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ぽわ~~~となって、うわ~~~~と動揺する私 7


 わ~~、と思う。今テーブルに二人きりなのに、私もタダが好きになって来てるんだって意識しちゃ絶対ダメだ。

 ダメなのに、今これは明らかにデートだし、ってさらに思ってタダの方が全然見れない。

 けれど私たちはヒロちゃんがさっき言ったように付き合ってはいないのだ。

 

 …でもじゃあ『付き合う』って何?

 タダが私の事を好きで、私もタダの事を好きで、こんな感じで二人で遊びに行ったりご飯を食べたりするのが続いたら、それは付き合ってるって事?それともどちらかが付き合って欲しいってはっきり言って、相手がうなずけば、それはそこから付き合ってるって事?

 前、ヒロちゃんとユキちゃんが仲良くなって来た時にも、もんもんとしたのだ。ヒロちゃんがユキちゃんの事を大事な友達呼ばわりしてるのをタダから聞いて、一緒に帰ったり勉強したりしてるらしいのにそれは付き合ってるって事じゃないのか!?って心の中で私は大騒ぎしていた。何をもって付き合うって言うんだって。チュウしたらそれは付き合ってるって事なのかって。


 チュウ…

 タダと私がそのうちチュウ…


 うわ~~~今この場で想像しかかった自分が怖い。

 タダが口元に運んだLサイズの紙コップをチラッと見てしまってタダと目が合う。またうわ~~~と思って自分のジンジャーエールをストローでちゅ~~っと一気に吸った。

「なあ大島」とタダが言うのでドキッとする。

「…なに?」

「もしかして今、ニシモトの事考えてねえ?」

ぶっ!、とストローを吹きそうになった。

 あんたの事考えてたよ!!とは言えずにぶんぶん首を振る。

 その私を見て、ふっ、と笑ったタダが、お互い二つずつ食べて一つ残っていた丸い一口ドーナツをフォークで刺して私の口の前に「ふん」と差し出してきた。


 ウソでしょ食べろって!?

 今ここで?私が?パクっと?


 出来ないですけど!!

 ニシモトたちが見てる前で出来ないですけど!バカじゃないのタダなに考えてんの…

 周りの、さっきからチラ見していた女子たちがあちこちで「きゃあ」「やだ」「わ~~」と、ちっちゃい声で言うのが聞こえる。

 これは…嫌がるのが正解?でも露骨に嫌がったらタダが嫌な思いをするよね?ちょっとムッとして可愛く『もう!そんなの恥ずかしい』とか言うのが正解のような気がするけど、そんな事私に出来るわけがない。

「あ、…うん」と、言いながら少し身を引いて差し出されたフォークを指で掴もうとしたら怒号が沸いてビクっっとした。ニシモト達の席からだ。

 「「「「「食ってやれよ大島っっ!!!」」」」」


 ええ~~~~、と思う。実際、ええ~~~って顔でタダを見てしまったらタダは面白そうにゲラゲラ笑った。

 なんなんだ、と思っているうちにまたわらわらとジャージ5人が私たちの席にやって来た。

 めんどくさっっ!

 なんなんだコイツらの結束具合。

 私はタダが差し出したフォークを掴む。掴んだ時にタダの指に私の指が当たってドキっとしたが、それを乗り越えドーナツを口に入れた。

「「「「「あ~~~~、自分で食うな大島~~~~」」」」」

「大島~~~」とコガが私を非難する。「なんで食ってやんねえんだよ」

ヤマダが言う。「タダはなんかしれっとやってるように見えたかもしんねえけど、人前であ~~んとかどんだけ勇気出してやってると思ってんだよ」

知らないよ!勇気とかじゃないじゃん、さらっとやったじゃん!こっちがとんでもなく恥ずかしいって!


