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夢見の魔導士  作者: べっちゃ
第四章 思い描く世界
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第二話 伝言

 繁盛してる串焼き屋に並んだだけなのに、ヒカネで戦った魔人――アズサと出くわした。


 今、この場には多くの人。こんな場所で魔人に暴れられたらマズい。本来の実力がヒカネ以上だとしたら、フィーネが相手したとしても巻き込みで何人も死ぬ。こっちは大量の人質を抱えている状態。


 対するアズサも、ヒカネでフィーネを相手取ろうとしなかったあたり、リオほどの力は持ち合わせていない……と思いたい。あっちも戦いたくはないはずだろ。


 とにかく、この緊張状態から解放されたい……!


「おいおいおいおい待て待て待て待て。”()()()”、剣から手ぇ離せ。オメェも……アレだぞ? はしゃぐようならこっちも出るとこ出るからな? あ~~、そうだ! お互い積もる話もあるだろ。近況報告なんてどうだ?」


 頭を高速回転させて口を回した。現状を把握できたのか、フィーネはアズサを睨みながらも鏡剣から手を離す。アズサは胸に手を当てて深呼吸し、俺の提案に応じた。


「そうね。ここで戦っても仕方ないし……聞きたいことはあったのよ。新聞で見たし、リオからも聞いたけど……フレアとロゼさんは無事なの?」


「あの二人が勝手に自白しない限り……大丈夫だろ。あの花の研究っていう、それらしい仕事も任せたしな」


「見せてもらったの……そう、よね。二人とも図太いから大丈夫よね」


 え? そこまで言うの? 本人たちが聞いたら物申しそうだけど……


 内容はともかく、アズサの表情は安心と寂しさが混在するものになった。そんな顔するなら大人しくヒカネに帰れよ。


 串焼きの待機列が進む。


 今度はフィーネが前のめりに語気を強くする。


「木を隠すなら森に、なんてよく言ったものね。こうも魔術士が多いと感知もそっちに割かれて、あんたの不快な魔力に気付くのが遅れたわ。それで、なんでメンデールにいるの? ヒカネの次はここで花でも育てる気? それとも、魔人の学校なんてものがあるのかしら?」


「花はもう育てないし、魔人に子供なんていないわよ。ここには……計画なんてものはないわ。”問題”がなければ何もしないわよ」


 アズサの顔からは相変わらず害意を感じない。むしろ”問題”の発生とやらを憂慮しているような表情だ。


 しかし『何もしない』……はないだろ。一体何を”問題”とするのかが疑問だが、それも起こるフリにしか聞こえない。


 というか、何気に大事な新情報出たか?

 あの光る花を育てないっていうのは、もう全世界に魔人どもが満足する数を植えたってことか? それに、魔人に子供がいないってのは()えないってことか? 生まれた瞬間に成体ってことは……あり得そうであり得ないでほしい。楽観的に考えると魔人の絶対数は減る一方で、脅威は徐々に小さくなるのか。いや、リオみたいにフィーネと張り合える奴がいるだけで十分大衆にとっての危険性は変わらないか。


「つーかさ、俺たちが西極圏(せいきょくけん)に向かうっていうのは知ってるよな? なんでわざわざ出くわすような場所にいるんだよ」


 列を進みながら、俺の疑問にアズサが頭を抱える。


「それは……あんたたちがもっと早くここを通過すると思ってたのよ。それが迷宮に寄り道して二週間近く費やすなんて……しかもこれだけ広い都市の中でバッタリ会うとか……」


「寄り道に時間をかけた内の半分はお前の教え子?に殺されかけたからだぞ?」


「それは本当にごめんなさい」


 素直に謝られる。リオとアズサが師弟?のような関係にあるのは事実か。フレアたちに教員として助言していたのも、リオを教えた経験があったからか。とはいえ、【堕天(リオ)】の扱いには困っている様子だ。あいつの方が強そうだし、アズサの手に負えてないのかもしれない。


 そうこうしているうちに最前列。店主に話しかけられる。


「いらっしゃい! どの串に――お? 見ない顔だな。メンデールは初めてか?」


「あ、はい」


 二人は初めてじゃないだろうが、俺に続いて頷いた。


 ていうか間近で見ると、この店主が怖い。目以外の顔を白の手ぬぐいでそれぞれ覆い、髪も見えないぐらい頭を隠している。唯一見える赤い目は見開かれてて凄まじい威圧感がある。よっぽど大火傷(やけど)してるか、とんでもない前科者じゃなきゃここまでやる必要ないだろ。


