【物語】竜の巫女 剣の皇子 57 那妹の君よ
「ソロフスの痛みを受け止めきれない私は弱い。でも、それでもあなたと私の思いをできる限り共有したい。痛くてもいい。一緒にいたい」
ルチェイは彼の、夜色の瞳を見つめた。
彼は目を閉じ「あなたの気持ちは触れなくてもわかる」静かにルチェイに話す。
「私の感覚をルーが受け止めきれない事も知っている。それを私が受け入れていない事も認める」そう話し、ルチェイの頬をそっと撫でる「弱いのは私だね。ごめん」
「ソロフスは私に『ちからを合わせて難題を越えよう』と言ってくれたよね」
「そうだったね」
「この難題をどうやって越えようか?」ルチェイは首をかしげて微笑む。
ソロフスも小首をかしげる「問題は……具体化。互いに、できる事と苦手な事を挙げてみるか」
「うん。剣をありがとう。あなたに返す。これすごく重い。いつもこんなの持っているって、力持ちよね」
彼は黒剣を軽々と受け取りながら「そうかな?私にガミガミ言えるルーの方が強いかと。本当にたじたじ。参りました」上着を脱ぎ、苦笑いしながらそれをルチェイに羽織らせる。
「本当に、いつも私にたくさんくれてありがとう。ずっと綺麗で。初めて会った時、本当に天使だと思ったんだよ」ソロフスは微笑む。「はじめからルーはしっかりしていて、口達者で、同じ本が好きで、空を飛べて魔法も使えて、本当に憧れた」
「そうなの?私はソロフスがあんな暗い部屋にずっといるのに綺麗な心で、物知りで、お喋りも楽しかった。笑顔ももらった。それに私に『姫巫女』じゃなくて『同じ友達』としていてくれた事が嬉しかった」
「その時から好きだったんだよ」
「そうなの!?」目を丸くする彼女に
「あー、だめだ。やっぱりルーだ。あのままなら討ち破れていたかな」ソロフスはため息をつく。
ルチェイは「はじめに戻ろうか」顔を綻ばせながら提案した。
「そうだね。友達で、同じ背の高さ、目線で。何でも話せていた頃に」彼も笑う。「自分は難しく考え過ぎちゃうんだよなぁ。感覚が、大事なことを狂わせてしまっていた。ニールの言うとおり」
「ソロフスの先生は偉かったのね」
「そう、ニールもユサ先生も。賢くて、優しくて、怖い。そう言えば村のみんなは『痛み』とか構いもせずに私の手をガンガン握ってくるんだ。悪い事をすれば本気で怒ってくれたし。でもあの頃は不思議と痛みの苦しさが少なかった……なんでだろう?」彼は言いながら、考え込む。そして、手元の黒剣を見て、静まりかえる。ルチェイはその様子を見守る。
「使われていた……!」彼は小さく呟いた。
「どうしたの?」
「道具に負けていた」
ソロフスはルチェイの手を取る。
「痛くていいんだ。本当にそう!剣に助けてもらおうなんて思っていたから駄目なんだ!ごめん。私が取るべきはあなた。ひとの手なんだね。君なんだ!わかってきた!なぞなぞが」
「どういうこと?」
「玄穂は、魄を斬る故に斬った者の感覚を受け取ってしまう剣。あのね、剣士には『斬り殺す時、相手の苦痛を愉しむ者』がいて、これはそういう者にとっては『うってつけの道具』だ。私みたいに『斬る度にげんなりしている者』が持つべき剣ではない。でもニールは分かっていて私に与えたんだよ」
「先生はどうして欲しかったの?」
「ニールは『私なりの答えでいい』と言ってくれた」
「ソロフスはどうしたいの?」
「……分からないことがある。相談したい」
「もちろんよ」
「昔、母から『竜は大きな力に溢れているから、それより小さな器の人間が、竜の感覚を受け入れると壊れてしまう』と教えられた。そして、私は必要であれば竜を玄穂で斬る決意をしている。この場合、竜の魄を直接受け入れてしまうと、どうなるかが分からない。どう私が『壊れる』のか……と。これが不安で、ずっと言えなかった」
「教えてくれてありがとう」ルチェイは彼を見つめる「ごめんなさい。私もわからない。でも一緒に考える」
「ありがとう。私もこれから剣を使う時は気をしっかり持つ」
ルチェイは「まだ解決しない事がたくさん。でも、お互いにできることを」明るい声で言う。
「ひとつの事に向かって、分担だね。ではルー、ご苦労様です。服をどうかお召しくださいませ」ソロフスは彼女の姿を見て笑う。
「も~っ!一生懸命、禊ぎをしてきたのよ!水が冷たくて寒かった!でもがんばったわ!やった~っ!」ルチェイは顔を輝かせ万歳をした。
「あああもう!困った娘だ」彼はルチェイを抱えて布団の中に突っ込み「風邪を引かないように」と苦笑いする。
「……ソロフス」布団の中からカタツムリの様にルチェイは顔を出す。
「何?」
「ソロフスって、女のひとと付き合った事があるの?」
彼は「聴きたい?」とルチェイの頭を撫でる。
「ええええ!?」涙目になる彼女に「私はこれでもモテるのだぞ」ソロフスは意地悪く不敵に笑う。
それを聞いた彼女は跳ね起きて「ソロのバカ!もう知らない!」と声を荒げる。
「初めてその名で呼んでくれた!」彼は嬉しそうに声を上げると、猫のようにルチェイに飛び付き、抱きしめた。
(つづく)




