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夢見の魔導士  作者: べっちゃ
第三章 彷徨う夢現
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第四話 アナタは何しに迷宮へ?

 迷宮攻略の話し合いも終わり、雑談をしている最中だ。


 募集側三人が踏破した数々の迷宮の様子やリオの攻略の仕方を聞いていた。フィーネはリオが体得しているという空間把握の魔術に興味津々で、詳細を事細かに聞いている。


「実際、空間情報を取得する時間や範囲、精度はどれくらいのものなの?」


 フィーネの問いに対し、リオは部屋を見渡しながら答える。


「時間に関してだと、この一室ぐらいは一瞬ですね。人間の骨格から棚の収納まで把握できます。この宿全体の構造を把握するには一分くらいですかね。時間さえ掛ければ範囲に限界を感じたことはありません」


 限界なし? 本当に三等で済ませていい魔術か?


「精度も寸分違わないとは言いませんけど、致命的なズレを感じたことはないです。あぁ、そうそう。精度の担保かは分かりませんけど、ラビッサさん、意外と着瘦せしてますよ」


「リオちゃん!?」


 リオが自分の胸に両手を当てて言うことでラビッサが声を荒げる。何がと言わずとも意味がよく分かる。

 男二人は口を固く結んで明後日の方向を仰いでいる。ラビッサについて心当たりがあるかどうかで三人の関係性がハッキリしそうだが、怖いから踏み込まないでおこう。


 それにしたって、中々なことをぶっこんできたな。自分の能力を説明するためとはいえ、初対面の容姿を暴露するか? リオはラビッサの糾弾に対して謝ってはいるが、あまり反省している様子はない。


「イダダダダダッ! あっ、でも前に弾力がッ!」


「ちょっと……!」


 ラビッサが立ち上がってリオのこめかみをグリグリとこねるが、リオはラビッサに抱きついて着瘦せしているという胸に頭をうずめている。ラビッサは諦めた様子でリオを引き剝がすが、結構粘られた。

 この少女、意外とトンデモ野郎だな。この中じゃ最年少だが、気後れしないという精神は将来性があるとは思うけど。フィーネもさっきまで前のめりにリオの話を聞いていたが、この様子に少し熱が冷めた様子だ。


 その後は盛り上がりも落ち着き、女側は魔術、男側で迷宮についての話をしていた。その最中、ジョンさんの所作が気になった。親切や丁寧というにはやけに育ちが良い感じがする。加えて魔術士組合に所属し、ガディアの高級そうな盾……


 ジョンさんは魔術士組合員と言っていた。魔術士ではなく、学者として魔術士組合に所属しているお坊ちゃんは一定数いる。高い教養のある貴族には珍しくない話だ。


「ジョンさんって、貴族なんですか?」


「あー……”元”貴族ですね」


 ジョンさんが首に手を当てて俯いた。

 『元』? やぶへびだったか?


「隠しても仕方ありませんし、あの盾を見られれば疑問に思うのも仕方ありませんよね。僕は元々、帝国の地方領主の長男です。跡取りとして高い教育を受け、将来を約束されてはいたんですが、ある日家庭教師が教えてくれた迷宮にどうしても行きたくなってしまって……当然、親は猛反対。同年代の領民で兄貴分として仲良くしてくれていたガディアに頼み込んで家出しました。あの盾は我が家に伝わる家宝です」


 ぶっ飛んでねぇか? 家宝を持ち出すほどの熱意ってフィーネとそんな変わらないぞ。

 というか、ただの迷宮探索者が郡に掛け合って討伐期限を延長できるもんか? 家の名を持ち出したのだとしたら辻褄が合いそうだけど……国境地帯とはいえ、ここは王国だぞ。帝国貴族として脅しを掛けたのなら、国際問題に発展しそうじゃないか?


