第19話 次の修行に向けて
僕はお師匠様と山奥へ向かう途中、
先日あった競争のことを話していた。
この移動中、僕はお師匠様と手を繋ぐ。
それが僕は嬉しかった。
「というわけで、スティルツでシュレンと競争したら
マリンが泣き出してしまって……」
「スティルツってどんな遊びなん?」
「えっと……細長い棒に足を乗せる所があって、
それで歩いたり走ったりします」
「なるほど、竹馬か〜。うちも昔やったなぁ」
「竹馬って何ですか?」
「うちの出身での呼び名やね」
「なるほど……竹馬。
では今度から僕も竹馬って呼びます!」
「あはは、何でなんよ。
そんでマリンちゃんは、ノエル君の身体が良くなったことが
嬉しくて涙したんや。ええ子やねぇ。
それを見てどう思たん?」
僕は少し考えてから、繋いでいない右手を胸に当てた。
「少し、恥ずかしかったです。
でも、嬉しかったです」
「そっか、そうやんな」
(まだ淡い恋心やろうけど……頑張ってな。
シュレン君には悪いけど、うちはノエル君を応援してるんよ)
「そんで、結局その勝負は
シュレン君とノエル君のどっちが勝ったん?」
「あ……!
そういえば、結局わかってないですね……」
「あはは、そっか。
今度ははっきり分かるように勝たんとね」
「はい! お師匠様!」
「うちもノエル君に話があるんよ」
僕はその言葉に、
もしかして帰ってしまうんじゃないかと心配になった。
「何でしょう……?」
「もしかしたら、そやね。
丁度この辺に、日中に滞在できる家とか建てるかもしれへん。
そしたら待ち合わせとかしやすくなるね」
「本当ですか!」
僕は口元が緩み、思わず声が大きくなった。
「まぁ、とは言ってもまだ先の話やけど。
それまでにノエル君が一人でこの辺まで来れるように、
強くならんとね」
「わかりました。頑張ります!
それで、今日は何をするのでしょう?」
お師匠様が頬に指を当てる。
何か考え込んでいるようだった。
「そやねぇ……スタッグやボアが複数出ても
相手できるようにならんとあかんし、
今日もこの辺で鍛錬かなぁ。
(そろそろ剣士のジョブが上がると思うねんけど……
ノエル君はどっちタイプかなぁ)」
ROLでは、プレイヤー以外の場合、剣術は
力タイプと速タイプに分かれることが多かった。
ちなみにシュレンは力タイプの技に加えて、
父親のクリス流剣術で学んだ技を使える。
「あと、これをノエル君に渡すから、
鍛錬の時は忘れず身に着けてきてな」
お師匠様がアイテムバッグから取り出したのは、
子供用に拵えた革の鎧だった。
「お師匠様……これは?」
「うちの持ち物からじゃなくて申し訳ないねんけど、
セントラルコリナの防具屋に売ってたから購入したんよ。
多分、貴族の子供用とかなんかな?」
僕はゆっくりと手を前に出し、師匠から受け取った。
「良いのでしょうか……こんなに貰ってばっかりで……」
「そやねぇ……人によってはこう言うと思うんよ。
例えば『感謝しなさい』とか、他には
『子供は遠慮しなくていいのよ』とか」
お師匠様が僕の目をまっすぐに見つめる。
「でも……うちの場合は、ノエル君がその鎧を着ていたことで、
もし危ない目にあった時に助かったとしたら、
それはどんなお金にも変えられないくらい嬉しい。
それがうちの気持ち。
この言葉を聞いてどう思うかは、
ノエル君に任せるわ」
「お師匠様……難しいです」
「そっか、ごめんな。面倒くさい言い方してもうて」
「いえ……僕も嬉しいです。
ありがとうございます。大事にします」
◇その後
僕がスタッグやボアを倒していると、
突然、身体が勝手に動いた。
剣が斜めから振り下ろされ、そのまま振り上げられる。
「お師匠様……今のは……
何だか身体が勝手に動きました」
「今のは二連斬と言って、その名の通り
発動後は、二撃目に割り込めない連続攻撃やね。
剣術が上達したってことやね」
(速タイプの剣士レベル1のスキルやね)
「あの……お師匠様。
自分で二回攻撃するのと何が違うのでしょうか……?」
「そうやんなぁ……そう思うやんなぁ」
(ゲームの連続攻撃技って格好ええけど、
その疑問は現実やとごもっともやと思う)
「うん、試してみよか。
うちに向かって攻撃してみてええよ」
「まずは普通に、振り下ろしと振り上げを続けて行ってみて」
僕は身体が硬直した。
「え……お師匠様に向かってですか?」
「うん、大丈夫やって。
今のノエル君の剣術で、うちが怪我することは絶対にないから」
そう言って、お師匠様はアイテムバッグから木刀を取り出した。
僕は躊躇いながら、剣を振り下ろせる距離まで下がり、
真正面に向かい合う。
「行きます……!」
僕は勢いよく剣を振り下ろした。
すると、お師匠様が少しだけ後ろに下がり、
見切られた僕の剣は虚しく空を斬った。
続けて振り上げようとした瞬間、
剣が上がる前に木刀で止められる。
「うん、やっぱり割り込めるんやね。
それじゃ、次はスキルで二連斬やってみて」
僕は言われた通り、気合を込めて叫んだ。
「二連斬!!」
一撃目は避けられたけれど、
今度は、二撃目の振り上げを止めることができなかった。
「やっぱり、発動後に割り込みはできひんのやねぇ。
発動前なら止められるけど」
「そうなんですか?」
「うん、やってみてええよ?」
僕は深呼吸して身構えた。
「行きます……! ニ」
「わぶっ」
続きの言葉を言う前に、お師匠様に抱きしめられた。
「ね? 発動前ならキャンセルできるんよね」
「わかりました……本当ですね」
僕は、お師匠様の身体に頭を預けてしまった。
抱きしめられたことが、嬉しかったのだ。
そのまま、お師匠様が僕の頭を撫でてくれた。
「それじゃ、スキルも覚えたことやし……
今日はこの辺にして帰ろっか」
「はい、お師匠様。
今日もありがとうございました」
帰り道も、お師匠様と手を繋いだ。
村の入り口近くまで歩くと、
お父さんとお母さんに見られないように革鎧を脱ぎ、
アイテムバッグにしまった。
「それじゃ、またね、ノエル君」
「はい、お師匠様。またお願いします」
僕は帰った後、クリスさんの剣術道場を覗いてみた。
するとシュレンが人形に向かって勢いのある一撃を放っていた。
僕が覚えた二連斬とは違うスキルかな?
今度、お師匠様に聞いてみよう。
「さすがシュレンだね。僕も負けないから」
僕はライバルの鍛錬を見て、明日も頑張ると誓った。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
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次の話を執筆する活力になります。
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