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夢見の魔導士  作者: べっちゃ
第三章 彷徨う夢現
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第三話 粒揃い

 攻略する迷宮の概要は、ジョンから説明された。


 これから俺たちが挑もうとしている迷宮は、掲示板にあった通り北山内部で発見されたものだ。この辺りは魔石が産出される数少ない鉱脈の一つのようで、この宿の利用者からも分かる通り、多くの人員が採掘に投入されている。そんな中、作業の効率化のために坑道を掘り進めたところ、目的の迷宮へと繋がってしまったらしい。幸いにも、現時点で人的被害は無いようだ。

 迷宮発見の報告が冒険者組合に寄せられると、ジョンたちは瞬時に迷宮に入り、坑道から繋がった入り口周辺の探索を実施。結果としては、ウィレイブ建国以前の都市同士の争いに用いられた、これまで彼らが探索した迷宮の構造から逸脱したものではなかったそうだ。


 本来であれば念入りな準備の上、発起人の三人だけで長期的に迷宮を攻略するらしい。協力者を募ったところで白い目を向けられる以上、端から自分たちだけでやるべきという話だ。

 これまでの経験から、今回も変わりなく三人だけで迷宮に挑戦するはずだった。しかし、結局は冒険者組合で募集を貼り出した。どうやら、これまでのやり方では立ち行かない事情があるようだ。


「北山と南山は魔石が安定して産出できる鉱脈で、地上と異なる迷宮からの魔獣の出現は好ましくない状況です。こうした問題を危険視したウィレイブ側のミディウス郡長は、坑道からの入り口を封鎖し、迷宮の大々的な攻略を宣言しました」


 ジョンは一枚の新聞を机に広げ、大見出しを指差す。


 ジョンが言うように、郡が騎士団に加えて組合所属の冒険者や魔術士を募って、迷宮内の魔獣を徹底的に制圧する旨が一面に書かれている。

 公的機関が迷宮に乗り出そうとするなんて、相当珍しいんじゃないか? 魔石の産出を……というより、金が湧き出る鉱脈の利権を何が何でも守るという意思が伝わってくる。

 郡が介入するということは、迷宮攻略に対する資源が潤沢にあるということだ。素直に喜ばしいことだと思うが、三人の表情は浮かない。


「僕たちとしても攻略の人員が多いに越したことはないのですが、問題は魔獣の殲滅を優先し、迷宮内の遺物の保護や状態の保存が二の次にされることです。僕たちが迷宮を探索する目的は、あくまでウィレイブ建国以前の戦時下の時代背景を研究することです。粗雑な探索による破壊は望ましくありません」


 ジョンは首を横に振りながら、新聞の下から一枚の紙を俺らに差し出す。

 赤色の大きな印鑑が押された通知書のようだ。


「この書面にある通り、何とか郡長に掛け合って残り二週間の猶予を頂きました。二週間後までに迷宮から漏れ出る脅威を排除できなければ、討伐隊が派遣され、迷宮の全容を把握した後に地下空間の全てを埋め立てるようです。それまでに魔獣の排除と遺物の保護や回収、壁画などがあれば模写をするまでが今回の攻略の全体像となっています」


 要するに、歴史的価値の分からない輩共よりも先に研究資料を確保するってことか。俺も分からない側だから気を付けないとな。


「通常であれば迷宮の攻略に一ヶ月はかかりますが、今回はリオさんに加え、一等魔術士のフィニアさんも来てくださいました。希望的観測にはなりますが、二週間以内の攻略は可能だと思います」


 一等(特等)のフィーネに期待するのは分かるが、三等魔術士のリオにもか? 通常の魔獣討伐ではなく、迷宮にこそ活かされる魔術を体得しているのだろうか。


「それでは、お互いに出来ることを確認しましょう。僕の得物は槍です。とは言っても、ご覧の通りの非力ですので、ガディアの援護があって何とか魔獣を討伐できる程度です」


 ジョンが後頭部に手を当てて苦笑いしながらも、部屋の隅に立てかけてある槍を指した。


 鉄製の柄で、先端が一尺(30cm)程度の穂となっており、全長はガディアの身長と同じぐらいの槍だ。特殊な要素は外観からは分からない。

 槍の横には、俺がすっぽり隠れてしまいそうなデカい盾も立て掛けられている。


「あれは俺の盾だ。魔石が含まれていて、十年使っても手入れが必要なさそうなくらいには傷が付かねぇ頑丈さだ。あれで魔獣を引き止めて、横からジョンとラビッサが攻撃するってのが俺らのお決まりの連携だ」


 ガディアが自慢気に盾を親指で指した。


 盾には豪華そうな金色の獅子の意匠で彫られている。魔石も含めて一体いくらするんだろうか。


 次いで、彼らの連携に加わるというラビッサが続く。


「私は水を超高圧で薄く研いだ水系統魔術《水切(みずきり)》を攻撃手段としています。あとは足元を崩す《流傾(るけい)》もあります。他は水分補給用の水も用意できますから、その分の荷物は嵩張(かさば)りません」


 ラビッサは両手の間に水を生み出し、《水切》という魔術を実演するように水を薄く細める。


 軽く空気を切るような音が鳴っていて、その切れ味の良さが窺える。ヒカネにいたアクアが順当に成長したら、彼女のような魔術士になるのだろう。通常の討伐任務でもそうだが、水系統の魔術士は迷宮で特に重宝されるんだろうな。


