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夢見の魔導士  作者: べっちゃ
第二章 燻る青春
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第二十七話 光の花園

<ステア視点>


 今、俺は大ケガを負っているってのに、女子に囲まれて暴言を吐かれている。まぁ、理由は分かる。


 フレアを詰めまくって暴発させようってアクアに伝えた手前、ここまでの戦闘規模になるほどブチ切れさせる詰め方とはって話だ。先生を慕っている生徒たちとしては、助けた相手であろうとフレアを追い詰めた俺は許し難いのだろう。


 実情はさらに酷く、生徒たちに魔人の相手をさせようとしたわけだが……真実を語れば、いよいよ呪われるだろうな。


 ま、終わり良ければ総て良し。フレアの慌て顔も生徒たちの激情も、愉快に見えて仕方ない。


 ただ、な……


 焼き落ちた林道から、フィーネとロゼっちがノロノロと出てきた。


 それはよぉ、違くねぇか?

 俺、さっさとこっちに来いって言わなかったっけ?

 それがなんだ? ロゼっちは笑いながら泣いてるし、フィーネは満足そうに頬を緩めてやがる。こっちは重傷者だぞ。


「「「「フィーネ様! 校長先生!」」」」


 女子たちは彼女らに気付き、駆け寄る。


 全身がヒリつく体を起こして俺も続き、フィーネに訴えてやる。


「来るのが遅えよ、【千疾(ちばしり)】ババア」


「ふふっ、そうね……」


 不満をぶつけると、フィーネはロゼっちの腕を肩から下ろし、満面の笑みで俺の肩に手を置く。


 口角こそ上がっているが、目は据わっているし、いつしか鏡剣の切っ先が向けられて――


「い"っづあ"あ"あ"あ"あ"あ"!!?」


 俺の腹に刺してきた!


「「「「キャアアアアアア!!??」」」」


 フィーネの凶行に俺も生徒たちも絶叫!!


 魔力を補充するためだからってやりすぎだろ!!

 血が出てる! 痛い! つか、腹だけじゃない! 体中が剥がれそうな感覚! クソ痛い!


「テ"メ"ッ……!!」


 フィーネに手を伸ばそうとするが、剣を引き抜いて俺から離れていく。


「はい、これで文句ないでしょ」


 一切悪びれることなく、フィーネは肩をすくめる。


 文句しかないが? だが、刺された傷も、《火槍》で開いた脇腹や掠めた肩も治っている。というか、足元が汚い。なんか……薄皮?


 フィーネはフレアの方にも向かい、手を翳(かざ)すとアイツも絶叫。

 俺が斬った傷口も綺麗になり、自分の《火球》で焦げた右腕も脱皮するように元通りに治った。


 汚れた衣服を除けば、俺とフレアは普段よりも身綺麗になった。


「これで、元通りね」


 いっそ清々しいほど厚かましく、フィーネは鼻を鳴らす。


 コイツ、マジか……



 ~~~



【戦姫(せんき)】の衝撃的場面を目撃した生徒たちには、「治療のために鏡剣で体の状態を測る必要がある」という風に弁明した。


 その間にも、砦周辺の雑木林が燃え盛り、街の住人が騒ぎに集まってきた。何なら遅い気がするが、水系統魔術士を中心に消火活動が行われた。実際は、他の区画に延焼しないように留める程度で、林全体の全焼は免れないだろう。


 住人たちがこの騒ぎの中心にいる俺たちに説明を求めると、フィーネが魔人の討伐完了を宣言。歴史的瞬間に立ち会った住人たちは湧き上がった。

 でも、フィーネやロゼっちの顔付きから、逃がしたであろう様子は窺える。こちらとしては捕獲が最善で、フレアたちの様子から殺すのが一番マズそうだったし、まぁ耐え……ではないか……


 俺とフレアの戦いを見ていた生徒たちには、フィーネとロゼっちが取り逃がした魔人がフレアに受肉し、何とか俺が対処したと嘘を重ねることで納得してもらえた。

 おかげで、俺への暴言は平に謝られた。俺、狙ってやってたんだけどね。


 フィーネの凶行に戻るが、本来治癒魔術でも火傷跡は完全に治らない。そこで、フィーネは治癒魔術の応用で、治療部位周辺を分解した上で治癒を行ったようだ。結果、脱皮するように古い肌が剥がれ落ち、その下に新たな肉や皮膚が出来上がるという流れになるらしい。


 諸々がひと段落した今は現場検証と称して、俺、フィーネ、ロゼっち、フレアで灰が舞う元林道を通り、崩壊した砦跡に向かっている。


 その間に、魔人アズサの話を聞いた。聞けば聞くほど俺が悪いみたいな空気になってる。校舎に炎の壁を張ったのは、単純に思い出の場所を壊したくなかったからか。


 この空気をハッキリ言葉にして、フレアは俺にぶつけてきた。


「あんたが全部悪い」


「はぁ!? 元はといえば、お前が弁えてりゃ―――」


「大体! 勝ったつもりかもしれないけど、先生は全然本気出してないから!」


「結果俺が生きてるんだから俺の勝ちでいいんだよ!」


「何? やるっての!? こっちは灼杖がなくても《火槍》ぐらいわけないんだからね!」


「やめて! 今度こそ死んじゃう!」


 とばっちりとしか思えないフレアの理不尽を、甘んじて受けることしか俺には出来なかった。


 一方で、俺とフレアの言い合い?を年長者二人は前を歩きながら、微笑ましく見ていた。



