【物語】竜の巫女 剣の皇子 58 出立
「こんにちはっ。ミットマ・ヤードで~すっ」
アーサラードラのイルサヤ宮城正門の衛士に、ミットマは気さくに声をかけて挨拶をした。
その衛士は、流れるように煌めく金髪に美しい緑眼を持つ剣士と、居並ぶ白い一角獣に見とれた。しかし、すぐに我に返り「ああ!聖上からあなた様が来られたら案内するように言われております」と、他の官吏に取り次いだ。
ミットマは「おお~、さすが予言者っ!聖上すごいっ!ソロとココちゃんが尊敬するだけはあるね。うん!」厳つい一角獣のユメに向いて頷いた。
彼はそのまま竜殿に案内され、聖上と竜のエーテルに対面した。
「あらら。ソロがいたのっ!?ざんねーん!きゃわわなルーにも会いたかったな~っ♪」
一通り話を聴いたミットマは、あっけらかんとして言う。
聖上も「本当に残念。うちの娘と婿の元気な姿を今度見てやってくださいな」満面の笑みでミットマを見た。「あのね。ミーちゃんにお願いしてもいいかしら?」
「もち!キュートな聖上の頼みなら~!」
「あら嬉しい!しばらくイルサヤにお泊まりして欲しくって」
「なんだそんなこと。僕も喜んでっ」ミットマも微笑む。
そして、彼は目を鋭く細め
「聖上。オラクラ・ココから僕はここでランデブーができると教えてもらった。濃厚なデートになりそう。いいかな?」腰の剣を示し、聖上にウインクした。
「ええ、もちろん。あなたが望むままに」聖上もウインクで返す。
その光景に竜のエーテルは呆れかえり『やれやれ、真面目な話を面白がりおる』口を大きく開けて笑った。
ロゴノダ皇国、浅雪の残る昼過ぎのこと。
宮城の七曜塔でルチェイとソロフスが魔導師等と共にいた。
「では、また戻る時はルーがちびに知らせてもいいんだな?」
ソロフスがレウン導司に確認する。レウンは「そう。時間がかかりすぎる時はこちらから迎えに行く」と穏やかに話す。
ルチェイは寒くない様に厚着をしているが、レウンが「ロゴノダの魔法使い衣装で恐縮ですが」と象牙色の長衣を羽織らせてくれた。その長衣は軽くて暖かだ。
彼女のほころぶ顔に、導司も銀眼を細める。ソロフスは漆黒衣を纏っている。手甲も着け、額に藍色の組紐を巻き付けている。
「それで寒くないの?」ルチェイは自身より明らかに薄着なソロフスに尋ねた。
「大丈夫。これが皇国の戦闘衣。軽くて丈夫。ルーが来ている魔導師長衣と同じ。身体を最低限守ってくれる」黒剣と腰刀も帯びた姿で、彼は微笑む。
ソロフスは「ルーはたくさん食べるから、お弁当とおやつを大盛りで準備してもらったろ?」ルチェイの背負ったリュックを見て笑う。
「だって、タバナさんがたくさん入れてくれたんだもん!ソロの好きなお菓子もてんこ盛りよ!」彼女は頬を膨らませて声を荒げる。
レウンは朗らかに「はいはい。とても有意義な遠足になりますように」ふたりを宥める。
そうして、魔導師のサイメイとチョウヤにも目で合図し、三名で出かけるふたりを青い円陣で囲む。
「いってきます!」
ルチェイが少し緊張した面持ちで魔導師等に言う。
レウン導司は「姫巫女よ。あなたが幸運です」と、微笑むと円陣を収束させ、目的地へふたりを転送した。
(つづく)




