体育祭開催
── 翼専 体育祭 当日 ──
体育祭、それは学生時代という人間性の構築に欠かせない極めて重要な黄金期。そしてその黄金期において体育祭の記憶が薄い者はほぼ居ないだろう。
その学校の生徒全員が己の持てる全てを出し切り競い合う。流した汗も涙も色濃く脳裏に刻まれる事になるだろう。
全てを懸けてぶつかり合った果てに得るのは、勝利の美酒か敗北の苦渋か。
「我々、翼剣専門学校生徒一同は───
よくある選手宣誓。
どの学校でもどの学年でも何度も聞いてきたが、大して内容を理解していない者も多いはずだ。
何となく「正々堂々と勝負します」的な事を宣言しているのだろうと、ふわっと覚えておけば概ね正解である。
そんな宣誓を右から左へ受け流し、クラスの身長順に並ばされ中心より少し前に立たされている少女、小鳥遊 勇理は上の空、だが当然とも言える思考に陥っていた。
体育祭前には彼女との関係を回復したかった。
というのも少し前から彼女の親友であるはずの、要 計香からどうにも避けられている。
勇理自身に心当たりは無い。否、「もしかしたら」「多分」と考え出したらキリが無く、とても自分の中だけで完結させる事は出来ないのだ。
「・・・」
勇理はたまに、いつの間にかこうして深く思考する時がある。
周りが見えなくなる程に。
「小鳥遊さん」
声。
聞き覚えのある声。
「・・・あぁ。ごめん、何?」
「何じゃないよ。席、戻るよ」
クラスメイトの友達である。
「友達」という関係性が明確にどのタイミングからそう呼べる対象になるのかは定かでは無く、人それぞれ度合いが違う。
人によっては「目が合う」「すれ違う」のみという極めて軽い条件の者も存在する。
翼専の広大な敷地の校庭に設置された各クラスの座席に生徒全員がぞろぞろと引き返して行く。少し遅れて勇理もそれに続き、自らの席に着席した。
── 3年生 待機席 ──
「雨宮〜、競技プログラム貸してや〜」
「何故自分のを見ない」
「ミスった、家に置いてきた」
2人は同じ1強で同じ聖徒会のメンバーだが、クラスが同じになったのは3年からである。
元々よく会話もしていた為学校内ではほぼ2人で過ごしている。別に友達が居ない訳では無いのだが、「ある事件」で所属する部隊の人数を大幅に減らし、それ以降校内で話しかけられる回数が激減した。
毎年恒例の体育祭だが、一般の学校の体育祭とは決定的に違う点がある。
翼のみであれば展開が許可されているのだ。
「剣による攻撃性のある行動は全面禁止、全身展開は許可されていない・・・と、何コレ、『一般の来場者も多くなりますので、品性のある行動を心がけましょう』」
「今年からこういった大きなイベントは一般公開する事になったらしい。学校の授業や訓練、具体的な外敵討伐の内容などの説明会も1年を通して行った上で入学を考えて貰う」
「ようペラペラ出で来よるわ」
1年早く入学してるような物だ。
「せやけどギリギリ、中学3年生で覚醒する奴も居なくは無い」
「そこはアレだ、親御さんの判断に委ねるというやつだ」
プログラムの内容はもちろんそれだけでは無い。
「競技の種目、ウチらのはもち覚えてとるが・・・他は去年と同じとは限らん」
「同じだったら2人に攻略法教えるつもりなのだろう?素敵な先輩だな」
「やめろアホ・・・!知っとくだけや!」
肝心の内容は
・第1種目 100m直線
100mの直線を全力で走る。この時翼の展開は自由だが、翼によっては地上では走った方が速い場合もある。
・第2種目 2000mリレー
2kmの中距離を5人で走る。1人400m走る計算だが、この「400m」がミソである。徒競走において「全力で走る距離」と「ペース配分する距離」が明確に分けられており、400mの場合は「全力で走る距離」に分類される。
・第3種目 500m障害
スタート地点からゴール地点までの500mの間に障害や指令の書かれた紙などがランダムに設置されており、走るコースはくじ引きで決められる。
・第4種目 綱引き
説明の必要を感じない例のアレ。まんまである。
が、一応翼の展開が可能なため何かしらの奇策が飛び出るやも。
・第5種目 各クラス代表戦
翼剣専門学校体育祭の毎年恒例大トリ、その名も「代表戦」
各クラスの代表1人が同学年の別クラスの代表1人と一騎討ちをする。体育祭に参加している学年は5年生までであり、最高学年である6年生は一般来場者の誘導や安全確保といった立派な機関員としての活動をしている。
各学年A〜Dの4クラスで構成されている。
「リレーが増えてるな」
「代表戦は今年も大トリや」
と、明美がプログラムの流れを確認していると放送席から第1競技とその出場選手を整列させる指示が下った。
「早速私の出番だな」
「頼むで風使い」
── 1年生 待機席 ──
「かかって来なさいよカタツムリ共!!」
「ウチらに勝てると思っての!?」
「こっちには音速の女が居るんだよ!!!」
「ぶっちぎっちゃえー!小鳥遊さんー!!」
「今年の1年A組にスピードで勝負なんて100年早いんだよ!!!」
もはや支離滅裂である。
第1種目は100mの直線。その徒競走という分野において絶対的な信頼と実績を誇る少女は現在周囲から期待と羨望の眼差しを一身に受け・・・
「・・・ひ、ひぃ〜・・・」
委縮しきっていた。