 ~~~



 物々しい威容を構えていた砦は見る影もなく、高熱で溶けているような瓦礫がたくさん転がっていた。


 ロゼっちの指示で俺たちが砦の瓦礫をどかしていると、地下空間への扉が見つかった。開けてみると、やけに明るい階段が伸びている。ヒカリゴケかと思うが、月光が差し込んでいるわけでもない。


 階段を進むほど視界は明るくなり、一番下まで降りると、目の前に広がる光景に仰天した。


「なんだ、こりゃ……」


 元々備蓄庫だったであろう空間の床に、色とりどりの花が規則的に咲いていた。花に詳しくはないが、生育に適さないであろう植生の違う花が何種類も咲いていると思う。光はこの花々から発せられているようで、花と光の組み合わせが幻想的な光景を映し出している。


 フィーネもこの光景に圧倒され、目を丸くしている。


「これがアズサが何百年も掛けて育てていた、この砦にいた理由よ」


 そう言うロゼっちは花園に踏み入り、花々を撫でている。

 フレアも同様で、呑気に座り込んでは花の香りを嗅いでいる。


「そんでもって、人類に害を為す手段か」


 アズサの話から推測した俺の言葉に、二人は罪悪感を持つような苦い顔になった。


 そんな二人を他所に、フィーネが思い出したように声を発する。


「これ、私が生まれた村にもあったわ」


「「「はい……?」」」


 残りの三人で素っ頓狂な声を出す。


 フィーネがボケていない(色んな意味で)とすると、アズサとその仲間はこの美しくも訳分からん花園を何ヶ所も、何百年も苦労して育てては人類を害そうと……世界中にあるとすれば、人類そのものを滅ぼそうとしているのか?


 けれど、アズサの人間への向き合い方を考えると、好き好んで破壊活動をしたいようには感じない。


 フィーネからの衝撃新情報にロゼっちも驚きを隠せていない。フレアは思考停止したのか花の上で寝っ転がった。思ったよりデカい話になったな。

 ロゼっちは困惑しながらも、この花に関する情報を共有してくれた。


「アズサはこの花を丁寧に育てていたんだけど、花が完全に開いてからはこれらに向かって魔術を放っていたのよ」


 そう言いながら、ロゼっちは手に炎を生み出し、花に向けて翳した。

 花は燃えるどころか、なお一層綺麗に輝いている。


「こんな風に、この花々は魔術の影響を受けずに、折り曲げても元通りに直立するのよ」


 ロゼっちは顎でフレアを指すと、フレアが寝転がった後の花が真っ直ぐに戻っていく様子が観察できる。

 不思議すぎるな……


「秘宝でも持ち込めば、新世界の扉でも開くのか?」


「非現実的……と言いたいけど、この光景に魔人という未知の存在が関わっている以上、有り得るかもね」


 俺の冗談にフィーネが真剣に答えてくる。

 軽くは見れないか。


 ロゼっちは溜息をつき、観念したように口を開いた。


「それで、どうする? アタシたちは二人揃って負けたし、この花の底知れないヤバさも分かったことだし……告発する? 裁かれるにしても、フレアは減刑して欲しいけど―――」


「師匠、やめて下さい。最低でも、私は同罪にしかなりませんよ」


 涙ぐましい師弟のやり取りが始まってしまったわけだが、そんなことを言われても今さら困る。


 どうしようか悩んでいると、フィーネに先手を取られた。


「ステアに任せるわ。ステアがいなければ、私は動けなかったもの」


「おまっ……!」


 やられた! 任せるとか言ってるくせに、俺に期待した目を向けてやがる!