「ちなみに家に帰ったりは……」


「怖くて出来ませんね。廃嫡された他人なわけですし、盾のことも考えれば縛り首が妥当と言わざるを得ませんね。ハハッ」


 ジョンさんは口角を上げて笑うが、不気味なほどに目が据わっている。無敵の人になってそうだ。ジョンさんの熱意に屈したであろうガディアは遠い目をしている。

 たぶん家名の『ダウナー』は偽名なんだろうな。貴族としての家名を使うにしてもハリボテだから、郡相手に無茶したわけではないだろう。


 ジョンさんはガディアの諦念に苦笑いしながらも、懐かしむように昔を振り返る。


「もう、十年になりますかね……出奔したのが魔術学校の卒業と同時ですから、そこから帝国を転々と。迷宮に入っては文化財を回収して、歴史家や魔術士と共に時代背景の研究をして……通常の魔獣討伐任務を受けて日銭を稼いで地道に資金を貯めてはまた迷宮に入るという生活でした。そんな調子で迷宮の多いウィレイブ王国までやってきたというわけです。そこで出会ったのがラビッサでした」


 『十年』……あれ? 俺より年上? 本当にジョン”さん”?

 新情報に驚く俺を他所に、話題に挙げられたラビッサがこちらに気付いて言葉を継ぐ。フィーネとリオも耳を傾けている。


「あれは……三年前だっけ? 魔術士組合に迷宮の遺物を持ち込んできた二人と出くわしたんです。当時の私は二等魔術士として不自由なく暮らしていましたけど、なんとなく物足りない日々を過ごしていました。そんな中、楽しそうな顔で『新発見!』だなんて声を上げている二人が羨ましくて、そこから一緒に迷宮を探索するようになりました」


 ラビッサは俺とタメか一、二コ上ぐらいか。


「今でもそうだが、あの時は本当に助かったぜ。異国で土地勘のない俺たちが二等魔術士のラビッサに声を掛けてもらえるなんてな。それまでは迷宮の上層を漁るまでしかできなかった俺たちが、ラビッサを加えてから初めて迷宮を踏破することができた。あの時の感動は生涯忘れられるもんじゃねぇ」


 ガディアは嚙み締めるように拳を握りしめている。ジョンのお()りというわけでもなく、彼自身も今の生活を気に入っているようだ。


「そういえば、リオさんが迷宮に入る理由を聞いていませんでしたね」


 ジョンに話を振られたリオは居直って語り始める。


「最初は成り行きでしたかね。帝都周辺の魔術学校は最終学年で何かしらの実績を積まなければ卒業できないんです。大体は討伐任務に加わって成果を積むのが通例なんですけど、私は自然干渉魔術の適性が大してなかったんです。卒業できないな~って思ってたら、迷宮の話題に触れて、身術を空間把握に回せばどうにかなるんじゃないかって。そこからは踏破されていない迷宮を探して、ルルー迷宮に挑戦して、半年かけて踏破しました。残りの半年弱は探索成果を論文にまとめて期限ギリギリに提出して卒業できました。禁書指定にはされましたけど、研究資料として有用と判断されて結構な大金をもらったので、オストラ群島国家を経由してウィレイブ王国まで来て、今コレって感じです。せっかくだからこの魔術が活かせそうなウィレイブで一山当てようと思いました」


 発想の転換だな。できないことは考えずに他者とは違うやり方で成果を上げる、か。なんとなく親近感が湧く。オストラを経由するあたりも思い切りが良い。


 オストラ群島国家

 ルノワール大陸から海を隔てて東部に位置する、五つの島から成り立つ国家。ユーリカ大陸やルノワール大陸では海辺は忌避されているが、オストラは周囲を海に囲まれているため、開き直った臨海産業が発達している。漁業は他国にはない特色であるため、進んだ造船、操船技術を用いてルノワール、ウィレイブと交易している。また、ルノワール帝都とウィレイブ王都間の陸路の移動時間が長すぎるため、海路を用いる上での経由地にもなる。


 フィーネも不自由していた学生時代から親近感が湧いたのか、リオの手を取って称賛する。


「君のような若者が誰も好まない分野へ足を向けるだけでなく、成果まで上げるなんて素晴らしいよ。禁書になってしまったのが気になるけど、君のおかげで私の研究も進むわ。本当にありがとう」


 リオが頬を紅潮させながらフィーネの手を固く握り返す。


「はわ、はわわ……! 私もラビッサさんやフィニアさんのような美人さんと一緒に迷宮に潜れるなんて感謝カンゲキ雨嵐です! やっぱり迷宮に出会いを求めるのは間違ってなかったんだ! あの、お姉さまって呼んでいいですか!?」


「あ……いや、それは……」


 さすがのフィーネも気圧されている。


 さっきのやり取りといい、リオは女性を前にすると様子がおかしくなるみたいだな。帝都周り出身の奴らはオタク気質なところがあるから、好きなモノを前にすると異常行動が目立つことが多い。『帝都の魔術学校』と言っていたし、リオも例に漏れないのだろう。


「リ、リオちゃん、落ち着いて。フィニアさんが困ってるよ」


「あっ……ごめんなさい、お姉さま……」


「お姉さまは確定なのね……」


 何を見せられてるんだ?


