第18話 国一番の錬丹術師は、今日もモフモフ白虎神獣を愛で、共に生きてゆく ★エピローグ
ごねて居座ろうとする燕景を、半ばキレ気味の衛士・文が引きずって帰っていき、店じまいしてから暫くして落ち着いた頃。
桃花は、今――至福の時を過ごしていた。
「はぁ~~~~……もふもふぅ……♡」
『フッフッフ……』
白虎状態の白の横腹に、桃花は顔を埋めて抱き着き、そのふかふかの毛並みを存分に堪能している。
白も今や慣れたもので、むしろ誇らしげに為すがままになっていた。(※誇り高き神獣です)
「本当、最高の手触り、夢のような心地だわっ……こうしてパイのモフモフに触れているだけで、日々の疲れなんて吹っ飛んじゃうの。本当は日中も、触れたくて仕方ないほどだったのよ。私はもう本当に、パイがいなくちゃ生きていけないわっ。……ああもう、どうしたことかしら、気のせいかどんどん素敵なモフモフ感になっているような……?」
『フフフ、それはなタオファ、其方が我に振る舞ってくれる〝錬丹膳〟のおかげやもしれぬぞ。神獣の神気をすら満たす、錬丹術による食膳……それを頂いている我は、もはや超常の――そう、〝神のモフモフ〟を得た神獣なり! 我を救ってくれたタオファに、たったこれしきで恩返しになると思えぬが……なに、満足するまでモフり奉りたまえ!』
「むっ。…………」
〝神のモフモフ〟とは一体、と思わなくもないが、何やら大仰に言う白に、桃花は神妙な表情で(顔は横腹に埋めたまま)言う。
「……これだけしかしていない、というわけではないわよね?」
『……ムムッ?』
「パイは……いつも私のこと、守ってくれているのでしょう? 少なくとも、この邸宅や、この村にいる時は、危険が及ばぬよう目を光らせてくれているのよね? 以前にも盗人が家に入った時、パイはすぐに対処しようとしていたわ。攫われた時は、都に行くために、この村を離れたから……それで、ようやく気付けたの。私ったら鈍くって、いやになってしまうけれど」
『ムム、否、鈍くなどないぞ。我こそ、そう簡単に察せられてしまうとは、神獣として恥ずかしい。こういうのは陰ながら行うのが格好いいのであってだなぁ……』
「ふふっ、パイったら。でも……ありがとう、パイ。私なんて、たまたま錬丹術ができるというだけなのに、そんなことだけでこんなにも助けられて……過分すぎて、何だか心苦しいわ」
『錬丹術の実現は〝そんなこと〟という領域ではないが……ああ、そういえば』
ふと思い出したように、白が首を横に曲げ、虎の大きな顔を桃花の細い面貌に近づける。
『我が白虎真人と化した時の、ほら……〝金丹〟のことだがな』
「ええ、わかっているわ――未完成、なのでしょう? 金丹、あるいは仙丹や神丹と呼ばれるそれは、〝不老不死〟の実現を目的とする霊薬。けれど私の造った金丹に、そんな効能はないわ。そもそも、あれくらいの金丹なら何度か制作したことはあるけれど……いずれも病の治癒くらいの効能だった」
『ウムゥ、金丹をそうホイホイと造れてしまうのが、まず驚異的だが……〝不老不死ほどではない〟というのは、その通りである。まあこの白虎神獣の神気を充たすほど絶大な力だったのは、間違いない話であるが』
「うふふ、実はあの金丹、前にパイがくれた純金を材料にしたの。でも白虎神獣さまのご加護があっても難しいなら、〝不老不死〟や〝神仙への到達〟を実現する本物の金丹なんて、不可能なのかしらね。そもそも金を服用して不老不死になる、なんて意味不明だし、前例もないのだから夢物語よね。うふふっ」
(ムウ。……あの金丹を喰らった感じ、実はタオファの腕前なら、いずれは神域に到達しそうな気配があるのだが。まあ重圧を感じさせたくなどないし、我の心にとどめておこう。うんうん)
「う~ん、いつか完成したら、パイに〝金丹膳〟なんて食べさせてあげたいのだけれど……私がパイにしてあげられることなんて、それくらいだし。うふふっ」
『! …………』
やや自嘲して笑う桃花へと、不意に白は虎の巨体を大きく折り曲げ――モフモフの毛並みで細い躰を抱きしめるように包んだ。
「きゃっ? パ、パイ?」
『先ほどの言葉を返すようだが……それくらい、ではない。タオファ、其方が我にくれたものは、ただ食膳だけに非ず。それくらい、などではないのだ』
「……えっ?」
『出会った時、威嚇する我から逃げず、手を差し伸べてくれたことを覚えているだろうか。我を連れて帰ると決め、我と共にここで暮らし、虎であった我を一度たりとて恐れもしなかったことを。そしてタオファ、其方は我を、いつでも気遣ってくれた。優しくしてくれた。そのことが、数えるのも億劫なほど長き時世を超えた、神獣たる我の心に……どれほど大きな、初めての幸福を与えてくれたのか』
言いながら白は、爪を引っ込めた虎の大きな手で、ぎゅっ、と桃花の横顔を抱き寄せて――
「タオファ――我は其方を深く想い、心から敬愛している。
この心身の全てを捧げたとて、何一つ惜しくないほどに。
どうか、これからもずっと、我と共に生きてくれよ――」
「! ……えっ……!?」
一瞬、抱きしめる手が人の手のように、ふわふわの体毛が人の体のように、桃花には感じられた。見つめてくる眼差しは、紛れもなく〝人化〟した際の秀麗な美男を投影している。
男にはうんざりなはずの桃花が、思わず胸を高鳴らせる――が、直後にはいつもの白い大虎の顔が、くりっ、と首を傾げていた。
『? タオファ、どうかしただろうか、何やら顔が赤いが、体調でも……』
「! い、いいえ、何でもありませんっ。なんでも……ん? ……哈!?」
『!? な、なんだタオファ、どうした……やはり何か――!』
「……ぷにぷに♡」
『えっ』
思いがけぬ言葉に目を丸める白だが、桃花は大虎の身に抱きすくめられたまま――何と抱きしめてきた虎の手、即ち肉球をつつき始める――!
「わあ~肉球、思いのほかぷにぷに~♡ モフモフも素敵だけれど、これも気持ちいいわっ。虎さんだから硬いかと思いきや、柔らかなのね。神獣さんだから……なんて関係あるかしら? まあいっか、こんなに……ぷにぷになんだもの~♡」
『ウッウオッ!? よ、よもやここへ来て、新境地に至ろうとは……!? う、うう、こそばゆいぞ、タオファっ、それ以上は……ウ、ウオオオオッ!!』
「もうちょっと可愛い感じでお願いします」
『みゅんみゅん♡』(虎の低音)
「パイ、か~わ~い~い~♡」
結果、いつも通りの触れ合いとなってしまった、が。
国一番の錬丹術師と、伝説に君臨する白虎神獣。
どこか珍妙ながら、互いに思い合う、この主従が――
共にある限り、幸せだということは、間違いないだろう。
~ 了 ~
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