「ここ、品書きがあるから選んでくれ。おっ、幻惑の! いつものでいいかい?」


「お願いしまーす」


 店主は俺たちにお品書き(メニュー)を勧めながら、横に来た女性の注文を聞いている。女性の顔は僅かに曇っていて、こっちをチラ見してきた。多分アズサの魔力を感知したんだ。アズサは素知らぬ顔で明後日の方を向いている。ここで騒ぎになるのはマズいけど……首を傾げながらも女性の視線は串焼きの網へと移っていった。あぶねー……


 冷や汗をかきながらも、俺もお品書きに視線を落とす。串は鳥系だ。常連が付くくらいには長くやってるのか?


 店主は焼きながら俺らに都市の説明を始めてくれた。


「お上りだっていうならお節介に説明してやるよ。俺らが今いる北東地区は四角の塔があるだろ? あれは認識干渉魔術の陣を描くときの測量の見本になるからあの形なんだ。他も同じ。南東は身体干渉魔術だから三角、西は自然干渉魔術だから丸って感じだ。迷ったら、研究したい分野によって三本の塔を目指せば何とかなる。他の魔術士と意見交換したり共同研究したいんだったら、都市中央の庁舎を通すことを勧める。今の魔術士組合長は仕事が早いからな。一週間もしないうちに連絡がくる。ま、要するに塔か庁舎、どっちかに行けばやりたいことができるってわけだ」


 覆面で声が籠っているが、ハキハキと説明をしてくれた。見かけによらず、気前が良さそうだ。年齢は中年には入っていない感じだな。


 その間にもフィーネは注文を決めたようで、指を差して頼んだ。


「モモ、ねぎま、せせりで」


「二本ずつお願いします」


「あいよ!」


 アズサも同様に注文する。


「ムネ、つくね、砂肝……二本ずつで」


「あいよ!」


 二本? というか、フィーネが不快な魔力を感じたあたり、こいつはいま受肉してないよな? 食えないモノ頼んでどうすんだ?

 フィーネも同様の疑問を抱いたようで、顔を見合わせていると店主が意気揚々と声を上げた。


「それにしても、おたくら本当に運がいいぜ。この時代の、今、メンデールに来たんだからな!」


 この言葉には三人で顔を見合わせる。アズサも店主の言う運の良さには心当たりがないようだ。その様子を見た店主は息巻いて続ける。


「おいおいおい、知らねぇのか! 今、この都市には史上最年少、二年前に十一才で認定された特等魔術士【煉凛(れんりん)】レニット・サーマルがいるんだぞ!」


 十一才? 成人前じゃん。飛び級どころじゃなくね? つーか――


「現代の特等魔術士って一人じゃないの?」


 当人を見ながら聞くと、フィーネに呆れたような顔を向けられた。

 その様子を見た店主は怒鳴り声を上げる。


「おい、にーちゃん! モグリが過ぎるぞ! 確かに世界最強は【戦姫(せんき)】様かもしれねぇけど、レニットだって凄いんだ! なんてったって、たった一人で飛竜を何匹も殺せる魔術士なんだからな! 【戦姫】様でもできるか分からない芸当を十三才の少女がやるんだ! あの子はいずれ、【戦姫】様すら追い抜いて世界の頂点に立つ魔術士になる!」


 飛竜を何匹も? 迷宮で壊されて今は着けてないけど、魔術を阻害する革装備の元素材を貫通する威力ってことか? 飛竜は蛇竜に次ぐ脅威の災害級魔獣という認識なんだが……新時代の化け物という奴か。


 番付を抜かされると豪語されたフィーネは、腕組みしながら頷いている。

 なんだコイツ……『レニット』とかいう特等の魔術がよっぽど凄いものなのか? フィーネには最強であり続けてもらわないと困るんだが。


 今度は俺がフィーネに呆れていると、店主はまだ話を続けた。


「さらに! レニットは画家としても素晴らしい作品をいくつも描いているんだ! 個展を開けば満員御礼! 町村一つの予算ぐらいの金で競売にかけられる! 天に二物を与えられた時代の寵児(ちょうじ)なんだ! そうだろ、みんな!」


