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TO DYE HANDS  作者: 鳴海 慶
2/2

実験生物

 室内に入ると途端に賑やかな声が響いてくる。

「また銃壊したんですかぁ〜」

「てへぺろ」

「ペロじゃねえんだよ教えた通り使ってんのか」

「ニコの言う通りにしてたらこんな壊し方しないよねえ〜」

「ということはー?」

「ということはじゃねえんだよこの野郎」

「まさかそのまま使うなんてつまらねえことをするわけがないぜ!」

「つまるとかつまらねえとかじゃねえ!ってか詰まらせてんじゃねえかよ!」

「あっはっは」

 やいのやいの、言い合っている三人のところへ歩み寄る。

「あんたよく自分が物壊しといて高らかに笑えますね……」

「あっコウくんおかえり」

 高笑いをやめてこっちを振り向いた金髪の男が、細めた目を緩め手招きする。薄い顔にすうっと切れ込んだような瞼の間から、(ゴールド)の目が覗いた。囲んでいるテーブルの肘掛けを一つ空けてくれる。

「なんか飲む?」

「コーヒーでももらってきます」

「うい」

 ここは各ラボから接した廊下と繋がっていて、いわゆるエントランスの役割をしている空間。立ち姿勢のまま休めるラウンジである。上着を脱いで一旦離れると、反対隣に立っていた青髪の男が僕の脱いだ上着を勝手に漁り、銃を取り出すと話題の中心であった壊れた銃と並べて見比べ始めた。

 コーヒーをドリップしながらその様子を眺める。

 金髪の男が室長「クロ」、

 青髪の男が主任研究官「甘楽」。

 二人ともニコより身長が低く、体型も柔く、戦闘員らしさがない。それもそのはず、彼らはこの組織でのメイン業務である様々な研究に従事していて、僕やニコとは役割が違う。

 いや、僕はラボにも出入りさせてもらっているが。かといって彼らがしていることが理解できているわけじゃない、あくまで手伝い程度だ。

 彼らは被験体ではない、「実験を施す側」。

 ニコの目は美しいグリーンとゴールドのオッドアイだけど、クロさんと甘楽さんの目は両方ともゴールド、僕と同じ。「人間」の、目をしている。

「あーあ亀裂になってる、手当てしないと……いやこれはまた育てないとだね」

 一旦ラウンジから何かを取りに出ていった甘楽さんの背を追って、ニコも一緒に出ていった。何かを持ってくると言っていたから、運ぶのを手伝うつもりなのだろう。ニコは甘楽さんいつもついて回っている。

「あ、そういえば室長」

「ん?」

「ここってどうしてやたらと侵入者が多いんですかね。僕毎日撃退業務に追われてそれしかできてない人生なんですけど」

「人生て。仕事に慣れたらそんなんちょちょいと済ませて自由時間が増えるだろうからガンバレ」

「相手にも人生があるだろうにちょちょいと殺されてしまうわけですか……」

「まあ、侵入者がどういう気分で覚悟で想いでここに来てんのかは知らんけど、動機は察して余りあるだろ」

 動機。

 動機ねえ。戦争に使えるであろう人間兵器を作っている組織に、研究をやめさせたい。とか?

 それが察して余りある動機だろうか。かなり大きな正義でも掲げない限り、命を捨ててまでこの組織と敵対する立場になんてなれない気がする。……その程度のことで、と思ってしまう僕は、正義感が足りないのかな。

 それに。

「この組織って人類救済を目的としているんでしたよね?」

「おっとそんな大層なことどこのどいつが言ってんだ」

「僕の解釈ですけど」

「コウくんなかなかヤベー奴なんだね」

「いや、だって」

 ここで研究されているのは、ニコのような人間兵器を生み出すことーーーーじゃない。むしろ彼は、副産物として生み出された存在といえるだろう。だから組織内で秘匿され、守られている。

 ここにはもっと他にすごい発明品が、作品が生み出されていることを、僕は見て知っている。それは戦争どころか、世界平和にも貢献しうる偉大な研究成果だ。

「まぁコウくんが知ってる内情なんて外からはわからんからね。実用段階にない研究成果なんて公表もできないし」

「だったらいっそのことセキュリティ上げるとか、外部からの接触を完全に遮断してしまえばいいのでは?」

「身軽に出入りできるのもこの組織のいいところじゃん?てかセキュリティってことなら住人こそが一番のセキュリティだろ」

「まぁ……アナログな鍵ばかりで変に解錠の手間もないですし、身軽ではありますね」

「あと根本的かつ単純な話、セキュリティシステムを組むための技術を持ったメンバーがいないし。もしコウくんが言うような策に出るなら外部に依頼することになっけど、ほらここって公的に認可された施設じゃねえからさっ迂闊にそういう依頼とか外部にできないっていうね」

