「ではお時間がある時に少しずつ。あとは藍理様にも具体的にお尋ねされると分かる筈です」

「あいり?」お茶を飲むルチェイが首をかしげた。

「ソロフス皇子殿下の皇国での呼び名のひとつ。藍理宮の皇子。国皇籍名はソロフス・藍理・ロゴノダ親王。皇国にも歴史や格式、実績があります。まあ、こういう豆知識的なものからコツコツと。ちなみに私はソロ君のお母様とお菓子同好会仲間でした」

 ハルはお茶菓子をつまみながら朗らかに笑った。




 同じ時刻、イルサヤ宮城内の図書室。

 ソロフスはお気に入りの窓際席で眼鏡をかけ書類とにらめっこしていた。

 ふいに「殿下」と呼ばれ、その方を向くと女官見習いのアナスエが笑顔で立っている。

「畏れ多くも殿下とおはなししたく思います」大きな黒い瞳を輝かせる幼い少女に、ソロフスは笑顔を見せ隣に座らせた。

「今は何をされているのですか?」目を丸くして書類を眺めるアナスエに

「ここの者から相談を受けている。何かするにしても春以降だが」彼は言いながら頬杖をつく。

「皇国とは土壌が違うはず。おい、そこに隠れている二名、意見することを許す。近くへ」

 ソロフスのことばに、女官のミーアとシマジが本棚の陰から飛び出してきた。

 金髪緑眼のミーアが「殿下!お好きなお茶菓子!お盆にてんこ盛りお持ちしております!」と顔を輝かせ、黒髪黒眼のシマジが「殿下、畏れ多くも。この際ご無礼承知でお話したく思います」と真剣な顔で申し出た。

 彼は目を細め「私もこの国を愛する者として、お前たちの気持ちも汲むつもりだ。心置きなく何でも聞くがよい。ただし、私に色仕掛けは通じぬぞ」シマジを見て意地悪く言った。彼女は慌てて「そんなことはしません!」と声を荒げる。ミーアもアナスエもどぎまぎ。その様子に彼は眼鏡を外して軽く笑い出し

「ここの者たちは本当に愉しいな。姫巫女があの様に育つはずだ」穏やかな顔を三名に向けた。


 そのまま図書室でお茶会が始まった。

「殿下。姫巫女様は最近ますます宮城や国内の事に興味を持たれ、我ら官吏女官にもお声をかけてくださります」シマジは、のんびりと羊羹を食べるソロフスに話す。

「姫巫女様に聖上と同じおちからが無いにしても、竜と共に我らの思いを汲んでくださる御方が次代に控えてくださることは嬉しく思います」

「それは姫巫女に言え。喜ぶから」ソロフスは彼女に返す。「長の形は様々、アーサラードラや皇国、セリグ、ウラドハマ……。必ずしも異端異能の者が長とは限らない。だから姫巫女が不適合とは私も即断しない」


 ミーアは「私はシマジとアーサラードラの未来について話します。この国は確かに歴史ある格式高い、自然豊かで平和な国。しかし、その中で巫女と竜に頼りすぎ、皇国に比べ開発、魔導師や剣士などの育成にも力を入れてこなかった。だから巫女が倒れると国も倒れるのでは、という心配があります。これについては13代続くこの国の歴史の中で気付く者もいる筈だとも。この件について殿下のお考えを伺いたいのです」真面目な顔で話した。


「その考えを持つ官がいることはこの国にとって良いと感じる。歴史にはそれなりの意味と意義がある。アーサラードラ建国前に別の国があったように。この国に何かあれば皇国も必ず動く。苦しい時期があるかもしれないが、後で振り返った時にそれが良かったと思える様にしたいね。私は『国』よりも『土地に住む人々』に心を向けたい」

 ソロフスはお茶を飲みながら「一生かけてもできるかどうか、という話だな」と苦笑いした。

 その後も互いに様々な意見や思いを交わし、女官たちはソロフスに対して親密的な思いを持った。


 しかし、いちばんの思い出は『殿下お気に入りお茶菓子お盆にてんこ盛りセット』を彼が涼しい顔で完食したことであった。

 



(つづく)


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