「レニットちゃんの絵好き~!」

「あの子、ちっちゃくてカワイイよね!」

「あの絵を見てると新しい魔術の着想を得られるわ!」


 店主の呼びかけに客が口々に応える。店主の熱量から趣味を疑ったが、割とこの都市の共通認識ではありそうだ。

 にしても、新魔術が思い浮かぶほどの絵ってなんだ? 見たら人生観でも変わりそうなほど感動するものなのだろうか。


 このやり取りの間に俺たちの注文が出来上がったようで、紙袋に入れられてこっちが差し出すお金と交換した。アズサも同様に――え? モノ持ってるよ……どゆこと?


 店主は渡しながら、俺に念押ししてきた。


「にーちゃん、悪いことは言わねぇ。レニットの個展に行ってみるんだ。にーちゃんは現実主義っぽい人相してるけどよ、あの絵を見たらちょっとは夢ってやつが見れるだろうぜ」


「あー……はい、あざっす……」


 この人に俺がこれまで出くわした事件を教えたらどう反応するだろうな。絵では価値観が揺らがない程度には夢を見させてもらってるつもりだ。


「あー、それと金に困ったら魔術士の被検体になればいい。新しい魔術を作っても実際に発動して効果を確かめなきゃ意味ないからな。大体はしっかり払ってくれる割のいい仕事のはずだ。その分、後遺症が残るかもしれないけどな」


 店主が後付けする。

 俺の中で、魔術士というのは人権を無視するのが好きな人種になった。


 丁寧に教えてくれた店主に礼を言い、露店から離れる。


 目下の問題はアズサの扱いなんだが――


「私を追おうなんて考えないでね。察してると思うけど、ここにいるのは私だけじゃないから」


 真顔でアズサが俺たちに告げる。脅しとしてはこの上ない言葉だな。最低でも二人以上の魔人……暴れられたら(ろく)なことにならない。

 そんな相手を前に、フィーネが一歩前に出る。


「改めて確認したいのだけど、あなた達は好き好んで人間に危害を与えたいわけじゃない。けれど、人類を滅ぼそうとしている。そうね?」


 アズサが寂しそうな顔をする。


「ええ……そうよ。不本意ではあるけどね」


「なんで不本意なことをしようとするの? 嫌なら避ければいいじゃない」


 単純過ぎる問いに対してアズサの目つきが鋭くなる。


「この際ハッキリ言うけど、舐めたことを言うもんじゃないよ? あんたたちが生きた時間とは比べ物にならない間、望んできたものを私たちは目指してるの。それに辿り着くまでに気の遠くなる時間を考えて、試して、その上で出た結論があなた達の滅び。好き好んで害そうとはしないけど、邪魔をするようなら容赦はしないわ」


 アズサから怒気を感じられる。どれだけのものかは分からないが、積年の想いが募っているのはよく分かる。だが、その上で――


「俺らを不愉快にさせるなら、こっちも全力で抵抗させてもらうよ。ただ、そういうの抜きで伝言だ」


 アズサが顔をしかめる。


「『いつでも帰ってきていい』ってさ。ロゼっちが」


「っ……!」


 途端、アズサの表情が今にも泣き出しそうなものに豹変する。とっさに顔を手で覆うと、俺たちに背を向けて歩き出した。前に通行人が横切ると、アズサの姿は見えなくなる。


 そうまでして逃げないとやり切れない望みってなんだろうな。

 どれだけ長く、強い思いがあろうと新しい思い出が増えないわけがない。どっちも大切にするっていう選択肢もあると思うんだが……


「これから……どうする?」


 フィーネが尋ねてくる。どうすると言われても――


「様子見だろ。あいつが言う”問題”とやら次第だ。最悪、回復したリオと一緒に行動してるかもしれない。有事に備えて、まずはもう一人の特等魔術士に協力を仰ぐことからかな」


「そう……ね」


 フィーネは眉をひそめて頷く。


 到着早々、問題発生だ。せめて何が”問題”なのか教えてくれないかな……

 ひとまず、アズサは西方向に消えた。庁舎か、西側の塔か……


 不安感を抱えながら宿舎に向かう。


 せめて死ぬような目に遭いませんように……

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