【物語】竜の巫女 剣の皇子 53 皇国の思い
ルチェイとソロフスは、ロゴノダ皇国七曜塔にてちびと再会した。
『ルチェイ!ごめんよ~!ソロもありがとう~!』
七曜塔の結界に吸い込まれた結果ルチェイを迷わせてしまった竜のちびは、彼女とソロフスに抱きついて泣きじゃくる。
「お前は本当に『世界の秩序』の癖に、もうちょっとどうかならんのか?」
ソロフスは呆れた顔を見せつつも、ちびを撫でる。
ルチェイは「私がいけなかったの。ごめんね」涙を流すちびに謝る。
「まあまあ。アステイラのお陰で姫巫女が皇国へ来る事ができ、藍理もここに来て僕と話す事ができたんだ。よかったよかった」七曜塔を預かる魔導師、レウン導司は青年らしく、明るく笑い飛ばす。
ソロフスはレウンに「いろいろありがとうございます。始竜の件は竜のエーテルから初めて教えられ、この場所も皇国守護結界中心部としか知らず。初めてここに入り……」と、七曜結界中心部、竜の頭蓋骨に視線を移した。
頭蓋骨化した始竜の頭は、その大きさが2メートル程だ。
「エーテルよりはるかに小さいので驚きました。これが世界を焼いたのですか?」
「そう。アーサラードラの『星の竜』とは全く違う。天輪神が降ろした紅の竜は700年以上経った今でも再起動したくてうずうずしている。jeez!Automatic-Program-Vital-Force!天輪神のCustomized-Battle-Toysへの情熱には僕も諸手感嘆!偉大なるファナティック!」レウン導司はソロフスの顔を横目に呟き、苦笑いする。
「藍理。始竜の頭も、これを欲しがる緋の巫女もまだ生きている。そして復活の時が。彼女は必ずここに来る。僕はここで始竜の頭を守る」レウンはふたりにわかるように話すと、銀眼の奥を静かに燃やした。
「皇国の祖、初代国皇ソラウと国皇后メユイが緋の巫女封印を頼んだのが神獣・白虎だ。白虎は契約により緋の巫女を離す」
そう話しながら、導司はルチェイを見て
「そこで姫巫女にお願いです。白虎に緋の巫女を離さないよう、ダメもとでお願いしてもらいたい。あなたがいちばん適任。孤高の神獣をかわいい姫巫女で懐柔していただければと」含んだ笑みを浮かべた。
「姫巫女のちからを戻すことが可能な存在も白虎。行くかを決めるのは姫巫女に任せます。その時は藍理が必ず一緒に行く事。いいね?」そのことばにソロフスは頷く。
『レウン!ボクはルチェイと共に行くぞ!』ちびは名誉挽回とばかりに、意気揚々と名のりをあげる。
「アステイラ、君は七曜結界にまた吸い込まれる。それに、宮城に藍理がいない間、ここを一緒に守って欲しい。僕は攻撃系魔導が苦手。藍理よりも強い君が頼りだ」
レウン導司はちびに跪いて話す。ちびは顔を引き締め『わかった』と応じた。
ルチェイは「私は白虎に会いに行きます。どう話したらいいかもわかりませんが、ソロフスと一緒ならやってみます」導司を見つめて言った。
その後、数日が過ぎる。ルチェイは穏やかに屋敷での生活を楽しんだ。
ソロフスは『周りにいろいろ相談事がある』と、昼間は屋敷にいない日が続いた。
「ルー。今日は遠出に誘われたから一緒に行こう」
ある朝ソロフスが言うので、彼女は軽装になり、彼と、ちび、タバナと共に外出をした。
馬に乗り、雪かきされた道をしばらく進むと、宮城からは離れその中心部を見下ろす事ができる小高い雪原にたどり着いた。
その林の方には数頭の黒や白や灰色の……一角獣と幾人かの男性らがたむろしている。
「ソロフス、私は一角獣を初めて見たわ。綺麗」ルチェイは目をまん丸くしている。
彼は「皇国には普通の騎馬もいるが、凶暴な妖魔や竜と闘う時は怖がってしまうからね。竜騎隊、夏官選りすぐりの者等は勇猛な一角獣を使う。私は勇壮麗美なミカゲで十分助かっているよ」ミカゲを撫でながら話す。
「あの方々は何をしているの?」
