【物語】竜の巫女 剣の皇子 51 お菓子なおきゃくさま
ルチェイがロゴノダ皇国に来て三日目のこと。
皇太子フロドと第四皇子リオソスが藍理の屋敷を突然、訪れた。
「おお、末!この前の話を聞き、姫君にお会いしたくて来てしまったぞ」
長椅子にゆったりとかけた黒髪のフロドは碧い瞳を輝かせ
「かわいらしい姫君ではないか~!ほれ、お土産!末丸の好きな宇瑠兎羅堂の羊羹とおはぎと練り切り!屋敷の皆の分もあるぞ!」ソロフスとルチェイに人なつっこい笑みを振りまいた。彼は偉丈夫で剛健なのだが、笑顔になるとまた違う魅力を持つ。
皇太子の横に座るリオソスも「ルチェイ姫。息災か?僕は、末っ子に恋をする器があると分かり嬉しいぞ。末吉は恥ずかしがり屋で我らにそっけない。兄上と話した結果『まずは姫と仲良くなり、嫉妬した藍理が我らに喰らいつけば』と、今日は遊びに来たのだ」
連れてきた白犬のクマを撫でながら、穏やかに話す。
ふたりの話を聞きつつ、ルチェイは目の前の皇子たちと、複雑な表情を浮かべるソロフスを見比べた。
「あの、皇太子」「フロドで構わぬ」「僕もリオソスで」ルチェイのことばに皇太子とリオソスはやんわりと言う。
「ではフロド様。ソロフスはここでは、どんな感じなのですか」
そのことばに、ソロフスはあからさまに苦々しい表情を浮かべ、フロドとリオソスは目を光らせた。
「その前に、姫から見た末の様子を伺いたい。幸せなおふたりの馴れ初めなど」
皇太子は爽やかな眼差しを彼女に向けた。
「はい!とても優しくてもごもご」皇太子殿下の雰囲気に飲まれ、すらすら話そうとしたルチェイは、ソロフスから羽交い締めにされ、その口を手で覆われた。
その様子を眺めながら皇太子と第四皇子は茶菓子をほおばり
「うん。この姫はいろんな意味でよい方だ。仲睦まじくて何より」
「ですね、兄上。末がぞっこんなのも分かる」茶をすする。
「兄上達は、何用で来られたのですか!?」幾分やつれたソロフスがふたりに尋ねる。
皇太子は「すまない藍理。姫君がここまで柔和な方だとは。思わず遊んでしまった」朗らかに彼に謝る。そのまま表情を引き締めると
「一昨日、オリデオが失礼したと聴いた。あれは謝罪しないから私が代わりに詫びに参ったのだ」ルチェイに頭を下げた。
「いいえ、あれは私がいけないのです」彼女も慌てて言う。
皇太子は「姫君もお分かりのようだし、昨日の朝議でその件はカタが付いた。あとは藍理宮の方でいろいろ覚えてもらえばよい」ルチェイを見て言う。
そして「アラフにも言っておいたよ『姫君に何かあれば藍理が全部焼くだろう』と。竜よりも怖く、かわいい弟だ」第五皇子を見て目を細める。
ソロフスは「次の国皇は壱の兄上がふさわしい」真剣な顔で皇太子に返した。
「そのお前の気持ちは感じている。俺もそうありたいと願う」
「姫君。宮城は『皇太子派』『次兄派』そして『第五皇子派』など、様々に別れ入り乱れている。しかし『第五皇子派』は驚異ではない。今まで静かに暮らしていた魔導師が『藍理』をかわいがるが故に目立っているだけ。今度、レウン導司に会ってみるといい。そうすると宮城の闇の大切さとあたたかさも感じる筈」フロドも頷きながら話した。
「何より、末っ子は鎮座して畏まるよりも、広い空の下でのびのびと馬を走らせる方が似合っておる」皇太子はそうも言って、笑った。
リオソスもお茶を飲みつつ「宮城は複雑だが、僕はこの中で静かに一生を過ごす方が性に合っている。兄上は兄上で既に妻子もあり、玉座の重圧も歓びとしている。幸せの形はそれぞれに違う。今日は藍理とこのような会話ができてとても嬉しい」ルチェイとソロフスに明るい表情を見せた。
「では、姫君。今度は馴れ初めの話を楽しみにしております」
皇太子とリオソスはそう言い残し、軽やかに屋敷を後にした。
お見送りの後「皇国の皇子はいろいろな方がいるのね……」ルチェイは頷きながら言った。
「皇太子は大器で聡明で知略家。いろんな顔を、怖ろしい面も持つ。あっという間に魅き込まれただろ?あれが天賦の才能。本当に次期国皇にふさわしい方だ」
ソロフスは彼女に、静かに話した。
その夜、
「ソロフスはいろいろ大変なの?」灯りを消した部屋で、ルチェイはベッドに臥した彼に尋ねた。
「周りがいろいろ言う事?私は国皇の座に興味はない。あなたがいればいい。私はルーのいる世界にいるだけ。その世界を住みよく整える手伝いを、できる範囲でしているに過ぎない」彼は暗い天上を見つめ淡々と語った。
隣に寄り添うルチェイは「もし、私が先にいなくなったらソロフスはどうするの?」恐る恐る尋ねた。
「それはない」
「どうして?」
彼女は、無言でいるソロフスの手に触れないように気を付けながら、暗がりの中で彼の髪に触れ、頭を撫でた。彼はされるがままでいる。
ふと、ルチェイは彼のまぶたに触れみて、その頬が濡れていることに気が付いた。
「本当に、ささやかな事が欲しくて」ソロフスはルチェイの手をとると、そのまま引き寄せ「頭では分かっている。でも本当に、あたたかさだけが欲しい」
彼は彼女を強く抱きしめる。
「あなたのこのあたたかい心を、激痛ではなく、『鍵』なしで、ただ『あたたかい』と感じる事ができれば……!」
ソロフスは吐き出すように言うと、静かに身体を震わせた。
ルチェイも泣きそうになった。が、彼を思い、彼女自身を鎮める、その一点に心を向けた。
(つづく)