 「パクっと口に入れるとこが真正面から見たかったんだよな」とヤマモトがタダに言う。「エロいなタダ」

 なに言ってんだヤマモト。無視してムゴムゴとドーナツを咀嚼する私。

「こんなイケメンがあ~~んしてやってんのに」とスミダ。「食わねえお前の意味は何だよ?」

「いやマジで」とニシモト。「みんなが見てる前で恥ずかしいのはわかる。でもそこを押してでも、あ~~んをさせたい、そしてさらに恥ずかしい思いをさせたいっていう欲求を満たすために頑張ってんだよタダは。わかってやれよお前」

 ニシモト?

 「そんなん言ってもな」とヒロちゃんまで入って来た。

 仕事はいいのかヒロちゃん。

「イズミはユズのそういうとこも好きなんよな!」



 あ~~…なんだろ、どうしよう…

 私が赤くなってんのは仕方ないとして、タダが赤くなってんのを見たくないなぁ…すごく恥ずかしい!

 タダ、なんでヒロちゃんに何も言い返さない。

 そこへさっきのユキちゃんのところであった二人組の派手目の女子が「「まだいた~~~」と言いながら教室に入ってきた。

「あれ?」とAが言う。「ジャージグループ、まさかの友達?」

二人がタダとニシモト達を交互に指差す。

 そしてB。「そうかジャージグループ、ヒロトのジャージじゃん!」

 なんだ?という顔で二人を見るニシモト達とあんまり気にしてない感じのヒロちゃん。

が、二人は騒ぐ。「「ヒロトヒロトヒロトヒロト!」」

 言われて「あ?」と二人を睨むヒロちゃんだ。


 「「紹介して!」」と二人はヒロちゃんに言った。「「私たちをこの子に良いように紹介して!!」」

それはもちろんタダにって事だ。

「付き合いたい!」とAが力いっぱい言う。

「ううん!」とB。「私私!私が付き合いたい」

「ああ、イズミな」とヒロちゃんがタダを指して言った。

「そうだよ~~~」とA。「てかイズミ君か~~~。名前からイケメンじゃん」

「ヒロトの友達っぽくないじゃん全然」とB。「もう人類としての部類が違う」

「よしわかった」とヒロちゃん。「こいつはオレの友達の多田和泉。そいでこっちが…」

ヒロちゃんはそう言って今度は私を指差した。「オレの幼馴染でイズミのカノジョ」

「「「え」」」と二人組と私が声を合わせてしまった。

「「さっきこの子が言ったもん」」と二人が口をとがらす。「「カノジョじゃないって自分で言ったし」」

 そうだよ。それにヒロちゃんさっき自分で言ってたのに。私とタダの事、付き合ってるっぽく見えるけどカレカノじゃないって。


 「ま、いいから」とヒロちゃんが言った。

「おらおら」とヒロちゃんはニシモトたちも追いたてる。「邪魔をするなお前ら。はじめての二人きりのデートだから。そっとしといてやれや」

「はじめて?」とニシモトとコガが言う。

「え、でも」とヤマダ。「カズミの幼稚園に二人で観に行って帰りにやきそば食べたやつは?」

 なんで知ってんの!?

「アレは二人じゃねーじゃんカズミいたじゃん」とヤマモト。

「体育祭の練習帰りに二人で帰ったりしてたんだろ」とコガ。「なんか大島の二人三脚の相手にヤキモチやいたって」

「あ~~オレんちの店寄ったやつな」とニシモト。

「あ~~そうか、そいで大島の誕生日もカズミがいたわけか」とコガ。

なんでそんな、なんでも知ってんの?