「ちゃっかりヤバい組織ではあるんですね……」

 天才レベルの頭脳を持った主任みたいな人が居るんだからシステムくらい勉強してなんとかならないもんか、と思ってしまうが、かく言う僕もそんな技術はどうやって手にしたらいいかもわからないので、結局自分の腕っぷしを頼りにするしかなさそうだった。

「うーん。まぁ、納得しておきます」

「はっ、面倒くせえ新人くんにご納得いただけて何より」

「物言いがウザいですよ」

「上司にその物言いできるのすげえよお前」

なんて言い合っていたら、甘楽さんとニコが戻ってきた。

「ただいま〜」

ニコは両手に何か巨大な……器……植木鉢?を、抱えている。

「え?」

植木鉢?

「おお おかえり」振り返った室長も巨大植木鉢を見て固まった。更に、手を振って応えた甘楽さんのもう片方の手にはジョウロが握られている。

 銃の修理にと取りに行ったのが、それなのか?

 植木鉢とジョウロ……なぜ……?

 と、思っている間にも甘楽さんはテーブルに放置されていた壊れた銃をひょいと取り上げ、「ここに置いて」と言われたニコがテーブルに植木鉢を置くと、流れるように迷いない手つきで、その植木鉢の中心に銃をずぶしっと押し込んだ。

 ふかふかの土の中に銃は埋まった。

「……は?」

 シャワーーー、と爽やかな音を立ててジョウロから植木鉢へ水を遣る甘楽さん。

 じんわり土が色づいていく。

 少しだけテーブルに水が染み出してきたところで、甘楽さんは水やりをやめた。

 ……。

「……え、これ、なん」

 説明を求めようと甘楽さんに向き直り、口を開きかけた僕の視界の隅で、ボコ……と不穏な音を立てて何かが動いた。

「……」

 おそるおそるそっちを見ると、植木鉢の真ん中で何かが生まれていた。

 何かっていうか、金属質で見たことがある形状の一部。

 銃だ。

 銃が生えた。

 ……銃が生えるってなんだ。

「いやいやいやいや」

 待て待て待て待て。僕の世界の常識では銃は植木鉢から生えないんですよ。

「はやく大きくなれよ〜」なんて微笑んでいる甘楽さんはこれが自然現象だとでも思っているんだろうか、手品か?いや、おかしいとは思ってたこの組織の中のどこにもこんな武器を精製している設備なんてないのに、侵入者を蹴散らして余りあるほどの武力が備わっているもんだから!

「生えた……だと……?」

 隣で僕の心を代弁するような声がしたので見てみると、室長が見たことのない表情をしていた。あよかったこの人は同じ世界の住人みたいですね、意外にも。というか、思わず思考が取り乱してしまったが、冷静に考えて、これも研究成果の一つに決まっている。

 甘楽さん、この人はすごいのだ。

 すごいおかしいが、すごい人で、この組織の要。

 さながら創造神である。

 しかしこれでわかった、こうして超スピードで生み出せるのであれば、武装して敵を返り討ちにした方がコスパはいいだろう。きっと弾丸も実がなるようにたわわに樹から採取できるに違いない。

「百歩譲って銃が生えるにしても、この成長スピード……驚愕に値します」

「コウくんもうそこまで譲歩できてんの……?そのことに驚愕しちゃう……」

「逆に室長は何で知らないんですか。古参メンバーでしょう」

「いや俺は室長だからさ、チームの生活や大枠のトップだけど、ラボのトップは甘楽。研究に関しては甘楽に丸投げだもん」

 案外しっかり役割分担があるんだな。

「え、てか(こいつ)生きてたってこと……?」

「そうだよ〜室長、命は大事にしましょうね、メッ」

「うわぁマジかぁ。うわぁ……すみませんでした」

「あんたこそショック受けるとこそこなんですね」

 侵入者をちょちょいと殺す発言をしていた人とは思えない。

「みんな何驚いてんだ?銃、ちゃんと育つんだろ?」

 ニコは一人だけ驚きもせずきょとんとしている。そういえば植木鉢を取りに行く時、甘楽さんは「育てる」だとか言っていたな……。ニコはこう見えて生まれたばかりだから、甘楽さんの手伝いでラボに出入りする景色を自然なものとして学習してきてしまっているのだろう。

 ポン、とニコの肩を叩く。

「あのですね、そもそも本来銃は植木鉢から生えませんからね?」

「!?」

 一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニコはペシン!と僕の手をはたき落としてきた。

「嘘をつくな、実際生えてるじゃねーか。新人と母さんだったら母さんの言うことを信じるに決まってるだろ」

 ……うん、まぁこいつは外の世界に出て生きることはないだろうし、この組織内にいる限りは、これが常識でも問題ないでしょう。



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