 次は参加側、リオが手を挙げた。


「それじゃ、次は私が。私に戦闘能力はありません。代わりに身術全てを認識干渉魔術に回しました。術式の概要をざっくり説明すると、指定範囲内の空間構造や魔獣の種類、数、加えて罠の配置なども把握できるものとなっています。この魔術のおかげで、ルノワール大陸にあるルルー迷宮を単独踏破できました」


「「単独踏破!!??」」


 少女の口からアッサリ出てきた衝撃情報に、俺とフィーネは声を荒げてリオへと身を乗り出してしまう。


 トンデモない索敵能力じゃないか! 冒険者組合の偵察部隊に所属したら大活躍だったろうに。


 ヒカネで習った認識干渉魔術は、結界を主とした空間のような概念にも干渉する。それを応用すれば、周囲の空間把握の魔術を体得できるわけか。


 迫る俺たちに、リオは慌てて両手を前に出す。


「い、いや……単独踏破といっても魔獣の位置によって進めなかったりしたので、結局半年ぐらい掛かりましたよ……」


「謙遜することではないですよ! 迷宮探索に非常に有用な才能です。リオさんのおかげで日程を大幅に短縮できるはずですから。本当にリオさんに来て頂いてよかったです!」


 ジョンも興奮しているようだ。

 ガディアとラビッサも深々と頷いている。俺たちが来る前に聞いていたようだな。


「それで、その迷宮で何か分かったことはあるの?」


 フィーネは興味津々でリオに迫る。


「あっ……えっと……司祭術につい――」


「本当!!?? 教えて! いくらいる!?」


「待て!! フィニア! 詰め方がおかしいだろ!!」


 襲いそうな勢いでリオに詰め寄るフィーネを、羽交い絞めにして何とか制止させる。

 目的が思わぬところで目の前に現れたからって、本性隠さなさすぎだろ“魔術狂”。


「ふ、ふぇ……あの……申し訳ないんですけど、論文にまとめたものを魔術士組合に提出したら禁書指定されちゃって、楔方(くさびがた)まで出張って外部への流出を禁止する契約をされてます。もし閲覧したいのであれば、最寄りだとメンデールの魔術士組合に行ってもらえば……」


 豹変ぶりに顔を引きつらせたリオの言葉に、フィーネが脱力して腰を落とす。

 なんかリオの顔が赤くなってる気がする。


 にしても、メンデール――世界最大の魔術都市か。元々旅の経由地だ。行く理由が増えたな。


「えっと……フィニアさんは司祭術の研究のために迷宮に入られるのですか?」


 ジョンがおずおずとフィーネに聞いてくる。


 まぁ、コイツの気分の落差を見たらビビるわな。フィーネは傾いたメガネを掛け直してジョンに応える。


「え、えぇ、そうよ。私は……元々騎士団に所属してた身体強化系魔術士なんだけど、基本に立ち返って魔術の研究をしようと思ったの。その中で司祭術の存在を知って、世界各地の文献を研究している中でここに辿り着いたってわけ」


 棒読みに聞こえなくもないフィーネの説明に、他の四人は感心するように頷く。


 当然、ほぼウソっぱちである。『フィニア・マキアート』の偽装をする上で、経歴の詳しい設定は既に詰めてある。


「へぇ、騎士団出身の身体強化系なんて、お強いんですね」


「あー……あと拒絶反応の比較的小さい治癒魔術も扱えるから、怪我の心配もあまりしないで大丈夫よ」


 ラビッサからの期待に、フィーネが付け加える。


 ただ、こうなると――


「まるで、【戦姫(せんき)】様みたいですね」


 はい、出た。

 リオが憧れの眼差しをフィーネに向けながら、こちらの痛い点を指摘する。


「確かに……見た目も白髪の美形……本人は見たことねぇけど」


 ガディアも特等魔術士様の噂を口にしながらリオに同調する。


 もちろん、こういう時の言い訳も用意してある。


「いやぁ、そうなんですよ。見た目も噂に聞く容姿と似てるもんだから、コイツ、【戦姫】様に憧れちゃってて。魔術適性が結構高いのに、全部身体強化系に回しちゃってるんですよ。いい歳こいて成り切ろ――ん"!!? テメェ!? グーで太腿(ふともも)殴ることねぇだろ!!」


 話し合って決めたってのに、フィーネがキレやがった。

『いい歳こいて』に反応したのか?

 俺とフィーネが睨み合っていると、ガディアが俺に話を向けてきた。


「一等魔術士とその魔衛士といっても、案外仲が良いもんなんだな。それで、ステアはどう戦うんだ?」


 あっ……しまった。最初の態度と一転、ガディアが興味深そうに俺を見てる。

 一等魔術士の魔衛士に求められるものは結構大きいようだ。話す順番を間違えた。ここまでの並びの最後に俺は弱すぎる……


 体を出来る限り縮めながら、事実を述べるしかない。


「えっと……剣と、暗器を少々嗜んでおります……」


「ん……? それだけか?」


「あのぉ……ハイ……」


「フッ」


 チッ……フィーネが鼻で笑いやがった。

 オメェの魔衛士はこの程度のことしか出来なくていいのか?


 空気が完全に冷えた。哀れな視線が俺に集中している。顔を上げることが出来ない。足手纏いでスミマセン……


「え、えーと……各々の能力も出揃ったことですし、迷宮での立ち回りについて確認しましょうか」


 ジョンが……いや、ジョン“さん”が場を取りなしてくれた。


 互いの能力に合わせた陣形や荷物を確認し、迷宮での注意事項を教えてもらった。どうやら慣れている他四人で、俺とフィーネの分も用意してくれるらしい。


 決行は明日、この六人で迷宮に挑む。

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