 無罪にしてやりたいのに、責任持ちたくねぇだけだろ……


 正直、俺もこの二人を咎める気は起きない。今が俺の人生の有頂天なのに、後味を悪くするなんて不愉快の極みだ。

 とは言え、魔人を見過ごした事実は大きい。時限式で何かが起こることがほぼ確定した以上、コイツらがしでかしたことは無視できない。


 俺が頭を悩ませていると、師弟二人がおかしな動きを始める。


「そう……大ケガさせときながらステアに償わないなんて、おかしい話よね。鬱憤も溜まってるだろうし、拘束される前に、おばさんの体で良ければ好きにして……」


「師匠だけにやらせられません。私も自慢できる体じゃないけど……」


 そう言いながら、ロゼっちとフレアが服の裾に指を掛ける。


 コイツら……


「お前らさ、負けた自覚があるなら、もう少ししおらしくしてたらどうだ? 真面目に考えてるから大人しくしてろ」


「「ハイ……すいません……」」


 俺が黙っているのに耐えられなくなったのか、師弟揃ってふざけ始めた。

 ここ数日で俺がそ(・)う(・)い(・)う(・)のに興味ないことが分かって揶揄(からか)ってやがる。


 それは置いといて、どうするか……


 いや、言い訳が必要なだけだ。

 それらしい理由さえでっち上げれば――


「今になってロゼっちとフレアをブタ箱に突っ込むのが損失すぎる。それよりは、優秀な生徒たちを育てることに注力してもらった方がいい。それに、分からないなりにこの花を調べる必要もあるだろ。アズサの近くにいたからこそ分かることもあるはずだ。下手な役人に調べられるよりはマシだと思う。あとは―――」


 ロゼっちとフレアの目を見据える。


「物騒な気なんて起こさせずに、アズサとまた家族になれるような努力さえしてくれれば、俺はお前たちをどうこうしようとは思わないよ」


 俺の言葉に、二人が息を呑む。


「ほんとに、あんたは……」


 フレアは声を震わせながら顔を伏せる。


「そう……そうよね……その通りよ……ありがとう」


 ロゼっちはフレアの頭を抱き寄せ、俺に――俺たちに感謝を述べる。


 フィーネの方を見ると、満足そうに頷いていた。


 結局、それらしい理由なんて後回しで良かったんだ。

 これまでのコイツらの人生が一番報われる生き方をすることが、一番に決まってる。


『最高の景色』なんて、一回望んだらもう二度と望めないものじゃないはずだからな。


 ただ、もう疲れた。体は治ったけど、精神的な疲労がキツい。


 俺は三人に声を掛ける。


「もう、帰ろう」


 表情はそれぞれだったが、三人ともハッキリと頷いた。


 砦から外に出た帰り道。今度は師弟が前を歩いている。

 横に並んだフィーネが、俺に声を掛けてきた。


「ステア、今日は本当にありがとう。ステアのおかげで、親友とその弟子を救うことが出来た」


 フィーネの瑠璃色の瞳が、俺を真正面に捉える。


「本当に、ステアに私の魔衛士になってもらってよかったわ」


 フィーネの笑みは、あまりに優しいものだった。


「まぁ……救ったのは子供たちだと思うけどね。ただ……フィーネに会わなきゃ今日を望むことは出来なかった。魔衛士にしてくれたこと、俺だって感謝してる」


 俺なりの謝意を伝えると、フィーネは一瞬目を見開き、やがてまた優しくはにかむ。


 フィーネの笑顔にあらゆる緊張が解けた気分になったが、それでも今回の一件で生じた懸念を言わずにはいられない。


「けどさ、初仕事がこれって……これからどんな目に遭っちまうんだ?」


「フフッ。それは分からないわね」


 どうにも、無責任な主人を持ってしまったようだ。


 けど、月明かりに照らされながら微笑んだフィーネの横顔は、これまで目にした何よりも、美しいと思った。

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