第32話
決行日が近づいていた。
工務区の広場は、見違えるような姿になっていた。
巨大な送魔線のパイプが組み上げられ、広場を囲むように設置されている。
飾り付けも進み、色とりどりの布が風になびいている。
「いい感じじゃねえか」
トージが満足げに呟いた。
「ああ。あとは当日を待つだけだ」
僕は広場を見渡した。
職人たちの仕事は完璧だった。
「なあ、学者さんよ」
若い職人が駆け寄ってきた。
「どうした」
「それがよぉ、北側の送魔線が切られてんの」
「……何?」
僕とトージは、すぐに現場に向かった。
* * *
北側の入り口付近。
送魔線のパイプが、きれいに切断されていた。
「くそっ、やられた」
トージが吐き捨てた。
「誰がやったかはわかるか」
「いや、夜中のうちにやられたらしい。見張りも気づかなかった」
僕は切断面を見つめた。
きれいな切り口だ。素人の仕業ではない。
実行犯はわからないが、その裏にいる人間はわかり切っている。
「直せるか」
「ああ、直せる。だが――」
トージは周囲を見回した。
「また切られるかもしれねえ。見張りを増やしても、夜は暗い」
「……」
僕は腕を組んだ。
想定内ではある。
隠蔽派が黙って見ているわけがない。妨害は予測していた。
だが、職人たちはいい気はしないだろう。
せっかく組み上げた送魔線が、次々と破壊されては――。
「とにかく直してくれ。見張りも増やす。抵抗することが大事だ」
「わかった」
トージが頷いた。
* * *
その夜、僕は研究室で、クインタスとアリスに状況を報告した。
「妨害が始まったか」
クインタスが腕を組んだ。
「ああ。送魔線を切られた。直したが、また切られる可能性がある」
「見張りを増やしても、完全には防げないわね」
「始末するか?」
クインタスが、真顔で言う。
「いや、線を切られたくらいで殺せば、双璧だって黙ってないだろう。この前のことだって、正当な反撃だったとはいえ、厳重注意を受けてるんだ。それに、店主はアジュとカエのもとを離れられないだろう」
「……そうだな。だが、決行日まで持つのか」
「体力勝負になるが……あとは職人の根性次第か」
* * *
翌日も、翌々日も、妨害は続いた。
東側の送魔線が切られた。
南側の飾り付けが荒らされた。
材料の一部が盗まれた。
だが、職人たちは諦めなかった。
「やられたら直せばいい」
トージが言った。
「俺たちの仕事は、壊されても何度でも作り直すことだ。必死に抵抗する姿を見せ続けろ」
職人たちが頷いた。
彼らの目には、怒りと――闘志が宿っていた。
隠蔽派の妨害は、むしろ職人たちの結束を強めていた。
* * *
決行日の前日。
統治区、長官執務室にて。
「順調に進んでおります」
部下が報告した。
「送魔線は複数箇所で切断。飾り付けも一部破壊。材料も押収しました。明日の夜までに修復は不可能でしょう」
「ゴミクズどもも使いようだな」
長官は満足げに頷いた。
「このまま続けろ。明日の夜も、広場の周りにあのクズどもを待機させておけ。念のためな」
「承知しました」
部下が退出した後、長官は窓の外を見つめた。
イライジャの孫め。
いくら足掻いても無駄だ。
研究者風情が政治で勝てると思うなよ。
* * *
決行日の朝、工務区の広場は、職人たちで溢れていた。
「全箇所、確認完了だ」
トージが報告した。
「昨夜は切られなかったのか」
「ああ。見張りを三倍に増やした。さすがに手を出せなかったらしい。だが、夜までに修復が完了するかどうか……」
「そうか……彼らには損な役目を押し付けてしまったな」
「まあ、大丈夫さ。あいつら、意外とこの状況を楽しんでるからな」
広場を見渡す。
送魔線のパイプが、朝日を受けて輝いている。
今夜か――。
「研究員殿」
トージが隣に立った。
「……夜が楽しみだな」
「ああ」
僕は静かに答えた。




