【物語】竜の巫女 剣の皇子 45 イルサヤ縁談
厚雪に覆われるロゴノダ皇国。その宮城奥、象牙色の『七曜塔』。
「わぉ♪キラキラ♪おひさま♪雪白剣♪ビューリホー♪」
象牙色の長衣を纏い、そのフードから銀髪と銀目を煌めかせ、水晶盤を眺める端正な顔立ちの青年は、自身にしか見えない映像に幼子の様に笑う。
「嗚呼♪吉凶の綾が!ほどけて結ばれる!快♪感♪」彼はそばに置かれた結界円陣中央の、細長く巨大な頭蓋骨にも目を向ける。
「光と闇の、新世界デストロイダンス!」
彼は感動に打ち震えながらも呼吸を整え、再び黙した。
アーサラードラの姫巫女ルチェイは『竜の儀』を終え、次代『光皇女』となる許しを得た。
その時に、現『世界の秩序』である竜のエーテルから『始竜とアルテ・ハルモニアのはなし』を教えられた。一緒にいたソロフスとちびも、静かに耳を傾けていた。
「で、お主はどうなのだ?」
竜の儀の翌夜、イルサヤ宮城の広間にて老齢のナガ統官長がソロフスに詰め寄った。
「お主は姫巫女様をどう思っておる?」
「愛している。共に過ごすと決めている」
ソロフスはきっぱりと言った。
広間には他に、白い長衣を纏う聖上ハリュイや上級の官吏女官らが輪座している。若くして優秀な女官シマジとミーアもいる。ソロフスの言葉にミーアが緑の瞳を輝かせ、小声で黄色い悲鳴を上げる。シマジは真剣な表情を崩さず話に聴き入る。
皆はソロフスの隣にいるルチェイにも視線を向けた。彼女の頬が染まっている。
「私は姫巫女を愛し、彼女の貞操、純潔も守っている。何の問題があるか?」ソロフスも安穏且つ淡々と返す。ルチェイの顔はますます真っ赤になる。
「皆の心配はそこだろ?」ソロフスは長椅子にゆったりと腰掛け言う。ナガも「まあそうだ。巫女は竜と添い遂げるもの。聖上もそうである故に」苦々しくも言う。
「それって誰が決めたの?」ハリュイが場の固い空気をよそに、素っ頓狂な声をあげた。
皆が聖上に顔を向ける。
「巫女に禁じられていること・許されていることは他の人と同じよ。巫女が貞操や純潔って、純潔でなくてはいけないと法典にでも書いてあるの?誰が定めたことなのかしら?」ハリュイは周りを見回しながら尋ねた。
周りもその言葉にざわつく。
「そう言えば……司祭法典には『巫女は竜と添い遂げる』とあるだけで『貞操・純潔』については明記されておりません」
法典を暗記しているシマジは眉をひそめながら発言した。
「添い遂げるとは一般的に『夫婦として一生を過ごす』という事かと思いますが……」
ついにシマジも首をかしげる。
「アステイラ」
ソロフスがちびに言う。
「ルチェイは私が妻としてもらい受けてもよいか?」
『いいよ♪だってボクらはすでに家族だから』ちびは満面の笑みで応じた。
聖上がこらえきれずに吹き出す。
ルチェイと周りがあっけにとられている雰囲気の中
「では皇子殿下、こちら側の問題は皆無ということで」聖上がソロフスに言う。
「聖上!?」物を言おうとするナガを、ハリュイは手で制した。
「竜のアステイラが言うのです。それが新しい秩序。私とエーテルの秩序からルチェイとアステイラの秩序へと移行する時期。皆が混乱するのはわかりますが、私は愉しんでいますよ。とても素敵な判断をするアステイラ。【お父さんとお母さん】の愛情の賜ね」
彼女はコロコロと笑い、ソロフスとルチェイを横目に見た。
「ルチェイはそれでいいの?」ハリュイは姫巫女に尋ねた。
彼女は聖上の顔、続けてソロフスの顔を見た。彼は頷いた。
「はい」ルチェイは姿勢を正して答えた。
「ではソロフス殿下。皇国側にはあなたから話してもらいましょうね。皇国の対応は皇国の者にお任せします。ここでは婿養子でよろしくて?」声色低く意地悪気なハリュイに
「問題ありません」ソロフスも爽やかに即答する。ふたりは朗らかに笑い合った。
「では父に伝えて、どうにかしてくる。皆も心配不要だ」
ソロフスはざわめく周囲にのんびり言い、話し合いは終了した。
広間を出た後、ソロフスはルチェイと歩き出す。ふたりの後に、ちびとお付きの女官たちも静かに付いてくる。
「あの、なんだか急に決まって、その……」ルチェイはもじもじしながら顔を赤くする。
ソロフスは「急ではない」真顔で彼女に言う。
「ずっと機を待っていただけ」彼はルチェイのほっぺを軽くつまみながら
「お前のせいだ。アカホッペの癖に、忌々しい」
ちょっと怒ったような顔のソロフスに、ルチェイも困った笑みで返す。
「今夜は一緒」ソロフスはルチェイを勢いよく抱きかかえると、ルチェイ付きの女官に
「姫巫女は明日、奥内裏にお送りする」
「案ずるな。今宵、私の部屋からは決して出さぬ故。心配なら戸口で控えておいてもよいが」魅惑的な瞳で微笑んだ。
ルチェイはもう何も言えない。
「あなたをひととして愛するだけだよ」彼はルチェイにも微笑む。
「では行こうか、最愛の君よ。ちびはまた明日な」
ソロフスは彼女を抱きかかえたまま、去る。ちびも手と翼を振り、笑顔で見送った。
その夜ソロフスとルチェイはずっと、手をつないで過ごした。
(つづく)




