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8歳から始める魔法学  作者: 上野夕陽
第七章

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第32話


 決行日が近づいていた。


 工務区の広場は、見違えるような姿になっていた。

 巨大な送魔線のパイプが組み上げられ、広場を囲むように設置されている。

 飾り付けも進み、色とりどりの布が風になびいている。


「いい感じじゃねえか」


 トージが満足げに呟いた。


「ああ。あとは当日を待つだけだ」


 僕は広場を見渡した。

 職人たちの仕事は完璧だった。


「なあ、学者さんよ」


 若い職人が駆け寄ってきた。


「どうした」


「それがよぉ、北側の送魔線が切られてんの」


「……何?」


 僕とトージは、すぐに現場に向かった。





 * * *





 北側の入り口付近。

 送魔線のパイプが、きれいに切断されていた。


「くそっ、やられた」


 トージが吐き捨てた。


「誰がやったかはわかるか」


「いや、夜中のうちにやられたらしい。見張りも気づかなかった」


 僕は切断面を見つめた。

 きれいな切り口だ。素人の仕業ではない。

 実行犯はわからないが、その裏にいる人間はわかり切っている。


「直せるか」


「ああ、直せる。だが――」


 トージは周囲を見回した。


「また切られるかもしれねえ。見張りを増やしても、夜は暗い」


「……」


 僕は腕を組んだ。


 想定内ではある。

 隠蔽派が黙って見ているわけがない。妨害は予測していた。


 だが、職人たちはいい気はしないだろう。

 せっかく組み上げた送魔線が、次々と破壊されては――。


「とにかく直してくれ。見張りも増やす。抵抗することが大事だ」


「わかった」


 トージが頷いた。





 * * *





 その夜、僕は研究室で、クインタスとアリスに状況を報告した。


「妨害が始まったか」


 クインタスが腕を組んだ。


「ああ。送魔線を切られた。直したが、また切られる可能性がある」


「見張りを増やしても、完全には防げないわね」


「始末するか?」


 クインタスが、真顔で言う。


「いや、線を切られたくらいで殺せば、双璧だって黙ってないだろう。この前のことだって、正当な反撃だったとはいえ、厳重注意を受けてるんだ。それに、店主はアジュとカエのもとを離れられないだろう」


「……そうだな。だが、決行日まで持つのか」


「体力勝負になるが……あとは職人の根性次第か」






 * * *






 翌日も、翌々日も、妨害は続いた。


 東側の送魔線が切られた。

 南側の飾り付けが荒らされた。

 材料の一部が盗まれた。


 だが、職人たちは諦めなかった。


「やられたら直せばいい」


 トージが言った。


「俺たちの仕事は、壊されても何度でも作り直すことだ。必死に抵抗する姿を見せ続けろ」


 職人たちが頷いた。

 彼らの目には、怒りと――闘志が宿っていた。


 隠蔽派の妨害は、むしろ職人たちの結束を強めていた。






 * * *






 決行日の前日。

 統治区、長官執務室にて。


「順調に進んでおります」


 部下が報告した。


「送魔線は複数箇所で切断。飾り付けも一部破壊。材料も押収しました。明日の夜までに修復は不可能でしょう」


「ゴミクズどもも使いようだな」


 長官は満足げに頷いた。


「このまま続けろ。明日の夜も、広場の周りにあのクズどもを待機させておけ。念のためな」


「承知しました」


 部下が退出した後、長官は窓の外を見つめた。


 イライジャの孫め。

 いくら足掻いても無駄だ。

 研究者風情が政治で勝てると思うなよ。






 * * *






 決行日の朝、工務区の広場は、職人たちで溢れていた。


「全箇所、確認完了だ」


 トージが報告した。


「昨夜は切られなかったのか」


「ああ。見張りを三倍に増やした。さすがに手を出せなかったらしい。だが、夜までに修復が完了するかどうか……」


「そうか……彼らには損な役目を押し付けてしまったな」


「まあ、大丈夫さ。あいつら、意外とこの状況を楽しんでるからな」


 広場を見渡す。

 送魔線のパイプが、朝日を受けて輝いている。


 今夜か――。


「研究員殿」


 トージが隣に立った。


「……夜が楽しみだな」


「ああ」


 僕は静かに答えた。


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― 新着の感想 ―
ロイの妨害にばかり気を取られて、足元がだいぶぐらついてそうだなぁ。
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