「ほらな?」とヒロちゃん。「今日がやっぱはじめてっぽい感じじゃん。なあ?」

「そっかそっか」とニシモト。

「今日の朝」とタダが急に言い出し、みんなが、ふん?、て顔をする。

タダが続けた。「オオスギんちが前住んでたコーポあったじゃん」

ふんふん、とジャージ軍団がうなずく。ふん?と思う私と、何なになになに?って顔の二人組。

「大島とあそこの自販機の前で待ち合わせしてここに来た」と続けたタダ。

へ?って顔の二人組と、なんでそんなどうでもいい事ここで言ったんだと思う私。でもジャージ軍団はみな緩くうなずきながらタダの肩や腕を励ますような感じでポン、ポン、ポン、と叩く。

「じゃあ邪魔して悪かったわ」とヤマモト。「まあゆっくりしてけや。オレら向こうのテーブルに帰るから」

「まあな」とスミダ。「見ないわけにはいかないからお前らの動向はきちんと見届けるけどな」


「「もう~~~」」と二人組の女子が睨みながら少し嫌味な感じで言った。私にだ。「「なんでさっきカノジョじゃないとか言ったのかな~~~?」」

 だって…

 だって私、まだカノジョじゃない。よね?

「よし、」とタダが言った。「食い終わったし、アイツら見てるし、他んとこ観に行こ」

先に立ち上がったタダが私の腕を掴む。

 え?あ!そして手を握られた!またアイツらに冷やかされる!…と思ったけど誰も何も言わない。そのニシモトたちのテーブルに向かってタダが私の手を掴んでいない左手を軽く挙げて、「先行くわ」と言うと、「「「「「お~~~」」」」」とだけ緩く笑って答える5人。「ありがとうぅ~~~ございましたぁ~~~」と変な抑揚をつけて送り出すヒロちゃん。


 ヒロちゃんのその教室を出るとタダは手を離して言った。

「取りあえず離すけどな」

取りあえず?

 ほんの少しの間なのに、繋がれていた手が熱い。

「ヨソんちの学校の中だからな」とタダ。「アイツら見てるから握ったけど」

どういう事?アイツらの期待に答えてウケ狙いで手を繋いだって事?私は、ひゅ~~~、とかはやし立てられるんじゃないかと冷っとしたのに。そんな余計な事しなくても…

「アイツらに催促されるような感じで手え繋いだけど」とタダ。

やっぱね…男子ってなんでそんなつまんないノリを大事にするのかな…バカだよね…

「ヨソの学校の中で手え繋いだりしたらすげえ調子こいてるみたいじゃん」とタダ。

「…うん。まあそうだよね」

ずっと手を繋いで回ってるようなラブラブのカップルを文化祭で見かけたらちょっと目障りかも。それは彼氏がいないから余計そう思うんだろうけど。

「でもオレはずっと繋いどきたいなって思ったって話」

「…!」驚いてタダを凝視してしまった。

「大島、前ぶつかる」

「…」

「し、恥ずかしいから、そこまでガン見されたら」

「あ…うん…ごめん」


 隣の教室の前にいたユキちゃんは、今は他の仕事をしているのか姿が見えない。

また恥ずかしくなってきたのを隠すために言ってみる。「…ユキちゃんいないね」

「あ~~~…うん」

「…なにちょっと笑ってんの?」

「え?」

「笑ってるじゃん。なに笑ってんの?」

「大島が嫌がらなかったから」

「でも急に繋ぐから…」

「いや手じゃなくて、手もだけど、アイツらにあんなにいろいろ言われて恥ずかしそうにはしてたけど、全然嫌そうじゃなかったから、オレはそれがすげえ嬉しくてずっとニヤニヤしそうで大変だった」

 うわ…

 胃の上の辺りがズギュっとした。

 …そうだよね…恥ずかしかったけど嫌じゃなかった…



 タダが「行こう」と言う。今度は手を繋いでは来ない。

 でもニッコリと笑ってくれた。嬉しいって言ってくれた言葉が本当だなって思えるように、私に笑ってくれた。そしてそれを見て、私も嬉しいって気持ちになってる…

 

 私はヒロちゃんの高校の、1年3組と4組の間の廊下の真ん中で、タダの言ってくれた言葉と笑顔を嬉しいと思いながら今、頬を赤くしているのだ。


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