「狩りだ。鷹を使い、獲物を矢で射り、仕留める。ルーの気持ちも分かるが、意義はある。私は弓のたしなみはないが、今日は誘われてね」ソロフスはルチェイに穏やかに話す。
ミカゲから降りたソロフスは、彼女の手を取り雪を踏みしめ、狩りを行う集団の中心へ足を進めた。
気が付いた武官らはふたりに礼をして道を空ける。その場にはフロド皇太子がいて「末、来たか!冬官のアテイは遠慮して来なかった。姫君、ここの眺めもいいだろう?今日は晴れて良かった」と満面の笑みで声をかけてきた。
ソロフスは皇太子に簡単に挨拶をし、その横に悠然と立つ白髪頭の老人にも挨拶をした。
彼はソロフスよりも背は低いが、皺の刻まれた精悍な顔と、鋭い碧眼は厳格な人柄を感じさせる。
「父だ」ソロフスはルチェイに紹介した。彼女は「こ。国皇陛下!?大変失礼しました!ルチェイと申します!」大慌てで勢いよく挨拶をした。
「末。お前何も言ってないのか?」彼女を見て、皇太子は呆れた様子を顕わにした。
ソロフスは「言ったら緊張すると思って」淡々と返す。フロドは「それはお前がだろ?」笑って彼に返す。
「藍理皇子に食らいついたり、忍び込んだり、快活な姫のようだ」国皇ホロソフは表情を変えずにルチェイの目をしかと見る。彼女の顔は真っ赤になった。
「巫女よ。皇国は昔、この平原からはじまった」ホロソフは姫巫女の姿に目を細め、雄大な山脈に囲まれた風景に目を移す。ルチェイも広い空と雪原、林、広大な宮城や城都、いろいろ見やる。
「我らロゴノダははじめから『皇国』ではない。ロゴヤムトの武人が、天女や仲間等とこの北へ移り、力を合わせ開拓した『ムラ』の暮らしが今に続いているに過ぎぬ。アーサラードラと同じ思い、そして違う道で竜や民と共に生きてきた」ホロソフのことばに周りも耳を傾ける。
「大きくなると、なんでも納める事は複雑になる。しかし『修身・斉家・治国・平天下』を心に、我らは『天女の大紋章』を掲げ、連綿とその意志を受け継いできた。皇国の紋には『翼』『剣』『炎』が描かれておる。これは『天女の知恵・慈愛』『武人の心技体』『受け継ぐべき意志』などを示すが『弱さ』『諸刃の剣』『己や国を焼く愚かさ』の意味も合わせ持つ。すべては己を生かしも殺しもする。藍理はまだ修身もおぼつかぬ。しかし、此奴は己を焼くと周りも焼くでな。儂も扱いに困っておるところだった。
姫君よ。藍理をうまく生かし修身を助け、斉家を支えてもらえれば儂もせいせいする。禮明が皇国を助け、他で藍理が悪さをせねば、儂も心置きなく隠居できるというもの。儂の目の黒いうちは勝手にはさせぬが」ホロソフは話すと、ほんの少し口の端を引いた。
「藍理よ。オゼから書状が来た。レウンからも話があり、お前を特使に任ずる。皇国でもアーサラードラでも勝手に生きよ。冬官はクビだ。アテイに任せる」
フロドが「藍理、というわけでお前は今日から皇国特命全権大使だ。皇国籍と藍理宮は存続保持。要は皇国の為なら、どこで暮らしても何をしてもよい。オゼ太師も『後任ができれば大変助かる』との事だ」ソロフスの顔を見ながら、のびやかに話す。
国皇は「今日は獲物が一匹も獲れなんだ。鷹も一羽飛び立つ始末。禮明、帰るぞ。湯に浸かる」武官に腕の鷹を預けると、平素の渋い顔のままソロフスを見、向きを変え歩み出した。
「主上。鷹は気が向けば帰って来ましょうぞ。ここには旨い酒もあります故。藍理、今度酌に付き合え」皇太子はソロフスに言うと、主上や周りの者と共に一角獣に乗り、雪煙を上げながら宮城の方へ駆け去った。
その姿を無言のままソロフスは見送り、静かに降頭する。
「ソロフス。主上は……」ルチェイが彼の後ろから声をかける。
彼は「ルー。主上は、父は……許してれた」少し潤んだ瞳を彼女に見せた。そしてタバナに真剣な顔を向け「すまない。またしばらく屋敷と皆を守って欲しい」と言った。
「藍理。お任せあれ、守護神は藍理ある限り、いつまでも」タバナは凜として皇子に誓いを立てた。
(つづく)