 ガディアとジョンが俺に視線を送ってきてる。さっきの馴れ馴れしすぎるやり取りからも、ラビッサはすでにリオの餌食になってたみたいだな。距離の詰め方が上手いとも、言えるのか……?


「ところでよ、素朴な疑問なんだがどうやったら魔衛士になれるんだ?」


「ハイハイ! 聞きたいです! どうすれば美人なお姉さんの魔衛士になれるんですか!?」


 ガディアは話の種として聞いてきただけなんだろうが、リオは鼻息荒く身を乗り出している。


 当然ながら、「美女に斬られて魔力を献上する契約で魔衛士になりました」なんて言えない。そのあたりも設定は作ってきた。


「家名は違うんだけど、私たち二人は親戚なのよ」


「歳は近いけどフィニアが叔母さ――痛いッ! つねんないで! 続柄(つづきがら)言っただけでしょ!」


 フィーネに脇腹をつねられる。本当にコイツは年齢が関わる話になると過剰に反応してくる……


「騎士団を脱退するにあたって私は少し世間知らずだったのよね。そんな折に、うだつが上がらないステアを補佐にしないかって親戚に勧められたの。気心知れた人が一緒に越したことはなかったから魔衛士になってもらったのよ。強くはないけど目端は利くし、意外と助かってるのよ。軽口は控えて欲しいんだけどね!」


「痛い痛い! 力強いって!」


 最後にすごい力で脇腹をつねられた。設定に関わらず俺を痛めつけたいだけだろ。


「ステアさん……ずるい……」


 募集側三人は納得してくれたが、リオは恨めし気に俺を睨んでくる。


 こればっかりは運としか言えないから頑張って迷宮を渡り歩いてほしい。迷宮を好む魔術士なんてフィーネぐらいだろうけど。


 ある程度お互いを理解したところで今日は解散。部屋から出ようとした所で、リオが手を挙げる。


「あの……私、四〇〇号室に部屋とってて、ラビッサさんもお姉さまも男性と一緒じゃないですか。よかったら私の部屋に――」


「ガディアとジョンは下の三〇二号室に寝泊まりしてるから大丈夫よ」


 リオの誘いをラビッサはあっさりと躱す。

 三階以下は採掘従事者用の安い料金の部屋のはずだ。元貴族様相手に容赦ないな。この三人の力関係は今のやり取りでハッキリしたな。


「お、お姉さまは……」


 リオはフィーネに縋るが――


「ステア相手に気遣うような仲でもないし、少し込み入った話をしたいから遠慮するわ」


「あっ……」


 これを最後に俺たちは部屋に戻った。廊下に出るなりポツンと立ち尽くし、虚空に手を伸ばすだけのリオが哀れに見えてきた。


 込み入った話というのは、魔力の補充だ。迷宮に入る前に補充できる最後の機会だろう。


 さっそく浴室に向かい、鏡剣(きょうけん)で手を貫かれる。

 大汗かくほど痛いわけだが、手ぬぐいを噛み締めれば大声で唸ることもなくなった。慣れてきているのはいいが、せめて痛覚がなくならないことを祈る。


 ひと段落したところで、ガディアとジョンが大衆浴場に誘ってくれた。汗をかいていることから邪推されたが、何とか訂正して男同士の裸の付き合いをする。俺が最年少なわけだが、二人とも気軽に接してくれて結構仲良くなった。


 四〇二部屋に戻ると、リオが扉の前に立っていた。その表情は絶望以外に表現しようがない。


「お風呂に誘おうと思ったら……ラビッサさんはもう入ってるし……お姉さまは今入っているのか出てくれなくて……」


「あ~……迷宮から出たら誘ってみたら?」


 気休めも虚しく、リオは肩を落として四〇〇号室に戻っていく。


 なんだこの面白ぇ女は。

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